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どうやら俺は恵理を怒らせてしまったみたいだ。
恵理はカンペキにお嬢様に変身して、俺よりも先に出掛けて行った。しかも車がBMW???
今まで、恵理は俺に気を遣って庶民的レベルでふるまっていたのか……?
でも、恵理の庶民レベルは、俺から見ればハイレベル。もっとランクのバーを落としてくれないとまだまだ付いて行けねーよ。
念願叶って、俺は修理工場のオヤジを訪ねて行った。
偶然そこで居合わせた悪友達から、俺が成和会に狙われていると知らされる。
成和会はこの辺りでは有名な暴力団。マジで命ナイ……
ドウスル俺?
第21話 味方?
恵理は始終俺を無視していやがった。
 
BMWのオイルとエレメントの交換に寄っただけだった。
 
呆気にとられていた俺を後目しりめに、恵理はサッソウと工場から消えて行った。
 
俺は、そんな恵理のBMWをボンヤリとしたまま見送った。
 
恵理のコトをスッカリ忘れていたらしい松永と向井は、彼女が去った後、カワイイとか、脚がキレイだとか、胸が大きいとかイロイロ……つか、殆んどがエロ談内容で盛り上がっていた。

 
一人俺を除いては――


「司ぁ、チョイと来いやぁ」

「……?」
 
俺は片付けが終わったオヤジから、奥の事務所へと呼ばれていた。

 
四畳半ホドの狭い事務所内には、古びたスチール製のボロ机にそれとセットの錆び掛けの椅子が二組、向かい合わせになって中央に置かれていた。
 
何でも昭和からずっとそこに置いた、価値のある年代物だとオヤジはヌカシやがった。
 
そのボロ机のセットにどれだけの価値があるのかどうかは知らねーが……
 
その一つに、オヤジはどっかと腰を下ろした。
 
スチール製の小さな椅子がギギイッ!と音を立てて軋んだ。

「どしたい? ず〜っとあの嬢ちゃんを見とったが……知っとんのか?」
 
オヤジは意味ありげな上目遣いで俺の様子を窺った。

「別に……」
 
俺は口を尖らせて否定する。
 
オヤジと視線が合わせられねー。

「嘘コケ!」
 
オヤジは俺の頭を掠めるようにして乱暴に叩いた。

「って〜〜〜な! ナニすんだよ?」

「ちゃ〜んとテメェのツラに書いてんゾ?」
 
ムッとなる俺。

「ナニを?」

「知ってます……ってな? ツイデにあの娘とデキてますってよぉ?」

「なっ……」
 
俺は頬を赤らめてオヤジに向き直った。
 
……ナンで判るんだよ?

「ほぉ〜〜〜? 大当たりかぁ?」
 
かっつ……カマ掛たのか?

「っせーな!」

「そうじゃろう?」

「つか、オヤジうぜ〜し」
 
俺はオヤジの口車にマンマと嵌められたみたいだ。
 
気が付いたら、口を尖らせ、ムキになって否定している俺がいた。

「この馬鹿タレがぁ……くくく……ぶわ〜〜〜っはっはっは……」
 
オヤジはガマンしていたのか、一気に吹き出して大笑いし始めた。

「ん、ナニがおかしいんだよ!」
 
俺は鼻白んで噛み付いた。

「いやぁ〜〜〜、まだまだケツの青いガキだと思うとったが……そーか、そーか」
 
オヤジは独りで納得して(ナニを納得したんだ?)うんうんと何度もうなずいた。
 
ダレがケツが青いって? いつまでもガキじゃねーんだけど?

「あーあー、勝手に笑えよ……」
 
俺は腐った。
 
オヤジは俺のコトバにフンと鼻を鳴らすと、引き出しからサラダ煎餅の個装パックを取り出して、「ほれ」と俺に勧めた。

「要らねーって」
 
俺に無下むげにアシラわれ、オヤジはヤレヤレと肩を落とした。
 
そしてガサガサと煎餅のパックを開けて、勝手に食い始める。

「お前ぇ、あの嬢ちゃんがダレの娘か知っとるんか?」
 
ばりばり……
 
うるせーなぁ。ン、なモン喰ってる場合かよ?
 
俺はオヤジのこういうデリカシーの欠片もナイ所が嫌いだ。
 
人がマジに……

「……知ってるよ」
 
ポツリと答えた。
 
オヤジは「ほう」と微かに反応した。

「……」
 
ばりばり……
 
オヤジは椅子から立ち上がると、部屋の隅に置かれている小型の冷蔵庫から、缶ビールを取り出していた。
 
プルタブを開けると、喉仏を動かしながら一気にぐびぐびとあおった。
 
ごく……
 
思わず俺の喉が鳴る。
 
昼間っからビールかよ……客は居ないケド、仕事中じゃないのか?

「……」
 
俺は、オヤジからの次のコトバが予想出来て、胸が締め付けられたような気がした。
 
多分、次の言葉はこうなんだ。

『止めておけ』……って。
 
判ってるよ。
 
恵理とは金目当てで付き合っているワケじゃない。
 
家賃こそ無いが、生活費はお互いに割りカン。
 
以前はヒモの生活をしてたコトあったけど、今の俺はソコマデ最低なヤツじゃないよ。
 
俺だって身の程くらいわきまえているツモリだ。
 
だけど……


「っぷはぁ……司よぉ……」
 
一気にビールを飲み干したオヤジは、口元を片腕で無造作に拭うと、俺の方へと向き直った。

「なに?」
 
俺は、そのコトバに身構えた。

 
一瞬の間が開いた。
 
オヤジは油ヤケしたイカツイ右のこぶしを俺に見せると、ぐっと親指を立てて見せた。
 
そして、またしても不器用なウインク……
 
キモイから、それ、止めろ。

「まぁ……フラれんようにガンバレや!」
 
ニッツ! と口元を歪める。

「☆んな……? はああ???」
 
一気に気が抜けた。
 
ナンなんだ??? 
 
俺の聴き間違いか?

『ガンバレ』だって?
 
このオヤジが?
 
俺の顔を見るなり、オヤジはまたガハハと豪快に笑った。

「ナンぞ? この馬〜鹿、怒られるとでも思うとったんか?」

「べ、別にそんな……」
 
自然と頬が赤らみ、緩んで来る。

「あの通りの嬢ちゃんじゃ。苦労するぞ? まあ、嬢ちゃんもヨリにもよってお前ぇなんかを……物好きな」
 
オヤジはそう言うと、また肩を大きく揺らせて笑った。

「ほ……ほっとけ!」
 
軽口を叩いた。
 
俺の気持ちが、ホンの少しだけ軽くなっていた――
新年、明けましておめでとうございます。

 投稿作者としての初めてのお正月を迎えました。
 昨日更新の今日なので、ナンだかへんな気分です。
 相変わらずのヘタレ作者ですが、これからも宜しくお願い致します。
          2008.01.01 和貴
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