警告
この作品は<R-18>です。
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案の定、恵理は俺の作った激辛カレーには、マッタク手を付けなかった。
考えゴトをしているのか、ずっと俯いたままで俺との視線を合わせねー。
明るい照明の下で改めて見た恵理の顔は、生気を失くして青白く見えた。
元々食が細い恵理だが、ドウシタモノカ……
ドレッシングも掛けずに生野菜のサラダをパリパリ食っている。
アオムシじゃねーんだゾ? 旨いのか?
俺はそんな恵理を横目で窺いながらも、大汗を掻いて激辛カレーを貪っていた。
第23話 罪悪感・・・
「……ごちそうさま」
サラダだけ食べると、恵理は弱々しく言って立ち上がった。
フラフラと上体を揺らし、身体を重く引き摺るようにして部屋に向かう。
「……」
ぱり……
最期に残していたサラダに食い付きながら、俺は恵理が消えて行った部屋のドアを見詰めた。
恵理の暗い表情が頭に焼き付いて離れない。
今、恵理は自分のコトで精一杯。俺の相談ゴトが介入出来る余地なんてなさそうだ。
どうしようか……
俺は迷った。
『フィットを俺にくださいよ』
玄関先で恵理に口走ったコトバ……恵理は俺の言ったコトなんて聴ける余裕はなかったハズだ。
松永達から、俺は自分が成和会に狙われているコトを知らされた。
『奴等は白いフィットのドライバーを捜してる』――
コトの起こりは恵理の美貌だ。
コッチは奴等を覚えてねーが、向こうにはトックに俺達の……つか、恵理のメンが割れている。
しかも俺は奴等の新型GT-Rを潰した。
二人共、見付かれば……ヤバイ。
俺はオヤジのトコロから戻って来る時でさえ、内心ビクって怯えていた。
恵理が帰ってくる間、ずっと独りで居るのが怖かったし、モチロン恵理が無事なのも祈っていた。
警察に……とも考えたが、現時点では俺が奴等に対しての加害者だ。
下手すりゃ被害者の連中が成和会とも知らずに、俺を引渡し兼ねねー。
しかも俺は交通違反の常習犯だった。
前科者の俺の言うコトなんか……ダレが聴くかよ……?
「……マジかよぉ」
俺はテーブルに座ったまま、両手で頭を抱えた。
恵理が無事に戻って来て安心したアト、俺は言い様のナイ焦燥感に襲われた。
次々とこみ上げて来る不安と恐怖に震えが奔る。
さっきの恵理の様子じゃねーが、追詰められた心境に堪らなくなって、ナンだか泣き出したくなる。
正直、今すぐにでもココを飛び出して恵理のフィットを廃車処分にし、俺がフィットのドライバーだったって事実を隠蔽して消去させたい……
だけど、フィットは恵理の車だ。
『アタシのフィットに傷を付けたら承知しないんだからぁ!』
GT-Rの連中を振り切るタメ、無茶をした俺に向かって叫んだ恵理のセリフが脳裏に過る。
どうすればイイんだよ……
「……」
軽く溜め息を吐くと、俺は後片付けのために立ち上がった。
カチャ、カチャ……
食器をトレーの上に積み上げる。
……俺だって命は惜しいさ。
死刑執行が確定している囚人になった気分だった。
しかも執行日は未定で、それがいつどういったカタチで執行されるのか判らない。
※恩赦ナシの無期限……ときた。
気が重い……
俺はノロノロと食乾機(食器洗浄乾燥機)に食器をセットすると、憂鬱になりながらも自室へと引っ込んだ。
暗闇の中、俺は何人もの男達に囲まれていた。
俺は恐怖で呼吸を乱し、カッと見開いた眼がこの場からの出口を求めて、忙しく宙を泳いだ。
「押さえてろ!」
怯える俺を嘲笑いながら、男はチェーンソーのリコイルスタータを引いた。
二、三度乱暴にスタータを引くと、チェーンソーが不気味な音を立てて唸リ出す。
周囲には、ガソリンエンジンの異臭が充満した。
俺は跪き、上体を軽く屈める格好で両腕を左右に拡げさせられていた。
男二人に腕を片一方ずつシッカリと押え付けられている。
呼吸が更に激しく乱れた。
「う……うわぁ……止めろぉ!」
俺は気が狂ったように首を振り、あらん限りの力で抵抗して暴れ出す。
「アッツ!」
後ろから、乱暴に前髪を鷲掴みされ、強制的に顔を上げさせられた。
恐怖で涙が止まらない。
「へへ……諦めな」
見苦しく暴れる俺に、腕を押さえている男達が冷たく言い放つ。
「イヤだ!」
俺の目の前で、男はチェーンソーを使って木製の椅子を意図も簡単に分断した。
ソイツでどうしようって……?
決まってる!
俺もその椅子と同じ運命だ!!!
「はあぁ……」
タスケテ……!
命乞いしたいが、声にならない。
恐怖で全身が戦慄いた。
脂っぽいイヤな汗が、ジットリと俺の背筋を伝う。
「先ずは右腕からだ……気を失わないようにブッタ斬って遣らぁ。よ〜く見てろよ?」
「う……うわ……」
男達の含み笑いが、俺の恐怖心を否応無しに煽った。
チェーンソーの刃が、ゆっくりと俺の方に向けられる。
高速回転する外刃がピタリと二の腕に宛がわれ、青白く光る刃先が俺の身体に潜り込んだ。
俺の悲鳴がチェーンソーのエンジン音に掻き消される――
「はっ?」
俺は恐怖と息苦しさのあまり眼が覚めた。
ガクガクと震えながらも右手を持ち上げる――
「……」
あるべきハズの俺の腕は、ちゃんとソコにあった。
生きてる……
夢だったんだ……ヨカッタァ。
俺は額に吹き出した汗を片手で拭うと、ほっと胸を撫で下ろした。
「う……ん?」
だけどまだナンか息苦しい……
眠ってから、どのぐらい時間が経ったんだろう?
何かが俺の胸の上に乗っているみたいに重……ああ?
「んぁあ? ……か、課長?」
……恵理?
恵理は俺の胸の上に覆い被さるようにして圧し掛かっていた。
通りで息苦しかったハズだ。
俺が眠っている間に風呂に入っていたのか、シットリと潤った柔肌にバスタオルを巻き付けているだけの姿だった。
「つ……かさぁ……」
眼が覚めた俺に気付いた恵理は、今にも泣き出しそうな顔をして俺を見上げて来た。
艶かしいピンク色の唇と、細い顎のライン。そしてその下に続くバスタオルから大きく盛り上がった胸が、クッキリと谷間を覗かせていた。
俺はゴクリとナマツバを飲み込んだ。
「な、な、ナンで……」
そう言ってから、俺はハタと思い出した。
探るような俺の視線が、恵理の胸元で留まった。
薄暗い室内でも、恵理が俺に見せていた左胸のアザがハッキリと判った。
肩口にも幾つか付いている。
ドキン……
俺の心臓が乱されて音を立てた。
それが乱暴されて受けたアザだというコトを、俺は簡単に見抜いていた。
恵理、もしかして誰かに……許したのか?
可能性は十分にある。
恵理だってコドモじゃない。
ホントウは、恵理の戻って来た時点の様子から、俺はオボロゲに予測していたんだ。
「あ? ……ああ、ゴメン。俺、課長のハナシ聴いてあげてませんでしたよね?」
俺は戸惑いながらも恵理の腕を軽く掴んで起き上がる。
=「……やだ……」
俺に促されて起き上がった恵理は、聴き取りにくいホドの小さい声で囁いた。
「……え?」
俺は躊躇いながらも聴き返す。
「う……ぁたし……やっぱり、司とじゃなきゃヤだ」
「!」
イキナリ恵理に襲われた。
ガバッと両腕で縋り付くように首を抱き締められる。
「あぐううっつ……」
気道を強く圧迫するように押え付けられて、ヘンな声が出た。
拳法三段、空手初段……有段者の恵理の腕は見掛けよりも強力だ。
本人が意識して手加減してても、それでも強い。
「……司とじゃなきゃダメ……やっぱりダメなの」
甘える恵理の声に、俺の思考回路がショートする。
何のコト???
突然の状況を把握出来ずに、俺は焦った。
どうやら恵理は誰かに(多分、携帯のカレシ)許そうとしたが……邪念(俺かよ?)のせいで、その第一線を踏み切れなかったみたいだ。
「課長……?」
「ヤダ、『恵理』って……呼んでよ?」
恵理の瞳からポロポロと涙が毀れる。
その涙に、俺は罪悪感を抱いてしまった。
「……出来ません」
「司ぁあ」
甘えた恵理の声が、俺をクスグル。
俺は首に縋り付いた細い腕をゆっくりと解いた。
「どうして?」
「……ムリです」
俺は恵理の視線から逃げて眼を逸らせた。
そんなコト、今更俺に言わせるのか?
だけど……
「うんっ……」
軽く首を傾げて恵理の柔らかな唇を奪った。
恵理は俺のキスに浅く、深く応えながら、差し出した俺の舌先に戸惑いながらも自分の舌を絡めてくる。
『司とがイイ』って言ってくれた恵理の言葉に、俺は大袈裟だが感激していた。
初めて出逢った時、これほど憎たらしい馬鹿女は見たコトが無いと思っていた……
なのに、今はゼンゼン違っている。
愛おしくさえ思えてくるのは、もう、俺には未来が見えていないから……なのか?
※恩赦:確定した刑の全部、または一部を消滅させ、或いは公訴権を消滅させること。内閣が決定し、天皇の認証により行う。大赦・特赦・減刑と刑の執行の免除および復権の五種がある。(三省堂:大辞林 第二版)
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