警告
この作品は<R-18>です。
18歳未満の方は
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課長の浴衣を脱がせるのに夢中になっていた俺は、着物と浴衣の違いに拍子抜けしてしまい、課長をエロいムードから一気に現実へと戻してしまった。
結局、俺は手出し出来ないまま(少しは出来た)ビールを持った課長の悪フザケにまんまと嵌り、仕方なく真夜中の床掃除をさせられていた……
課長が寝静まり、片付けをする為に台所に来た俺は、出掛ける前にあったテーブルに乱雑に置かれていたカップメンの容器と、今、眼にしている台所に溢れていた缶ビールの数本から無言で抗議されているような気がしていた。
第12話 職場復帰?
「おはようございます」
「おはようございます」
早朝、俺はマンションのゴミステーションに可燃ゴミを出していて、偶然出会ったマンションの奥様とアイサツを交わしていた。
俺が意識不明で寝ていた五日間、課長がドッサリと買っていた食材の殆んどが生ゴミになっていたからだ。
ゴミ出しに来ていた奥様はガウン姿の四十歳前後の、品の良さげなご婦人だった。
言い忘れていたけど、課長の居るマンションは海外に幾つも拠点を持つキムラセンチュリー株式会社で、木村工業の子会社だ。
海外の拠点ではホテル経営も手懸けている。
当然、ココに住んでいる住民には購入の際の厳しいチェックが義務付けられていて、俺が居たマンションの住民達とは全くカクが違っていた。
「貴方、見掛けないけど、新婚さん?」
奥様は、スーツ姿でゴミ出しをしていた俺を見上げて訊ねて来た。
「えッ? あ……はい……」
はああ???
……って思ったけど、一応流れでそーゆー雰囲気になっていた。
下手に「違います」なんて答えれば、ナニを言われるか判らない。
「おはよー川口さん。あら、こちらの方お見掛けしない方ね?」
「篠崎さんおはよう。新婚さんですって。えーっと……」
「はあ、二十二階の白石です」
そう言って俺は視線を合わせたまま、アイソ笑いを浮べて、ひょいと軽く会釈をした。
ナンだかホントーに課長の旦那になった気がして、チョットだけ……照れるな?
あ、でも失敗。
トッサに課長の姓を名乗ったりして……俺は自分を勝手に婿ドノにしちゃったし。
「あらぁ、あの子の? ……そう。そうなの」
……ナニが『そう』なんだよ?
「おはよ〜」
「ねえ、ねえ、こちらの方ね……」
えっつ?
あ、あの、その……
次々とゴミ出しの奥様連中が増えて来て、俺は逃げ出せなくなっていた。
「へえー、あの娘さんがねぇ〜」
眼鏡を掛けた、ハラだけが妙に恰幅のイイ女性が意味深に言った。
……?
ああ、妊婦だったか。
「ナニナニ?」
井戸端会議のメンバーがドンドン増えて来る。
ヤバイ。
俺は腕時計を見て眉を寄せた。
早く、課長起こさないと、時間、間に合わねー。
「あ、あの、時間無いんで……失礼します」
俺は奥様連中の視線に恥ずかしくなり、井戸端会議の輪の中心からそそくさと出て行った。
一つだけ判ったコトがある。
課長はココの住民からは余りイイ印象は持たれていない。
『美人だけど、不愛想な女……』
『アイサツ一つしない、可愛気の無い女……』
アカラサマじゃなかったけど主婦達の口からは、そんな声が聞こえていた。
特に、年齢層が高くなるにつれて、課長の評価はキビシイ結果だった。
……確かに、アタマ下げてるトコロ、見たコト無いぞ?
それは取引先の相手に対してもそうだった。
部署が部署だけに、滅多に客なんか来ないけど……
しかも、課長が俺に対しての態度なんか……論外だし。
「え? ココの人達?」
課長は、俺が焼いた目玉焼きにナイフを入れながら訊き返して来た。
「うん」
「知らない。だってカンケイ無いもの」
「え? ゴミ出しとか駐車場とかで会うでしょ?」
俺はトーストをパクつきながら訊き返す。
お? コレ、小岩井のバターたっぷりで……旨い。
「カンケイ無い人に愛想フル必要なんて無いわ。それに、ゴミ出しなんか遣ったコト無いし」
「……」
さよか……
聞いた俺が馬鹿だったよ。
「何か、勘違いしているんじゃない?」
「ナニってナニ?」
課長はお付き合いのシガラミや個人情報を引き合いに出して話し始める。
けど、その総てが否定的かつ、悲観的なモノだった。
考え過ぎだよ……
遅いなぁ〜〜〜課長……
俺は駐車場で待ちぼうけを喰らっていた。
フィットの運転席側のドアに凭れて腕組みをする。
早く出ないと遅刻確実だよ……
「お待たせ。あ、運転アタシがするから」
「え?」
運転席に座ろうとした俺は怯んだ。
スーツ姿で来た課長は……見事にスッピンだったんだ。
化粧、一体イツするツモリなんだ???
「やっぱりいつも通りじゃなくっちゃ、時間の感覚が掴めないわ」
それでハンドルを握るってのか?
「……」
助手席に座った俺は、終始無言だった。
つか、呆気に取られて言葉が出なかっただけだ。
課長は信号待ちの時間を、自分の化粧時間に充てていた。
……ダレ?
ってぇカンジで……
赤信号で停まる度に、課長はどんどんキレイになって行った。
……素も美人だけど、ホントーにキレイに変って行く。凄みを増す……ってぇ言い方、ヘンかな?
「さ、ココからは歩きでヨロシク」
「ええっつ???」
急に狭い路地裏に入ったと思ったら……
俺は課長から有無を言わさず強制的にフィットから降ろされ、路上に放り出されていた。
会社の正門まで、まだあと一キロ以上は優にある。しかも正門から部署のある本館三階までも結構距離があるんだぞ?
「じょ、冗談でしょ? ココから走っても、俺、間に合わない……」
「あ〜アタシも急がなくっちゃあ! じゃあね〜」
「じゃ、じゃあね〜……って……課長?」
無情にもドアが閉まる。
うそっつ???
課長のフィットは俺を置いてきぼりにして、サッサと姿を眩ませた。
ナンで? 俺、駐車場で十分近くも待ってたんだぞ?
「マジかよ……?」
俺は正門に向かって、頭の中で最短距離を算出しながら細い裏通りを駆け出していた。
全力疾走で、正門守衛室まであと少しの路地裏を急速ターンした。
トタンにナニか柔らかいモノに接触する。
「うあっつ!?」
「きゃん!」
耳に心地いい女のカワイらしい声がした。
その小柄な身体が俺に跳ね飛ばされる瞬間、俺の片手が彼女の二の腕をぐっと引き寄せて掴んでいた。
彼女は転ばずに無事だったが、衝撃で持っていた荷物が道にばら撒かれてしまった。
「だっ、ダイジョウブ?」
「え、……ええ」
どき!
……かっ、課長???
長い髪を後ろできっちりと纏めた少々ヤボったいヘアスタイルに細い身体。驚いて頬を上気させたまま俺を見上げたその女は……
課長?
いや、そんなハズない。
今頃課長は、とっくに正門を通過しているハズだ。
しかも、課長の今日の服装は黒地に細い藍色のラインが入っているスーツだ。
彼女は木村工業の社員の制服(紺色の事務系スーツ)を着ているし……
……だとしたら、コイツ誰???
顔立ちや、細い身体つきまで……課長にソックリだ。
こんな娘、居たっけ?
「ごめんなさい。急いでいたものだから……」
「ああ、コッチこそゴメン」
俺は時間を忘れて、彼女がばら撒いてしまったPC用CDやSD等資料を拾うのを手伝っていた。
「その制服は木村工業……だよね? これから社外? 俺、設計部の日高。君、部署は?」
「広報部の三浦です。これからお客様をご案内するので社用車を……」
彼女は俺から数枚のCDを受け取ると、クッタクの無い笑顔でにっこりと笑った。
それで社員駐車場へこの近道を急いでいたんだな?
なるほどね。
けど……ナンテ笑顔が素敵な娘なんだぁ?
ムッツリ課長とは全く違うぞ???
『中身』以外は良く似てる……チョット課長よりも若くてヤボったいけど……な?
「三浦さん? あー、今はチョット先を急いでるからナンだけど、ぶつかったお詫び。今度、お茶しない?」
三浦さんはスコシだけハニカンで頬を染めた。
「お茶だけなら……いいですよ?」
……???ナンだ? 意味深な言葉だな?
「アトでメール入れるよ」
「……」
俺の言葉に、彼女はこくんと頷いた。
名前と部署さえ判れば、PCから社内でのメールは可能だ。
俺は彼女の言葉に多少引っ掛ったが、先を急いでいたから彼女とはそこで別れた。
広報部の『三浦さん』……か。
世の中にはソックリな人間が三人はいるってぇ聞いたコトあったが……ホントなんだな?
「日高クン、チョット」
案の定、カンペキに遅刻してしまった俺は、先に部署に入っていた課長から呼び出しを喰らっていた。
俺は仕方なく課長のデスクの前で、姿勢を正して直立する。
俺が倒れたコトを知っている部署内の連中は、カタズを呑んで俺を見守っていた。
職場復帰の初っ端からこれかよ……
気が重。
課長は度の軽い眼鏡を押し上げると、俺に睨みを効かせる。
「まだ本調子でないのは判るけれど、時間はちゃんと守って貰いたいわね?」
「……はい」
ナニ言ってんだよ?
人をサンザン待たせておいて……挙句に放り出しておいてコレかよ?
黙っている俺の視線が恨めしそうに課長を咎める。
幾ら社内では部下と上司だって、あんまりだ。
ピピピ……
ウン?
携帯が鳴っている。
「ナニ?」
課長は鬱陶しそうに顔を顰めた。
「失礼します」
メールだ。
俺はメールの閲覧ボタンを押した。
「え?」
……自分の眼を疑った。
メールの相手は……ナンと俺の目の前に居る課長からだった。
『ゴメン。遅れるとは思わなかったの。明日からはもう少し早く起きるから』
そしてミョーにカワイイクマのぬいぐるみの絵がぺこりとお辞儀をしていた。
これって……
「ぷっ……」
思わず噴出した。
「チョット! 聞いているの? 大体貴方は自己管理が……」
課長は何食わぬ顔で俺への批判・説教を続けている。
俺を見守っていた部署の連中が課長にドン退きしているのが判って、それはそれでヘンなカンジだった。
これって、課長が俺との関係を周りに知られないタメの手段かな?
よくは知らないが、コンナのが俗に言う『ツンデレ』?
そうとも取れて、ナゼか俺は浮かれていた。
コッチからは見えていないけど、机の下で握っている携帯には、予めこのメッセージを入れていたようだった。
アトは課長がナニを言ったのかは覚えてはいない。
けど、こんなコトもするヒトだったのか〜ってカンジ……だったよ?
「日高、落ち込むなよ?」
向かいの席の鈴木主任が、席に着いた俺に開口一番そう言った。
手先が器用な人で、片手でペンをクルクルと廻して遊んでいる。
よっぽど俺のコトが気懸かりだったのか、主任はキノドクそうに俺を見た。
そんなに心配しなくっても、俺はダイジョウブなんですけどね?
「はあ……」
「以前はあんな課長じゃなかったんだけどね?」
そう言ってチラリと課長の方に視線を向けた。
「?」
「課長の男勝り……って言うか、男嫌いのコトだよ」
……まあ、ハナシの内容はナントナク察しが付いていた。
多分、頼った男に、逆に頼られたんだろうな? ……って。
「そこ! 私語は謹んで!」
俺が鈴木主任の話に耳を貸す前に、鋭い課長からの一喝が飛んだ。
=「また、今度……な?」
=「ハイ。了解ッス」
俺は主任とそんな約束を交わしていた。
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