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【外伝】 雛菊 (後編)
 足元は暗がりとなってよく見えない。王都が誇る美しい石橋の両端には松明が灯されていたが、袂へと下りる堤の側壁を照らすには不十分だ。恐る恐る下ろした右足の爪先が、がくりと滑った。
 シェリルは咄嗟に右手で側壁の出っ張りをつかんで、傾いだ体を支える。
「気をつけて」
 声も出なかったのだが、気配だけでシェリルが体勢を崩したことに気づいたらしい。先を下るコヨーテの抑えた声が下方から聞こえた。
「大丈夫」
 シェリルが行こうと言い出した場所であるのに、自分で足を滑らせるとはみっともない。ばつが悪かった彼女は小声で答えた。
 先に下りると言った彼は、暗がりの中でもある程度見えているらしいが、シェリルはといえば、辛うじて物の陰影が判る程度だ。すぐ足の下にあるはずのコヨーテの顔も見えない。振り仰いだ彼が、緊張に唇を噛みしめながらも平静を装うとしているシェリルを見て、僅かに口元を緩めたのも分からなかった。
 シェリルはへっぴり腰で、今度は側壁につかまったまま、足場を探しながら慎重に下った。川の上を吹く風がスカートの裾をはためかせ、足に絡まりそうになる。
 どうにか堤を下り終えた時には、小石や砂がへばりついた掌は汗でじっとりと湿っていた。今日は湿気が強く、夜になってもまだ幾分暖かい。本当にもう春なのだと実感させられた。
 シェリルたちが下り立った場所は、東岸と西岸を結ぶ橋脚の袂だ。目の前を、古くから王都を繁栄に導いてきた母なる川がゆったりと流れている。足場は板張りの桟橋状になっていた。すぐ側に聳える青果ギルドの倉庫の一階は堤の上の地上に、そして地下はこの川沿いの桟橋に繋がっており、ここから直接品を船に積んで川を上り下りできる。西岸側には、同じようにギルドの倉庫が幾つも並んでいた。
 通常、この桟橋にはギルドの倉庫の中からしか入れないのだが、石を積み上げて作られた堤には、足場となるような凹凸がある。倉庫の裏に回り込んで堤を下れば桟橋に下りることができるのだ。日中は当然ギルドの人間がいるので、見つかれば追い出されてしまうが、夜間は人気が無くなる。もう少し離れた小麦や革製品、木工細工のギルドなどは倉庫も大型で在庫を抱えるために、夜間でも警備の人間を雇っているが、橋に近い青果や食肉のギルドは保存が効く物資が少ない為、夜間の見張りを雇うほどの貯蔵品が無い。誰にも咎められずに、堤を下って桟橋に下りることができた。
 修行時代に師匠に連れてきてもらった場所だった。他人の敷地に入るのは悪いことではないかとシェリルはためらったが、師は「見つからなければ迷惑になりませんよ」と笑って、年齢に合わぬ身軽さで堤を下っていった。元は現在のシェリルと同じく冒険者として方々を旅して回り、遺跡の探索や厄介事の解決に励んだ彼女は、若い頃は大学でも有名なお転婆だったようだ。
 涼やかな音を立てて流れる川を跨いだ向こう岸には、庶民が住む東岸だ。川べりには食堂や宿、酒屋、商店が並ぶ。旅人や商人を迎える繁華街は、夜が早い西岸と違って深夜まで賑わっている。店が灯す明かりの群れが、遅月を待つ濃紺の夜空の下に幻想的に浮かび上がっていた。
 東岸は通りも狭く、人も多くて雑多だ。数多の人間が行き交う為に石畳がはがれている箇所もあり、密集した家々の壁は煤や埃で汚れている。馬や馬車が通れるように、すっきりと区画整理された西岸とは大違いだ。
 それでもこうして川を挟んで眺める夜の景色は、夕方に反対側から覗いた東岸の百塔の眺めに劣らない。松明や角灯、蝋燭。様々な明かりのひとつひとつに、善良でなくとも懸命な人々の生活が灯っていると思えば、俄かに愛しさすら沸いてくるようではないか。シェリルをここに連れてきた師匠は、そう語った。親元を離れて、華やかだがどこか冷たい大都会にやってきた幼い少女に、王都の様々な顔を見せたいと考えたのかもしれなかった。
 マライアやスタンリーたちと出会って、冒険者稼業の拠点を王都に決めた後にも、皆をここに連れてきたことがある。王都を初めて訪れたマライアやイーミルは勿論、数年駐留していたことがあるというスタンリーとサムソンも、王都にこんな場所があったのかと驚いていた。
 賑わいもざわめきも向こう岸に遠く、西岸の住人の少ない足音や話し声は頭上にある。せせらぎの音ばかりの静かな場所だった。
「王都にも、こんな場所があったんだ」
 緩く腕を組んだコヨーテが、向こう岸を眺めながら呟いた。
 夕食の時に聞いた話では、彼も年に何度かはこの栄耀誇る大都会を訪れるらしい。人の栄光や欲望を取り込んで膨らんだ街は、彼のような仕事をしている人間にとっても格好の餌場だろう。そんな彼も、師匠が教えてくれたこの場所を新鮮に感じてくれたことが、少し誇らしかった。


 **


 稀少な葡萄酒を出してくれる店の小部屋で、いかがわしい──他に形容のしようがない──行為に及んだ後、椅子に座ったコヨーテと、その上に跨るように抱き上げられたシェリルは、くちづけを繰り返しながら固く抱きしめ合っていた。
 唾液に濡れた彼の唇は柔らかく、ほんのりと甘い葡萄酒の芳香を残していた。舌を絡めとられると、さらに鼻の奥まで果実の香りが広がった。呼吸を乱して、熱い息を吐きかけながら、シェリルはコヨーテに顔を寄せ、体を寄せた。背中に回った彼の腕にも力がこもる。
 互いの吐息が前髪と顔の産毛を微かに揺らし、唾液が擦れる音が艶めかしく響いた。
 もう一度、こうして抱きしめあって口づけを交わすことができたなんて、夢みたいだ。コヨーテとの思い出――甘酸っぱいようなものではなく、ただ切なく生々しい記憶は、心の底に押し込めては、時々浮かび上がってきてシェリルを苦しめた。
 明日は来てくれるかもしれない。いや来ないに違いない。あれが永劫の別れだったのだと、去年の初冬の夜明けのことを回想しては、心中で身悶えするほど苛まれていた。
 舌をくっと強く吸われて、その付け根から重い痺れが全身に流れていく。自分の一部が欲されて求められている。そんな錯覚はシェリルをさらに酔わせた。
 彼女を何度も抱え直すコヨーテの手が、背中から腰へと滑った。なだらかな曲線を辿られて、こそばゆいような微かな快感が這い上がる。シェリルは小さく背中をのけぞらせた。
 彼の手はさらに下におりて、自分の腿に乗った丸々とした尻を撫で回した。服の上から力を込めて触れられると、快感というよりも、コヨーテに体を支えらえているような安堵を感じた。
「ん……」
 シェリルは微かな呻きを上げながら、さらに彼に体を寄せて自分の舌を彼の舌に絡めた。豊かな乳房がふたりの体に挟まれて潰れる。コヨーテは応えるようにシェリルの舌をもう一度吸い、尻を撫でながらスカートの布地を少しずつたくし上げた。
 もっと近づいて欲しい。もっと近づきたい。
 体の芯からあふれ出る情熱が、シェリルから恥じらいや常識を奪った。女性として、はしたないを通り越して見苦しいほどの姿勢でありながら、尚且つ男の手に衣装をはだけられるままになっている。慎みなどどこかに吹き飛んでいた。
 そして彼も、小柄で豊満な肢体を寄せてくる少女が、滑稽に見えつつも可愛くて仕方がなかった。
 たくし上がった服の裾から彼の手が侵入してくる。下着の上から尻を撫でさすられ、弾力のある肉をつかまれた。
 絡めとられていた舌がほどかれて、下唇を啄ばむようにくちづけられる。彼の左手はシェリルの頭を撫で、ふっくらした頬を優しく押さえた。その指先の感触と温かさに陶酔する間もなく、コヨーテの手は顎と鎖骨を撫でて、服の上から胸に触れた。
 ふくよかな乳房を静かに撫でられた。ためらっているのか、焦らしているのか、穏やかな動きが、シェリルにはもどかしかった。しかし彼の手が胸の中心をかすめるたびに、微かだが鋭い感覚が臍の奥まで突き刺さる気がした。
 コヨーテを促すように、シェリルはもう一度彼に唇を押し当て、髪の間に指を潜り込ませた。手触りの良い直毛が皮膚をくすぐる。
 そっと唇が離され、吐息と共に囁きが落ちた。
「どこか、行く?」
 愛欲にのぼせた頭では、コヨーテの言っていることがよく分からない。潤んだ瞳でただ彼を見つめ返すシェリルに、彼はもう一度言葉を重ねた。
「まだ時間ある?」
「うん、平気」
 宿が戸締まりをするのは、真夜中の鐘が鳴る頃だ。まだ時間はある。
「ほんと? お友達が心配しない?」
 服の上から彼女の胸を撫でながら、コヨーテは首を傾げた。皆、留守だと説明するのももどかしく、シェリルは大きく首を横に振って短く答えた。
「大丈夫」
 短い返事が終わらないうちに、再び唇をついばまれる。餌をせがむ雛鳥のようなくちづけだった。いや、せがんでいるのはシェリルで、彼のほうが親鳥なのかもしれない。
 どうしてだろう。このひとが好きで好きで仕方がない。
 シェリルはさらに強くコヨーテにしがみついた。彼女を優しく受け止めながら、彼はさらにひそめた声で囁いた。
「ここ出て、違うとこ行く?」
 鼓動を速めていた心臓が、もっと熱く弾んだ。
「うん」
 青年の肩に顔を埋めたまま、シェリルは頷いた。
 でも本当は、動くのも気だるかった。ずっとこのままでもいい。
 時間が止まってしまえばいいのに。

「やばいやばい、誰か来る。早くどいて」
「え、わ?」
 コヨーテは突然シェリルの腕を払い、肩を軽く押して椅子から立ち上がらせようとした。まだ半分夢見心地だった彼女は、よろけながら床に足をつけたが、体の均衡を崩してしまった。
「わっ、わわっわ」
 テーブルに手をついて体を支えようとしたがうまくいかず、些か色気の足りない声を残して、シェリルは床に尻餅をついた。小さなテーブルは傾き、杯と木の実を入れた皿がひっくり返ったが、白湯を満たした陶器と稀少な葡萄酒を入れた銀の容器は、咄嗟にコヨーテが受け止めた。
「あっぶない……お酒こぼれるところだった」
 尾てい骨を打って、痛みに顔を顰めるシェリルは、恨みがましくコヨーテの横顔を見上げた。シェリルのことは転倒するままに任せていたのに、酒がこぼれそうになると咄嗟に動くその反射神経を、多大な皮肉を込めて称賛したかった。
「いったい……」
 あてこすりをこめて呟いてみても、コヨーテは出しっぱなしだった自分の下半身の服装を手早く整えていて、顔を上げる気配もない。立ち上がる気力も無くして、シェリルは仏頂面でむくれていたが、やがて隣室の話し声の隙間に、近づいてくる足音を聞いた。
 慌てて両手をついて体を起こす。その間に服装を直したコヨーテは、素早く屈んで床に落ちた木の実や銀の皿を拾い集めてテーブルに戻し、やっとシェリルの手を取った。
「大丈夫?」
 私は木の実より後か。
 しかめ面で彼を睨み上げた時、盆に酒と杯を乗せた給仕が部屋にやってきた。さらに奥の部屋に用事があったらしい彼は、一礼してこの部屋を通り抜けようとして、椅子から立ち上がっている男女の客に目を留めた。
「どうかされましたか?」
 年配の給仕は、男に支えられるようにして立っている少女に、些か驚いたように声をかけた。
「すみません、彼女が少し飲み過ぎて酔ってしまったようなので……そろそろ失礼します」
 コヨーテはシェリルの肩を支えて椅子に座らせながら、平然と給仕に告げた。
 乱れたテーブルと椅子の位置や、倒れた杯とそこから僅かに零れた葡萄酒。それらに素早く目を走らせた給仕の瞳に、一瞬だけ詮索するような光が宿ったが、彼はすぐに慇懃な無表情に戻った。
「左様でございますか。お加減はよろしいのでしょうか?」
「あまりにもおいしいお酒だったので、飲み過ぎてしまっただけです。──会計をお願いします」
 ひとを押しのけておいてよく言うと思ったが、シェリルはその場をコヨーテに任せて黙っているしかなかった。
「かしこまりました。すぐに戻ってまいります」
 給仕は恭しく礼をして、奥の部屋へと去っていった。客の余計な事情には首を突っ込まないように教育されているのだろう。シェリルの常宿のかしましい給仕娘とは全く違う。
「とりあえず、出よ。君がずっこけて、杯のお酒こぼしちゃったし」
 給仕が去ると、コヨーテはシェリルに苦笑いを向けて言った。シェリルは憮然と言い返す。
「あなたが押すからだよ」
「ごめん。力入りすぎちゃった。君のお尻重いってこと忘れてたよ」
 素直に詫びられないのだろうか。一言多い。
 給仕が会計を告げにくるまでシェリルはむくれていたが、その間にコヨーテはのんびりと、酒壷に残った葡萄酒をちびちび舐めていた。彼女が不機嫌になろうが、全く彼は意に介してない。どころかむしろ、シェリルをからかって怒らせて楽しんでいる気がした。
 腹立たしかったが、コヨーテに翻弄される自分と、シェリルなど気にも留めていない様子の彼に、何故だか不思議な喜びを覚えた。

 店を出たふたりは、どこに行こうかと顔を見合わせた。店の中であったことなど、けろりと忘れている風のコヨーテの涼しげな面差しと向かい合っているうち、シェリルの頭の中にはまた少々邪な考えが漂った。
 コヨーテが泊まる宿には行けない。夕方、断られたばかりだ。
 かといって、シェリルの常宿に誘うのも問題だ。既に馴染みの宿の主人夫妻や給仕娘に見咎められれば、彼女が男性を連れ込んだという噂があっという間に広がるだろう。そもそも、宿は宿泊客以外の人間を部屋に上げることを禁じている。
 その他でふたりきりになれる場所といえば、逢い引きの場としても使われる娼館しかないが、西岸には娼館など無い。貴族向けの高級娼館はあるらしいが、庶民がぶらりと入れる場所ではないので、東岸に戻らなければならない。
 東岸の娼館が並ぶあたりは、夜は猥雑で物騒だ。そんな雰囲気に埋もれてしまうのも少し惜しい気がしたし、コヨーテはどうも人ごみは好きではないようだ。何よりシェリルの方から娼館などに誘うのは、今更ながらはしたないと思える。しかし他に場所が無いではないか。
 人通りの少ない路地で、大聖堂の裏手の壁を見つめながらシェリルがくどくどと考えていると、コヨーテが口を開いた。
「どっかいいとこ知らない?」
「え?」
 彼を振り向いたシェリルは、素早く考えを巡らせた。彼のような気取った男でも気に入るような娼館に心当たりはない。仲間の男たちにでも聞いておけばよかった。いや、今から常宿に戻って、給仕娘にこっそり聞いてみようか。
「ちょっと落ち着いて話せるようなとこないかねえ。居酒屋はうるさいし」
「そうだね……」
 そうだ。まず確かに、もう少し話をするべきだ。いや、話をしたい。夕食を食べながら、近況などについては簡単に語ったが、甘い雰囲気を微塵に砕かれた後は、シェリルは例の黒髪の男性に気を取られていたので、コヨーテの話など碌に覚えていなかった。
 先ほどの店で情熱的にくちづけを交わし、互いの肌に触れた後だけに、皮膚の内側が淡い熱を持っている気がしてもどかしかったが、三月ぶりに会えたというのに、いきなり娼館に飛び込んでことに及ぶというのも、あまり慎みのある話ではないとシェリルは思い直した。
 首を傾げているコヨーテは、地元に住むシェリルをあてにしているようだった。


 **


 そこで思い立ったのが、川原の無い王都において、最も静かに近くで川を眺められるこのギルドの桟橋だった。東岸に住む人々は大抵清潔で美しい西岸に憧れるが、こうして眺めていると東岸の景色も悪くはない。
 桟橋の隅には船に積む道具や角材、木箱が無造作に並べてある。シェリルは数歩下がってそこに腰を下ろすと、まだ桟橋の端に佇んで東岸の景色を眺めているコヨーテの後姿を、ぼんやりと見つめた。
 師匠や仲間たちと、時には一人で、よく眺めている風景の一角に彼が納まっている。幸福な違和感が、じわじわと胸の内側に広がっていった。その姿が当たり前になる日が来たら、もっと幸せに違いない。けれどその時は、心臓を弾ませるようなこの不思議な気持ちを感じることはないだろう。彼の姿が日常に溶け込む代わりに、今の感情は永久に失われてしまうのだ。どちらが尊いのか。分からなかった。
「離れて見ると、向こう岸もきれいだね」
 埒も無いことを考えていると、コヨーテも東岸の眺めに背を向けて、シェリルの元に歩み寄ってきた。葛藤は瞬時に萎み、彼女は笑顔で彼を迎えた。
「そうでしょ」
「うん。あっちは人が多くて落ち着かないし、繁華街の方は匂いもきつくてさ~。でも、ここから見ると、静かできれいだよ」 
 話しながら、コヨーテはシェリルの隣に腰を下ろした。
 湿気を含んだぬるく緩やかな風が、彼の体温を伝えてくる気がした。
 沈黙が流れる。王都を縫う川のせせらぎがその隙間を埋めていた。
 
 何か話題は無いかと考えていたシェリルは、最も知りたかったことに思い当たった。
「ねえ、そういえば……」
 コヨーテも少々沈黙を気詰まりに感じていたのだろうか、声をかけるとすぐに振り向いた。
「何?」
「あなたの名前……訊いてもいい?」
「だめ」
「…………」
 親しいとは言い難い間柄だが、知り合ってから結構経つ。昨日今日の付き合いでないし、そろそろ名前くらい教えてくれてもいいのではないか。
 分かっている。シェリルにとっては、彼は唯一その肌を知る男性であり、それだけでも地上の他の全ての男と違う。しかしコヨーテにとっては、シェリルが同じ意味での唯一の女性では決してない。彼が抱いた多くの──直接聞いたことはないが、少ないとは思えなかった──女のうちの一人に過ぎないのだろう。
 しかし自分でも恩着せがましく会いに来てやったと言っていた通り、シェリルの望みに応じて、こうして会いに来てくれたのだ。彼にとってそのぐらいの価値がシェリルにはあると思っていたが、それも自惚れだったのかと、少しだけ悲しく惨めになった。彼のような人間には、名前というものの価値もシェリルのそれとは違うと、重々承知してはいるのだが。
 唇を噛んで、小さな失望と傷心を押し殺していると、腰を下ろした木箱についた左手が、温かく包まれた。
 コヨーテに目を戻せば、詮索を封じるように穏やかに彼女を見つめていた。
 ──もう、いい。名前など知ったからって、彼との距離が縮まるわけではない。それよりも、こうして触れ合って温かさを感じることができるほうが、よほどシェリルにとって大切だ。
 コヨーテの手をぎゅっと握り返す。彼は唇の端を小さく上げて笑うと、左手を伸ばしてシェリルの体を抱き寄せた。

 彼の背中に両腕を回す。ほっとした。心臓の鼓動は高鳴り、頬が熱くなっているのに、とても心地良い安堵を覚えた。コヨーテの手が、シェリルのくせのある髪を梳くようにして頭を撫でた。何度も何度もそうされると、幸福でめまいがしそうだった。
「会いにきてくれて、ありがとう」
 体に満ちた温かい気持ちが、ずっと言いたかった言葉を紡がせた。かすれて消え入りそうな声だったが、コヨーテはしっかり聞き取ったらしい。シェリルの背中がきつく抱き締められた。
「シェリル」
 名前を呼ぶ声に、どんな感情がこもっていたのか知らない。その響きが優しく、温かいというだけで十分だった。
 そっと顔を上げさせられ、唇が重ねられた。頬や瞼、額にもくちづけされる。
「なに今さら可愛い子ぶってんの」
「だって、ずっと言ってなかったから……」
 首をすくめるようにして、繰り返される接吻を受けていると、再び唇が塞がれた。今度はすぐに舌が忍び込んでくる。それはゆっくりと動き、丹念に彼女の口の中を探った。 
 髪を撫でていた手が、服の上から乳房を握る。店の中での愛撫と違って、遠慮の無い強さと動きで柔らかな膨らみが揉まれた。
 舌を絡められ、裏側をちろちろと舐められながら、彼の指先で固くなってきた乳首を軽く引っかかれた。服の上からだが、独特の甘い刺激が皮膚の奥に入り込んでくる。シェリルは彼の口の中に、熱い溜め息を吐いた。何度もそこを弄られると体の奥が熱くなってきて、彼女はスカートの中で自分の腿を静かに擦り合わせた。
「もう、こんな固くなってる」
 コヨーテが囁いた通り、シェリルの乳首は上着の上からでも分かるほど浮き上がっている。彼女が恥らって俯いていると、反対の乳房もぎゅっと握られた。全身に熱を帯び始めていた体は既に敏感になっており、鋭い刺激が突き上げた。
「あっ……」
「なんか言いなよ」
 思わず小さな声を漏らすと、コヨーテはそっちの乳房も些か乱暴に愛撫し始めた。何か言えと言われても、ただ甘い喘ぎしか出てこない。
「う……はあっ……」
「ほらほら、こんなんなってるよ。──もっと見せて」
 尖った両の乳首を軽くつねった後、彼はシェリルの着ている袖なしの上着の留め具を外した。その下の薄手の服は、愛撫を受けて興奮した少女の乳首の形を、さらにはっきりと浮き上がらせていた。  
 コヨーテは右手でシェリルの服の襟元の紐を解きながら、反対の手で乳首を軽く弾いた。さらに強い感覚が走りぬけ、彼女は腰を軽くひねってそれに耐えた。しかし皮膚に与えられた刺激は、体の芯に溜め込まれていくようだった。そこがどんどん熱くなってくる。
 紐を解いたコヨーテは、胸元をぐいっと広げてその中に手を差し入れ、体躯の割には豊かな乳房を二つとも服の外へと曝け出した。
 中心の紅色の蕾を固く尖らせ、はちきれそうなほど豊満な乳房が、無理やりのように服の胸元から零れ出ている様は、艶かしいどころか卑陋でさえあった。だが下品ではないのは、恥じ入っている少女の顔立ちが、まだあどけなく愛らしいからだ。髪に可憐な雛菊の花など飾っている様子は、さらにシェリルを無邪気な童女めいて見せた。
 彼はまるで、幼子に卑猥な所業を教え込んでいるような、背徳的な昂りを覚えた。橋から届く微かな明かりで、シェリルが頬を赤く染めているのが分かる。しかし彼女は彼の手から逃げ出そうとしたり、抵抗しようとする素振りを微塵も見せず、その仕打ちを受けるがままになっている。
「かわいいね」
 囁くと、コヨーテはむき出しの乳房をゆっくりと揉んだ。素肌が直接彼の掌に触れる。シェリルは軽く彼の腕をつかんで快楽をこらえようとした。並んで腰掛けていたふたりの上体はほぼ向かい合わせになり、互いの腿と膝がぶつかった。
「こんなとこで生チチ出されても、何も言わないんだ。素直でおとなしいね~」
 指先で乳首をつねられながら、反対の手で子供にそうするように頭を撫でられた。
「だって……」
 言い訳がましく口を開いたシェリルの言葉は、途中で声にならなくなる。彼女は弱々しくコヨーテの背中や腕に触れたまま俯いた。
「嫌じゃない? 恥ずかしくないの?」
 挑発するように言いながら、彼はつまんだ乳首を左右に震わせた。それに合わせて、丸々と熟した果実のような乳房もゆらゆらと揺れる。自分の体が玩具にされているような屈辱は、とりわけ甘く切なかった。シェリルは溜め息と共に、切れ切れに答えた。
「恥ずかしいけど……」
「なに?」
 俯いていると、薄暗いとはいえ、自分のぴんと尖った乳首を青年の繊細な指先が弄んでいるのがうっすらと見える。体の奥がぎゅっと熱くなり、シェリルは目を逸らして顔を上げた。コヨーテと視線がぶつかる。彼はずっと、こちらを観察してたのだ。頬がさらに紅潮した。
 彼はシェリルの表情を認めて微笑んだ。 
「恥ずかしいけど、何? 嫌じゃないの?」
「……うん」
 とても嘘などつけなかった。彼と目を合わせたまま小さく頷くと、コヨーテは破顔してまた彼女の髪を撫でた。
「本当にエッチで正直なんだね」
 シェリルが反論する前に、彼はその乳房に唇を寄せた。何度か接吻を落とされ、滑らかな素肌を舌で撫でられる。こんな上品で優しそうな人が、自分の乳房に舌を這わせていることが、目の当たりにしている今も信じられない。切ない息をつきながら、シェリルは僅かに体を震わせた。
 彼の舌は焦らすように乳輪を舐め回した後、その中心の蕾にそっと触れた。
「ん……あっ」
 かすれた声を上げ、彼女の体は再び慄いた。
 彼はいきなりそこに吸いつくようなことはせず、尖らせた舌先でつんと立った乳首を突いたり、ざらざらした表面で何度もねぶったりして、時間をかけて彼女の両の乳嘴を責めた。
「あ……ああっ……あ……う……」
 もうシェリルは、目を開けて自分への仕打ちを見ていることに耐えられず、瞼を閉ざして鋭い断続的な快楽を味わった。脚の間はいよいよ熱くなり、腿を何度も擦り合わせては、腰が艶かしくくねった。

 スカートの裾がふわりと捲れて、中に青年の手が入ってきた。膝から太ももを静かな手つきで撫で上げられる。
 唇と舌でシェリルの乳房を愛撫しながら、彼の手は太ももから脚の付け根、そして下着に包まれた恥丘を撫でた。彼女は脚を閉じていたが、長い指先はその間に巧みに入り込み、秘裂の端で熱くなっている小さな肉の芽に下着の上から触れた。
「ああっ……は」
 乳首から流れてくる快楽とは違う、もっと鋭い刺激が襲ってきて、彼女は甲高い声を上げた。彼の中指はさらに奥、そこを守っている薄い皮膚と粘膜を押しのけて陰核に触れると、下から突き上げるようにして強めに震わせた。
「んうっ……あ……まって」
 その動きを咎めるように、右手でそっと彼の左手を押えたが、指先が蠢くばかりで力が入らない。陰核から突き刺さる快感は、体の中を内側から突き崩すように鋭かった。
「あうっ」
 それに酔う間もなく、今度は乳首を甘噛みされる。悲鳴のような高い声が喉をついて出た。
「はしたないよ」
「だって……」
 からかうように言ったコヨーテは、シェリルの言い訳など聞く様子もなく、唾液に濡れて紅色の小石のように突き出た乳首に音を立ててくちづけると、座っていた木箱から下りてシェリルと向かい合った。
 膝をついて屈んだ彼は、彼女の両膝に手をかけて脚を開かせた。膝が持ち上げられて、上体が倒れそうになったシェリルは、慌てて体の後ろに両手をついて支えた。半端に捲れていたスカートが、さらに大きくたくし上げられ、脚の間に彼の顔が近づく。
「や……待って。ちょっと、待って」
 体を起こしたシェリルは、片手で彼の顔を押しのけようとした。
「いたた……何すんの」
 何すんのはこちらの台詞だ。シェリルはスカートを元に戻しながら小声で言った。
「ここじゃだめだよ。他のとこ行こうよ」
「他のとこって……だって、お店の続きするのに、君がここ連れてきたんじゃん」
 シェリルの太ももの間から顔を出しているコヨーテは、きょとんと彼女を見上げていた。その様子が不思議と可愛らしくて、ふっと毒気が抜けたが、まるでそれに気づいたように彼が内ももに唇を押し当てる。軽く吸われて、彼女の太ももはぴくりと震えた。
「んっ……違うよ。もう少し話しようって、あなた言ったから……」
「比喩だよ、そんなの。『どっかヤれる場所ない?』とかって君に訊くのも、あからさまで嫌じゃない?」
 やはり店を出た直後、口淫の微熱が残る体で考えていたことは、彼も同じだったのだ。それならそうと言ってくれればよかったのに。
「そんな比喩わかんないよ」
「嘘だ。君、そんなにバカじゃないよね」
 ふくよかな内ももを撫で回しながら、コヨーテはにやにやとシェリルを見上げている。
「バカだよ」
 涙が出そうになった。
 こんな得体の知れない男に入れ込み、刹那の悦楽を求めて何度も肌を重ね、昨年など危険を冒して敵方だった彼を牢から逃がしてしまった。今だってこんな場所で、彼にされるまま破廉恥な姿を曝している。こんな愚かな女、他にいない。マライアに知られたら軽蔑されてしまうだろう。
「バカじゃないよ」
 コヨーテは体を伸ばして、シェリルにそっとくちづけた。唇が微かに触れ合うだけの優しい接吻だった。
「素直でかわいいだけだよ」
 額から頭の先、後ろまでするりとひと撫でされる。こめかみのそばに飾った花が、彼の腕の内側に触れられて揺れた。 

「分かったら、もっと脚開いて」
 一瞬陶然としていたシェリルは、屈んだコヨーテが喜々として再びスカートを捲り上げるのを見て、我に返った。
「待ってってば。そうじゃなくて、ここでこれ以上するのはだめだよ」
「えー、何で?」
 彼は全く悪びれていない。善良な市民として至極当然のことを主張しているはずなのに、何故かシェリルの方がどもってしまった。
「だって……外だし……」
「まえにも外でやったじゃん。夜中だし、大丈夫だよ。ここ、誰も来ないんでしょ?」
 去年の夏、谷間の美しい村の広場で、コヨーテと抱き合ったことを思い出した。
「多分来ないけど、橋の上とか向こう岸とか、堤の上から人が覗き込んだら、他の人から見えちゃうかもしれないし……。どこか他のとこでゆっくりしようよ」
 言った後に、少し露骨な台詞だったかもしれないと思った。案の定、コヨーテの頬が意味ありげに緩む。
「ゆっくりしたいの?」
「…………」
「ゆっくりじっくり、落ち着いて濃いエッチしたいってこと? ……いたっ」
 にやける彼の額を一発叩いてやったが、ニ撃目を左手で受け止めた彼は些か目尻を締めて首を傾げた。
「娼館とかどこかの宿でってこと?」
「だって……他に場所が無いし……」
「うーん、ああいうとこ、あんまり好きじゃないんだよねえ」
 呟きながらも、コヨーテはシェリルの小さな右手に指先を絡めて弄んでいる。少々味気ない会話を挟みながらも、肌を愛撫され続けている限り、彼女の体から熱が抜けていくことはなかった。
「私だって好きじゃないけど……」
「でしょ? 却って落ち着かないんだよね。──じゃ、やっぱりここでしよ」
 勝手に結論づけて微笑むなり、太ももを撫でていた彼の右手は、下着に包まれた脚の間に触れた。反駁しようとしたが、膨れた陰核をもう一度指先で撫でられて、シェリルの思考は散らばってしまった。
「いっ……あ、だめだってば。どこか……ほか……あ……」
「僕の言うことだって聞いてよ。わざわざ君に会いに来たのに、夕ごはんの間中、ずーっと他の男に見とれられて、ほんと悲しかったんだから。それに比べたら、ちょっとぐらい恥ずかしいのなんか、我慢できるでしょ」
 まだ言うか。それは店での行為で帳消しになったのではないか。
「それとこれは……ん……ああっ、あ……あ、あ、あっ」
 抗議は言葉にならず、嬌声となって乱れた。敏感な肉芽をぐいぐいと容赦なく押し潰されて、体の中で火花が散った気がする。彼女の腰はぴくぴくと何度も淫靡に動いた。 
 彼は下着の隙間から内側に指先を忍び込ませた。温かい粘液が彼を迎える。興奮するとシェリルは陰核あたりからも愛液を漏らすようだ。
「うわー、どろどろ……。なんで、こんなになっちゃってんの」
 陰裂に指を差込み、そっと滑らせながら彼は囁いた。裂け目は陰核と膣口からあふれ出した愛液でしとどに濡れていた。
 なんのかんのと言いながらも、結局従順に彼に従っている淫らな少女は、目を閉じて唇を震わせている。彼の目には、この上なく可愛らしく映った。
「だって……嬉しいんだもん」
「僕もだよ」
 コヨーテが大きく熱い息を吐いた。下着の紐が手早くほどかれ、秘められた場所がむきだしにされる。いつの間にか東の空には、遅く昇ってきた月がかかり、愛液をまとわりつかせた陰毛とその内側に指を差し入れている彼の手を朧に照らしていた。  
「僕に触られて、シェリルがここをこんなに濡らしちゃうのが嬉しい」
 コヨーテの乱れた声に混じって、愛液が擦れる音が卑猥にシェリルの耳に忍び込んだ。頭がくらくらとした。
 彼は少女の陰部に顔を近づけると、黒く縮れた繊毛の間に唇を触れさせ、舌を埋め込んだ。充血して膨れた陰核は、優しく舌先で触れられるだけで、飛び上がりそうなほどの快楽をシェリルに伝えてくる。
「ああっ、あ、あ……」
 彼の舌は、ぺちゃぺちゃと音を立てながら、先ほど彼女の乳首にそうしたように、丹念に濡れた肉芽を愛撫した。甘い快楽が這い上がり、シェリルは何度も腰を浮かせながら、やわらかな太ももでコヨーテの頭を挟み込んだ。皮膚に触れる彼の髪の感触が、このような屋外で、とんでもなく淫らなことをしているのだと思い知らせ、さらに体を熱くさせた。
 陰核を舌でねぶりながら、彼は秘裂を静かに弄っていた指を、最も熱い彼女の体の内側に滑り込ませた。
「うああああっ……! ああっ……」
 ひときわ重い快楽が突き刺さって、シェリルはあられもない叫びを上げた。
 長い指はそのまま淫らな音を立てて、彼女の膣の中を探り始める。種類の違う二つの悦楽に責め立てられ、慎みも理性も溶け出したシェリルは、体を小刻みに震わせ、豊かな乳房を慄かせて悦びに啼いた。
「ああっ、はあっ……あう、あう、あっ……」
 少女のものとも思えない、悩ましい雌の嬌声に合わせて、腰が浮き、膣の中が妖しくくねる。自分の愛撫に夢中になって呑まれるシェリルの痴態を前にして、彼自身も服の下で限界まで熱く膨らんでいた。彼は舌で陰核を責め続けながら、娘の愛液に濡れた手でベルトを外した。

 体を起こしたコヨーテは、さらにシェリルの脚を大きく開かせた。半端にずり下がった彼の服と下着の間から、硬く立ち上がった男性器が覗いている。先刻、シェリルの喉に情熱の塊を吐き出したばかりなのに、もうあんなに昂っている。胸の奥が締めつけられ、息苦しいほどだった。
「……ここでするの?」
 覚束ない声で尋ねると、彼もまた上擦った声で答えた。
「しようよ。向こう岸から覗いている奴がいたって、一番大事なとこは、僕の体で見えないから平気だよ」
 一番大事なところという彼の言葉に、情熱が煽られる。彼を受け入れられる、彼女にとっての大切な場所。それが彼にとっても大切だと言われたような錯覚に酔った。
「……やだ?」
 感銘に眉を寄せたシェリルの表情を勘違いしたのか、髪を撫でたコヨーテは気遣うように訊いた。
「ううん、やじゃない。今したい」
 首を大きく振って、彼の背中を抱き寄せる。固い木箱の上に静かに押し倒され、背中が僅かに痛かったが、どうでもよかった。
「今ここで?」
 シェリルの顔を愛しそうに両手で挟み、コヨーテは囁いた。脚の間の濡れた場所に、熱い肉の先端が触れる。彼女は何度も頷いた。
「今、ここで」
「入れて欲しい?」
「……うん」
「じゃ、入れてって言って」
 意地悪く言われて、シェリルは唇を噛んだ。無意識に腰が彼をねだるように動くが、コヨーテは彼女を避けて腰を引いてしまう。焦らされて体の芯がはちきれそうに熱くなった。恥もためらいも忘れて、シェリルは乱れた声で囁いた。
「い……入れて。今すぐ、ここで入れて──あ……ああああっ、あっ、あーっ……!」
 重く深い悦楽に体の中心を抉られ、彼女は青年にしがみつきながら悲鳴のような叫びを上げた。喉が大きくのけぞる。
 彼は、熱した乳酪のようにとろとろと濡れた彼女の内部に自身を完全に納めると、大きな溜め息をついてシェリルを抱きしめた。散々焦らしてしつこく愛撫を与えていた為か、彼女の秘肉はぴくぴくと痙攣するように動いて彼を心地良く締めつけた。
 彼らは荒い息をつきながら、互いを抱きしめあい、唇を重ねて舌を絡めあった。シェリルの下唇を軽く吸いながら、覆いかぶさったコヨーテは静かに腰を動かし始めた。
「ああっ、あっ、あぅ……!」
 動きに合わせてシェリルの唇から高い叫びがあふれる。昨年に彼に抱かれて以来、男性を受け入れていない為、がちがちに硬くなった男性器に押し入られた彼女の内側は僅かに痛んだが、それももはや愉楽の痛みであった。強引に彼女を押し広げて、からだの奥を突いてくる彼と、悦んでそれを受け入れている自分に恍惚と酔った。
「シェリル……あんまり大きい声出さないの。ひとに聞こえるよ」
 彼の腰の動きに合わせてふるふると揺れる乳房を片手で押さえ、コヨーテはかすれた声で咎めた。  
「分かった……静かにする、する……あああっ、ああっ、はああっ……!」
「全然分かってないじゃん」
 唇を噛み締めようとしても、つい嬌声を漏らしてしまう少女を貫きながら苦笑いすると、彼は自分の唇で彼女の唇を塞いだ。   
 息苦しい。体の奥を何度も何度も熱く攻撃してくる彼に、自分の情熱を少しでも返そうと、シェリルは舌を彼に唇の内側に差し入れて蠢かせた。あなたによって、こんなにも歓喜に満たされたこの体の熱さを、もっともっと感じて欲しい。
「んんーっ、んっ、んふっ……ううっ」
 唇を塞がれながら、無力な獣のように唸るシェリルを潤んだ瞳で見つめ、彼はより深く彼女の体内を抉った。
「シェリル……」
 シェリルの情熱を受け止めかねたように、唇を外したコヨーテが名前を呼んだ。普段涼やかな声が、熱に濁って上擦っている。もっとその声を聞きたい。唇を塞いでもらわなくてもいいように、彼女はしっかりと細身の身体にしがみついて彼の肩に顔を埋め、彼の衣服を噛んで愉悦の叫びをこらえた。
 耳元で、はあはあと荒い呼吸を繰り返すコヨーテの動きは、急速に速まった。秘唇に彼の恥毛が触れるのが分かるほど、体内の奥深くまで陰茎を突き入れられる。その熱と硬さが自分の中で増していくのも分かった気がした。
「ううっ……うふっ……あ……はあっ……」
 噛みしめたコヨーテの服が唾液で忽ち濡れていった。
「あ……もうだめ……シェリル……いくよ」
 早くきて。
 ぎりぎりと布を噛み締めて何度も頷いた彼女は、ありったけの力で彼の身体を抱きしめ、体内を貫く彼自身を締めつけた。熱い吐息が耳元で弾け、同時に体の奥でも男の体液が散ったのを感じた。

 力を失った男の体は、何て幸せな重さなのだろう。
 肩を上下させて、ぐったりとシェリルに体重を預けたコヨーテを優しく受け止めながら、シェリルは目を閉じたまま交合の余韻に浸った。彼が吐く荒い息が、耳元の産毛をくすぐる。大きくてよく暴れる赤子を抱きとめる母親にでもなった気分だった。
 しばらくふたりはそうして抱き合って、桟橋に積まれた木箱の上に転がっていたが、やがてコヨーテが体を起こした。
「ちょっと……寝ちゃだめだよ。またこの前みたいに、合体したまま寝込んじゃって、気がついたら牢屋なんて嫌だからね」
「わかってるよ」
 コヨーテの言うことはもっともだが、肌を重ねた直後である。もう少し雰囲気のある言葉を言ってくれてもいいのではないか。少しばかり面白くない気持ちで答えながら、シェリルも体を起こして服装を直した。
 立ち上がって先に服装を整えた彼は、豊かな乳房を苦労して服の内側にしまいこんでいるシェリルを見下ろしながら、わざとらしく左肩を押えた。
「もー、君ががじがじ噛みつくから、僕の服も涎だらけになっちゃって……あれ」
 不意に嫌味が途切れたので、シェリルは胸元の紐を結びながらコヨーテを見上げた。目が合うと、彼は肩を押えたまま吹き出した。
「……何?」
 また馬鹿にしているのだろうか。憮然とシェリルが問うと、コヨーテは震える左肩を彼女の前に突き出した。
「見て、これ」
「どうせ涎つけちゃったのはあたしだよ」
「違う……あはは、よく見て」
 月明かりの下で目を凝らしたシェリルも、唖然とした。コヨーテが着ている手触りの良さそうな綿の服は、唾液にまみれているばかりでなく、肩と前身ごろの間が裂けていた。
「あっはっは……おっかしー。服食いちぎられちゃった。あー、服着たままでよかった。あはははは、君、ほんと動物みたい」
 絶句するシェリルの前で、笑い上戸の彼は遠慮なく爆笑している。シェリルの嬌声などより、よほど大きな笑い声ではないかと思った。
「うはははは。苦しい……笑い死にそう」
 いっそ笑い死ねという台詞をシェリルはやっと飲み込んだ。しつこく体を丸めて笑っているコヨーテを無視して、床に放り出された下着を拾い上げる。
「あ、それ貸して」
 しかし驚くほどの速さで、笑いを収めたコヨーテに取り上げられた。
「やだよ。何すんの」
「この前みたいに、ここに落としてって誰かに拾われたら困るもん」
「だから、あたしが今拾ったでしょ」
「いいから。じゃ、僕にちょうだい。……なんか、すごい匂いする」
「やだよ。やめてよ、変態」
 わざとらしく下着に鼻を近づけているコヨーテの背中を思い切り引っぱたいたが、彼はシェリルが届かない位置に下着を差し上げると、懐の中にしまってしまった。
「そんなもん、どうするの」
「そんなの、大きい声じゃ言えないよ」
 本気で恥ずかしい。顔を真っ赤にするシェリルに対して、コヨーテはへらへらと薄笑いを崩さないままだった。
「返してよ」
「ねえ、まだ時間ある?」
 しかも全くひとの話を聞いていない。嫌な男だと思いながらも、シェリルは曖昧に頷いた。
「多分……もうちょっとは……。真夜中の鐘の頃に宿が閉まるから、それまでは」
「さっき真夜中の鐘鳴ってたよ」
「え?」彼女は仰天して目を瞠った。「ほんと?」
 大きな瞳を丸くしているシェリルを面白そうに見下ろし、コヨーテは目を細めた。
「本当。嘘じゃないよ。さっき僕らがハメてる時に鳴ってた」
 真夜中の鐘は一度しか鳴らない。とはいえ、それに気がつかなかったとは、よほど彼との行為に溺れていたに違いない。衣服も食いちぎってしまうわけだ。
(あたし、ほんと動物みたい……)
 自分の性質は知っているつもりだが、さすがに少々情けなくなり、シェリルは苦い溜め息を吐いた。宿から締め出されてしまったではないか。誰が悪いかといえば、コヨーテとこんな場所で抱き合った自分が悪い。そもそも彼の後を尾行などしなければよかった。そもそも彼に王都に来て欲しいなどと頼むのではなかった。そもそも。
 延々と詮無いことを考えそうになったので、シェリルは思考を断ち切った。
「君んとこの宿、閉まっちゃったの?」
「多分」
 のんびりとしたコヨーテの声が癪に障り、彼女は憮然と頷く。女一人の身で屋外や居酒屋で夜を明かすのは危険だ。この時間では大学の門も閉まっているだろう。大騒ぎして、恥と迷惑を忍んで常宿の扉を無理に開けてもらうしかないだろうか。
「じゃ、僕のとこ来る?」
 彼の申し出に、シェリルは再び目を剥いた。
 コヨーテのことだから、朝まで付き合ってくれる可能性は著しく低いだろう。眠くなったら自分だけさっさと秘密の宿に帰りそうだ。自力で何とかしなければならないと思っていたところなので、彼女は心底驚いた。
「あなたの泊まってる宿?」
「うん。だって、帰れないんでしょ?」
 それならしょうがないと、彼は苦笑いを浮かべた。
「でもさっき、泊まってるとこは教えられないって言ってたのに」
「さっきはさっき。教えてって言われると、教えたくなくなるんだよ」
 この男は秘密主義ではなくて、ただ単に性格が悪いだけではないかとシェリルは思った。しかし彼の宿に泊めてもらえるならありがたい。
 いや、それ以上に何より嬉しかった。まだもう少し、一緒にいられるのだ。 
「……いいの?」
 図々しく見えないように、シェリルは口元を引き締めながら尋ねたが、欠け始めた月の光を受けて黒い瞳が輝いていた。
 彼女の瞳は唇よりもずっと雄弁だと思いながら、彼は頷いた。
「いいよ。でもその代わり、誰にも言わないでね」
「言わない。ありがと……」
 応えるようにコヨーテは優しく微笑むと、シェリルの手を引いた。
「じゃ、行こ」
「待って」シェリルは足を止めて、小声で言った。「それはそれとして、下着返して」
 踏み出した拍子に、脚の間から彼の体液があふれ出し、太ももを伝っていた。これまでは、ことが終わったあと、コヨーテはシェリルの陰部を拭ってくれたが、今は行為の後そのままなので、下着もつけていないその場所は愛液にも汚れている。
「いいじゃん。どうせまた脱ぐんだから」
 笑みを浮かべたままの彼の眦が僅かにつり上がった。シェリルの心臓はまた大きく弾み、頬が微かに熱くなる。立ち尽くすシェリルの手を、コヨーテがもう一度引いた。 


 多くの旅人は東岸の繁華街に宿を取るが、コヨーテが泊まっているのは西岸側だった。こちらには役人や聖職者などが投宿する高級宿しかない。そのうちの一軒の裏手に回りこんだ彼は、母屋と離れた建物の階段を静かに上っていった。シェリルも足音を忍ばせて続く。辺りにひと気は無かった。
 階段を上りきった場所に、二階に繋がる扉があった。コヨーテは鍵を取り出して錠を開けると、扉を開けて中を覗いた。気配で、彼が内部を警戒しているのが分かる。数瞬ののち、振り向いたコヨーテは笑顔でシェリルを招いた。自分の部屋に入るときといえども、警戒を怠らない彼の用心深さを見習いたいと思うと同時に、誰にもどこでも警戒を解けない彼の生き方に微かな羨望と寂寥を覚えた。
 シェリルを招き入れたコヨーテが素早く扉を閉めると、室内は真っ暗だった。彼が内側から鍵をかけている音が聞こえるが、月明かりに慣れたシェリルの目には、何も見えない。
「靴脱いで」
 小声で言い残して、コヨーテはすたすたとその場を離れていく。この闇の中でも、彼には見えているのだろうか。考えながら、シェリルは素朴な造りのなめした革靴をその場で脱いだ。
 左手の奥で物音がして、青白い夜の光が差し込む。コヨーテが窓を開けたのだ。
 月明かりに照らされた室内は、思っていたより狭かった。寝台と小さな机、椅子の他には大した家具も調度も無さそうだ。納屋の屋根裏部屋といった趣の部屋に見える。
「こっち来て」
 寝台の側に佇んで、青い月の光を浴びながらシェリルに手招きしている彼を目にすると、初めて肌を重ねた夜のことを思い出した。あの時と同じように、彼は慈愛に満ちた穏やかな微笑みを浮かべて彼女を見つめている。ふらふらと誘い込まれるように、シェリルは彼に近づいた。

 ごく自然な仕草で伸びたシェリルの腕が、やはり吸い込まれるようにして彼に引き寄せられ、小柄な体はしっかりと抱きしめられた。熱いくちづけが落とされて、唇を割って舌が入り込んでくる。らしくもなく、彼は性急だった。
 両腕でしっかりとコヨーテの背中に縋りつく。下腹に押し当てられた彼自身が、早くも熱を持ってきている気がした。それを裏づけるようにそこが彼女に強く押し付けられる。先ほど全て情熱を吐き出してしまったと思っていたが、彼が昂っているのを感じると、呼応するようにシェリルの体の奥も温まり始めた。
「もう一回しよ」
 吐息の隙間から漏れた彼の言葉は直接的過ぎて、シェリルはすぐに頷けなかった。ためらう彼女の上着に手がかかり、焦ったような仕草で留め具が外される。くちづけを繰り返しながらそれを脱がせた彼は、さっさとその下のブラウスの紐を解き始めた。
「シェリル、いいの? 嫌なら嫌って言わないと、どんどん脱がせちゃうよ」
 からかうような口調の彼は、言葉どおりシェリルの両腕を上げさせると、服をすっぽりと彼女の頭から抜いて、床に放り出した。上半身は丸裸である。片腕で半端に胸を隠しながら立ち尽くしていると、コヨーテにその腕を払われ、ぎゅっと乳房を握られた。
「どっち? する? しない?」
「あ……」
 乳首をつねられる。先ほど散々弄ばれた場所は、再びぴりぴりとした刺激を伝えてきた。
「したい」
 うわごとのように答えると、コヨーテは笑みを深くした。
「なら、しゃがんで僕の舐めて。さすがに三回目だから、そうすぐにはがちがちにならないから。手伝って」
 シェリルは素直に頷くと、膝をついて彼のベルトを外し、紐を解いてズボンの上からそこを撫でた。膨らみ始めていた場所は、少女の小さな手による愛撫で、さらに大きさと硬度を増す。ズボンをずり下げて下着だけにすると、勃起しかけたその形が浮かび上がった。
 心臓がどきどきと弾む。シェリルはその先端を慈しむように小さな接吻を繰り返しながら、下着の紐を解いた。その間にコヨーテは上着の留め具を外して脱ぎ捨てている。
 下着もずり下げると、斜め上に立ち上がった彼自身が姿を現した。時間が経った精液の匂いが生々しくシェリルの鼻をついた。愉快な匂いとは言い難いが、彼のものだと思うと俄かに愛しくなる。
 根元を指先で押えて、いきなり先端を唇に含んだ。
「あ……」
 先ほど乳首をつねられた時とは逆に、肌着を脱ごうとしている彼が切なげな呻きを上げた。舌に精液の残滓がまとわりついてくるが、シェリルはそれを舐め取りながら、思い切って喉の奥深くまで彼を飲み込んだ。口の中でぴくぴくと震える陰茎が、忽ち硬さを取り戻していく。頭上から落ちるコヨーテの溜め息を浴びながら、シェリルは唇と舌、やわらかな口の内側の粘膜を使って彼自身を慈しんだ。
「ああ……気持ちいいよ……」
 上擦った声が優しく囁き、頭が撫でられる。雛菊の花が彼の指先に絡んで揺れた。
 褒められて、彼が悦んでくれて、たまらなく嬉しかった。シェリルは愛撫を続けながら彼のズボンと下着をさらに下に滑らせた。薄く筋肉がついた腿と膝を滑り、足首まで下ろすと、コヨーテは素直に足を上げてそれを脱いだ。
 陰茎から唇を離すと、じゅるっと淫靡な音が漏れた。赤く怒張した先端から、少女のやわらかな唇まで唾液が糸を引く。
「もう、こんなに硬くなったよ」
 指先で頼もしいほど太く熱く硬くなった彼を辿り、シェリルはコヨーテを見上げた。肌着も脱ぎ捨てて全裸になった彼の褐色の瞳は、快楽に濁っている。
「素直で可愛いね」
 先ほどからかわれた意趣返しのつもりで呟くと、コヨーテの眉が僅かに寄った。
 彼は手を伸ばしてシェリルの肩を抱え、くるりと体の向きを変えさせると、うつ伏せに寝台の上に押し倒した。
「そこで四つんばいになって」
「でも……」
 硬い声で言われ、シェリルがもぞもぞともがいていると、穿いたままだったスカートを後ろから大きく捲られた。下着をつけていない秘部ばかりでなく、皺が寄った小さな窄まりまでむき出しになる。先刻男性を受け入れたばかりの陰裂は、まだ愛液にまみれてぬらぬらと光り、内側から男の精液をも零れさせていた。白く濁った液体はシェリルの白い腿から膝、ふくらはぎにまで跡を残している。
 彼はいきなり丸く白い尻を平手で軽く叩いた。
「いたっ」
「偉そうなこと言うからだよ。おもらししてたくせに」
 さほど痛みはなかったが、小さな声を上げると、冷ややかな返事が返ってきた。心臓の鼓動が激しさを増す。彼の声がとても蠱惑的に響いた。
「おもらしなんかしてないよ」
「今だって漏らしてるじゃん。さっき僕が注ぎ込んだやつが、足首まで垂れてるよ。おもらししながらここまで来たくせに、偉そうなこと言わないの」
 もう一度尻を叩かれた。やはり加減された力だったが、ぴしゃりと派手な音が響いた。
 確かにそうだ。堤を上って、コヨーテに手を引かれながらここに歩いてくるまで、シェリルの体内からは男の精液がどうしようもなくあふれ出して、下着もはいていない彼女の脚をだらしなく伝った。
 だがそれは彼が放ったものだ。反駁しようとしたが、愛液と精液の残滓にまみれた秘唇にいきなり熱い肉茎を押し当てられ、一気に貫かれた。彼女の言葉は切ない嬌声に変わってしまった。
「あ……ああああっ……! ああっ……」
「後ろからされるの好きだよね。嬉しい?」
「ふうっ……ううっ、あ……嬉しい」
 突然に体を抉られる衝撃にくらくらしながら、シェリルは覚束ない声でやっと答えた。
「本当かな~?」
 獣のように四つんばいになった彼女を貫いたまま、しかし少しも体を動かさずに、コヨーテは少女の張りのある臀部を撫で回している。
「ほんとだよ」
 震える声でシェリルはやっと答えた。腕を伸ばして後ろから彼女の頭を撫でながら、彼は敢えて抑えた声音で言った。
「じゃあ、シェリルが自分で動いて。僕は少し疲れたから」
「え……このまま?」
 また、とんでもないことを言い出されたと、シェリルは振り返ろうとしたが、頭を軽く押さえられた。
「そう。この犬みたいなカッコのまま」
 またかあっと顔が熱くなった。後ろから抱かれるのは好きだが、獣の交尾と同じ姿勢だということは知っている。それを今この場で思い出させられると、さすがに恥ずかしがった。
「歩きながらおもらししちゃう、犬みたいな女の子には、ちょっと躾してやらないとね。――ほら、動いて」
 尻を叩く代わりに頭を優しく撫でられて、自尊心がへなへなと崩れ落ちていくようだった。
 一方で彼は、自身をくわえ込んだシェリルの内部が僅かにひくひくと震え、粘液を新たに滲ませているのを感じた。屈辱的な台詞を吐かれて、彼女は明らかに悦んでいるようだった。可愛いと思うと同時に、素直すぎるその反応に、さらに嗜虐心を煽られた。愛らしく、豊満で淫乱な少女を、とことんまでいたぶってやりたい。
「シェリル、ほら。君が動かないなら抜いちゃうよ」
「や……やだ、やだっ」
 コヨーテが僅かに腰を引き、熱いもので満たされていた膣が切なく窄まる。シェリルは思わず尻を突き出して彼を追いかけた。
「そうそう、そうやってお尻動かして」
「んんっ……ん」
 羞恥のために顔を上げられず、柔らかな毛布に顔を埋めて、シェリルは丸い尻を彼に押しつけた。両手を突いている姿勢よりも露骨に尻と陰部を突き出す格好になるが、彼女はそれに気づいていない。ただ体の中のより深い位置に男の一部が届いて、その快楽に酔いしれていただけだった。
 呑み込んでいる彼がとても熱い。自らの腰を動かした時の甘い快楽に抗えず、彼女は規則的に尻を前後させ始めた。
「そうそう。上手だよ、シェリル」
 コヨーテの手が腰を撫で、背中に触れて、優しく彼女の髪を撫でた。唾液と共に甘い喘ぎがあふれ出す。
「んっ……ああっ、あっ、あっ、あっ」
「もっと声出してもいいから、もっと大きく動いて。ここなら周りに響かないから平気」
「でも……あっ、ああっ! はああああっ!」
「でもとか言いながら、おっきな声出てるよ」
「だって……だって……きもちいい……!」
 半ば泣き声のようなたわんだ叫びを漏らし、シェリルは彼の命令通り大きく腰を振った。陰茎が深く熱く内部を抉る。不器用に腰を動かすシェリルと彼との結合部は、膣から溢れ出した液体が擦れ、僅かに入り込んだ空気が漏れて、卑猥で滑稽な音を立てた。
「いいよ、シェリル。上手だよ。……僕も気持ちいい」
「あっ、あっ、あっ……ほんと? 本当?」
「ほんと……すごいやらしい音してるけど、気持ちいいよ。もっと速く動いてみて」
 頭を撫でられたシェリルは、懸命に尻を動かそうとしたが、腿が小刻みに震えてうまくいかなかった。
「だめ……もう無理……腰が抜けちゃう」 
 はあはあと荒い呼吸を繰り返しているシェリルの動きは、徐々に小さくなってくる。もっと彼を貪りたいが、悲しいかな体力の限界だった。
「もうちょっと鍛えなよ。お尻、おっきすぎるんだよ」
 再び平手で尻を叩かれた。
「だって……」
 弱々しい声を上げる彼女の腰が、両手でしっかりとつかまれる。後ろからぐいっと深い一撃が与えられた。目の前がちかちかとして、彼女は毛布に顔を埋め、歓喜を叫んだ。
「あうううっ! ああっ……」
「しょーがないから、僕が動いてあげるよ」
 恩着せがましいと思う余地もない。猛然と動き始めた彼は、内部で深く鋭くシェリルを何度も突き、視界も歪むような重い愉楽が体の芯を貫いた。
「はああっ、ああっ、うあああっ……きっ、きもちいい、きもちいいよ……」
 呂律も怪しくなり、唇からは白痴めいただらしない声だけが漏れる。その嬌声もぶれるほど、がくがくと腰を揺さぶられ、体が壊れてしまうのではないかと思ったが、嫌悪も恐怖もどこにもなかった。獣じみたコヨーテの攻撃に、骨の髄まで痺れる気がする。
「きもちいい、シェリル?」
「うん、うん……あ、あ、あっ……ううあうっ……!」
「よかった……会えた甲斐があったよ……」
「あった……あった……」
 思考のほとんどを本能に塗り潰されて、ふたりの会話は間抜けでしかなかったが、本人たちにとっては言葉の中味などどうでもいいことであった。
 唐突に動きを緩めた彼が、陰茎をずるりと抜いた。
「やだ……抜かないで」
 切ない声を上げるシェリルを横に転がして仰向けにさせたコヨーテは、情欲に潤んだ瞳で彼女を見下ろし、彼女が唯一身に付けているスカートの紐を解いた。
「また入れてあげるから。これ脱いで」
 何度も頷いたシェリルは、彼が紐を解き終えたスカートを脚を振って脱ぎ捨てた。幼児のような仕草を見て、彼はまた苦笑いした。
「乱暴だなあ……」
「だって、早く……早く、欲しい」
 コヨーテに向かって伸ばした両手が、倒れてきた彼の背中をしっかりと捕らえた。その瞬間、世界中の全ての幸いを捕まえた気がした。全裸の青年の体は淡く汗ばみ、蝋のようなやわらかな体臭が彼女の鼻をくすぐった。
 開いた脚の間に、愛液に濡れた彼自身が触れ、もう一度それが奥深くに打ち込まれる。
「ああーっ! あっ、あっ、うあっ……」
 シェリルの腰は自然と浮き上がり、濡れた粘膜が彼自身をそっと締めた。
「あ……シェリル……」
「コヨーテ……きもちいいよ、硬くて熱い」
「シェリルもだよ。熱くて、ぬるぬるしてて……あ……そんなに締めたら……」
「締めてないよ。こうなっちゃうんだもん」
 コヨーテにしがみついて、彼の動きに体を合わせたまま、シェリルはだだをこねるように腰を振って脚をさらに強く彼に巻きつかせた。規則的にシェリルを貫きながら、彼が熱い息を漏らす。
「かわいい顔して、やらしいこと言わないの。出ちゃうよ」
「出していいよ」
「だから、そういうこと言ったら……ほら……あ……ああっ……」
 コヨーテの顔が大きく歪み、彼自身もぴくぴくと動く。最後にもう一度彼女を深く貫いた後、みたびシェリルの中に彼の情熱が迸った。
 
 ゆっくりと、彼の汗ばんだ肌、温かな重みが体に沁みてくる。一瞬、互いの男女の部分を通じて、彼と本当に身も心も一体になったような錯覚を感じていた。至福の瞬間が過ぎると、肉体は感覚を取り戻し始めた。彼が吐く荒い息が、左の耳たぶと周囲の髪をくすぐっている。
 もう離れたくない。
 シェリルはコヨーテの体に巻きつけた両手と両脚に力を込めた。興奮から冷めようとしている、この僅かな時間なら、脳の奥底で燻っている我が儘や独占欲をほんの少し表しても、情事の名残として好意的に受け止めてもらえるだろう。彼の情熱が完全に冷め切った後では、しがみついてもきっと鬱陶しがられるだけだ。そうなれば、もう二度と会えなくなるかもしれない。
「ねー、いつまでしがみついてんの?」
 しばらくそうしているうち、予想通りのコヨーテの言葉が響いた。しかしその声は穏やかな苦笑いに彩られていて、思っていたよりもずっと優しかった。
「ごめん」
 それでもシェリルは両手足を彼の細身の体から離し、体をずらそうとした。しかし今度は逆に、コヨーテが腕と脚で彼女の体を抱え込む。
「別に謝んなくてもいいよ。君が重くないかなーと思っただけ」
 額に唇が触れた。欲望を放った後でも、彼がシェリルを慈しむ仕草を見せてくれたことは、それが礼儀や気遣いだったとしても幸せだった。かすれた声で彼女は囁いた。
「重くないよ」
 本当は重い。彼自身は軽やかなのに、捕まえてみればとてつもなく重かった。すべてが押し潰されてしまいそうで、いっそそうなってしまえばいいと思った。初めて彼と抱き合った時も、このまま世界が終わってしまえばいいと考えたことを思い出す。体の芯が微かに切なく蠢き、そこに差し込まれたまま硬さを失いつつある彼自身を優しく弄んだ。結合した場所から、じわじわと男の体液が漏れ始めているのが分かる。
 もう一度両腕を男の背中に回した。大きすぎない背中は、小柄なシェリルでもしっかりと捕えることができる。熱が抜けていこうとする肌は、もう彼女の掌よりほんの少しだけ冷たかった。


 頬に暖かさを感じて目が覚めた。瞼を開くと眩しい光が突き刺さる。シェリルは思わず目を眇めた。
 明るさに慣れてからゆっくりともう一度目を開けた。広くはない、質素な部屋。陽光に満たされた室内を見渡す前に、彼女の脳には昨夜の記憶が蘇った。
 窓と反対側に目を向けると、うつ伏せに眠っている男の姿が目に入った。
 ほっとする。コヨーテだ。ゆうべ、彼と重なり合ったまままどろみに落ちながら、目が覚めたら彼の姿が消えているのではないかと微かな不安に苛まれていた。
 このままずっと彼と共にいられるとは思っていない。昨日の彼の口ぶりからしても、王都に滞在するのは数日だということだった。だが一度こうして会えたのだ。また彼が王都に寄った時にでも会えないだろうか。コヨーテが消える前に、それだけはどうしても伝えたかった。
 どうやら彼が熟睡しているようなので、シェリルはそっと起き上がって床に下り立った。裸足に板張りの床の冷たさが却って心地よく感じられた。
 窓から外を覗いてみる。ぽつりぽつりと雲の切れ端が浮いているだけで、空は青く晴れ渡っていた。視線を下げれば、路地を行き交う人々の姿が目に入る。太陽は既にかなり高い位置にまで上っていて、人の流れは大聖堂へと向かっている。そうだ。今日は謝肉祭だった。
 
「眩しい……」
 背後から弱々しい声が聞こえて、シェリルは振り返った。コヨーテが寝台に寝転がったまま顔を上げている。下着も何も着ていない全裸のままだったので、シェリルは慌てて小走りで寝台に戻り、毛布の中に潜り込んだ。彼はそれをぼんやりと見つめている。彼にちらりと目を向けてシェリルは呟いた。
「もうお昼近くみたいだよ」
「あ、そう。随分、寝ちゃったねえ」
 コヨーテは大きな欠伸をした。何度か彼と抱き合っているが、肌を重ねた後に、こんなにのんびりできるのは初めてかもしれない。ことのあとは、彼が姿を消していたり、逃げなければならなかったり、気がつけばどこかに連れて行かれるところだったりして、大抵が慌しかった。 
 少しの間逡巡したのち、シェリルは思い切って口を開いた。
「今日、用事とかあるの?」
「別に無いよ。少し休むつもりで王都に来たから」
 コヨーテはうつ伏せのまま、大儀そうに頬杖をついてシェリルに首を向けた。ゆうべ抱き合った時とはまた違う速さで、心臓が鼓動を高める。
「あのね……今日、お祭りがあるんだけど」
「そういえば謝肉祭だね」
「うん。でね、広場に珍しい露店が出たり、大聖堂の鐘楼から花を撒いたりして、結構面白いんだけど……もしよかったら、一緒に見に行かない?」
 コヨーテはじっとシェリルを見つめ返した。表情が読めない。その時間は決して長くなかったのに、彼女はひどく緊張した。
「いいよ」
 ややあって彼がそう答えた時、体中が暖かく満たされた。
 唇を噛んで喜びを噛み潰すシェリルの前で、コヨーテはもう一度欠伸をした。
「でも、もうちょっとだけ寝かせて。長旅の後、ゆうべ頑張りすぎて疲れちゃった」
 彼は組んだ腕の上に、ぼすりと自分の頭をうつ伏せに投げ出した。明るい肉桂色の髪が窓からの陽光を淡く照り返している。その傍には、寝ているうちに頭から外れてしまったのだろう、彼が飾ってくれた雛菊の花が、瑞々しさを失って横たわっていた。
 きっと今日の昼過ぎには、大聖堂の鐘の音に合わせて、たくさんの春の花が降り注ぐだろう。菫、金鳳花、花一華、ムスカリ、勿忘草、雛菊。市民に幻の天国を見せるために、聖職者たちが摘み取った哀れな花たちだ。毎年皮肉をもって眺めていた花撒きを、今年はもっとあたたかな気持ちで楽しめそうな気がした。信仰を持たないシェリルなりに、天国だって垣間見えるかもしれない。
 微かな笑みを浮かべ、彼女は彼の隣で一緒にもう少し眠ろうとした。コヨーテは腕の上に顔を伏せたまま眠ってしまったようだ。寝息に合わせて、肩と頭がゆっくりと上下している。その様子が前足の上に顔を伏せている本物の犬科の動物のようで、可愛らしく愛しく見えたシェリルは、手を伸ばしてそっと彼の頭を撫でた。
 瞬間、ぴくりと動いたコヨーテが顔を上げた。
 またも感情の映らない瞳がシェリルを凝視している。頭を撫でるような仕草が馴れ馴れしくて嫌だったのかと、彼女は手を引っ込めた。
 シェリルの顔に浮かんだ小さな不安を溶かすように、彼は視線を緩めて瞳だけで微笑むと、再び腕の上に顔を伏せた。



<終>
外伝二話目は終了です。
三話目はもう少し先の掲載になります。

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