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この作品は<R-18>です。
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9.お天道さんと狡猾な本当のこと(xxx!)
「…ぅううっ、んんっ……あ、あぁ…っ」
繋がっている部分が、酷く熱い。
柔らかくぬめっているのに、動くたびにきゅっと絞り上げてくる。
蠢く襞のひとつひとつが、抜けていくのを惜しがって、纏わりついて扱き上げてくる。
その快感は筆舌に尽くしがたく、身体に走る感覚に喉の奥が震える。
一週間欠かすことなく続けた行為のおかげだろうか。
乱れるヒナコの様に、苦痛は見受けられない。
コイツは実に優秀で、きっと色々怖かっただろうに、素直に身体を開いて俺を受け入れ、慣れていってくれた。
性感は慣れるほどに深まっていく節もあるが、それもヒナコは怯むことなく甘受し、溺れてくれる。
俺の与える悦びに。
自分の内側を穿ち支配する、俺自身に。
「あぁっ…ぁあぁっ…っくぁあああぁ、ぁっ……」
「ぅく…っは、ぁ……っ」
絶頂を味わったらしいヒナコが、強烈に全身を震わせた。
連動して一際きつく締め上げてくる膣内に、思わず呻く。
細い脚の片方、左膝の裏に手のひらを差し入れる。
ここで終わらせてなんてやらない。
ぐっと腰をせり出して、奥で跳ね返してくる感触と、先端を弾き合わせた。
同時に繋がった部分の上部、張り詰めた肉芽に指を当てて、莢の上からこね回す。
内側はいっそう狭くなり、悪寒にも似た快感が背中を走った。
射精の瞬間を欲して迸るものを、奥歯を噛み締めて堪える。
極めてなお与えらえる刺激に、ヒナコはさらに高く囀った。
俺が好きだと切なく告げた、その唇で。
「やぁああぁぁああっ! も、ダメ……やあぁだめえぇぇっ……!」
「…ま、だ……我慢しろ」
「ぁあんゆるしてっ、もぉゆるして…っあ! は、ぁああぁっ!!」
ヒナコの震えはまた酷くなる。
身体が絶頂に向かい始めた頃合を見計らって、攻める場所を変えてやった。
今度はもう片方の脚も同じように押さえ込み、入り口あたりの浅いところばかりをさする。
突然下がった快楽の絶対値に、先ほどまですりあげられていた襞の奥がもの欲しそうに締まった。
焦れて勝手に揺れる細い腰に、更に動きを緩めてやる。
泣き叫びながらの懇願も聞いてなんてやらない。
これはヒナコが望んだこと。
決して忘れたり、不安に陥ったりしないように、俺を刻みつけてくれと、願ったのはヒナコなのだ。
だから今は避妊具もつけてない。
俺もヒナコも初めて、そのままの互いを感じている。
正直、最高だ。
願いを聞き入れてやってるはずなのに、俺の方が溺れて夢中になっている。
こりゃ明日はしっかり腰痛だって、わかっていても止められない。
次の射精は……何度目だったか。
最初は腹に出して、次は後ろからだったから、背中に撒き散らしてしまった。
太腿だの尻だのにも吐き出したような気がするが、いつだったか定かでない。
両脚を持ち上げられ、身体を二つ折りにされるような姿勢で組み敷かれているヒナコ。
立て続けの絶頂に度々意識を飛ばしたが、それも当然だ。
俺はとにかく、ヒナコに快感を感じさせ続けることだけを考えていたのだから。
先ほどのように高みを極めても、決して中断などしてやらなかった。
快感の頂の、さらにその先まで押し上げてやるつもりで、ずっと攻め立て続けた。
途中、焦れるとわかって感じる部分を外したりしたのも、その後に与えられるものの悦びを増幅させるため。
それは思ったよりもずっと効果的だったらしく、焦らした後の一突きに、ぎゅっと閉じたヒナコの瞼の合わせからは涙が散った。
同時に上げた蕩けきった声が、感じているものは苦痛ではないということを教えてくれた。
与えるほどにヒナコは俺に返礼をくれ、結果、ヒナコの肌のあちこちは白濁に塗れた。
娘ッ子一人を「女」にするって事は、想像していたよりも大きなことだったのかもしれない。
明るく闊達なヒナコが初めて見せた心の中の暗がりは、ここで俺と過ごすうちに膨らんできたもの。
好いた誰かと性的な繋がりを持ち、関係を深めていくということは、どうやら心にも大きな影響を及ぼすらしい。
初めてだったヒナコにとっては、余計に大きなことだっただろう。
俺自身にとってだって、それは相当にでかいことだったのだし。
「自分を変える性交」の相手が誰かと聞かれたら、それは間違いなく、今目の前にいるヒナコだ。
俺が女にした、たったひとりの人間。
俺が好きだと泣いた、たったひとりの女。
俺が初めて手に入れた、俺の、俺だけの……。
「…っ!」
「ひぅ! ぅはぁああぁぁっ…ぁ、ぅ……っ」
「……っ! ………っっ!! っぐ、ぅぁ…っ!!」
そこまで考えたところでたまらなくなり、また一番奥まで突きこんだ。
膝裏を押さえつけられているせいでヒナコの腰は浮き上がっているから、真上から体重をかけて深く刺し貫く。
勢いよく根元まで埋め込んでは引き抜いてを繰り返す。
最も感じるところは腹側深め。
張り出た部分でそこをこそげるようにしたら、ヒナコは待ち望んだ快楽にか細く囀り、わなないた。
惚けたような、蕩けきったような表情で、ずるりと四肢から力をなくしていく。
そのくせ襞のうねりはいっそう激しくなって、今度こそ俺は自分の絶頂のために律動を早めた。
加速度を上げて降り積もる衝動のままに、一気に自分を解放した。
あんな風に泣かれた時に最初に思ったのは、『あぁ、やっぱりやっちまった』だった。
そしてその『やっちまった』の中身は、前々から予想していたことで、あんまりにも予想通りだったから可笑しいくらいで。
強引な手練手管は不得意じゃない。
そこいらの適当な奴が相手なら、文字通り「身一つ」で思うとおりにできたのだ。
こういうところが、以前のヒナコが俺を避けていた理由だって事は、よく知っている。
俺はそれを、好都合だと思っていた。
ヒナコが俺を、自分の恋愛対象から除外してくれたらいいと、ずっと本気で思っていた。
でもそれは裏を返せば、俺はその頃からヒナコに惹かれていたって事。
俺なんか相手にしなければいいと思うのと同じくらい、俺はヒナコが振り向けばいいとも思っていたのだ。
『正直な話…してもいいか?』
『……ん?』
しばらく泣いて落ち着いた頃、俺はそっとヒナコに声をかけた。
何度も髪や背中を撫でてやっていたせいか、泣き疲れたように身体の重心を預けきってきていた。
『ホントのところ言うと……お前のそれ聞いて、ちょっと安心した
そういうの感じてるのって、俺だけだと思ってたから』
ヒナコは驚いたように顔を上げる。
『考えてみろよ、最初に惚れたのは俺だろ?
それにお前とは色々違うじゃねぇか
年ぁ10も離れてるし、俺はこんななのにお前は初恋もまだだった
俺なんかに気に入られても、まぁ迷惑なだけだろうな、ってよ』
『しのぶちゃんも……不安になったり、するの?』
『そりゃそうだ
もし不安になんてならないってんならお前、そりゃ相手に惚れてねぇってことさ』
『……』
ゆっくりな瞬きに、丸い頬をまた涙が落ちた。
それはヒナコの恐怖の名残。
指先で拭ってやりながら、このあまりにも予想通りの顛末を、俺は苦く噛み締めた。
そう、何もかもわかっていたのだ。
だから俺は、ヒナコが俺に惚れなければいいと思っていた。
歳が離れていただの、色恋沙汰に慣れていないだのって理由じゃない。
それは自分に対する言い訳。
本当の理由じゃない。
俺はいつか、大切なヤツを泣かせてしまう。
漠然と、そう思っていた。
女の身体とそっちの意味での相性に興味はあった。
けれど年頃になってからというもの、恋愛感情にはどうにも希薄で、決まった相手は作れなかった。
気がつけば、女顔の美貌で鳴らした双子の兄貴には「唯一の女」ができていた(しかもそいつはよく知る幼なじみ)。
俺といえば、燿みたいに器用で社交的でもなければ、寄ってくるのは尻の軽そうなやつばかり。
だからいつからか思うようになっていたのだ。
もしかしたら、本当の意味で惚れる相手は、俺には現れないかもしれない、と。
別にそれを不幸だとは思わなかった。
不自由はなかったし、結婚願望みたいなものも皆無。
気が向いたときに適当に遊べる相手がいれば、それでよかった。
問題は、その予想が外れたとき。
もしも予想外に、この先俺を本当に想ってくれるような奇特な誰かが現れたとしたら、そいつはきっと、俺の今までの諸々に泣くだろう。
そいつが悪いわけじゃないのに、心に消えない不安を持って、悩んで苦しむだろう。
そしてその誰かは多分、そのときの俺が、一番泣かせたくないヤツでもあるんだろう、って。
それからは余計に、決まったヤツは作らなかった。
今度は故意に、そういう風にしていた。
中には、軽薄そうに装いながらも本気な奴もいたから、できるだけそういうのとは関わりを避けた。
自分が応えてやれないことは、わかっていたから。
遊ぶ相手は作っても、後を引きそうな奴は選ばないようにしていたつもりだった。
時にはアテが外れてのぼせ上がられることもあったが、それさえも都合がいいと思っている自分がいた。
女を大事にできない、どうしようもない奴だって思われればいい。
傷ついて、悲しんで、俺を冷たい男だと悪者にすればいい。
俺のことを本当に好きになってしまったと縋る奴らを振り払いながら、そんな風に考えていた。
事実、可哀相だとは思っても、あいつらが求めるような甘ったるい感情は、これっぽっちも持てなかった。
抱く分には気に入っていた女でも、情に訴えるような真似をされると一気に興ざめして、顔も見たくなくなることも少なくなかった。
そうして考えは元の場所に戻る。
俺ってひでぇ。
どの女にも心が揺れない。
この分じゃ、やっぱり俺が一人の女に執着するなんて事、きっとない、と。
ヒナコに知り合った当初も、ただのガキとしか思わなかった。
十も年下の、この間まで勉強教えてた奴らと変わらない、どこにでもいるお子様。
歳相応の気難しさと、生意気さ。
大人への無条件の憧れに、幼稚な理想。
ガキはガキというだけで俺の中ではどれも同じだったから、ヒナコも最初は「名もないお子様」の一人だった。
興味を持ったのは、何度目かの来店で名前を聞かれたとき。
女に名前を聞かれることは、俺の中では「面倒なことの始まり」だったから、しばらく渋った。
そうしたらヒナコは言ったのだ。
「名前を知り合うことは、仲良くなる始まりだ」と。
そんな風に考えたことがなかったから、驚いた。
妙な含みがないのは、分かりきっていた。
虚を突かれた俺が態度を決めあぐねているうちに、ヒナコはするするっと俺に近づいてきた。
時には幼いからこその純粋さで激しく切り込んできたり、意外なほど大人びた言葉で、そっと心の中に入り込んできたり。
そのたびに、俺は様々な事に気付かされてきた。
自分が分かった気になっていたものが贋物なのだと、痛烈に目の前に突きつけられた。
あるいは、気にもとめなかったところにある大切な何かを拾い上げて、この手にそっと握らせてくれたような気になったこともあった。
ヒナコはいつも、俺の心をめちゃくちゃにかき回していった。
腹の立つこともあったし、ペースを乱されることなんてしょっちゅうだった。
俺が一番嫌なのは、自分の中に無断で踏み込まれること。
それなのに、一度だってヒナコを「金輪際関わり合いになりたくない」と思ったことはなかった。
だから俺はまたヒナコへの接し方を見失って、そうしているうちにヒナコはもう一歩、俺の心の更に内側に入り込んで。
そんな日々の延長線上で、ある日気づいてしまった。
ああ、見つけた。
見つけてしまった。
『奇特な誰か』はコイツだ。
俺が泣かせたくない女はコイツだ。
俺の中の唯一の女の座に、コイツはもう居座ってしまった、って。
そのときの絶望に似た喜びは、今でも忘れられない。
その瞬間から俺は、「どうしようもない女ったらし」になりきろうとした。
今までにも輪を掛けて酷い男であろうとした。
コイツにだけは、軽々しく手を出さないように。
軽率なことをして、ずっと消えない傷なんてつけないように。
多分、ちょっと荒れてたと思う。
その頃は、相手の女のこと見極めたりしないで、言い寄られるままだったから。
そのくせ内心では、ヒナコの心証ばかりを気にしていた。
よく見とけ、俺はこういうヤツなわけで、お前の相手なんかしねぇ。
お子ちゃまにはついていけないだろ。
他にも身奇麗なヤツはごろごろしてるんだから、そういうのとくっつけ。
俺みたいなのに、お前は不釣合いだから。
ずっとずっと、そう自分に言い聞かせていた。
ところが我慢は早々続かなくて。
あっという間に、ボロが出た。
当初の決意なんてあっさり崩れて、俺は軽々しさを装ってヒナに近づいた。
本当は、いつだってびくびくもんだった。
ようやくこの手の中に落ちてきてくれたヒナコは、改めて見れば酷く綺麗だった。
俺にはもったいないくらいにまっすぐで、若々しいエネルギーで満ちていて、眩しいくらいだった。
ただありのまま、無防備なくらいに素直に、俺の方を見てくれた。
そんなヤツを、ここにきて手放す気になんてなれるだろうか。
なれるわけない。
『俺な…他の奴らと切れるとき、なんとも思わなかったんだ』
『!』
『へ…っ、自分でも、ありゃ無ぇと思うわ今は
相手が泣いて縋ろうと罵ろうと、なんも感じなかったからな』
『……』
『確かに、都合がよかったことは認める
恋愛感情がなくても、セックスはできる、ってこともだ
だけどな、今ぁもうそんなんじゃ満足できねぇ』
泣き止んだヒナコに続けた言葉は、狡い計算が働いた上でのもの。
ただし、そこに嘘は決してなかった。
心の通った相手と深く繋がる充足や喜びを知ってしまっては、俺はもう元には戻れなかったのだ。
今までしていた、ガス抜きや気晴らしとしてだけのセックスだとか、相手の嗜好に従うだだったものが、なんとも味気なく感じられた。
でも何故それをヒナコに言ったのか。
その理由は、それが真実だからだというだけではなかった。
『へへ…参ったわ、マジで
お前に教えられたんだぞ、所詮遊びは、アソビでしかない、ってな
色んなヤツの相手したが、自分から惚れてモノにしたのはお前だけだ』
俺はわかっていたのだ。
そう言えば、ヒナコが安心すると。
ヒナコが自分を、俺にとっての特別だと信じて、前にも増して俺を求めるようになってくると。
ヒナコにとっての俺が、今までよりももっと大きな存在になると。
俺はヒナコの不安に乗じて、ヒナコを俺に繋ぎとめる枷をつけたのだ。
『……私…うぬぼれてもいいのかな…』
『あぁ、思う存分自惚れろ
この俺サマに選ばれたんだからな』
『特別だって…思っていいの?』
未だに不安な瞳のヒナコに、わざと余裕があるような笑みを見せたら、またきつく抱きついてきた。
背中をなでる俺の耳に、小さな声が聞こえる。
『じゃぁ教えて……
私…どれくらい特別?
こんなの、全然私らしくないもん
もうこんなのやだ』
『………お前もたねぇぞ?』
『いいよ……それでもいい
そしたら絶対忘れないもん
私の中に、みんな刻みつけておける』
大胆な告白の後、ヒナコは噛み付くように唇に触れてきた。
拙い舌を絡めとり、主導権を奪いながら、胸の中で深く深くほくそ笑んだ。
この言葉をヒナコの口から言わせたことに、ある種の達成感さえ湧いた。
これでいい。
ヒナコはもう、どこにも行かない。
自分の中に、こんなにも暗い感情があるとは思わなかった。
顔さえも分からぬ誰かを妬んで、今腕の中にいる存在に執着して。
何だってできる。
どんなに卑怯でも、姑息でも狡猾でも、ヒナコを捕まえておくためならどんな事でもしようとさえ思う。
だってそれはみんな、ヒナコが俺に教えた事なのだ。
心の底から誰かを想うこと。
その誰かの気持ちを手に入れたいと想うこと。
その誰かの肌を知りたいと思うこと。
心のままにその身体を愛したいと思うこと。
その誰かをずっと……放したくないと思うこと。
たくさんのことを願うのは、そうせずにはいられない残酷な現実があるからだ。
人の心は変わっていくし、どんなに努力しても、人と人の間には埋まらない隔たりがある。
想う相手には今に至るまでの過去だって、未来だってある。
過去は変えられないし、互いが今の気持ちのまま、未来もずっと一緒にいる保証はない。
だから。
だから、好きな相手とは肌を合わせたくなるのかもしれない。
互いの不安を慰めて、安心させる方法を、他に知らないから。
ほんの小さな部分でひととき繋がることで、消えないネガティブなものを、忘れたくて。
そうして心を通わせたり、身体を繋いだりして、お互いに確かめあいながら、傍にいる時間を永らえていくしかないのだ、きっと。
「……っ、は、ぁ…」
情けないことに、身体を支える力もない。
悪いとわかっていながらも、重力のままにヒナコにのしかかる。
醒めてみればなんとも子供っぽい、がっついたことをしたもんだ。
「…っってぇ……」
体勢を変えようとして、早速気付く腰の痛み。
実は最後の方ではもう相当キていたのだ。
それにも関わらずあの攻めよう。
やっぱり、溺れているのは俺の方かもしれない。
顔を埋めたのは胸のちょうど谷間。
疲労は積もりに積もっているのに、気が立っているのか、眠気がない。
手持ち無沙汰で、傾けた視界に映るそれをなんとなく手におさめる。
適度な張りと密度、重み。
ツンとした可愛い形と、吸い付くような質感を楽しんで、ふにふに弄ぶ。
届いてきた心音の音源は、押し付けている右耳の、更に奥。
こんな風に誰かの鼓動を聞いたことは多分ない。
そうしているうちに、左胸の上部に白くにごったものが張り付いているのに気がついた。
拭いそびれた精液だろう。
さっき下腹部に放ったものはそう多くなかったのに、勢いだけはよかったらしい。
肌を飾る……いや、汚しているそれを、ふき取る代わりに舐めとった。
「う゛ぇ」
思わず奇声を上げてしまう。
落ち着いたら口直しをしなければ。
熱いコーヒーを淹れて、どうせ腹も減ってるだろうから何か食うものも用意するか。
そろそろ買い置きもなくなってきたが、何が残ってたろう。
タマゴが二つ三つ、ベーコンかソーセージがあったような……。
「う、ん……っ」
不意に、下敷きになっているヒナコが震えた。
視線を上げると、確かに目は開いている。
どうやら一度失神して、意識が戻ってきたらしい。
声を掛ける前に、背中を小さな手のひらが這った。
そのままその手は上へ向かう。
片方は肩で止まり、もう片方は後頭部の髪をくしゃっと握って。
引っ張られる髪に、更に引き上げられた視線が交わる。
その瞳に、何故だかかける言葉を見失ってしまった。
ここまでやっといて「大丈夫か」もないし、その他に何を言っても、今はどれも間抜けで見当違いな気がしたのだ。
それまでの会話だって、そうとう深刻だったし。
この雰囲気に丁度いいのは何かわからなくて、俺は少しだけ途方に暮れる。
そうしている間に、ヒナコの瞳には意識が宿る。
快楽の果てに散っていたそれが、また形になるのがわかる。
蕩けたようになっていた目が焦点を合わせ、ぷくりと赤い唇が開いて……。
「………エッチ、この」
「………………あ?」
「手、いつまでやってんのよ」
あっけにとられる。
苦情の中身は、どうやら俺が揉んでいた左胸のことらしい。
この程度でスケベだ何だって騒いでたら、さっきまでのことは一体どうなんだ?
エッチどころの話じゃねぇと思うけど…てか開口一番それか?
「ぶっ…くくく……っ」
「…笑い事じゃないんだけどっ」
「ぶはっ、はは、あははは…!」
ほらな、一発で突破口こじ開けるだろ?
いい女なんだって、マジで。
「へ……っ、お前ねぇ、」
「だって、目が覚めたら勝手にもみもみだもん
もう、ほんっとに……」
「あぁ? ったりめーだろ
男のロマンって言やぁお前、惚れた女の胸に顔埋めて夢ん中、だろが」
「ふぅん……あたし、惚れた女?」
「他に誰がいる」
「…えへ」
ヒナコの一言のおかげで、俺は自分の示すべき態度を知る。
そうしながらも様子を見ていたが、照れた表情からは、その前までの思いつめたものが見えない。
胸のうちで安堵しながら、タイミングを計る。
あの話題を終わりにするなら、このまま茶を濁すんじゃだめだ。
大事なことは、きちんと言っておかないと。
「…復活したな?」
「…うん、もう平気」
「『お注射』が効いたなぁ?」
「バカ、もお」
「ヘっ……おーおー元気だねぇ」
「元気なわけないでしょ、動けないよ」
「お、すまん 今どくわ……ぃっ」
「…何、どうしたの?」
「こ、腰……っくそ」
「ちょ、だいじょ…〜〜〜っ」
…だってのに、こんなところで伏兵の襲撃。
横に転がって悶絶する俺を心配し、身を起こそうとしたヒナコだが、俺と同じように腰を抑えてベッドに逆戻り。
何だこれ、オイ。
「…ぷっ」
「……くくっ」
「はは、あはははは…っぃいて、っ」
「へへ、えへへへへ…あいたたっ、お腹いた……
…ぁああ腰に響く……っくくっ、ぶふふ……っ」
情けないような、いまひとつキマらないような気持ちだが、それもいいような気がした。
そういうのが、「俺ららしさ」なのかもしれないし。
第一、悪い気は全然しない。
だってヒナコが笑ってるから。
「は、あは……おいヒナ」
「ん?」
「いつでも笑ってろ、今みたいによ
寂しいとか不安だとか、そういうときは遠慮しなくていいから」
「……ん
じゃあさ……しのぶちゃんに、ひとつお願いしていい?」
「あ? 何だ?」
「……色んなこと、いっぱい話して
何でもいいの、つまんないことでも、小さなことでも」
「…ああ」
「昔の思い出とか、好きなもの嫌いなもの……ほんと、何だっていいから」
「わかった、お前もな」
「……うん」
それでいいのかもしれないと、ヒナコを見つめながら思った。
誰かを想えば、様々な気持ちが生まれる。
不安や嫉妬は、愛情と裏表。
相手を想う限りは消えてくれない。
一時鳴りを潜めても、何かのきっかけで顔を出す。
それでも、いくつもの複雑な気持ちを持て余し、弄ばれながらも、俺らは心を近づけあうのをやめない。
そうしないでは、いられない。
ならその間は、多分俺らの繋いだ手は、誰かが切ろうとしたって切れやしないって事なのだろう。
隣で寝転んでいる、ヒナコの笑顔が眩しかった。
こうして笑ってくれるだけで、何でもうまく行きそうな気がしてきたのだ。
その上俺の気分だけじゃなくて、周りの空気までもぱっと明るくなった気もして。
いつからか、ずっと思っていた。
お天道さんみてぇだって。
それもぎらぎら熱いようなのじゃなくて、ほっこりした、ちょうど良くぬくいやつ。
起きぬけには眩しすぎるけど、慣れたら実にちょうどいい、日だまりみたいなあたたかさ。
「余計な心配はいらねぇ
ただ俺のことだけ見て、信じてろ
お前が見ててくれるってことは、俺ぁおまえのもんってことだから
……わかったな?」
手を伸ばして指を握る。
きゅうと、細い指が握りかえしてくる。
さっきまでより少し大人びた顔で、もういちどヒナコは笑みを作った。
「………はい」
俺が一番好きな、一番の宝物だと思ってる、日なたみたいな笑みを。
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