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69】告白の行方(16)想いが重なる時:3
≪SIDE:みさ子≫

 なんだかあっけに取られたような北川さんは、茫然と私を見ている。
 視線を合わせている事に気恥ずかしさを感じるが、それでも私は黙って彼を見つめていた。

 正面からまじまじと見ても、この人はなんとかっこいいのだろう。軽く口を開き、ぽかんと驚く様ですら、私の胸がときめいている。
 とはいえ、私は彼の容姿に惹かれたのではない。
 確かに、川崎君も永瀬君も素敵な顔立ちだったけど、私なりに彼らの人間味に引かれたのだ。
 そして、それは北川さんにしても同じ。
 人懐っこくて、楽しくて、一緒にいることがとても居心地いいと思える人。
 近年では仕事が長続きしない若者の姿が時折テレビで取り上げられているが、北川さんはそのような人たちと違って、すごく真面目で熱心に仕事に取り組んでいる。
 今日だって、こんな遅くまで仕事をこなしてきた。
 そんなところも、すごく好ましい。
 
 北川さんは何度かまばたきをして、軽く首をかしげた。
 何気ない些細な仕草も、すごくいいと思う。
 かっこいいから好きなのではなく、好きだから余計にかっこよく見えるのだ。

 まるで初恋をした少女のように胸を熱くして、私は北川さんを見つめていた。




 やがて北川さんが小刻みに震える声で、搾り出すように問いかけてくる。
「佐々木さんの、……気持ち?」
 聞き返す彼に、コクンと頷く。
「今までずっと意地を張って、逃げたりして、私はちっとも素直じゃなかった……。でもね、正直になるって決めたの」
 一度下げた視線を、再び彼に向ける。 

 やっと、素直になれた。
 やっと、自分の気持ちに向き合えた。
 あれこれ回り道してしまったけれど、やっぱり、私の心は北川さんで一杯だった。

 好き。
 大好き。

 ありったけの気持ちを言葉に乗せて、今度こそ彼に伝えなくてはならない。

 ありえない場所に私がいて、あまつさえ『あなたを待っていた』と告げた。
 そして、この部屋での私の態度を見ていれば、北川さんは私が何を言おうとしているのか、すでに察しが付いていると思う。
 それでも、大事なのは“気持ちを言葉にする事”だ。
 あの時、彼は精一杯自分の気持ちをぶつけてきてくれた。
 だから私も精一杯の気持ちを彼に伝えなければならない。自分の視線や表情ではなく、“自分の言葉”として。

―――頑張れ、私。
 そっと息を吸い込み、ぎこちないと分かっていても一生懸命笑顔になった。
 これまで以上に熱く、北川さんの瞳を見つめる。
 ドクドクと脈打つ激しい鼓動を感じながら、私は言葉をつむぐ。

「あの……。私ね、あなたのことが好……」


 と、ここまで言いかけたところで、北川さんがとっさに私の口を手で塞いだ。






―――……え?
 何が起こったのか理解できない。ただ、静かに北川さんを見つめる。
 すると彼は眉を寄せた。
「いきなりこんなことをして、すいません。……ですが、それだとちょっと困るんですよ」
 謝ってくれるものの、手は外してくれない。
 
―――どういうこと?

 今でも彼が私を好きでいてくれるなんて、そんな都合のいい結末は期待してなかった。
 私は自分の気持ちを自分の言葉で伝えたかっただけなのに。

 彼は聞く耳を持たないどころか、言わせてさえくれない。

―――もしかして、告白もさせてもらえないくらい嫌われちゃったの?それほどまで、私を憎んでいるの……?
 
 驚きと悲しみで、私は泣き出してしまった。
 いい年した大人がポロポロと涙を流すなんて傍から見ればおかしな光景だが、そんな事を気にする余裕は今の私にない。
 あまりにショックが大きすぎて、取り乱す事も出来ずに茫然と涙を流す。
 そんな私を見て、北川さんはわずかに目を伏せた。
 複雑な表情の彼を覗き込むが、私には北川さんが何を考えているのかぜんぜん分からない。
 不安と絶望が私の中で膨らんでゆく。
―――自分の気持ちを伝える事もさせてもらえないなら、私はどうしたらいいの……?
 いつもの冷静な私なら、すぐにいくつかの解決策が浮かんでくるのに。
 真っ白になった頭ではいい案が浮かばす、北川さんの反応を待つことしかできない。


 再び流れる沈黙。
 やや間があって北川さんは小さくため息を漏らし、目を伏せたままゆっくりと呟いた。
「僕のセリフ、取らないでください」

―――僕の……セリフ?

 先ほどのショックからまだ立ち直れていない私は、彼の言葉の意味が飲み込めない。
 涙がこぼれ落ちるのも構わず、北川さんを見つめた。
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