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第87話 兄?
俺が風呂場にノミ取りシャンプーを持って行ってから、風呂場がにわかに騒がしくなった。
「ふぎゃあおぅん! ふぎぃいいいっつ!!!」
「きゃぁー! ネコちゃん! オトナシクしてぇえええ〜〜〜っつ!!!」
仔猫は初めてのシャンプーが嫌いだと、大暴れ&大騒ぎ。
バシャバシャと水が派手に繁吹いてる音が、リビングにまで聞えてら。
仔猫とアオイの騒ぎっぷりからして、風呂場がノミ取りシャンプーで凄いコトになっているのが想像出来る。
あーあ。
アトで掃除するコッチの身にもなってくれ。
ウンザリする俺。
俺はアオイと毛玉猫が風呂から出て来るのを、湿ったジーンズに上半身裸ってゆー、海から戻って来たまんまの格好で待っていた。
スグには出てきそうもナイ様子に、TVを点けて缶ビールを立ち飲みしながら待つコトにした。
カシッ☆
ごくっ……
「く―――っつ!」
キンキンに冷えたビールの喉越しが気持ちイイ。
俺は飲み掛けのビール缶を、海で焼けて赤くなっていた腕や肩にピタピタと押し当てて、火照った肌をクールダウンさせた。
風呂場からは、まだ大騒ぎが続いてる。
にしても、アオイ……仔猫に引っ掻かれなきゃいいんだが……
……って心配していたら……
「んぎゃおぅ!」
「いったあ――――いっつ!!!」
仔猫が一際大きく鳴き、アオイの悲鳴が風呂場に響いた。
あっちゃー、予感的中。
まぁ、海で溺れかけてたンだから、水がキライだってーのも判らなくもナイが……
元々猫は本能的に水が嫌いで苦手なんだよ。
得体の知れないシャンプーをぶっ掛けられて、アワだらけにさせられたら……
そりゃ、死にもの狂いで抵抗するだろ。
ましてや、つい数時間前に飼い主になったばっかのアオイに、ちっちゃな毛玉の仔猫がご主人様だと認知出来やしないだろうし、仔猫だから引っ掻く『加減』ってーのも知らない。
俺は慌てて飲み掛けのビールをキッチンのカウンターに抛って、風呂場へと直行する。
「アオイ?」
「ふみぃ〜ん! ずがざぁあああ〜〜〜」
アオイは髪を振り乱して泣きべそを掻いていた。
ダレが『ずがざ』だァ。
アオイの言い様にムッとする。
アオイは胸元に引き寄せた左手を、右手で包み込むように庇って震えていた。
左の手首から手の甲にかけて、細い真っ赤な線が三本クッキリと刻まれ、血が滲んでいる。
毛玉猫はと言うと、アワだらけにされたショボイうぶ毛を必死に逆立て、洗い場の隅っこで背中を弓なりに丸めてのイッチョ前な威嚇のポーズ。
おおっつ!
なんつーか……このムダなテイコウ姿勢が可愛かったりして……
「痛いよぉ〜」
アオイは鼻をグズグズさせて、鼻水まで垂らしてる。
……美人が台無しだなこりゃ。
「チョッとガマンしてろ。毛玉が先だ」
「ええ?」
「毛玉、見てみろよ? 怖がってンの、判んない?」
「……」
俺はアオイを無視して、隅っこで「カァ―――ッツ!!!」なんて威嚇している毛玉の首根っこをヒョイと摘んで洗い場の真ん中辺りに引き戻した。
毛玉の首根っこをずっと押さえたまま、空いた片手でシャンプーのアワをマンベンなく塗り込めて、手早くシャワーで流して遣る。
シャンプーで昇天しちまったノミが数匹排水溝に流れて行った。
俺は毛玉の首根っこを摘んだまま、手首を返して毛玉のピンク色の腹を出させた。
ノミの敗残兵がいないかと、首やワキなんかを丁寧に監察中。
股にはちっこい『桃』ちゃんがあった。
お? コイツ♀じゃん。
将来は、きっと美猫になるぞぉ?
どーりで、俺のハートを掴んでくれるワケだ。
……なんて、自分で納得してしまった。
毛玉は怖い顔をして、くわっ! と口を裂いて鋭い牙を見せてはいるものの、小さな身体を硬直させて、俺にされるがままになっていた。
首根っこを掴まれているから、毛玉はテイコウ出来ないんだ。
アオイは痛む手を押さえて、俺が捕まえると急にオトナシクなった毛玉を不思議そうに眺めてる。
「お? いた」
「なに?」
「ノミ」
「うわ……」
ドン退きするアオイ。
毛玉の柔らかい皮膚に喰らい付いているソイツにシャンプーの原液を掛けてやった。
アオイが怪我してるって言ってた傷も、海で見た時は血が毛に付いてカチカチに固まっていたからナンとも言えなかったが、これなら擦り傷程度で大したコト無い。
毛玉を真剣に監察してる、俺って……
我ながら、チョッと退いちまった。
「アオイ?」
「なぁに?」
「猫に名前付けたのか?」
俺はタオルで毛玉を包んで、濡れた毛を拭き取って遣りながら訊いた。
「ん、とねぇ……? ……『クロちゃん』?」
「はぁ? ……ナンか、その……まんまじゃね?」
寝惚けていても、毛玉のコトを捜していたから、どんなにかイイ名前を考えているのかと思ったら、消え入りそうな声で、アオイはすまなそうにボソッと呟いた。
「……は? ダメ?」
「う〜ん、これからズット一緒なんだろ? なら、毛玉にはいい名前を考えて遣れよ?」
俺の言葉に、アオイがパッと顔を上げた。
「うん!『毛玉ちゃん』にしよう!」
「速っつ!!!」
『そりゃ、俺ンだ。パクるなよ』……って言いたかった。
アオイの即行決めに、俺は一抹の不安を抱き『毛玉』の将来をチョッとだけ心配してしまう。
俺の納得いかない顔を気にしてか、アオイはチョッと考え込んでいたが……
「じゃあ、フワフワしてるし、丸っこくなって寝てたから『マリ』ちゃん!」
「……」
俺は昔付き合っていた『真理』ってオンナを思い出してしまった。
「ほらよ?」
風呂場のドアを開けて、俺はマリを解放してやった。
マリはもンの凄げー勢いで廊下を駆け抜け、ドアが開いていたリビングに一目散に飛び込んで行った。
はっつ、速えぇえ〜〜〜っつ!!!
俺が機敏なマリの動きに見惚れていると……
「ねぇええ〜〜〜、まぁ〜だぁ〜?」
ずっとお預けを喰らっていたアオイが不満げに、俺の背中を呼び止める。
「ハイハイ、お次はアオイちゃんですかー?」
「うん!」
おー、嬉しそうなイイ返事。
マリに引っ掻かれ、またしても手が遣えなくなったアオイ。
俺に洗って貰うのって、そんなにイイのかよ?
俺、自分で身体洗っても、気持ちよくカンジルなんてコトねーぞ?
アオイの頭を洗って遣ろうとシャンプーを掴み、イキナリ頭に垂らしてワシャワシャしてやる。
「い、いやぁーん!」
シャンプーを掛けられたアオイは、突然暴れ出した。
慌てて俺の手からシャンプーを奪おうとする。
「ど? どうした?」
「いやぁあああ! コレ、マリちゃんのノミ取りシャンプーだぁ!」
「あ? ええっつ???」
海で日焼けして、赤くなった頬を膨らませたアオイの指摘に慌てる俺。
……そう言えば、ハーブ系のこの匂いも、さっきと同じだ。
しっかりと握ったシャンプーのラベルには、マリとよく似た月齢の仔猫の絵がリアルに描かれていたし。
「シャンプーだから、別にいいじゃん?」
猫用だし。
「良くないっつ!!!」
開き直る俺に、涙眼になったアオイが膨れっ面で反対した。
「はぁぅん!」
アオイは左手を庇ったまま、俺にボディータオルで洗われていた。
背中から前へとタオルが移ると、眼を閉じて甘い声を押し殺すアオイ。
「いっ……っろっぽい声出すなよ?」
俺までがつられて赤面してしまう。
「だっ、だぁあってぇえええ」
「手、沁みないように、シッカリ押さえていろよ?」
醜く傷痕が残っているアオイの白い肌を、俺はアワだらけのタオルでそっと撫で回す。
「あん、ううん」
アオイの甘ったるい声を聴いてると、ダンダン俺もヘンな気分になって来た。
「あ、コラ」
俺のソフトタッチに我慢出来なくなったアオイは、浴槽の縁にすとんと腰を落とす。
「だ、だってぇ、っふうン……ったぁ、立っていらんないよぉ」
そっつ、そんなに恥ずかしそうに……トロンとした眼で俺を見るなあああっつ!!!
相棒が反応し始めたじゃんかよ?
「あ? 司、乳首立ってるぅ〜〜〜」
「んあ? あ! こっつ、コラ! アオイ!」
「やーん!」
俺のスキを狙って、アワだらけのアオイが乳首に吸い付いて来た。
「ン、ナニすんだよっつ?」
ちゅ……ちゅぱ……
ワザと音を立てて、俺に聴かせているツモリかぁあ?
し、しかも、ナンだか気持ち良くってヘンな気分だ。
「えへへ……司の塩味ィ〜」
「っば、バカッツ! 海に入ったんだから、ったりめーだろよ?」
俺は恵理よりも遥かに上手なアオイの舌遣いに、真っ赤になって反論する。
「ふふ〜んっだ、気持ち良かったでしょお?」
「くっつ……」
挑発してるような自信たっぷりの視線で、アオイは俺を見上げて来る。
こンのぉおおお〜〜〜小悪魔ッツ!
マジで角と蝙蝠みたいな翼が背中にあるんじゃねーかと疑ってしまう。
だがな?
俺は両手が使えるんだぞっつ♪
俺はアオイの身体をスッポリと抱き締めて、アワだらけの両手で昨夜みたいにアオイの身体を撫で回した。
「やぁ〜ん、ああん」
アオイはマリに引っ掻かれた傷口を押さえていて、手が遣えないから俺の腕から逃げ出せない。
ヘンな声に、俺は理性を掻き乱される。
調子をコイた俺は、アワの付いた手でうっかりとアオイの肉壷に触れ、指を挿してしまった。
つい、空いた手でクリの皮を剥いて指先の微妙なタッチで転がすように触れてやる。
「痛ったぁあ〜〜〜いっつ!!!」
敏感な部分に、石鹸の刺激は強過ぎた。
「っあ、っああん! ちくちくするぅ〜! はっ、早く流してぇええ〜〜〜」
「お? あ、ああ」
凄く痛がっているアオイの表情に驚いた俺は、慌ててシャワーで流しながら、夢中になって指先を出し入れしてしまった。
加減もせずに。
「んあっ、やぁん! い、イクッツ! イッちゃうよぉお〜〜〜! お、お兄ちゃ―――ん!」
「え?」
……『お兄ちゃん』???
俺は上り詰めたアオイが口走った言葉が、妙に頭の片隅に引っ掛った。
――アオイは俺のコトを『お兄ちゃん』だと言ったコトも無ければ、兄として俺を見たコトも無い。
だとすると、アオイには兄が居る?
「ぁあああ――――ッツ!!!」
指を抜こうとしたトタン、アオイの中から温かい大量の液体が溢れ出た。
「ふうううん……」
ぐったりとしたアオイにシャワーを掛けて、全身をキレイに洗い流してやる。
「ホラ、しっかりしろよ?」
「ふえーん」
「甘えンな。冷蔵庫にジュースがある。飲んでいいからサッサと行け」
「うーん。判ったぁあ」
グズグズ言うアオイを、俺は風呂場から追い出した。
「……」
ふらつきながら出て行くアオイの後姿に、ジーンズの下で相棒がズキズキと疼いて、俺に訴えて来る。
そう怒るなって。
* *
明日から、アオイを冴子に預けるから、もう少し早く起きないと……
俺は消灯したまま部屋のベッドに潜り込ん……うん?
むにっ☆
「へ?」
その温かくて柔らかい感触を不思議に思った俺は、もう一度確かめるように弄った。
……あ?
このフワフワしたちっこい毛玉は、マリだ。
で……今のはアオイのおっぱいか?
俺は事故で触れたアオイの感触が残っている掌を、薄暗がりの中で無意識に見詰めていた。
恵理のよりも小振りの存在感が、ミョーに懐かしく思えた。
俺、恵理と別れてもうサミシクなっちゃってるのか?
まだ三日と経ってないってーのに。
……
つーか、オマエ等ドコで寝てンだよっつ?
「コラッツ!」
俺は掛け布団に潜り込んでいる、二匹の仔猫に怒鳴った。
「う〜〜〜ん???」
寝惚けた声がする。
俺が風呂に入っている間に、サッサと不法侵入して爆睡してたなっつ???
しかも、アオイはまたしても俺のTシャツをクローゼットから新しく出して、勝手にパジャマ代わりに着ているし。
「なんでココで寝てンだよっつ? アオイは恵理の部屋だって」
「や〜ん」
「ふみぃ〜〜〜ん」
いい加減な返事すんな。
しかも、毛玉までアオイの返事をマネしただけで、ちっとも起きやしねーし。
このままアオイを抱き上げて、恵理の部屋に強制送還してやろうかとも考えたが……ま、いいや。
どうせ移動させたって、アオイはきっと戻って来る。
無駄な努力に思えたし、たまには一緒に寝るのも……
……その……いいかな?
なんて弱気に思ってみたりする。
毛玉も一緒だし、今朝みたくは襲っては来ねーだろう。
それに俺、スゴク眠いし……
横になった俺の腕に、寝惚けたアオイが縋り付いて来た。
体温が異様に高くなっているから、眠っているのは間違いないんだ。
だけど、無意識に抱き付いて来るなんて……な?
――『お兄ちゃん』
アオイのセリフが俺の頭の中でリフレインしていた。