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警告   この作品は<R-18>です。 18歳未満の方は移動してください。
ーー人は何故罪を犯すんだろう?人は何故、後悔するんだろう?そして人は何故・・・後悔したのに同じ過ちを繰り返すのだろう?
〜桜の少女〜

アーーーン!!ワァアアーーーン!!
妹が泣いていた。
暗闇と雷が轟く中、掛け替えのない存在が僕のために泣いてくれていた。
片目が燃える様に熱くて見えないが僕は妹を泣き止ませたくて思いっきり抱きしめた。
体のあちこちに付いた返り血のせいで、お気に入りのピンクのパジャマを汚してしまったがそれは後で謝る事にしよう。
僕達はお互いを思い泣いていた。
ーー周りの景色は地獄と言って良い状態だった。
家族がずっと守って来た神社や道場はボロボロに壊れ、道場など屋根が抜け落ちてしまっている。その中にあるのは巫女装束のまま血まみれで倒れている母さんの死体だ。
そして僕の側には神主姿の父さんが倒れている。ーー僕が殺した大好きな父さんが。
神社の側では髪の白い女性が申し訳なさそうに佇んでいるが僕は首を横に振る。
昨日まで楽しかった家族の居場所は水泡の様に消えてしまっていた
「・・ひっ!お兄ちゃんその眼!?」
と、ようやく落ち着いた妹が僕の顔を見て真っ青になる。
気付くとさっきまで見えなかった左眼が見えていた。
だがそれは、僕の罪の証がこの体に刻まれた事を意味する。
妹の恐怖と悲しみがないまぜになった顔がそれを物語っている。
だから僕は、妹を安心させるために頭を撫でながら、精一杯の笑顔で言ってやった。
「大丈夫。何も心配するな。・・・お前は何があっても僕が守ってやるからな?」

「ーーはっ!!」
そこで眼が覚め、十夜 友紀ユウキはベッドから跳び起きた。
体中にはジットリと汗を掻き、着ていたパジャマがビショ濡れになっている。
荒い呼吸を整え、周りを見ると、ここが自分の部屋だと言う事が分かった
「またあの夢か・・!」
胸に込み上げて来る悔しさを布団を掴みグッと堪える。
大切な者を守れなかったあの忌まわしい日から、毎晩見るようになった悪夢。これは自分の罪の顕れなんだろうか?
それとも何処か遠くで、自分を憎んでいる最愛の人の呪いなんだろうか?
もしそうならどれだけ救われる事か・・・。
例え悪夢でも二人は繋がっていると言う証になるからだ。
火燐かりん・・!」
決して届く筈の無い最愛の人の名を呼び、友紀は気持ちを切り替えた。
後悔するのはこの朝の一時だけ。自分は決して落ち込んだ顔など人に見せてはいけない。
いつも笑顔で毎日を精一杯生きるーー。
それが罪を背負って生きて来た友紀のせめてもの贖罪だった。
ベッドから飛び降りるともはや着慣れたと言って良い神主の装束と足袋に着替える。
そして泣いて、眼など腫れてないかどうか鏡で確認。
友紀特有の真っ白な髪と年がら年中付けている左眼の眼帯は相変わらずである。
眼帯の事は普段あまり人に気を遣わせない様、前髪を伸ばして隠しているのだが、逆に某妖怪親子の息子みたいと言われてしまった。
まぁ、それも愛嬌と言う事で髪型の事は特に気にはしない事にしている。
「さてと・・・」
顔を両手でパシッと叩き気合いを入れ直した友紀は、部屋の隅に置いてあった木刀を手に部屋を出ていく。
まだ早朝と言っても良い時間。起きている人も少ない。
学校に行くまでにはまだたっぷり時間があるのを確認してから、友紀は屋敷の離れにある道場へと向かった。

ーービュン!!
「フン!!」
風を切る音と共に木刀が真一文字に振り下ろされる。
華奢な体からは想像も着かない程力強い一撃。
先程の悪夢を振り払うかの様に友紀はその体制から横薙の一撃へと繋げる
「はぁ!!」
ーービュン!!
これまた凄い一撃が、飛び散った汗と共に風を切る。
友紀しかいない道場には少年の掛け声と、木刀の風を切る音しか聞こえない。
既に日課の素振りを初めてから約一時間半。体はまたしても汗ビッショリである。
神主姿の少年と剣術とはあまりピンと来ないかもしれないが、これにはこの街、特有の理由があった。
ーータッタッタッ!
と、朝日が漏れる道場の引き戸の裏側から足音が聞こえて来た。
どうやら誰か来たらしい友紀が顔を向けると、閉められたままの引き戸が暗視カメラの様に透き通り、立ち止まった人影がぼんやりと見えて来た。
普通なら有り得ない事だが、友紀なら可能な芸当である。
誰が来たのか分かり、友紀が素振りの手を止めるすると、道場の引き戸がゆっくりと開けられた。
「おはようございます。友紀様」
開けられた引き戸の下に礼儀正しく正座した女性がいた。
朝日の逆光で表情が見えにくいが、少しクセのある銀髪のショートカットと日本刀の様に鋭い吊り眼を間違える筈が無い。
冬用の黄色いセーターと赤いブレザー、チェック柄のスカートを着込み、年は友紀と同じか少し上くらいに見えるが背筋をちゃんと延ばして座る姿は主を前にする侍か刺客の様である。
正に容姿端麗、威風堂々ーーそんな言葉がピッタリ似合う女性だった。
「おはよう。白雪」
「剣の稽古でしたか。ならば私を呼んで頂ければ良かったのに」
なんの抑制も無い通った声で白雪と呼ばれた女性が呟く。
まるで時代を間違えている様な接し方だが彼女の場合はそれがよく似合っている。
長い付き合いでその態度にも慣れてしまっている友紀は特に気にせず、持っていた手ぬぐいで首の汗を拭いた。
「いや、白雪が相手じゃこの道場が持たないからね。それに俺は自分の力だけでもっと強くなってみたいんだ」
そう言うと友紀は、また素振りを再開する。
剣術を初めて10年。
両手に出来た剣ダコは、毎日鍛練を詰んで来た努力の証。だが、少年はまだまだ自分の事を未熟と思っている。
それは、毎晩見る悪夢も関係していた。
大切な者を守ると誓ったのにーー結局、自分は出来なかったのだから。
「その強き志、感服致します。
ですが朝食が出来たとの事なので一度居間に起こし下さい。
静様達が首を長くして待っておられます」
「えっ?静さんが!」
白雪の言葉に木刀を握る友紀の手がピタッと止まった。
朝食は毎朝学校に行く30分前にきっちりと作られている。それを待たしていると言う事は、あまりのんびりしている時間はないと言う事だ。
いつもより早く起きたからと余裕ぶっていたが、どうやら少し頑張り過ぎたらしい。
「大変だ!すぐ行かなくっちゃ!!」
上半身の汗を手ぬぐいで軽く拭くと、友紀は慌てて駆け出した。
友紀の家である十夜家は代々、神主の家系で屋敷が無駄に古く広い。
友紀の部屋から道場は歩いてすぐなのだが、皆が集まる居間までは走らないと10分くらい掛かる。
境内にも繋がっている砂利だらけの庭を横切り、長い廊下を突っ切って角を曲がると美味そうな匂いが漂って来る。
その匂いがする部屋の襖を勢い良く開けると、こたつに入ってた6つの眼が一斉に少年を見た。
「あら、おはよう〜?友くん」
一つはのんびりとした笑顔の女性の声だった。
格好は友紀と対を成す巫女装束。
こたつから覗く袴が紫色をした変わった物で、額には太陽を象った金の輪っかをしている
長い黒髪を二つに分けており、少し眠たそうな垂れ眼は喋り方と合間って実年齢よりあどけなさを醸し出している。
確か友紀の2個上だから19才の筈なのだが、どう見ても年下にしか見えない
それがこたつの左側にいる女性ーー幾月 静の印象だ。
「遅いですぞ!友紀様!?」
一方少年を睨みながらピシャリと言ったのはこたつの右側にいる白髪の老婆だった。
こちらは普通の巫女装束で長い白髪を一つに結んでいる。
彼女は静の祖母で幾月 椿実質この家の権力者だ。 「す、すいません。道場で稽古してたらつい夢中になっちゃって・・」
少年が頭を掻きながら苦笑すると、椿はやれやれと言った感じでため息をついた。
身長が三等身しかない老婆がため息をつくと、何だかマンガのキャラが困っている様で面白いが、それを言うと後が怖いので内緒だ。
「呼びに行かせたのが白雪だったから良かったものの・・・鍛練も良いですが、今度からは気をつけて下され?
十夜家当主が学校に遅刻など、この椿亡くなられたご両親に顔向け出来ませんからね」
「はい、気をつけます」
厳しい事を言って来るがそれは自分を思ってくれるからこそ。だから友紀は椿の小言を真剣に捉える。
反省の態度を見せながら少年もこたつの中に足を入れる。
すると、ちょうど向かい合う形で少し照れた感じのもう一つの視線がそこにあった。
「お、おはようございます。友紀・・さん」
耳を澄まさないと聞こえないくらいの小さな声で正面の少女ーー神谷 水穂が挨拶して来た。
綺麗な青色の髪が眼を完全に隠してしまっている少女は顔をほんのりと赤くしながら、こたつに入った体をモジモジさせている。
人と話すのが苦手らしい彼女は、もう一週間も同じ家に住んでる少年に対しても、話し掛けるのに若干の勇気が必要なのだ
「おはよう、水穂ちゃん静さんもそうだけど待たせて悪かったね」
「い、いえいえそんな・・・!ぜ、全然気にしてないんで謝らないで下さい」
友紀の言葉に首が飛んで行きそうな程振り続ける水穂。
テーブルに並んでいる料理の数々は、彼女も手伝った筈だから待っていない訳は無いのだが、恐縮してしまう所が水穂らしい。
そんな彼女を見て隣にいた静もクスクス笑う。
「友くん、水穂ちゃんもあ〜言ってるんだから食べましょう?そろそろ食べないと学校に遅れちゃいますよ〜?」
『そうですぜ、旦那!美味い料理も冷めたら台なしですじぇ?』
「・・ちょっと待て。なんか余計なのが一匹増えてる」
と、静の隣で明らかに今までいなかった声が聞こえて来て、友紀は巫女少女の足元にいた物体の首根っこを掴む。
「むぎゅっ!」と言う変な声を出して吊り上げられたのは真っ黒い毛をした猫だった。
「にゃあ!!お前またタダ飯漁りに来たのか?」
少年が呆れた顔をするとにゃあと呼ばれた猫はニャハハと笑い前足で頭を掻く。
その態度と良い猫のクセに人の言葉を話す所と良い、明らかに普通の猫ではない。
良く見るとしっぽも何故か2本ある。
通常なら大騒ぎになるのだがこの家の・・否、この町の人間は誰も驚きもしない。
水穂も一週間いる内に馴れてしまったのか、至って冷静だ。
『そんな言い方ないじぇ旦那〜!俺っちと旦那の仲じゃないっスか〜!』
「誤解を招く様な事を言うな!俺は化け猫をペットにした覚えは無い!」
きっぱりと言った友紀が空中に放り投げると、ボン!と言う音と共ににゃあの体が煙に包まれる。
すると猫だった筈のにゃあが、何と黒い着物を着た少年に姿を変えたのだ
『まぁまぁ、旦那。短気は損気だって言うことわざもあるじゃないっスか?
その話はお嬢ちゃんの料理を食べてからにしましょうじぇ』
少年の言葉を軽く聞き流し、余っていた箸を使い人間姿のにゃあが朝食を食べ始める。
猫のままである耳と二つのしっぽと同じ色である黒髪の少年の姿は、美男子にも見れるが、やはりその調子の良さだけは変わらない様だ。
「勝手に話を終わらせるなー!!ってか勝手に食べるなぁーー!!」
「・・あの、友紀様。お急ぎになりませんと寺子屋が」
怒った友紀が思わず叫ぶと、ずっと後ろにいたのか忍者の様にひざまづいた白雪がぽつりとつぶやく。
見ると食べるのもギリギリな時間帯だ。
何だか稽古より居間に来てからの方が疲れた気がする。
ガックリと肩を落とした少年は仕方なく言いたい事を我慢し、眼の前にある朝食を平らげ始めた。

ーー友紀達が住む町、富ノ沢。
海も山もある美しいこの町には他の都市には無いある秘密があった。
それは、超常現象や妖怪と言った現代では認知されていない物や者が、普通に存在している事である。
さっき友紀達とじゃれていたにゃあも、通称『化け猫』と呼ばれる長生きした猫が妖気を帯びて変化した妖怪だ。
ただ、この町ではそう言った変わった生き物が多いので、住人は皆馴れてしまっているのである。
何故この町だけ、そんな不思議な現象が起きるのか?
それこそが友紀が『様』付けで呼ばれている理由であり、そして少年が歩んで来た苦悩と悲しみの人生の原因でもあった。
「ごちそうさまでした」
相変わらず絶品の朝食に満足しながら、友紀は箸を置いた。
テーブルに置かれた料理は全て4人と一匹の腹の中に納められている。
まぁ、にゃあがいる限り十夜家の朝食に残り物が出ると言う事は有り得ない。
少年は居間に掛けられた時計を見て早々に立ち上がった。
「さて、俺は着替えて来ないと。白雪は玄関で待っててくれ」
「分かりました」
友紀が告げると忠実なる同居人はペコッと頭を下げ、あっという間にいなくなる。
全く無駄の無い動きに感心しながら少年は水穂達の方に顔を向けた。
「静さん、椿さん料理美味しかったです。それじゃ水穂ちゃん、また学校で」
「は、はい・・・」
「はぁ〜〜い」
『旦那ぁ!勉強頑張ってくだせぇよ』
余計な一言も入ったがともかく友紀は、居間を出て自分の部屋へと走り出す。
まだ12月中旬の時期に、こたつから出るのは辛いが遅刻してしまってはまずい。
長い廊下を曲がり、自分の部屋に入るとハンガーに掛けてあった制服に手を延ばす。
神主の装束を一瞬で脱ぎ白のYシャツに紺色のブレザーとズボンを手早く着ると足袋から靴下に変え、勉強机の上に置いてあった鞄を拾い上げる。
その間僅か30秒。稽古のために身についた早業である。
ついでに机にあった腕時計も装着し、見ると家を出る時間5分前。何とか間に合った様だ。
(と、そうだ。家を出る前に・・・)
そのまま玄関に向かおうとした少年だが、まだしてなかったもう一つの日課を思い出し、サンダルを履いて庭に出る。
本当は制服姿で
「お会いする」のはまずいのだが時間が無いためしょうがない。
先程鍛練のために使っていた道場を抜けると、そこには小さな神社がある
所々補修の跡がある古い物で、特に年末の行事くらいしか参拝客も来ない神社だが、これが友紀が守っている悲桜神社である。
そしてその神社のすぐ近く、見事に咲き誇る巨大な桜の木があった。
「おはようございます。桜の大樹」
桜の大木を前にして、静かに手を合わせお辞儀する友紀。
冬の真っただ中だと言うのに枯れもせず、綺麗な花を咲かせる桜の木は普通の桜の何倍も大きい。
昔、空を飛ぶ城の映画でこんな風にデカい木を見た事あるが、実際にこれ程巨大な木があるのは富ノ沢を置いて他に無いだろう。
この巨大な木こそが1300年もの間咲き続け、町に奇跡を起こし続ける神木『悲桜』である。
『悲桜』があるからこそ妖怪などの不思議な存在は町で人々との共存が出来るのであり、町の住人達も『悲桜』と共に生きると言う古くからのしきたりを守ってこの町で生活している。
そしてそんな町の人々ーー桜の民の長であり『悲桜』と町を管理するのが十夜家当主である友紀に課せられた使命なのだ。
「やっぱり・・ここにいたんですね」
少年が手を合わせていると背後からやや緊張した声が聞こえて来た。
振り向くと赤い制服に身を包んだ水穂の姿があった。
少女は少し照れながらも真っ直ぐ友紀を見ていた
「水穂ちゃん!なんで・・・ってそうか、入口ここしかないもんな」
一瞬驚いた眼帯少年だったがすぐにある事実に気がつく。
悲桜神社の中にある友紀の家から学校に行くには神社の前にある鳥居と階段を降りなければいけない。
家を出た水穂が少年と出くわすのは当然なのだ。
「は、はい。それもあるんですけど・・・友紀さんならここに寄るんじゃないかと思って」
言いながら水穂が歩み寄り『悲桜』に触れる。
桜の民には神の様に敬われている大樹だが、この少女にとっても思い入れの強い木なのである。
何故なら一週間前、友紀と水穂はここで出会ったのだから・・・。
「私はここから・・この『悲桜』から出て来たんですね」
「ーーああっ。俺が馬鹿な事を願ってしまったばかりに」
何処か嬉しそうな水穂の言葉とは裏腹に、友紀は顔をしかめ俯いてしまう
それは自分のやった行いを、恥じている様に見える。
少女の言葉通り水穂はこの町の住人では無い。
否、人間ですら無いのかもしれないのだ。
それは一週間に起きた新たな奇跡ーー。
『悲桜』から現れたと言う少女、水穂と友紀の出会いは、ある悲しい人生を歩んで来た兄妹の再会の物語でもあった。

〜続く〜


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