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68】告白の行方(15)想いが重なる時:2
≪SIDE:みさ子≫
足音が扉の前で止まり、やや間が空いたのちにおもむろに扉が開かれる。
何も知らない北川さんは何気なく踏み入ったが、私がいる事に気付いてピタッと動きを止めた。
「……えっ?!」
私を見たまま、ピクリとも動かない北川さん。
彼はまるで幽霊でも見るような表情で固まった。表情だけではなく、全身が固まっているようだ。
―――この前とは立場が逆ね。
休憩室に入って来た北川さんを見て、あの時の私もきっとこんな顔をしていたに違いない。
記憶をそっと思い起こす。
私に告白するために来たのだと告げた北川さん。
強く優しく抱き締める腕に、私は彼の気持ちを受け入れてしまいそうだった。いや、受け入れたかった―――内村さんの顔を思い出すまでは。
あの時、私が彼の告白をOKしていたら、事態はどうなっていたのだろう。
今頃は恋人同士として、2人であれこれと計画をしたクリスマスの夜を楽しく過ごしているのだろうか。
そう考えると、残念に思う。
でも、あの時は自分の判断が正しいと思っていたから。
彼から逃げ出した事に後悔はしたが、それが“自分らしい”と納得もした。
だけど、本当の佐々木みさ子はそんな事を少しも望んではいなかった。
永瀬君に見事に見破られてしまって、無性に悔しいけれど、今では感謝している。
今更私が『好きだ』と言ったところで、時間はあの時には戻らない。
彼があの時と同じ気持ちでいるという保証はない。
それでも、私は自分の気持ちを伝えたい。
―――さ、ここからが正念場よ。
私は真っ直ぐに北川さんへと向き直った。
しばらくその状態でいた彼が、ようやく口を開く。
「さ……さき……さん?」
やっとで喉を動かし、疑うような声色で私の名前を呼び、その存在を確認しようとしている。
驚くのも無理はないだろう。
永瀬君のことだ。どういう話の持って行き方をしたのかにせよ、私がここにいるということは北川さんに知らせていないはず。
それでよかったんだと思う。これは私の勝負だから、私自身が頑張らないと。
北川さんはよほど信じられないのか、何度も手で目をこすってはまばたきを繰り返し、そして恐る恐る近付いてくる。
彼が一歩進むたびに、私の心臓が大きく跳ねた。
怖い。
苦しい。
でも、今度は逃げるわけにはいかないし、逃げたくない。
私は彼から視線を逸らすことなく、じっと見つめて彼がやってくるのを待つ。
とうとう北川さんは私のすぐ目の前までやってきた。
ここにいるのは確かに私だというのに、彼はまだ不思議そうな顔のまま。
「本当に、佐々木さんなんですか?」
上から下まで私を眺め、それでも確認を取ってくる彼。
どれ程疑えば気が済むのだろうか。
―――まぁ、それも仕方ないわよね。
心の中でそっと苦笑する。
彼の告白を振り切って逃げ、それ以降この部屋には近付かなかった私がここにいるのだ。
信じられないのも分かる。
だが、信じてもらわなければ困る。
「ええ。間違いなく、佐々木みさ子よ」
緊張でガチガチになった顔をどうにか動かして微笑んで見せると、北川さんはほんの少しだけ体のこわばりを解いた。
「あの……、どうしてここにいるんですか?」
それでもまだ完全にはいつもの彼に戻ったわけではなく、おずおずと尋ねてくる。
私はゆっくりと1度だけ瞳を閉じ、またゆっくりと開いて彼を見上げる。
「……あなたを待っていたの」
10センチほど高い彼の瞳をまっすぐに見つめた。
規則正しい時を刻む秒針の音が聞えないほど、自分の心臓がうるさい。
震える唇を動かし、もう一度口を開く。
「北川さんを待っていたの」
それを聞いた彼がギョッと目を見開いた。
「僕……を?」
私は大きく頷く。
「あなたに伝えたいことがあって……」
ドキン、ドキン。
頭の天辺からつま先まで鼓動が響く。まるで自分自身が大きな心臓になってしまったかのようだ。
―――頑張れ、頑張れ私。
クッと手を握り、小さく拳を作る。
そして、照れくささと緊張で顔が赤くなるのを自覚しながら、彼の瞳を見つめて言った。
「私の正直な気持ち、聞いて欲しいの」
◆◇◆◇◆
俺は自分が置かれている状況をまったく飲み込めずにいた。
一体何がどうなって、こうなっているのか。
俺は先輩に頼まれて、たまたまここに来ただけなのに。
休憩室にやって来た俺を待っていたのは、なんとみさ子さんだった。
夜の海が浮かび上がっている窓の前にスッと立っている彼女は、突然現れた俺に驚く様子もない。
そんな彼女の様子を疑問に思う余裕もないほど、俺は混乱していた。
―――どうしてみさ子さんがここに?
彼女はこの休憩室を一切利用しなくなったと聞いている。しかも、終業一時間も経って、ここにいる理由も分からない。
疲れ目による幻覚かと思い、目をこすり、瞬きを繰り返しても、彼女の姿は消えなかった。
それでもみさ子さんがいるという現実をなかなか受け入れられず、狐につままれたような感覚で一歩、また一歩と恐る恐る近付いていく。
そして腕を伸ばせば簡単に触れられる距離にまで足を進めた。
改めて問いかける。
「本当に、佐々木さんなんですか?」
艶やかな黒髪も、形の良い瞳も、落ち着いた色の唇も、この独特で色っぽい香りは確かにみさ子さんのもの。
俺の胸をこんなにも熱くするのは彼女以外にいないというのに。
そんな馬鹿げた問いかけにも、みさ子さんは優しく微笑んでくれた。
「ええ。間違いなく、佐々木みさ子よ」
―――ああ、本物だったんだ。
やっと納得できた俺。
だがホッとする間もなく、みさ子さんは耳を疑わんばかりのセリフを続ける。
「北川さんを待っていたの。あなたに伝えたいことがあって……。私の正直な気持ち、聞いて欲しいの」
―――え?
みさ子さんは少し困ったようにはにかみながら、だけど視線は俺から逸らすことなく言った。
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