警告
この作品は<R-18>です。
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遠吠え 3
小男は再びシェリルの胸倉を掴むと、後ろ手に縛られた彼女をいきなり寝台の上に押し倒した。縛られた手首の上に背骨をぶつけ、肩と背中が痛んだ。
小男はそのままシェリルの服の胸元を引き裂こうと力を込めた。
「やだ……いや!」
恐慌したシェリルは哀れっぽく叫び、脚を振り回した。頭の中が一瞬真っ白になる。
「うるせえ! とっとと副伯の居場所を吐け」
丈夫な旅装用の麻の服は容易には破れなかったらしい。業を煮やした小男は、短剣を彼女の前に突き出した。思わず彼女は口を噤む。死への恐怖は陵辱へのそれに勝った。
小男は短剣をもってシェリルの服を引き裂いた。
「早く吐けよ。マワされてえか」
乱暴に乳房を掴まれる。痛みと虫唾が走るような嫌悪が、恐怖と共に押し寄せた。
取り囲んでいる男たちは、下卑た笑みを浮かべて彼女を見下ろしている。
副伯の居場所を話したところで、彼らがシェリルを解放することはないだろう。輪姦されて放り出されるのは良い方で、最悪の場合は挙句に殺されるかもしれない。
窮地の中にあっても、彼女の中の意地は、持っているもの全てを男たちに差し出して言いなりになるのを拒んだ。末路が決まっているなら尚更だ。
恐怖は消えていなかったが、同時に彼女を支えるように、怒りがこみあげてきた。
「やめろ。時間の無駄だ。マワされたぐらいじゃ喋んねーよ、その女」
男たちの後ろから、ひときわ低いウォルターの声が響いた。
「大方、伯爵家の方に逃げたんだろ。捜した方が早えよ。女の方は俺がどうにかするから、とりあえず外へ出て、追え。奴らは徒歩だ。馬を使えば追いつける」
「どうにかするって、どうするんだよ」
シェリルの上にのしかかっていた小男は、不満げに言いながらも、彼女から離れた。他の男たちの視線もウォルターの方にそれる。
「口を割らせる方法はいくらでもある」
残忍な響きが、先ほど彼女がウォルターに言ったのと同じことを告げた。寝台に寝転がった状態で、離れた場所にいる彼の顔は見えなかったが、それでよかったかもしれないと思った。
「女が場所を吐いたら、すぐに向かう。馬を一頭残しておけ」
「……分かったよ。しゃーねえ」
小男は他の男たちに合図を送ると、彼らは未練ありげにシェリルを見下ろし、視界から消えた。
「おめえも気の毒にな。素直に吐いて、オレたちにやられときゃよかったんだよ」最後に残った小男は、唇を歪めてシェリルに吐き捨てた。「ヤツを知ってっか? 何十人って手にかけた暗殺者だ。拷問だってお手のもんだよ。楽には死ねねえと思えよ」
小男が姿を消す。シェリルが首を動かして戸口の方に目を向けると、男たちは連れ立って部屋から出て行くところだった。入れ替わるようにウォルターが歩み寄ってくる。
何とか体を起こして逃げようとするシェリルを、いとも簡単にウォルターが押さえつける。再び仰向けに寝台に転がされた。
小男のように襲い掛かることなく、ウォルターは無表情にシェリルを見下ろした。感情の読み取れないその顔に、新たな恐怖が湧き上がってきた。
コヨーテ。
先ほど、確かに彼はそう呼ばれていた。いつだったか、仲間の一人がその噂を話していたことがある。王都でも名を上げている暗殺者だという話だった。
まさかその男が、副伯の暗殺の為に雇われていたとは。そして彼が正体を隠し、ずっと隊商の護衛として同行していたなんて思わなかった。一度など、彼は副伯の危機を救ったこともあるのだ。
乗っ取った館に隊商ごと副伯を招き入れ、全員始末する。目撃者も出ない、大掛かりだが完璧な計画だ。目撃者がいないのなら、コヨーテの姿かたちも伝わってこないはずだ。これまでも同じような要領で仕事をしてきたのだろう。
「なあ、シェリル」
ウォルター──いや、それも偽名かもしれない──は、屈んでシェリルに視線を合わせると、猫なで声を出した。
「俺はお前を本当に気に入ってるんだ」
彼は手を伸ばし、小男に破られたシェリルの服の胸元を広げると、その豊かな乳房をむき出しにした。屈辱に、顔がかっと熱くなる。
男はさらに胸の膨らみを柔らかく握り、こね回すように大きく動かした。それに合わせてシェリルの全身も僅かに揺れ動く。
なすがままだ。手を縛られた状態では、術も使えない。情けなかった。
「お前さんは若いし、かわいいし、オッパイもでかい」
男は含み笑いを漏らしながら、さらに彼女の乳房を揉み、指先でその中心を軽くこすった。
先刻、小男に掴まれた時には、痛みと嫌悪しか感じなかったのに、ウォルターに見つめられていると、嫌悪より屈辱が勝る。食いしばった歯の奥が熱い。
ウォルターは少女の反応を楽しんでいるように再び低く笑い、続けた。
「それに何より有能だ。ツメは甘いが、大したカンと魔術の腕だよ。なあ」
指先で軽く乳首を弾かれた。そこから吹き上がった衝撃が、瞬時に頭にせり上がる。思わず目を閉じた。
「ここで殺しちまうのは勿体ねえ。俺と組んでみない?」
思ってもみなかった男の言葉に、シェリルは混乱した。玩ばれたままの胸から溢れてくる緩やかな振動が、さらに邪魔をするように彼女の脳裏をかき回す。
「副伯の居場所を教えれば、あんたの仲間たちには手を出さずにいてやってもいい。どうだ?」
シェリルは黙ったままでいた。
答えは決まっている。否だ。
商人たちまで冷酷に巻き添えにした男が、恐らく副伯を守って抵抗するだろう仲間たちを無事に生かしておくとは思えない。
それにこんな男と組んで暗殺の仕事をするなど御免だ。そんなことをしてまで生き延びたくない。
しかし一度、ウォルターの申し出を受けると答えれば、時間を稼げるかもしれない。その間に逃げることができれば……。
どうにか方策を練りたかったが、ウォルターはなかなか彼女に考える猶予を与えなかった。
体を起こすと、寝台を回りこんでシェリルの足元に移動する。突然彼女の足首を掴むと、乱暴に紐を解き、長靴を脱がせた。靴下も脱がされると、腰の後ろから取り出した縄で、むき出しになった彼女の足首を、寝台を支える支柱に結びつけた。
これでは全く逃げられない。
男はもう片方の足を掴み、同じように靴と靴下を取り払うと、反対側の柱に結び付けた。
「やめてよ」
やっと小さな声を絞り出したが、ウォルターに無視される。
寝台の真ん中で、脚を大きく広げて拘束されてしまった。湧いてきた激しい恥辱に、彼女は身を震わせた。しかしそれは先ほどの屈辱と同じく、背骨の下あたりに妙な熱を持たせた。
もしかしてこの男にされていることに、快楽を感じているのだろうか。
そんなはずはない。
疑問を全ての意識をもって否定した直後、さらに裏側の意識で、その否定こそ欺瞞だと悟った。
ウォルターは再び腰から短剣を抜くと、シェリルが穿いている分厚い麻のズボンの股の部分に刃をあてがった。
服越しに、局部に刃物が触れているのを見下ろし、恐怖のあまり全身が総毛立つ。「拷問はお手のものだ」という、小男の言葉が首筋を冷やした。
しかし男は慎重に刃を走らせ、服の布地だけを切り裂いた。股の部分のその裂け目から覗く、下着に包まれた少女の秘部を目にして、彼は思わず口元を緩ませた。
男は服の裂け目から指を差し入れると、広がった脚の間の部分に、下着の上から触れる。シェリルの腰が微かに震えた。ウォルターの指は構うことなく、さらに奥へと押し込められる。
彼は体を起こし、覆いかぶさるようにシェリルの顔を覗き込んだ。そこを無骨な指で探ったまま、もう片方の手を再び乳房に伸ばす。
「処女ってことはないよな、シェリル? こんな立派なおっぱいしてるんだもんな。こいつで仲間たちをさぞ楽しませてきたんだろ」
彼女ばかりでなく、スタンリーたちまで侮辱された気がして、さらに歯を食いしばる。だがどうしたことか、怒りに震える体の腰の辺りから、へなへなと力が抜けていく錯覚があった。
男はさらに下着を突き破ろうとするように、乱暴に指を押し込めてきた。そのままゆるゆると指先が蠢く。
ウォルターが低く笑った。
「お前、濡れてるんじゃないか? 若いのに大したカラダだな。さっき、連中から助けてやったつもりだけど、まわされた方が良かった?」
羞恥のあまり、シェリルは首を振ることもできなかった。
意思に逆らって、こんな男の感触から快楽を掬い取ってしまう自分の体が呪わしい。確かに彼女の体は、ウォルターに触れられた部分から、切ないような甘い衝動を伝えてきた。無視しようと思えば思うほど、感覚が鋭敏になるような気がする。
この男は軽蔑すべき人間だし、憎んでいると言ってもいい。しかしそういった人間的な性質とは全く違う部分で、どこかに魅力を感じているのだろうか。日焼けした野性的な顔立ち、彼女をその中に軽く納めてしまえる頑丈な太い腕、低い声。倫理とは関係なく、体の奥底の方が彼に惹かれている。
ウォルターの顔が沈み、彼女の滑らかな肌に舌を這わせたと思うと、乳首を口に含んだ。軽く歯を立てられながら吸われる。シェリルはこらえきれず、小さな溜め息を漏らした。
扉が開く音に、ウォルターは素早く顔をあげた。
続いて目をやったシェリルは、そこに意外な姿を見つけ、涙が出そうになる。
「何してるの?」
軽く目を見張り、問いかけたのはジャクリーンだった。
生きていたのだ。
食事を食べなかったか、食べた量が少なかったかしたのだろうか。
巻き添えにしてしまったと思った彼女の無事な姿を見て、涙がにじんだ。
「気をつけて! こいつ、暗殺者だったの!」
幸い口は塞がれていない。シェリルは彼女に向かって鋭く叫んで警告した。ウォルターが突然現れた邪魔者をすかさず始末に向かうのが、一番恐ろしい。
「暗殺者?」
状況が分からない為か、のんびりとジャクリーンは問い返した。
「そう!」もどかしさにシェリルの口調も荒れる。「こいつが暗殺者の『コヨーテ』だったの。副伯を狙っていたのよ。その為にあなたたちまで巻き添えにして殺したの!」
ウォルターが、シェリルの話に気を取られている間に、ジャクリーンが彼をどうにかしてくれれば一番いい。そう思って敢えて長々と状況を話し続けた。
しかし彼女を黙らせようとする素振りも無く、かと言ってジャクリーンを先に始末する様子も無く、男は面白そうにシェリルを見下ろしているだけだ。
違和感は恐ろしい結論を導き出した。
「わざわざ説明してもらって悪いな」ウォルターは唇を歪めた。「でもあいつは、あんたより事情を詳しく知ってるんだよ。俺たちの仲間だからな」
ジャクリーンは無表情で静かに寝台の方に歩み寄ってきた。
目の前が真っ暗になるような気がする。
どうして最初にそれを疑わなかったのだろう。ジャクリーンが生き残っているのは、彼女も暗殺者の一味だったからなのだ。思えば、彼女は他の護衛と同じく臨時に雇われたはずだが、最初からウォルターと妙に親しかった。
助かるかもしれないという希望が膨らんだ矢先に弾け飛び、気力を根こそぎ奪われる。もう次の方法を考える力も無い。手足がか細く震え始めた。
「他の連中と外に行かなかったのか?」
歩み寄るジャクリーンの方を振り向きもせずにウォルターは訊いた。彼は再びシェリルの肌を撫で始める。緊張と恐怖で顔がひきつった。
「事情もろくに説明されなかったからね。あいつら、大慌てで出て行ったよ。一体何があったの?」
「まあいい。──お前の言う通り、この女、魔女だったよ。仲間と副伯を逃がしやがった。とりあえずあいつらには追いかけさせたんだが、この女が副伯の隠れ場所を知ってるなら吐かせようとしたとこ」
思わずジャクリーンに目をやった。シェリルが魔術師であることに気づいたのは、ウォルターではなくジャクリーンだったのか。しかしどうやって。旅に出てから一度も術を使っていないというのに。
ジャクリーンはシェリルの視線に応えず、腕組みをして相変わらず無表情で彼女とウォルターを見下ろしている。ウォルターは横目でそんなジャクリーンの様子を伺うと、下品に笑った。
「お前も一緒にやるか? 随分、このガキを気に入ってたみたいじゃねえか」
男はシェリルのズボンのベルトを乱暴に外すと、短剣で裂いた部分に手をかけてさらに引き裂いた。息を呑む。歯を食いしばって悲鳴をこらえたが、にじんだ涙が溢れ出した。こんな人間たちの前で涙を流すなんて屈辱だった。
道中、ウォルターや同性のジャクリーンが、シェリルを欲望の混じった目で見ていることは知っていた。万が一のことを考え、野宿の時は仲間たちに寄り添って寝るようにしていた。まさか、こんな場所で恐れていた事態になるなどと、さすがの彼女にも予想はできるはずもなかった。
ジャクリーンは服を引き裂かれ、乳房をはじめところどころ素肌を露出しているシェリルを見下ろし、小さく笑った。すぐに彼女から目をそらして口を開く。
「それよりさ」女戦士の視線は、シェリルに馬乗りになっているウォルターに背後から注がれた。「あんた、『コヨーテ』って本当?」
「そうだ。まだお前にゃ言ってなかったな」
薄笑いを浮かべたまま、ウォルターはジャクリーンの方を振り返える。彼女は重ねて問いかけた。
「今回の仕事もその名前で引き受けたの?」
「そうだ。先にこっちに潜り込んでた連中は知っていたけど、お前には言う機会が無かったな。俺がコヨーテだよ」
「冗談でしょ」
ジャクリーンの顔に嘲笑が浮かんだ。
「何が冗談なんだよ」
ウォルターの声が不機嫌に尖る。だが、彼女は気にした様子も無く答えた。
「だって、私が知っている『コヨーテ』は、自分から名乗って仕事を引き受けることは無いからね」
ジャクリーンに首だけ向けていたウォルターは、シェリルの体から離れ、体ごと向き直った。
「……どういうことだ?」
「こっちが聞きたいね」
見たこともない冷たい笑みでジャクリーンは答えた。掠れた声が氷のような響きを帯びた。
「あちらこちらでコヨーテを名乗って仕事を受けてくれるおかげで、名前ばかり有名になって、こっちは迷惑してるんだ。やりにくくて仕方無い。あんたが犯人だったのか」
ウォルターが傍らの短剣に手を伸ばすより早く、腕組みをしていたジャクリーンの手が翻る。
腰を浮かせかけた男の体がシェリルに重なるように倒れこんできた。その重みが肺にのしかかり、軽く咳き込む。長めの針のようなものが彼の喉に刺さっているのが見えた。
ウォルターは体を起こそうと身じろぎしたが、力が入らないのか、彼女の体の上で無様にもがいている。それを冷ややかに見つめながら、静かにジャクリーンは口を開いた。
「あんたもいい腕してたのに惜しいね。他人の名前を騙るより、地道に傭兵として仕事していけば、いつかは名声を得ることもできただろうにさ」
彼女の言葉が終わる頃には、ウォルターは動かなくなっていた。
ジャクリーンは彼の肩を掴んで押し、無造作に寝台のシェリルの上から、その体を床へ転げ落とした。腰に下げていた短剣を抜く。
寝台に縛られてなすすべもなく横たわっているシェリルには、床で何が行われたのかは見えなかった。
転げ落としたウォルターの体の上に屈んだジャクリーンは、血に濡れた短剣を敷布の端で拭って立ち上がる。
無表情の彼女と目が合い、シェリルの体は恐怖で固まった。
戦いの場は特殊だ。その場にいる誰もが夢中だし、興奮して頭に血が昇っている。シェリルも何度か他人を手にかけたことがあるが、自分や仲間を守り、その場を生き残る為のことだ。
しかしこの剣戟の音も無い静かな部屋で、一瞬のためらいもなく人を殺せる人間を見たのは初めてだった。身に迫った危険より、ジャクリーンの冷徹さそのものに、彼女は戦慄した。
だがジャクリーンは目元を僅かに和ませ、短剣を鞘に納めた。
しばらく沈黙が流れる。自分の息遣いがうるさい程耳に響いた。
「……あなたが『コヨーテ』だったの?」
沈黙に耐えられず、幾分落ち着いたシェリルの方から口を割った。ジャクリーンは曖昧に頷く。
「そう。……そう言われると恥ずかしいけど、まあ、周りからコヨーテと呼ばれるようになったのは私だよ」
「ウォルターは……?」
「『コヨーテ』の名前を使って、貴族や金持ちから暗殺の仕事を引き受けていた傭兵くずれだよ。名前が有名になると、こっちとしても仕事がしにくいからね。目障りだったんだ。貴族の暗殺ばかり引き受けてたら恨みを買う羽目になるし、勝手に通り名を使われることも腹立たしい。こいつは結構、失敗もやらかしているしね。……それに暗殺が本業ってわけじゃない」
饒舌に話した後、それを恥じるように彼女は口を閉ざした。
その瞳に今のところ敵意は見えなかった。シェリルはさりげなく安堵の息を吐く。
「……『コヨーテ』って、女だったのね」
「いや」
ジャクリーンはやおら口を大きく開き、その中に自分の指を差し入れた。そのまま喉から、小指の爪より小さな丸い塊をつまみ出す。
かすかにそれに見覚えがあった。仲間の一人が使っていたことがある。薬と蜂蜜を練って固めたもので、喉の奥に入れておくと、声の響きを変えることができる。
ジャクリーンはそれを指で弾いて落とした。床の敷物にぽつという小さな音が転がる。
「変装していただけだよ。顔を知られている連中がいるからね」
掠れた女の低い声ではなく、涼やかでよく通る、紛れもない男の声だった。
その声は彼女の記憶の最も深く切ない場所に突き刺さった。
まさか。そんなはずはない。
驚愕に体が打ち震える。全身の血が逆流するような気がした。
ジャクリーンは声も出せず、視線も動かせないシェリルを見つめたまま微笑んだ。
その彼女の微笑みが、常にシェリルに不思議な親近感をもたらした理由が分かった。見覚えがあったからなのだ。
緊張と恐怖で早鐘のように打っていた鼓動が、さらに激しくなる。息苦しさに小さく喘いだ。
確かに。
髪の色や髪型こそ違うが、よくよく見れば、ジャクリーンは『彼』にそっくりだった。
半年程前、初めて伯爵から頼まれた仕事を引き受けた時に、伯爵の娘に扮したシェリルが出会い、一夜を共にした男。彼もまた伯爵令嬢の婚約者である公子を偽っていた。肌を重ねた翌朝、目覚めた時は姿を消していた。
名前も知らず、正体も分からない。
それでも男の姿は長い間シェリルの中に居座り、切なく彼女を苦しめた。彼の正体を探ろうと、情報を集めたこともあったが、徒労に終わった。
最近やっと男の幻も薄れ、心に受けた甘い傷も癒えかけたというのに。
声を聞いただけで、奔流のように記憶が押し寄せ、あっという間に胸の中がざわざわと音を立てて蠢きだす。名前も分からない感情がただ高ぶり、涙すら流れそうになった。
半裸のまま縛りつけられている自分の格好に、突然今までとは違う羞恥を感じる。女だと思っていた目の前の人間が、男だと気づいたからだ。
だが、ふと違和感が頭の隅に浮き上がった。
一方でジャクリーンは、どこか面白がるようにシェリルを観察したままだ。彼女に手を下そうとする様子も、助けようとする様子もない。
混乱して黙り込むシェリルをいっとき見つめ、やがてジャクリーンは肩を竦めた。
「まあ、色々聞きたいこともあるんだろうけど……できる範囲でなら説明しようか」
今のところは、ジャクリーンはシェリルをどうにかしようとする気はないらしい。そしてその口調に、初対面の人間同士には無い、独特の親しみを感じ取れた。
胸を撫で下ろした後、幾分震える声で尋ねた。
「あなた、女の人だったの?」
「へ?」
予想外の質問だったらしく、ジャクリーンは間の抜けた声をあげた。眉を寄せて首を傾げる。
「……声を聞いても、女に見えるかな?」
「だって」やや顔を赤らめながら、シェリルは首を振った。「前に一緒に水浴びしたじゃない。あの時は……」
ジャクリーンと小川に浸かった時、彼女の裸を見た。少年のような体つきではあったが、確かにその下半身は女性のものだった。
同時にその時、彼女にいきなり口づけされて、胸まで触られたことを思い出した。
「ああ」
ジャクリーンは頷くと、シェリルの傍ら、寝台の上に腰掛けた。そこから上半身をひねるようにして、シェリルに目を向ける。その茶色い瞳が光を帯びたような気がした。
「面白いこと言うね。僕が女だったら、この前どうやって君とやったっていうの?」
ジャクリーンがシェリルの胸元に手を伸ばす。
びくりと体が小さく跳ね、彼女は身を竦ませる。だが、その手は服の破れ目をそっと合わせ、むき出しだった彼女の乳房を覆い隠してくれた。羞恥が幾分和らぐと同時に、形にならない失望が訪れ、それをシェリルは恥じた。
半年前のある夜に、鄙びた巡礼宿の一室でシェリルの身に起こった出来事を知っているのは、彼女自身と相手の男だけだ。
どうやらジャクリーンがあの時の『彼』であるのは間違いないようだ。しかしまだ釈然としなかった。ジャクリーンはそのまま続ける。
「見た目をごまかす方法なんていくらでもあるよ。魔女なら知ってるでしょ」
思わず顔をしかめた。
そうだ、『彼』はシェリルが魔術師であることを知っている。ウォルターにそれを告げて結界を破らせたのだ。おかげでこんな災難に巻き込まれることになった。一度たわんだ神経が再び張り詰めていく。
シェリルは首を振った。
「幻術を使ったっていうの? ありえない。私の前で使えば絶対に分かったはずだよ」
シェリル自身が幻術については、かなりの修行を積んだ。先ほど暗殺者一党をごまかす為に作り込んだ、シェリル自身と仲間たちの幻術も、触れることができるほど精巧なものだ。それほど幻術に熟練した彼女は、当然他人の作った幻を見破ることにも長けている。
しかしジャクリーンは彼女の言葉を鼻で笑い飛ばした。
「大した自信だね。……確かに君は優秀な魔術師みたいだけど、ちょっと自惚れ過ぎじゃないかな。魔術師の目から術を覆い隠す魔術もあるんだよ。ギルドじゃなかなか教えてくれないだろうけどね。知られれば都合が悪いから」
「じゃあ、あの時は……」
「君の目から隠した目くらましだよ。君らに僕が女だって信じ込ませたかったんだ」
「……あなたも魔術師なの?」
「ちょこっと小細工ができるくらいだよ。魔術師だなんておこがましい」
彼女──いや、彼は肩を竦めて苦笑いした。
魔術師ギルドの厳しい修行と厳格な掟を嫌って、脱落する人間は少なくない。魔術の絶大な力の悪用を避ける為に、ギルドはそんな人間に魔術の封印を施しているが、その手を逃れて世間に混じってしまう者も多い。彼は恐らくそういった類の人間だろう。シェリルのように、ギルドと繋がりのある正式な魔術師ではないような気がする。以前に会った時、シェリルの体にあった魔術師の印にすぐに気づいたのも、彼自身が魔術の知識を持っていたからなのだ。
だが、それを確認するより、別の質問をぶつけた。他に聞きたいことはたくさんあった。
「あなたが『コヨーテ』?」
「さっきそうって言わなかった?」
「何のために女装までして紛れ込んでいたの? 偽者を捕まえる為?」
「そうだよ。……おおっぴらに名乗ってる訳じゃないけど、たまたま大物の暗殺をいくつか片付けたら、運悪く有名になっちゃってね。でもいつの間にか、覚えの無い人間まで『コヨーテ』の名前で殺されてるって耳にすることが増えたんだ。しかも方法もスマートじゃなくて、徒党を組んで襲い掛かるっていう……まあ、動物のコヨーテもそんな感じなんだけど」
目の端にどこか酷薄な光を湛え、彼は話し続けた。以前に会った時には、貴公子に扮していた彼は、そんな表情を見せたことが無かった。
「あんたも分かると思うけど、苦労して築いた評判と名前を別の人間に使われるってのは、極めて不愉快なんだ。おまけに偽者の方は暗殺にしくじったりもしてるから、恨みを持っている人間が、俺に襲い掛かってくるようなこともあったわけ。
そろそろ何とかしたいと思って、色々情報を集めてたら、『コヨーテ』があの副伯の暗殺の為に、ある貴族に雇われたって話を聞いたんだ。で、俺も慌ててそいつのところに出向いて、うまいこと言って副伯暗殺の計画に入れてもらった。ただ──」彼は顎で床に転がっているウォルターを差した。「後から加わった僕は、暗殺の計画に雇われた人間たち一党の内、誰が『コヨーテ』なのかは分からなかった。てっきり、あの執事に化けた小男だと思ったんだけど、傭兵の方だったとはね」
背筋が冷えた。
彼の方の事情は多少分かった。だがよくよく考えてみれば、伯爵お抱えの隊商に、副伯の命を狙った暗殺者が紛れ込んでいるというのは、恐ろしい話だ。
勿論伯爵は、今回隊商の一行に副伯が同行していることは、関係者以外には内密にしているはずだ。つまりそれを知り得たのは、商人と、同行している御者や助手、あの護衛の隊長くらいだろう。臨時雇いの護衛には、雇われた時に副伯の同行を知らされたとしても、その前に知る機会は無かったはずだ。
副伯が親戚である伯爵を頼ることは予想できたとしても、シェリルたちが護衛として雇われたことまで彼は知っていた。そして、商人の護衛として潜り込む際に、正体を隠すために予め変装していたという。ということは、彼の雇い主もシェリルたちが雇われたことを知っていて、彼を含めた暗殺者たちに明かしていたということだ。
一体、どこから情報が漏れたのだろう。
「誰に雇われたの? 誰が副伯の暗殺を依頼したの?」
尋ねたが彼は苦笑いと共に首を振った。
「さすがにそれは言えないね」
「どうして? あなたの目的は、偽者を始末することじゃないの? それともまだ副伯の命を狙っていて、仕事を続けるつもり?」
「そりゃ無理だ。僕一人じゃ、君の仲間たちと正面から戦って副伯を仕留めるなんてできないよ。君の言う通り、この仕事を受けたのは、偽者の正体をつかむ為だから、確かにもうどうでもいいんだけど、副伯が生きているなら、依頼した人間のことをおいそれとは明かせないね。余計なお喋りは、思わぬところで命を縮めることになるから」
彼の皮肉な表情にシェリルは黙り込んだ。重ねて頼めるだけの材料を今の彼女は持っていない。
ただ、彼がもう副伯の暗殺からは手を引くと聞いただけでも安心した。縛られて転がっている自分の前にいる男と、敵対する必要はもはや無いのだ。
聞きたいことはまだあった。
半年前に起きた出来事の裏の事情も知りたい。それに彼の名前も知らない。
それなのに、ただ焦燥と説明のつかない感情ばかり溢れて、頭の中で言葉にまとまらなかった。軽く唇を噛んでこみ上げるものをこらえる。そうでないと、理由も無いのに泣きそうだった。
シェリルの不安げな表情を見て、男は目元を緩ませた。
彼は再び彼女に手を伸ばし、乱れて顔にかかった豊かな黒髪をどける。
その表情も口調も以前会った時とは全く違う。心優しい貴公子の面影は無く、皮肉でどこか虚無的な雰囲気を漂わせていた。それを感じながら、シェリルがあんなにも心惹かれた男は偽りに満ちた幻であり、もうどこにもいないのだと悲しく思った。心の一部が持ち去られたようだった。
だが彼女の髪をどける、その優しげな手つきや繊細な指先の形は、記憶の底に沈めてあるものと寸分違わず重なる。懐かしいという言葉では足りない、息苦しいほどの感情が溢れた。
目の前の男が、彼女がほんの一時恋した『彼』と同じ人間のなのか、そうでないのか。もう分からない。
「副伯が心配?」
どこかからかうように彼は尋ねた。
もちろん仲間がついているとはいえ、副伯の身は心配だ。だが今は自分の身の方をどうにかしたい。
シェリルが答えられずにいると、男は続けた。
「お友達の女の子も言ってたけど、君、本当に男に弱いんだね。この前は僕で、今度はあの副伯を狙ってたの?」
遠慮の無い言い草に、顔に血が上った。しかし彼の言うことの半分は当たっている。尚更まくしたてた。
「狙ってたとは何よ。奥さんのいる人とどうこうなろうなんて思ってない」
「へえ、それでそいつに標的を変えたわけ?」彼は再び床下のウォルターを顎で差す。「そいつも随分君を気に入ってたみたいだよ。女に化けた僕には見向きもしなかったからね」
「変装が甘いからじゃないの?」
無愛想に言い返すと、彼は皮肉っぽく顔を歪めた。その表情は荒んでいるようにも見えたが、どこか品を失っていないのが奇妙だった。
「おとなしそうな顔して、結構言うね。もっとおしとやかだと思ったよ。意外と気が強いんだ」
それはシェリルが少し仲が良くなった人間に、よく言われることだった。
そしてマライアのようにさらに彼女と付き合いが長く、鋭い人間には、決してそうではないことが分かるようになる。
男は立ち上がった。
「じゃ、気をつけて」
彼は微笑みを残すと、悠然と戸口へと歩いていこうとした。
「待って!」
シェリルは思わず大声をあげた。半ば弛緩していた体に、一瞬で緊張感が張り詰める。
彼との間には今しがたまで、ある種の親しさが漂っていたのは間違いない。このまま彼女を助けずに去るとは思いもよらなかった。両手を後ろで縛られ、両脚を寝台の柱に縛り付けられているというのに、「気をつけて」もないものだ。
彼は扉に手をかける寸前で振り返ったが、シェリルを見つめたまま黙っている。
頼みたいことは一つしかない。だが何故か、それを口に出すのがひどく屈辱だった。
「……助けて」
数瞬の葛藤の後、シェリルがやっとそう呟くと、彼は冷笑で答えた。
「なんで? 僕が君を助けなきゃいけない理由がある? 魔術師でしょ。自分で何とかしなよ」
茶化されているのだろうと思ったが、彼の表情と言葉はシェリルの胸を薄く切り裂いた。
そうだ。確かに、彼に彼女を助ける理由などない。今は敵ではないが、友人でも恋人でもない。ただかつて一度抱き合っただけの人間だ。
シェリルは必死で彼と交渉できる材料を探した。
このまま置いていかれれば、やがてウォルターの仲間たちが帰った時、床に転がるウォルターの死体を見て、彼らが逆上するのは間違いない。縛られた彼女がどんな目に合わされるかは、恐ろしくて想像もしたくない。
「縛られたら、あたし程度の腕じゃ何も術なんか使えないよ。あなたが余計なことを傭兵に言ったせいで、結界が破られちゃったんだから、何とかしてよ」
「そりゃだって、僕の第一の目的は偽の『コヨーテ』を見つけることだけど、それができなければ、ちゃんとジャクリーンとして、副伯の暗殺は遂行するつもりだったからね。知っていることは仲間に言うよ。自分の無用心を他人のせいにしないで欲しいね」
シェリルは眉をしかめ、大きく溜め息をついた。彼に対する嫌味のつもりだったが、彼は毛の先ほども気に留めていないだろう。
それに彼の言うことは本当だ。たまたまウォルターが偽のコヨーテであったことがこの場で露見したので、彼の目的は達せられ、シェリルと彼の敵対関係はひとまず解消された。しかしそうでなければ、彼はジャクリーンとして、受けた仕事をウォルターと共に遂行していたはずだ。その場合自分の身はどうなっていたのか分からない。
「……ブーツの中に宝石が縫いこんであるから、それを持っていって。それを報酬に私を解放して」
シェリルの言葉を聞き、ようやく彼は微笑んだ。小賢しい男だと思うのに、その笑顔が刻まれた彼女の心の一部は、血が通ったように脈打ち始めるのが、悔しかった。
彼が公子として、彼女の婚約者として、何度も恭しく彼女の手を取ったことが胸をよぎる。
男は静かにシェリルの元に戻ってきた。
長靴の中を探った彼は、親指の爪ほどの大きさの紅玉を取り出した。
シェリルがいざという時の為に、長靴の中に縫いこんで隠しておいた、丁寧に研磨された、上等なものだ。売り払えば数か月分の生活費にはなるが、命には代えられない。
「これだけ? 財布は?」
両方の長靴を探っていた彼は、厚かましくもそう尋ねた。
なんてがめつい男だ。胸に閉じ込めていた貴公子の幻が音を立てて崩れていく。やはりもう『彼』はどこにもいないのだ。目の前の『コヨーテ』は金次第で何でもする、冒険者以下のごろつきに過ぎない。
「財布は仲間に預けた。重いし、生きて戻れるか分からなかったからね」
生きて仲間の元に帰るつもりではあったが、財布を預けたのは本当だった。一人で動くなら、少しでも身軽な方がいい。
「本当に? お友達を随分信頼してるんだね。俺だったら肉親にだって自分の金は預けないよ」
彼はしかし彼女の言葉を信じていないようだった。シェリルにさらに近づいてくる。
「お金が一番の友達で、家族なんだ」
辛辣な皮肉をぶつけたつもりだが、彼はそれを無視して、シェリルの顔の横に屈むと、耳たぶに触れた。彼女が常に身につけている耳飾りを撫でる。不覚にも体が震えた。
「これは? 紫水晶だな。これももらっていくよ」
「待って、それは駄目。大事なものなの」
後ろ手で縛られた不自由な体勢のまま、慌てて首を振る。肩が僅かに痛んだ。
この耳飾りは、ギルドの師匠がくれたものだ。魔よけでもあるし、実際に魔術の触媒として、常に彼女を助けてくれる。
「形見みたいなものなの。それだけは持っていかないで」
自尊心をかなぐり捨て、必死で懇願した。ギルドを出た今、彼女と師匠を繋ぐものは、この耳飾りしかない。師匠の身に何かあったとしても、これが無ければ何も分からないに違いない。十年近くをギルドで過ごした彼女に取って、師匠は両親よりも大切で身近な存在だった。
「そんなに大事なものなの?」
男は懸命のシェリルの表情を、面白がるように見下ろしていた。悔しいが、こればかりはどうしても奪われたくない。目尻を吊り上げながらも、シェリルは重ねて訴えた。
「そう。その宝石で足りないなら、仲間と無事に合流したら、財布をあげるから。とにかく一度ほどいて」
「仲間と合流したら、僕は袋叩きでしょ」
彼はシェリルのベルトに通した革製の小袋を手に取り、中を空けた。そこには、魔術に必要な小さな触媒が詰まっている。中身を確認すると、彼はそれも取り上げた。魔術の触媒は、高く売れるものもある。
触媒が無ければ、解放された後にも魔術を使うのは困難だ。しかし耳飾りを取り上げられるよりましだった。
やっていることは、旅人の身ぐるみを剥ぐ追いはぎと同じだ。心の底から男を軽蔑した。シェリルたちも同じような流れ者、便利屋だが、困窮している人間の足元を見て、全財産を奪うようなことは考えたこともない。半年前、彼と寝た──しかも彼女は処女を捧げた結果になる──ことを歯噛みするほど後悔した。
「他には無いの?」
それでも彼がそう言って首元に手を伸ばした時、背骨のあたりから何かがこみ上げ、体が小さく慄いた。
男は、先ほど自ら丁寧に合わせたシェリルの服の破れ目を引いた。日に焼けていない、白い乳房がランプの薄明かりに浮かぶ。
恥じらいを見せるのが癪で、シェリルは唇を噛んで無表情を保った。
「他には何も持ってない」
精一杯張った声を出す。彼は黙ってさらに服の胸元を広げた。反対側の胸と、臍のあたりまでの腹がさらけ出された。
「何も隠してないんだ」
面白くもなさそうに彼は呟くと、彼女の豊かな乳房を軽く握った。その手の温かさを感じる。
「じゃあもう一回やらせてよ。それが嫌なら耳飾りをもらってくけど」
男の薄笑いを見て、屈辱と怒りで頭が沸き立った。
陵辱したいなら、すればいい。今、シェリルは全くの無抵抗だ。それをせずに敢えて彼女にそんな「頼みごと」をして、選ばせようとるのは、相当に根性が悪い。
唇を震わせたまま男を睨んでいると、彼は無言で彼女の耳たぶに手を伸ばし、耳飾りを外そうとする。振り払うように激しく首を振ると、また肩が痛んだ。
「やめて。耳飾りだけは取り上げないでってば」
「なら、僕とする? 僕はどっちでもいいけど」
痛むほどに唇を噛み、屈辱を飲み込んだ後、彼女は小さく頷いた。しかし彼はさらに問いかけてくる。
「どっち? やるの? それとも耳飾りを素直に渡す?」
怒鳴りつけてやりたい。だがその衝動は胸でつかえ、ねっとりとした熱い霧に姿を変えて広がった。
「……して」
しばらくの後、逡巡した中で最も短い言葉で彼女は答えた。どうしても声が震えるのを隠せなかった。
「一話が2〜3部に分かれるかもしれません」って書いた矢先、四部に分かれちゃいました。
……すみません。
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