警告
この作品は<R-18>です。
18歳未満の方は
移動してください。
俺は恵理のマンションを飛び出すと、アテも無くフィットを転がしていた。
鍵が開いていたコウ(松永)のマンションにマンマト潜り込み、そこで俺は本格的に動き出した成和会の事実を聞いてしまう。
しかも、巻き添えはゴメンだと、悪友のコウからも遠ざけられてしまった。
俺は仕方なくコウのマンションを後にした。
フィットを停めていた駐車場で、俺はヤバそうな連中と遭遇する……
第28部 恐怖・・・2
俺はイキを殺し、深く屈み込んで身を潜めた。
駐車してある車の陰を伝ってそっとフィットにニジリ寄る――
動悸が激しくなり、ソコに居る連中に聞えやしないかとハラハラした。
……頼むッツ!!! 俺を見付けるなぁあああ!!!
神様、仏様あああ……
俺は思い付いた神様の名前や、ナントカ大魔神って、聞いたコトのあるアリガタそうな名前を心の中で羅列し、必死に祈りマクリ、拝み倒した。
神頼みだろーが、ナンだろーがこの際ナンでもヤッテヤルッツ!!!
俺の緊張が百二十パーにハネ上がる。
……フィットに辿り着き、そっとケツに貼り付いた。
ヨッシャ!
ココまではダイジョウブ。そして片手で小さくガッツポーズをした。
連中はまだ俺には気付いてイナイ。
あとスコシィイ……
俺は震える指先で、ポケットにあるキーを弄った。
フィットのキーは、ティファニーとか言うブランドの※キーリングに付けてあった。そのキーリングにも、同じ素材で出来たプレートタグが付いている。
金属に、金属。フツウに持っていても音が出る。
俺は、恵理が付けていたこのキーホルダーが音を立てないよう、細心の注意をハラって取り出した。
「……」
緊張してコメカミから汗が流れる。
心臓が先にイッチャいそうだぁああ〜〜〜
――俺はいつでもダッシュでフィットに乗り込めるよう、心のジュンビをしながら『その時』を待ち、発見されるかも知れない恐怖に堪えた……
……そして、待ち望んでいた『その時』が遣って来た。
緊張から来るストレスは、俺にとって、何時間も待っていたヨウナ錯覚を起こさせる。
遠くから車のヘッドライトが近付いて来た。
生垣で鳴いていた虫が、急にピタリと鳴き止んだ。
「……」
松永の居るマンションの近辺は、何棟もの同じマンションが立ち並んでいる、イワユル集合型マンションだ。
土地を共有している為、駐車場はかなり広いスペースが取ってある。
フィットの前で立っていた男達は、何箇所もあるマンションの駐車場入り口からその車を誘導すべく、フィットから離れた。
チャンスッツ!!!
連中が俺に気付いて駆け戻って来ても、ギリギリで逃げ出せるだけの距離とタイミングを見計らうと、脱兎のゴトク地面を蹴って伸び上がり、ドアに縋った。
素早くリモートキーでドアロックを解除する。
ガチャ☆
右側のゴツイホスト崩れが、ドアのロック解除音を聞きつけて足を止め、振り返った。
俺は躊躇せずにエンジンを起動させ、素早くサイドブレーキをハズした。
動き出したフィットに気付き、慌てて二人の男が引き返して来る!
遅せぇ〜よッツ!
車にさえ乗ればコッチのモンだ!
さっきのビビリはドコへやら……俺はハハッツと不敵に笑ってヨユウをカマシた。
俺は左足のクラッチを抑え気味にすると、アクセルを力一杯踏み込んだ。
フィットはフロントを一瞬だけ軽く下げ、送り込まれて来たパワーをタメて開放する。
タコメータのレベルが跳ね上がり、イッタン下がったフロントが浮いた。
「待てや! コラァ!」
連中がドスを効かせて怒鳴った。
ジョウダンじゃナイ。ダレが待つんだよ?
俺は連中とは反対方向にハンドルを切った。
フィットが乱暴に向きを変えた途端、ルームミラーが後続車のハイビームをモロに映した。
連中が呼び出したヤツの車だ。
「あっ!」
眼が眩む。
それでも俺は車道に飛び出し、アクセルを踏んで逃走した。
俺の一瞬のスキをツイて、ハイビームの車がフィットとの距離を縮めて来る。
「くっそおおお!!!」
俺もライトをハイに切り替え、視界を確保するとスピードを上げた。
片側一車線の深夜の車道には、対向車も他の後続車も見当たらない。
俺達の貸切状態だった。
二台のエンジン音が、松永の住むマンションを瞬く間に後にした――
暫らくの間、オイカケッコが続いた。
追って来るヤツは、俺を追い越して停める様子も無ければ、アキラメテ見送ってくれるコトも無さそうな気配。
ずっとケツに付いて来る。
キショイじゃねーかよ。
どーゆーツモリだ?
俺は迷った。
向かっている方向は、高速へと続く、ユルイカーブが連続してる山道だ。まだ当分の間直線が続いている。
逆方向の市内へ向かえば入り組んだ宅地道路がイッパイあるし、逃走にはモッテコイだ。
追われているフィットで、やっぱ直線はマズイだろ?
つか、高速行けば高速機動隊の白バイが多分イル。
あああ〜〜〜ッツ!!!
片手で頭をクシャクシャと掻いた。
俺はドッチにも捕まりたくはねェ〜〜〜!!!
追って来るコイツが一体ナニを考えてンだか知らねーが、ココは一刻でも早く消えた方がイイ。
ハンドルを素早く左右に振り、俺はフィットを蛇行させた。
俺がシカケて来たと思ってか、ソイツのブレーキランプが灯って車間距離が開く。
「よっつ!」
カウンタをカマシてフィットのケツが右に振れた瞬間、俺はハンドルを逆に切ってリアスライドさせ、直線ドリフトに持ち込んだ。
恵理のフィットが悲鳴を上げる。
フロント左がスッとインに沈み込み、車体がブレて微妙にローリングしながらもフィットは方向転換した。
ヤツと向き合った状態の俺は、ギリギリのトコロで追って来たヤツの車を遣り過ごす。
「!」
擦れ違いザマ……一瞬の間だったが、ドライバーと眼が合った。
俺にカワサレタってぇのに、俺よりも少しばかり年上の男が、余裕をコイテ口元を緩めたのが見えた。
……俺よりもイケメン???
バカにしてンのか? それとも参りましたってか?
前後のライト形状と、ライトに浮かんだオオヨソの車体シルエットから推測して、黒いレクサスLS600?
とてもじゃねーけど、お互いの車はバトル仕様じゃナイ。
ナンだよ。驚かしやがってぇ……
コレなら道幅のナイ場所を走れば振り切れる。
俺はそのレクサスを甘く見下していた。
もう一台、フィットを駐車場で見付けた奴等の車があったのを、俺はスッカリ忘れてたんだ……
その拳が深々と俺のミゾオチにめり込んだ。
苦い胃液がこみ上げて、堪らずにモドした。
「ぐはぁあっ! ……う、う……」
俺はミゾオチを両手で抱えるようにガードしながら、大きく身体を曲げてヨロメイタ。
涙眼になりながらウシロへ後退る。
「オラオラァ! 退いてンじゃねーよ!」
「あうっ!」
後から両肩を掴まれ、無理矢理引き起こされた。
バカ力にモノを言わせて、両腕をウシロで逆手にネジリ上げられた。
締め上げられた両の肩関節が、ミシミシと軋んだ。
激痛に顎が仰け反る。
「シッカリしろよ。キゼツするにはまだ早えーぞ?」
俺にパンチをメリコマセたヤツが、嬉しそうに近付き、今度は顔面を何度も殴った。
チクショウ! 人間サンドバッグかよ?
俺は何度もアスファルトに叩き付けられ、モンドリウッた。
体中、痛くないトコロがナイ。
「車見捨てて逃げてりゃ助かったかもしんねーのにな? バカかテメェはよ?」
ソイツの言った通りだった。
俺は進路方向をコイツラ(の車)に塞がれ、こうしてアッケなく捕まっていたんだ。
「……逃げられねー」
ハンドルを握った俺の全身が戦慄いた。
『アタシのフィット……』
恵理の言葉が脳裏を過る。
家一軒が買えるBMWより、恵理はマイカーとしてフィットを選んでいた。
恵理のフィットを見捨てては……逃げ出せなかった。
コイツラにフィットを潰されるくらいなら……
俺は諦める方を選んでいたんだ。
「そのくらいで止めておけ」
凄い力で胸倉を掴まれ、俺は後から遣って来たレクサスの男に引き起こされた。
このクソ暑い夜中でも、薄い色の高そうなブランドスーツを着たまんまだ。
一体、コイツはダレなんだよ?
「うう……」
俺は殴られた痛みを堪え、顔を顰めながらもソイツと視線を合わせた。
「……ほう」
俺の視線を受けたソイツが微かに笑った――
「いい面構えだな?」
「いえ、視力がチョット悪いモンで……」
俺はへへッと笑って軽口を叩き、強がって見せた。
あああ〜〜〜俺のバカッツ!!! ナニこんな時にコイてンだよおおお!!!
機嫌ソコネたら殺されるゾ!
ソイツは俺のコトバに、鼻でフンと笑った。
身長は俺よりもスコシ高い。百八十五前後。均整の取れた身体つきだし、俺がニランダ通り、ホストでもヤッテいそうな甘い顔立ちのイケメンだった。
つか、ホンモノのホスト?
ただ、ソイツには、右顎から首を伝ってその下へ……シャツの襟に隠れてその先は見えなかったが、大きな古い刃物傷が続いていた。
……ホスト……にしては致命的だな。
やっぱし……ヤクザさんですかぁあ???
「手間は取らせない。来て貰おうか」
「う……」
たった今、俺に殴り掛かって罵倒していたヤツラより、ソイツのフツーに話した言葉の方が、もっと俺を震え上がらせた。
※ティファニーのキーリング:キーチャームとも。ボディピアスの形状をしたティファニーのオリジナル。ハート、オーバル、ラウンドの三タイプがあり、プレートタグには、『PLEASE RETURN TO TIFFANY』(見付けた方はティファニーまで届けて)との文字が刻まれている。文中で使用したのはラウンドタイプのもの。