ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
警告
この作品は<R-18>です。
18歳未満の方は移動してください。
冒険の合間に・宿屋にて
女性向けのR-18話です。(BLではありません)

舞台はいわゆるRPG的中世ヨーロッパ風ファンタジー世界です。
短編なので、世界観の説明など一切ありませんが、多分ウィ○ード○ィあたりがモデル……。


 普通、宿の大部屋は男女別に分かれている。
 たまたま六人部屋に空きがあったので、六人パーティーが丸ごと一部屋貸し切ることができたのは運が良かった。普段は男女別の部屋に分けられてしまうので、打ち合わせは食堂などでするほかないが、一部屋貸し切ることができれば、他の人間に聞かれたくないような話や込み入った打ち合わせを客室でできるからだ。

 皆はそう言った。同性の女戦士、プリシラでさえも。
 だが、エミリーには信じられなかった。
 駆け出しとはいえ、パーティーを組んで半年以上経つ。それなりに危険な目にも合ってきたし、それを乗り越えてきたことで、六人の間には友情と呼べる絆が生まれつつある。 
 男性四人もそれぞれ、始終女に飢えているような人間ではないし、少なくとも仕事仲間である自分やプリシラに妙な真似をすることもなかった。
 別のパーティーの女の子から聞いた話では、風呂を覗かれたり、体を触られたりするのはざらで、ひどい話になると、野宿している間に男性メンバーによってたかって輪姦されてしまったなどという話もあるという。
 そんなことだけは、今のパーティーにはない。エミリーはそう断言できる。
 しかし、そんな信用のおけるメンバーといっても、宿屋で全員と同室で生活するとなると、話が変わってくると彼女は思う。
 身の危険という問題ではなく、恥ずかしいし、はしたないと思うのだ。年頃の男女が同じ部屋で寝起きするなんて。しかも、そこにはエミリーが淡い恋のような気持ちを抱いているルークもいる。
 例えば着替えにしても、不便ではないか。
 エミリーはプリシラに訴えたが、彼女はあっけらかんと「別にいいじゃない。部屋で替えるのは上着くらいでしょ? パンツ脱ぐワケじゃないし。ちょっと連中に後ろ向いていてもらえばいいじゃないの」と言った。
 言葉通りに、着替えをするときは、彼女は男性たちに「ちょっと~、着替えるから、アッチ向いててー」と大声で告げる。男性陣も素直に言葉に従って、窓辺を向いたり、部屋から出たりと、実に従順だ。
 だが、着替えの衣擦れの音が聞えたら。万一誰かが振り向いたら。
 エミリーはそう考えると、とてもプリシラのように上着を脱いで下着姿になる気になれなかった。
 苦肉の策として、エミリーは二段ベッドの下段である自分の寝床に、上段の床から古布で作ったカーテンを吊った。内部で着替えるにはかなり狭いが、これで完全に男性たちの目を避けて着替えられるし、寝る時もプライバシーは守れる。
「気にすることないじゃない。野宿する時は大口開けて寝てる姿お互いに見てるんだからさ」
 プリシラはエミリーをお嬢さん育ちと笑った。
 商隊の護衛あがりのプリシラと、代々学者や魔術師の家系のエミリーとは確かに育ちが違う。こんな時、彼女は強くそう思った。


 昼下がり。
 荷運びの仕事が終わったばかりで、懐は暖かく、そろそろ古代遺跡の探索にでも行ってみよう。
 パーティーのリーダー、戦士のルークが言い出したことだった。
 エミリーはその為に、魔術師ギルドの図書館で資料を読み込んできたところだった。
 皆、既に食堂で昼食を始めようとしていた。
 エミリーは資料の写しや羊皮紙の束をひとまず自分の背嚢にしまう為、一人で階上の自分たちの部屋にあがっていった。
 二段ベッドが三台並んだ狭苦しい部屋には、昼の陽光が小さな窓からささやかに差し込んでいた。エミリーの仲間たちを含めた、階下の客の話し声が遠くから聞えてくる。
 エミリーはなんとなく、ルークの寝床に目をやった。隣の下段だ。
 カーテンをつけているのは当然エミリーだけなので、他の全員の寝床はむき出しだ。
 エミリーのベッドのように起き抜けに整えられているはずもなく、敷布がずれ、毛布がまくれあがったままで放置してある。不意に生々しい感触に捕らえられ、エミリーは彼の寝台から目を逸らした。顔が赤らむ。
(どうしてだろう……最近こんなことばかり)
 エミリーは十六歳だ。女性としては一人前だが、恋愛の経験は無かった。
 冒険者になるまでは、ほとんど箱入りだったのだ。叔父である師匠と魔法の修行に明け暮れる日々だった。
 同じ歳の友達もほとんどいなかった為、この年頃の女の子の最大の興味である恋愛には、とんと疎かった。
 興味が出てきたのは、彼女にとって友人であり、姉ともいえる存在のプリシラから散々話を聞かされてからだ。彼女はエミリーが恋愛未経験だと聞くと、面白がって自分の過去の恋愛話、そして男性との交渉の話をたくさん話してくれた。エミリーには信じられない世界だった。
 子供がどうやって、どこから生まれてくるかというのは、本の上の知識として知っていたが、彼女はもっと儀式めいたものを想像していた。
「信じらんない。あたりなんかよりずっとカワイイのに、まだ処女なの? もったいない。サビちゃうよ? てゆーか、免疫ないまま年取ると、変なオトコに捕まるからさ、今のウチいいの捕まえときなよ」
 彼女の「友達」を紹介されたこともあったが、エミリーにはぴんとこなかった。ほとんどがプリシラの「昔のオトコ」だったし、エミリーは今、ルークの側にいるだけで満足していた。この話だけは、プリシラにもしていない。
 だが最近、ルークを見ていると、プリシラから聞いた過去の恋人──あるいはそうでない男──たちの話と繋がり、頭の中で自分とルークが口づけを交わし、抱き締めあうような想像が勝手に働いてしまうことがある。
 時にはもっと……。自分にルークが触れるようなところまで。
(ダメダメ。何考えてるの)
 今もエミリーは妖しい方へ向かおうとした想像を断ち切った。
 下段の自分のベッドのカーテンを引き、ひざまずいて、中に置いてある背嚢に手を伸ばす。持ってきた資料は貴重だ。他のパーティーに奪われたくない。リュックの隠しポケットを彼女は探った。


 部屋に向かったのは気まぐれだった。料理が出てくるまで手持ち無沙汰なので、荷物の整理でもしようと思っただけだ。
 シーマスは階段を軽快に駆け上がり、ノックもせずに自分たちの部屋の扉を開ける。荷物が置いてある自分のベッドに向かおうとしたところで、目を剥いた。
 プリシラとエミリーが使っている二段ベッド。
 そこの下段は、神経質でお堅い魔術師のエミリーが、カーテンなどを吊るして自分の寝床を覆ってる。
 そこまではいつものことだが、そのカーテンの隙間から裾の長いローブを纏った尻が突き出していた。
(なんじゃ、こりゃ……)
 一瞬、自分と同業者の泥棒が留守中の客室を探っているのかとも思ったが、そのローブがエミリーがいつも着ているものであることに気づく。
 しかし、扉を開けて彼が部屋に入ってきているのに、全く動かないというのは、どうしたのだろう。普通は物音がすれば顔を出すだろう。
(もしオレがどっかの変態だったらどうすんだ)
 それとも具合でも悪くて、しゃがみこんでしまったのだろうか。
 シーマスはエミリーがあまり好きではなかった。それはパーティーのメンバーとして、という意味でだ。
 お嬢様育ちで自意識過剰、神経質で体力も無い。冒険を始めたばかりの頃は、何かあるとすぐ泣いた。
「オマエ、いくつなんだよ!? 泣けば親が飛んできてくれるワケじゃないだろが」
 何回彼女を怒鳴りつけただろう。そうするとエミリーは彼をにらみ返すでもなく、ただ肩を落として、声を殺してすすり泣いた。性格なのだろうが、シーマスは男でも女でもそういう人間を見ると苛々してしまう。
 それでも彼女の魔術師としての才能は稀有なものらしい。もう一人の魔術師に言わせると、彼ではとても使いこなせないような高度な魔術を、やすやすとは言わずとも、なんとか行使してしまうという。
 そういった事情もあったし、最近はやっと泣くことも少なくなってきた。シーマスもエミリーをパーティーから抜けさせようという考えは今では無くなっていた。
 だが、扱いづらいという思いには変わりは無い。
 一人の少女として見た場合、小柄で小動物のようなエミリーは、愛らしくはあった。全体的に肉付きは良いのに、肩や腰、脚は華奢ですんなりしている。食堂に出入りしている男どもの中には、エミリーに惚れているのも少なくない。
 しかし生憎、彼は保護欲を掻き立てるような女は、タイプではなかった。
 シーマスは何故かそっとエミリーの背後に忍び寄った。
 エミリーは身動きをしない。
(まさか、倒れてるんじゃ……) 
 シーマスはぞっとしてベッドの中を覗き込んだ。いくら苦手と言っても、嫌いではないし、同じパーティーの仲間だ。自分が彼女を助けたことも幾度もあるし、彼女に助けられたことも──悔しいが──ある。
 だが、エミリーはどうやら床に膝をつき、ベッドに四つんばいになって、羊皮紙を目で追っているらしかった。よく見れば肩も呼吸とともに上下している。
 シーマスは脱力する思いだった。心配して損した。
 こういった、何かに集中すると周りが見えなくなってしまうところも、彼としては苦手であった。
(普通、部屋に人が入ってきたら気付くだろ。つーか、何故その姿勢で読み物すんの?)
 おおかた、何か作業の途中で読み物に夢中になってしまったのだろう。想像はつくが、心配した反動でまた彼は苛立ちを感じた。
 シーマスは忍び足でそこから数歩離れ、部屋の入り口のドアをそっと閉める。そして再びエミリーの背後に戻り、屈んで彼女の背後から、カーテンの隙間に首を差し入れた。
 エミリーはまだ気づかない。
 シーマスはベッドに肘をついている彼女の両脇に自分の手をつき、彼女に覆いかぶさるように自分も四つんばいになった。
「何してんの?」
 そこでやっとエミリーは気づいたらしい。驚きに満ちた目で振り返った。


 何が起こったのか分からなかった。
 突然視界が陰り、背中に温かさを感じたと思った瞬間、声をかけられたのだ。
 振り返ると、パーティーの一人、盗賊のシーマスの顔が驚くほど近くにある。エミリーが一番苦手な人間だ。
 鼻と鼻が触れ合うような近さだ。エミリーは慌てて顔をそむけた。
「あ、えっと……」
 うまく声がでない。この男と話す時はいつもそうだ。大柄で強面という訳でもないのに、表情、声、口調、全てが自分に対して威圧的で、彼女は萎縮してしまう。
「こんなとこに首つっこんで。具合が悪くて倒れてるのかと思ったよ」
「あ、ごめんなさい……」つい口に出してから、『何でもすぐに謝るんじゃねえ!』とついこの前、彼に一喝されたことを思い出した。「あの……次に行く遺跡の資料を読んでたの」
「どれ?」
 背中に重みがかかる。彼女の頭の後ろからシーマスは、例の資料を読もうとしているようだった。体をどけようとするが、左右をベッドについたシーマスの両手、背後を彼の体に阻まれ動けない。彼もエミリーをどけようとする気がないようだった。
(なんでだろう……)
 疑惑と同時に本能的な恐怖が襲ってきた。今までにない状況に自分がいる。普段のシーマスや他の仲間たちが考えていないようなことを、今彼は考えている。
「あの……」
 どいて。
 そう言おうとして、エミリーは振り返ろうとするが、シーマスは背中にますます体を預けてくる。彼に押しつぶされる格好になった。
「資料ってこれ? 今読まなきゃいけないもんなの?」
 詰問口調だったが、声にいつもの棘は無い。だが、エミリーは恐ろしかった。それは怪物に感じるような恐怖とは全く別のものだ。恐怖の底に甘やかな澱みがあった。
「そうじゃないけど……ちょっと目を通してたら止められなくて」
「だからって、昼メシの時間に、こんなとこで一人でこんな格好で読むことないじゃん。心配するでしょ」
「ごめんなさい……」
 こんな格好、と言われて初めて彼女は自分の姿勢が、部屋に入ってきたシーマスにどういう風に映ったか分かった。寝台のカーテンの隙間から自分の尻だけが突き出ていたのだ。滑稽にも見えるし、場合によっては扇情的にも映るだろう。
 自分の性別や容姿が男たちの欲望を刺激することは、彼女も知っている。プリシラにも教えられたことだ。
 だから男に愛想を良くすることもないし、足首まで隠れるような裾の長いローブをいつも纏っていた。
 それでも寄ってこようとする男はいたが、パーティー単位で行動していればまず安全だった。
 そしてパーティーの中の人間には、彼女は絶対に近い信頼を置いていたのだ。彼らがエミリーに対して何か邪なことを考えているなどと疑ったことはない。何といっても、時には命を預けあうような仲間たちなのだ。彼らが彼女が嫌がることをするとは考えられなかった。
「あの、ごめんなさい、私、お昼ご飯を食べに……」
 焦りと混乱の中からやっと彼女は声を絞り出したが、シーマスはさらに体を押し付けてきた。彼の息遣いを顔に感じる。男性にここまで接近を許したことはない。彼女の顔に血が上った。
「オレにも見せてってば、それ。ほんとマイペースだよね、あんた」
「ごめん……」
「いちいち謝るなって」それまで緩やかだったシーマスの声が突然尖った。「苛々するって言っただろ」
 涙がにじんだ。苛々する。そう言われる度に、彼女は傷ついた。そうさせたいわけではないのだ。悪いと思ったから謝っているのに、何故苛々されるのだろう。何故怒らせてしまうのだろう。
 どうしたらいいのか分からない。せめて泣くのを堪えたかったが、感情は止めようがなく、瞳から涙があふれた。
「泣くなよ」
 うつむいていた彼女の顔に突然手がかかり、エミリーは涙に濡れた顔をシーマスに向けさせられた。
 ごめんなさい。
 でもそう言ったら、また怒られる。
「ごめんね」
 だが、そう言ったのはシーマスの方だった。
「オレさ、言い方きついから。苛々してんのはオレの勝手で、あんたのせいじゃないんだけど」
 エミリーは思いがけない言葉に首を振った。
「そんなこと……ない。私がいけないの。ぐずぐずしてるし。何もできないし」
「そんなことないよ」
 プリシラから『ほんとにチンピラ』と揶揄される、シーマスのきつい目元が緩んだ。その唇が自分の目尻の涙にそっと触れる。痺れるような感触が走り抜けた。
 そう思う間も無く、シーマスの唇はエミリーの唇に重なった。


 こんなに無防備な女の顔をシーマスは見たことがなかった。青い大きな目を見開いて、何が起こったのか全く分からないようだ。
 愛らしい。
 シーマスはさらに唇を押し付け、彼女の柔らかい唇を割って、舌を差し入れようとした。エミリーは肘で彼の胸を押しのけ、顔を逸らした。
 顔をそむけたところで、体が逃れる場所は無い。
 腹の底から嗜虐的な喜びがうっすらと湧き上がってくる。
 彼は小柄なエミリーを押しつぶすように、さらに体重をかけ、彼女の動きを封じる。助けを求めるようにめぐらせる細い首に後ろから口づけた。
 エミリーのゆるく巻いた亜麻色の髪から、石鹸の香りが漂う。安い娼婦の脂っぽい髪の匂いとは雲泥の差だ。
 首筋から耳までゆっくりと舌を這わせる。
「や……」
 エミリーは小さく声をあげて首をよじるが、彼の舌は執拗に追いかけた。耳たぶにたどり着き、舌で転がした後、軽く歯を立てる。エミリーは首を振って逃れようとするが、自分の体で寝台に押し付ける。彼女の体の下で、ことの発端になった写し書きの紙束がひしゃげた。
「やめて」
 耳の中を唾液の音を立てて舐め回すと、彼女は肘を突き上げて彼をどかそうとした。
 シーマスは男としては小柄だし、そう力が強い方ではないが、さらに小柄で非力なエミリーをねじ伏せることはさすがに難しくはない。
 彼女はどうも本気で嫌がっているようだ。
 シーマスの知る限り、エミリーは恋人がいたことがない。プリシラによれば、彼女はシーマスたちに加わるまでは箱入りだったという話だし、おそらくは男を知らないのだろうと彼は思っていた。
(処女のクセに……)
 薄い胸板を肘で突かれ、不意に怒りに似た苛立ちがこみ上げた。
「暴れるなよ」
 耳元で小さく、しかし鋭く言い放つと、エミリーはぴたりと動きを止めた。怯えているらしい。
 自分の言葉で彼女が怯え、萎縮し、泣いてしまうのはいつものことだ。だが、普段感じる苛立ちとともに、征服感が湧く。この女なら思い通りにできる。
 元来おとなしく言うことを聞くような娘に食指が動かない彼だけに、普段興味の湧かない女に興奮している自分に、一種倒錯した歓びを感じた。股間が硬くなる。
 シーマスはベッドについていた両手をシーツと彼女の体の間にすべりこませた。少女の乳房の柔らかい感触にすぐに突き当たる。
「おとなしくして」
 打って変わって穏やかな声で囁くとエミリーは微かに首を縦に動かした。素直である。従順すぎるほどだ。
 彼女の髪をつかんで怒鳴りつけたいような衝動が湧く。それを押さえつけ、ことさらに優しい言葉をかける。押さえつけた衝動の分、自分が昂るのが分かった。
 エミリーは細身ではあったが、丸顔で、胸や尻の肉付きは良かった。
 実際に触れてみると、色気の無いくすんだローブに隠された乳房は、見た目より豊かだ。
 このところ痩せた女しか抱く機会が無かったし、そもそも懐が寂しくて女とも縁が無かった。シーマスは久しぶりに豊満な乳房を揉みあげた。
 ローブの下には、薄い木綿の肌着しか着ていないのだろう。やがて彼の手は乳房の中心が堅く尖ってくるのを感じた。
 指先で服の上から乳首をつまむと、エミリーは掠れた悲鳴まじりの声をあげた。
「いや……やだ……」
 乳首が硬くなったからといって、常に女の体が悦んでいるわけではないということは、さすがに彼も幾多の苦い思いの果てに知っていた。触っていれば勝手に硬くなるものだ。
(そろそろやめとこうか……)
 心配をかけられた腹いせに、少々脅かすだけのつもりだったのだ。
 あまりやりすぎて、仕事仲間である彼女を心から傷つけるのは本意では無かったし、パーティーを抜けると言われても今は困る。彼女と仲のいいプリシラにちくられたりしたら、もっと困る。プリシラの鉄拳を二、三発も食らえば、顔の形が変わってしまうだろう。
(でも気持ちいい。もうちょっと……)
 エミリーが泣き出さないのをいいことに、シーマスはもう少し少女の胸の感触を味わっていた。左手で乳房を揉みながら、右手の親指の腹で反対の乳首を転がす。
「いや……は……」
 首を振りながら哀願するように呟く彼女の吐息が、妙に艶めいていたのを、彼は聞き逃さなかった。
(もしかして……)
 服の上から親指の爪を軽く立てて乳首をこすると、エミリーは微かに腰をくねらせた。彼の少し硬くなった股間が彼女の尻とぶつかる。つい彼はそれを彼女の尻にさらに押し付けた。
「やっ……」
 さらに彼女は腰をくねらせる。だがそれは彼から逃れようとするより、そうすることで彼を誘おうとしているように見えた。
(こいつ……感じてんの?)


 顔が熱い。涙がにじむのに、瞳に溜まるばかりであふれ出さないのが不思議だった。
 頭の中に湿った霧が渦巻いているようだ。
「は……」
 シーマスに胸のふくらみを動かされる度に顔に血が昇り、自分が今まで漏らしたことのないような吐息が吐き出される。
 シーマスの妙に甘い声が耳元で響く。
「ねえ、もしかして気持ちいい?」
 エミリーは泣きたいような気持ちでただ首を振った。しかし、偽りを言葉にすることを嫌う魔術師は、違うとは口に出さなかった。
(どうして……?)
 プリシラから色々と話を聞かされたおかげで、エミリーにも性の快楽がどんなものか、何となくは分かっていた。今体の内側から滲んでくるような感覚がそれだというのも、認めたくはないが、分かった。
 でも、何故、彼なのだろう。
 エミリーが男性として魅力を感じているルークが相手なら、分かる。もう彼女も十六歳だ。子供を産む機能も既に働いている。体が成熟しつつあるのだから、愛している異性には性の快楽を感じるのも当然だ。
 だが、何故愛してもいない男に、しかも半ば無理やりに体を触られているのに。
「やめて」
 彼女は首を振って呟いた。愛してもいない男に快楽を感じさせないで。
 しかし、一方で彼女はその感覚をさらに求めてもいた。
「なんで~?」無邪気とも聞える声でシーマスは彼女の言葉をあざ笑った。「なんでやめて欲しいの?」
 彼の手がさらに動き、ローブの前を留めている紐を、彼女の体の下で器用に解く。開いた胸元の隙間から、手が差し入れられてくる。
「あっ」
 甲高い声が口をついて出た。
 シーマスの手は彼女の素肌に触れる。ざらざらした男の手の感触を彼女も感じた。その手は乳房を直にまさぐり始める。
「あー、柔らかい。気持ちいい~。オマエ、ほんとにおっぱいおっきいね」
「ちっ、違う……」
 混乱したエミリーは、自分でもよく分からないことを言った。信じられないことに呂律が怪しかった。今、私はどうなっているのだろう。
「何が違うの?」
 聞き返されても、エミリーは答えられず、首を振るだけだ。
「エミリー、可愛いね」
 優しく囁かれ、首筋に強く唇を押し付けられる。先ほどまでは嫌悪感しかなかった他人の唾液と舌の感触。
『自分で触ってもあんまり気持ち良くないもんね。やっぱカレに触ってもらうのが一番だよね』
『アタシも乳首が弱い〜。すぐ濡れちゃう』
『あーんな気持ちいいこと知らないなんて、エミリー、勿体な~い』
 プリシラや他の女性冒険者達の話がふと脳裏によみがえった。
 その一言一言が、自分を縛っていた倫理観から少しずつ解放していく。皆が言っていたのは、こういうことだったの。誰もが経験していることなら、私だって…。
 口を開けばきついことしか言わないシーマスが、自分に向かって可愛いと言うなんて。
「はっ……あっ……」
 首筋を吸われ、彼女は切ない吐息を吐いた。
「気持ちいい?」
 もう一度聞かれて、彼女は今度は即座に首を振れなかった。
 先ほどから尻に何かが押し付けられいるのを感じていた。その正体を想像するだけで、エミリーは好奇心とも恐怖とも期待とも言えない気持ちが沸いてくる。
 自分の体が、この男を興奮させている。いつも自分を見下げているこの男を喜ばせている。優越感と劣等感という真逆の感情が入り混じった。
 服の下からシーマスの右手が消えたと思うと、彼の手は今度はエミリーの尻をローブの上から撫で回した。くすぐったさの混じったぞくぞくするような感覚に、背が反れる。
 彼の右手は四つんばいになった彼女の太ももを後ろから撫でながら、下へ降りていき、ローブの裾をまくって、その中に入り込んだ。
 腿の裏にシーマスの手を感じた。そう思ったすぐ後、男の手は太ももを滑りあがり、尻にも触れずに、エミリーの脚の間に下着の上から触れた。
 初めてのことに彼女は身を硬くする。脚を強く閉じたが、シーマスの指は、四つんばいに突き出した彼女の尻の間をそっと撫でた。
「……濡れてる」
 シーマスの呟きに、彼女は顔から火が出る思いがした。
 下着の布越しに男の指を感じる。それは探るように、しかし優しく彼女の秘部を撫でた。そうすると増々そこが潤ってくるのが分かった。
 誰にも触れられたことのない、自分でも触れたことのない場所を探られている。
 羞恥心とともに、どうしようもないほどの感覚が溢れてくる。抑えられなかった。


 薄い下着はしっとりと湿っている。まだ愛液がにじんでいるほどではないが、その向こうがどんな状態かは想像できた。
 指を優しく蠢かせ、時折そっとそこに押し込むように押す。
「ふ……」
 抑えきれず彼女の唇から漏れる吐息は、もう喘ぎと言ってよかった。彼女が自分の愛撫に快感を感じているのは間違いなさそうだ。
(こんなお嬢様育ちでお堅い女が実はエッチ好きだったなんてね……。それとももう処女じゃないのか?)
 パーティーの外の男からは、他のメンバーががっちりガードしていたはずだ。考えられるとすれば、同じ仲間の中か。
 この物静かな少女が、何かと気配りのできて頼もしい、パーティーのリーダー・ルークに興味があるらしいのは、シーマスも知っていた。
 彼としては、パーティーの中での恋愛沙汰は揉め事の種になりかねない、できれば勘弁して欲しいと思っていた。
 幸いシーマスから見る限り、ルークはエミリーを丁重に扱っていて、それなりに可愛がってはいるが、どこか距離を置いているし、女性として興味を持っているようには見えなかった。
 エミリーも可愛い少女であるが、ルークが望む女性は、もっと身分も高い、深窓のお姫様だ。シーマスに言わせれば、この世で最もくだらない女こそ、ルークの理想だった。ルークとは最も古い付き合いだし、お互い信頼しているが、彼の女の好みだけは、シーマスには全く理解できなかた。
 くそ真面目なルークの性格を考えても、エミリーに手をつけたとは思えない。
 かと言って、他は変人魔術師とさらにカタブツの坊主だ。やはり彼女と交渉があったとは考えにくい。
(まあ、どっちでもいいや……)
 処女であるなら、手をつけたら厄介かもしれない、という考えがふと浮かんだが、あっという間に頭の隅に追いやられた。エミリーは無我夢中で抵抗している訳ではない。絶対に嫌ではないということだ。こんなチャンスはなかなかない。
 下着の隙間に指を差し入れると、とろりとした愛液が彼の指を迎えた。
 何にしても、自分の愛撫を悦んでいる女は可愛い。
「あっ……あ……待って……」
 うつぶせになって、シーツに顔を押し付けて声を堪えていたエミリーが、こちらを振り返った。 
 小さな顔は上気して赤らみ、瞳は潤んで涙がにじんでいる。
「なんで? こんなに濡れてるのに」
 シーマスは意地悪く言いながら、中指をさらに彼女の秘所に押し込めた。信じられないような柔らかさと、とろとろとした感触が彼の指をくるむ。
 エミリーは眉を寄せ、目を閉じて俯いた。
「わたし……男の人を知らないの。だから……」
「嘘つけ。こんなに嬉しがってるのに、処女ってことはないでしょ」
「ほんとよ……」
 恥ずかしさの為か、彼女はさらに顔を赤らめた。だがその表情もシーマスの嗜虐心を煽るだけだった。
「ほんとに~? じゃあ、生まれつきのよっぽどのエッチ好きなんだね。だって昼間っからこんな場所で、惚れてもいない男に体いじられてて気持ち良くなっちゃうなんてね」
「違う……違うよ……」
 エミリーは嗚咽のような声を搾り出したが、それは悲しみからこみ上げるものには聞えなかった。
「違わねーよ」
 乱暴に言いながら入り口あたりを擦っていた指を一気に彼女の膣に差し入れた。
 ぬるぬるとした液にまみれた彼女のそこは、シーマスの指を容易に内部に迎え入れる。
「ああっ」
 痛みか、快楽か、エミリーが扇情的な声をあげた。
 彼はそれに構わず彼女の中で指をそっと動かす。
 少しきつい。処女というのは嘘ではないだろう。あまり乱暴なことをしてケガをさせたくはなかった。嗜虐嗜好は若干あったが、実際に乱暴をはたらき、女の体に傷をつけるのは彼の趣味ではない。
 エミリーは再びベッドに顔を押し付け、声を堪えているようだった。
 心底苦痛で嫌なら、ここで耐えずに彼に哀願するなり、助けを求めるなりするだろう。
 ということは、そう嫌ではないということだ。むしろ続きを期待されているような気すらする。
 これはもうやるしかない。
 諸々の不都合な点は彼の頭から綺麗に吹き飛んだ。
 シーマスは指を引き抜き、後ろからエミリーの両足を抱え、もう片方の手で胴体を下から持ち上げた。
「あ、何?」
 エミリーの驚いた声には返事もせず、寝台からはみ出ていた彼女の下半身をカーテンの内側へ転がす。
 自分も中に入り込み、四方を覆うカーテンを素早く引くと、かろうじて差し込んでいた昼の光が遮られ、小さな空間は淫靡に薄暗くなった。
 横たえられたエミリーは、圧倒的に無防備はうつぶせから、体を反転させて仰向けになっていた。
 ローブの胸元ははだけ、その下の下着も引き下げられて、驚くような白い胸元が覗いている。長い裾は膝の上までまくれあがっていて、やはり真っ白なすんなりした脚が露出していた。
 服の乱れを直そうとするその手をシーマスは素早く捕らえ、やすやすと両手をベッドに縫いつけた。
 閉じようとする脚を膝を使って広げさせ、自分の体を彼女の両脚の間に割り込ませる。
 エミリーの両手をつかんだまま、シーマスは再び彼女に口づけた。
 今度は彼女はぎゅっと目を閉じた。構わず彼は花の蕾のような唇を割って、舌を差し入れる。 一瞬舌に噛み付かれるかもと思ったが、彼女は大人しく彼の舌に蹂躙されるままになっていた。唇といわず舌といわず、口腔内をくまなく舐め回す。唾液が交じり合って唇の端からこぼれた。
 シーマスはそれに飽きると、唇をなめらかな喉へ、胸元へと下へ滑らせた。
 豊かな乳房はまだ半分服に隠れている。さらに服を押し下げようと右手を彼女の手から離すと、少女はすかさず自由になった手で必死に胸元を隠そうとした。
「こら、邪魔すんな」
「いや……いやっ」
「気持ちいいクセになに恥ずかしがってんの」
 彼は腰を動かし、既に硬く屹立している自分の男性器官をまだ下着に包まれている彼女のそこに押し当てた。
「濡れてんでしょ、ほら。お前があんまり気持ちよさそうだからオレも勃っちゃったよ」
 彼女はまた目を閉じて顔を伏せた。
 シーマスはその隙に、普段から腰に下げている短い細縄を手に取ると、エミリーの細い両手首をひとまとめにし、彼女が驚きの声をあげる間に、彼女の頭上で縛り上げてしまった。
「やだ……なにするの!?」
 彼女の目には今度こそ本物の不審と恐怖が見えた。安心させるようにシーマスは優しく微笑む。
「あんまり意地っ張りだからね。少し大人しくしてな。暴れると手が擦れちゃうよ」
 効果はあった。再び彼女の瞳が欲情に潤む。これは今までの続きだ。おかしなことじゃない。そう思わせることができたようだ。
 シーマスは少女のローブの胸元を一気に大きくはだけさせ、肌着を押し下げると、乳房をつかみ出した。そしてその中心、淡い褐色と桃色の混じった蕾を尖らせた舌で舐めた。
「は……」
 喘ぎとともにエミリーが喉をのけぞらせる。
 舌で乳首の周りをつつくように舐め、口に含んで音を立てて吸うと彼女はさらに声をあげた。彼女の形のいい両脚が快感をさらに求めようとしているのか、それとも逃れようとしているのか、妖しく動いた。
 舌で乳首を弄んだまま、シーマスは自分の腰を浮かせ、右手を再び彼女の両脚の間に差し入れた。
「あ、いや……やだ……」
 少女は脚を閉じようとするが、シーマスの体が割り込んでいてそれができない。太ももの柔らかい感触が彼の腰を弱々しく挟むだけだった。
「イヤじゃないでしょ。なんで嫌がるの?」
「いやだよ……こわい」
 彼がわざとらしく訊くと、エミリーは目をつむったまま、つぶやいた。
 体で血がたぎったような感覚が走り抜けた。
 こわいとは。
 そんな素直なことを言う女とは久しく縁がない。いや、そもそもそんな可愛らしい女がいただろうか。
 小さな体を抱きしめて、何よりも大切にして、どんな恐怖や苦痛からも守ってやりたい。
 脅しつけて、怯えさせて、いじめぬいてやりたい。絶対的に屈服させてやりたい。
 二種類の正反対の欲望が同時に湧き上がる。
 倒錯的な葛藤を味わった後、彼は後者の欲望を押し込めて言った。
「大丈夫だよ。そっとするから」
 左手でいつの間にか薄く涙を流している彼女の頬を撫でると、右手の指を再び彼女の下着の中へと差し込んだ。少女が息を呑む。喉から漏れた微かな喘ぎは快楽に満ちていた。
 彼はローブの裾を大きくまくりあげ、彼女のその部分を覗いた。先ほどよりもそこはずっと濡れそぼり、下着に見て分かるほどの染みを作っていた。大きく開いた脚の付け根にも愛液が広がっている。
 シーマスは一度指を引き抜いてみた。さほど動かしていないというのに、べっとりと透明な液が指にまとわりついている。
「ほら、エミリーの中、すっごい濡れてる」
 少女の顔の前に自分の指を突き出してやると、彼女は羞恥の為に悲鳴のような掠れた声をあげた。
「あんまり下着汚しても勿体無いからね」
 シーマスは彼女の下着の紐に手をかけた。
「や……やめて! やだ! 見ないで!」
 両手を封じられた哀れな少女は自由になる両脚を動かして抵抗したが、そうしたところで自分の秘所がさらけ出されるだけだった。
 難なく下着の紐を解いて外すと、ねばついた粘液が糸を引いた。
「あ……すげえ。糸引いてる」
 つい言葉に出すと、少女は首を振ってまた「やめて」と吐息のような声を絞り出した。
 外した下着の股の部分はとろとろとした愛液にまみれて光ってすらいた。彼はそれをエミリーの顔の脇に無造作に放り出すと、彼女の秘所に目をやった。
 はしたなく、大きく広げられた両脚の間。
 褐色のうっすらとした陰毛の間から、赤い秘肉が覗いている。こんな美少女でもここはこんなに淫靡でグロテスクだ。
「見ないで……やめて」
「きれいで可愛いよ」哀願する少女に優しく彼はそう言って、三度指をそこに伸ばした。「こんなにべちょべちょにしちゃって……本当にエッチなんだね、エミリー」
「ちがう……ちがうよ……あ」
 指を入れられると、彼女はそれまでとは違った艶めいた声をあげた。
 さらに彼が指を動かし始めた時、扉の外から階段を昇ってくる音が聞こえた。
 まさかこの部屋には来ないだろう。メシを食っている間はよほどのことがないと席を立たない連中だ。
 だが、シーマスの願いも虚しく、足音はこの部屋の前で止まった。
 扉は閉めてあるが、鍵は掛けていない。


(誰……)
 最初に浮かんだのが安堵ではなく、焦りだったことにエミリーは愕然とした。
 助けを求めているのではないのだ、自分は。
 扉が開く音がすると同時にシーマスの左手で口を塞がれる。彼の右手は相変わらず自分の一番大切な部分に入り込んでいたが、そこから流れ込んでくる快感は途絶えていた。
 下段ベッドは四方をカーテンで覆われ、外から中は見えない。とはいえ、薄い古布だ。小さな音でも外に漏れるだろう。
「エミリー? いる?」
 のんびりした声は彼女が淡い恋心を抱くルークのものだった。
 昼食時に姿を見せないエミリーを探しに来てくれたのだ。そう思うと彼の優しさに涙があふれた。
(どうしよう……)
 しかし、助けを求めてもいいはずなのに、彼女の脳裏に浮かんだのは、この状態を彼に見つからないようにするということばかりだった。
 何故だろう。
 ここでルークに助けを求めて声をあげれば、彼はカーテンを引きあけ、非力な彼女ではどうしようもないシーマスを一撃でどかしてくれるはずだ。
 でもそれだけは嫌だった。シーマスに口を塞がれるまでもなく、彼女は物音ひとつ立てる気は無かった。
「いないのー?」
 ルークの足音が近づく。
 もしカーテンを引かれたら……。彼女は身をすくめた。
 だが、ほんの数瞬、様子を伺う気配がしたかと思うと、ルークの足音は彼自身のベッドの向こうに向かった。そこには彼の荷物が置いてある。それを探っているような物音がした。どうやら荷物を何か取りに来たようだった。
(私を探す為だけに来たわけじゃないんだ……)
 安堵のような失望のような感情が胸に落ちた。ルークが探し物をしている音だけが響く。
 先ほどまで我を失うほどの快楽を送り込んできた彼女の下腹は、男の指の妙な異物感を残すだけだった。体は冷めていた。
 シーマスの左手が彼女の口元からそっとどけられる。
 エミリーは今度こそ安堵の息をついた。
 シーマスも我に返ったのだ。こんな場所でパーティーの仲間に手を出すのはどう考えても得策ではないということを悟ったのだろう。
 魔術師らしく、人並み以上の好奇心を持ち合わせていた彼女は、未知の体験が未遂に終わったことが残念なような気もしたが、持ち前の倫理観が戻ってきて、やっと思い直す。
(これで良かったのよ……。良かった)
 あとはルークをやり過ごすだけだ。だがシーマスと目を合わせづらく、彼女は気まずく顔を横にそむけた。
「どうしたの?」
 シーマスのごく小さな囁き声、カーテンの外に辛うじて聞えないような声が耳元で響いた。息が耳に首筋にかかり、ごく僅かに髪が震える。
(どうしたって……何考えてるの)
 ここで自分が声をあげれば、彼女を組み敷いているシーマスがどんな目に合うか、彼は考えていないのだろうか。
 呆れる彼女に構わず、シーマスは続けた。
「別にいいよ、奴に泣きついたって。助けてって言ってみれば?」
 エミリーは振り向いた。たじろぐほど近くにあるシーマスと目が合う。彼は焦るどころか、薄笑いを浮かべていた。
「飛んできてカーテンを開けてくれるよ? そんでオレをぶっとばして、あんたを助けてくれるよ。可哀想に、こんなにはしたない姿にされちゃって、大股開きでしかもびっしょり濡れちゃってるもんね……」
 再び顔に血が昇るのが分かった。その瞬間、シーマスが再び指を静かに彼女の体内で蠢かせ始める。
 冷めていた体にすぐに熱が回り始めた。エミリーは唇を噛み、シーツを握り締めて、声を、吐息をこらえた。
 シーマスは彼女にぴったりと重なって体重を預け、指だけを静かに動かしながら、耳元で囁き続けた。
「声あげないの? 我慢しなくてもいいのに。ヤツにもお前の一番大事なとこを見せてやれよ」
 口を開いてしまうと声が漏れてしまいそうで、エミリーは唇を噛んだまま、ただ首を振った。
「奴もお前のこんな姿見たら飛びついてくるよ。ねえ、それとも三人で仲良くしようか」
 体の芯を優しくかき回され、切ないほどの快感が何度も押し寄せる。声を漏らせない代わりに涙が流れた。
(早く出て行って……)
 彼女は快楽の拷問に耐えながら、ルークが出て行くことだけを祈った。
 通じたわけでもないだろうが、やがて物音が収まり、ルークが立ち上がる音がする。
「ホラ、あいつ出てっちゃうよ? いいの? この姿見せてやれよ」
 囁きながら、シーマスの舌が彼女の耳を這う。それすら快感となる。秘所がまださらに潤い、熱を帯びてくるのが分かる。
 シーマスの親指が陰毛を掻き分け、彼女の割れ目の端で固くなりつつある陰核を探り当てた。中指を膣で動かしながら、器用に親指でそこを撫で擦られる。エミリーは閉じた目の奥に光が散ったような気がした。シーツをつかむだけでは情熱の行き場が足らず、思わず自分にのしかかるシーマスの腕をつかむ。
(早く……早く……出て行って)
 もう耐えられない。
 陰核からの鋭い快感は、体内から送り込まれるものとはまた違った。この全身を駆け巡るふたつの快楽を思うさま味わいたい。自分が獣になってしまったような気がした。
 ぷちゅ、という粘ついた淫らな音が微かに自分の局部から聞こえる。
(ああ……ルークに聞こえたらどうしよう)
 羞恥すらも自分を興奮させる道具だと、エミリーはようやく悟った。
 だから先ほどから自分を恥ずかしがらせる言葉を吐くシーマスに嫌悪がもてない。当然だ。彼が与えているのは快楽だけだから。
「いくら声を堪えても、ここからエッチな音がしちゃうんじゃ意味ないよ」
 粘ついた音をさらに立てて彼女の内部を愛撫しながら、シーマスは意地悪く囁く。
 それはカーテンと、ルーク自身が立てる物音にかき消され、彼の耳には届いていないようだった。
 エミリーは小さな声をやっと絞り出した。
「やめて……言わないで」
 もっと言って。
 シーマスは恐らく自分の言葉とは正反対の無言の願いを聞き入れるだろう。自分自身が知らなかった、認めたくなかった望みを巧みに引きずり出してきたのだから。
 彼の腕をつかむエミリーの手に力がこもった。
 やがてルークは扉を開け、出て行った。階段を下りていく音がする。
「なーんだ。なんで助けを求めなかったの?」シーマスは再び両手をついて彼女の真上で起き上がりながら言った。「あいつに邪魔されずにオレと続きがしたかった?」
 エミリーは首を振った。
「嘘つきめ」
 男の吐き捨てるような言葉に彼女は酔いしれた。
 シーマスはさらに指を激しく動かし始める。ぶちゅぶちゅという淫靡な音が遠慮も無く部屋に響いた。
「うあっ……」
 エミリーは耐え切れずに声をあげた。
「もう声出しても大丈夫だよ。ここは昼メシ時はほとんど誰も客室には入ってこないし」
「でも……」
「大丈夫だって。ねえ、気持ちいいんだったら声聞かせて」
 優しくなだめるような声。そんな声を今日まで彼から聞いたことはなかった。肌を合わせるというのはこういうことか。仲間や友人の仮面をかぶっている知り合いの、その内側を覗くことか。
「ねえ」
 もう一度シーマスが言うと同時に、エミリーの体内にもう一本指が差し込まれ、押し広げられた。
「あああっ!」
 苦痛と快楽に彼女はついに叫んだ。
 今まで一度もあげたことのないような、上ずって深い、嬌声としか呼べないような淫らな声。
 体の芯からあふれ出るような、悦楽に満ちた自分の声を聞き、さらにエミリーは昂った。体が反れる。
 もう止まらない。自分の体はうねり、どこかに向かって流れ出している。知らないところへ。


 実際、ルークが出て行くまではひやひやした。
 エミリーも気が気ではなかっただろうが、シーマスの方こそ首の皮一枚のところに刃物をつきつけられているようなものだった。
 プリシラも恐ろしいが、ルークが本気で怒ればその比ではないだろう。もしエミリーが助けを求めて声をあげれば、飛び込んできたルークに血だるまにされていたはずだ。正義感に満ちた彼は、女を陵辱するような男が一番嫌いだった。
 しかしそんな危険を冒してでも、シーマスはエミリーを責め立ててやりたかった。元来、スリルに目のない人間なのである。
 危機を自分の読み通りに回避したことで、シーマスはさらに興奮していた。彼自身も呼応するように昂る。
 ルークをやり過ごして、エミリーを頑なに包んでいた恥じらいの殻も一枚破れてしまったようだ。
 彼がさらに人差し指を彼女の中に差し入れると、聞いたこともないような、少女のものとも思えないような淫靡な声があがる。
 シーマスは少女の両膝を立てさせ、自分の指を突っ込んでいる、彼女自身にじっくり目をやった。
 あふれ出した愛液が自分の指にまとわりつき、それでも足りずに割れ目の先、陰毛を濡らして光らせ、尻の方まで広がり、彼女のローブに垂れて染みを作っている。
「あーあ、パンツ脱がせてやったのに、ローブまで垂らして汚しちゃって……恥ずかしい奴」
「うっう……」
 シーマスが彼女の羞恥心をわざと掻き立てるように言うと、少女は上気した顔で歯を食いしばり、声を漏らした。いじめられて興奮するタイプの女らしい。見た目通りというか、見かけによらずと言えるのか。
 彼は一度指をそこから引き抜いた。さきほどは中指一本できつかった、男を知らない少女の蕾は、シーマスの愛撫によって、文字通りほころぶように少しずつ彼を受け入れようとしていた。
 彼は蜜に濡れた自分の指を、エミリーが見えるようにねっとりと舐めた。まだ若い少女の愛液は酸っぱいような味と、生臭い女の肉の匂いが微かにした。
 シーマスはその指を半開きで息が荒いエミリーの口元に押し付けた。
 彼女は嫌がって顔をそむける。だが無理にその柔らかな唇に指をねじこんだ。
 口内の柔らかい肉につつまれ、指先から快感が駆け上がる。彼はわずかに体を震わせた。
「お前が汚したんだから、舐めて綺麗にしてよ」
 エミリーは顔を歪め、首を振った。だがすぐに彼の指はざらざらとした、湿った柔らかな舌に覆われた。声が漏れそうになるのをやっと堪える。
 素直な娘だ。もう完全に性の快楽の言いなりだ。恥じらいや道徳や威厳を武器にそこから逃げ出す気もないようだった。
 結婚前に、しかも恋人でもない男との肉体交渉を持つくらいなら、舌でも噛みかねないような潔癖な女に見えたが、見た目や言動では本質は分からないものだ。
 指を舐め回されるだけでこんなに気持ちいいのだ。この小さな口に自分の猛った性器を突っ込んだらどれだけの快感だろう。
 頃合を見て、彼は指を彼女の唇から引き抜いた。
 少女の唾液に濡れた指を、彼女自身の豊かな乳房にこすりつけてぬぐう。
「ああっ」
 エミリーは身をよじった。恥じらいでも抵抗でもなく、痴態としか呼びようのない仕草だった。両手を縛られているせいで、わずかに体を動かすだけで、柔らかな乳房がぷるぷると揺れる。
「気持ちいい?」
 乳房を揉みしだきながら尋ねると、エミリーは快楽に潤んだ目で、何かを訴えるように彼を見つめたが、首を縦にも横にも振らなかった。
 生意気な。
 シーマスは再び彼女の秘所を覗き込む。膝をさらに大きく開かせ、立たせた。その姿勢はまるで蛙か何かのようだ。その真ん中にぐっしょりと濡れて開く、恥毛から覗く赤黒い肉の花もとても動物じみている。
 エミリーの太ももをつかむと、驚くほど柔らかく、彼の手が彼女の肉に食い込んだ。ふくらはぎを自分の両肩に掛けさせると、彼女の脚の間はこれ以上なく広がる。
「あっあっ……いや!」
「うるさいよ」
 まだ残っている恥じらいから悲鳴をあげるエミリーをぴしゃりと黙らせる。
 優しくなだめ、時に鋭く罵る。飴と鞭を使い分けることで、少女の感情が揺さぶられるのが手に取るように分かる。
 エミリーは黙り込み、彼に怒鳴られた時のようにすすり泣くような嗚咽をあげた。
 普段であれば苛立ちしか感じないその声が、自分が与えた快楽を源として漏れていると思うと、耳に心地よかった。愛しささえ感じる。
 そうしておいて、彼は彼女の秘所を視姦する。
「いい子だね……可愛いよ」
 優しくつぶやき、指先でそっとそこをなぞると、内側から泉のようにとろとろと愛液が溢れてきた。男に見られていると知って、さらに感じているらしかった。
 シーマスはあふれ出る泉の入り口に舌を這わせた。むっとするような湿り気と彼女の体温が彼の顔を包む。
「あぁぁ……」
 深い喘ぎがエミリーの喉からほとばしった。
 女の肉の匂いと微かな小水の残り香が鼻に入り込んだ。
 こんなに愛らしい、まだ若い少女なのに、なんて淫猥なんだろう。そこは生々しく動物的で、生気に満ちていた。
 舌を尖らせて、彼女の体内に侵入させる。
「は、あぅ、あっあっ……」
 エミリーは悦びに満ちた声をあげる。彼の肩にある両脚が快感に耐え切れないように踊った。
 じゅるじゅると音を立てて、少女の愛液を吸い、舌を割れ目に沿って撫で、今度は陰核を撫でる。それは可哀想なほど充血して、ぷっくりと起き上がっていた。
「あ、そこ……待って……」
「待たないよ」
「お願い……ふ……そこ、あっ…つらいの」
「どうつらいの?」
 小さな肉の蕾を舌で転がしながら、合間に彼は意地悪く尋ねる。
「だって…だって……分からないけど……あ」
「だって、何? ハッキリ言えよ」
 さらに強く舌を動かす。
「はぁぁ……」エミリーの口から漏れる喘ぎは、もう完全に肉欲におぼれる女の、雌のものだった。「ああ、ああ……あぅ、うう……意地悪言わないで」
 媚に満ちた愛らしいその言葉に、彼の一物に一気に血が流れ込んだ。シーマス自身ももう暴発しそうだった。
 彼は体を起こすと、彼女の両脚を肩から下ろし、ベルトを外してズボンの紐を手早く解いた。
 エミリーはその光景を見て、身を震わせた。紅潮した顔が恐怖に歪む。シーマスはしかしそこに絶対的な拒絶や嫌悪を見ることはなかった。
 紐を解いたズボンと下着をずり下げると、屹立した彼自身が待ちきれないように飛び出した。
「見たことある?」
 エミリーの目を覗きこみながら訊くと、予想通り少女は首を振った。優越感、征服感がシーマスを満たした。この娘は男を知らないのだ。それを今から自分が貫く。
 エミリーを改めて見つめる。なんて愛らしい動物だろう。乳房をはだけ、濡らした股を開いて小さく震えている。
 一瞬、面倒とも思ったが、シーマスは手を伸ばして、彼女の両手首を縛り上げたままの細縄を解いてやった。手が痺れていたのか、そんな理性も吹き飛んだか、もう彼女は体を隠そうとはしなかった。
 自分だけがっちり服を着ているのも格好が悪い。体がほてっていることもあって、シーマスはもどかしく上着を脱ぎすてると、彼女に改めて覆いかぶさり、ぎんぎんに張った彼自身を彼女の体内への入り口にあてがった。
「まって……まって」
 エミリーは首を振った。
「どうして? そっとするよ、大丈夫だから」
 シーマスは再び手を伸ばして、可憐な少女の髪を撫でてやった。必死に堪える欲情で手がわずかに震える。早く。早く入れたい。
「だって……そんな大きいの入らないよ。裂けちゃうよ」
 可愛いといえばあまりに可愛らしい乙女の言葉に、彼の男根はさらに猛った。
「入るよ。大丈夫だよ」
 無理にぶちこんでやりたい衝動と戦いながら、彼はあくまで優しく言葉を吐き出した。必死で抑制している自分にさらに興奮する。
「これだけ濡れてるんだから、大丈夫。痛いかもしんないけど、我慢して」
 もうシーマスも限界だった。
 エミリーの返事を待たず、濡れそぼる彼女の中に彼自身をそっと、だがためらわずに押し入らせた。
「はっ……!!」
 今度ははっきりと苦痛の声がエミリーから漏れた。
 きつい。だがぬるぬるだった。尖った男性自身が彼女の内部の襞を押し退け、蹂躙している。
「ああ……」
 シーマスもたまらず声を漏らした。
 女の中は、くだらないことしか言い残さなかった神が残した最高の遺産だ。
 エミリーが破瓜の痛みに耐えているのは分かったが、彼はもう待てずに腰を動かして、彼女の未熟な肉襞を突き始めた。エミリーの華奢な体、重たげな乳房が揺れる。
 涙が出そうな快感が股間から伝わり、背中を這い登って全身に広がった。


 体を引き裂かれるような激痛に、彼女は身を縮ませた。
 痛みのあまり歯を食いしばるのが精一杯だ。声も出ない。
 快楽を送り込んできた体の芯から、今度はまっぷたつに裂けてしまいそうな鋭い痛みが突き抜ける。
 絶対的な異物感を感じさせる杭のようなシーマス自身は、彼女を貫いてほどなく、さらに苦痛を与えるように動き始めた。
 体の奥で感じる引きつれたような、鋭い痛みにエミリーはただ耐えた。
 何故止めてと言えないのだろう。
「あぁ……はぁ」
 先ほどまでエミリーをいい様に責め立てていた男の、快感に屈服した喘ぎが聞こえる。
(私が……私の体の中が、シーマスを悦ばせている。いつも私を叱り飛ばし、今日も私を強引に組み敷いた彼を)
 そう考えるだけで、この痛みも誇りのような、そして愛しいもののような気持ちがした。
 そして激痛の奥に火花がともるように、同じでいて、異なる感覚が伝わってくる。それこそが真実の悦楽の末端だということを、エミリーは悟っていた。
 もう少し……それを捕らえるまで。
 エミリーは縄が解かれた手を、自分に苦痛を与えている張本人でありながら、この場で唯一すがれる男の背中に回した。無我夢中だった。
「エミリー……」
 上ずった声でシーマスが腰を動かしながら喘ぐ。彼女の名前を呼ぶ。
「は……シーマス……」
 自らの声の思いがけない淫らな響きは、エミリーを震わせた。
 名前を呼ぶことさえ少ない男を、こんなに甘く、切ない声で呼ぶことがあるなんて。
「エミリー、可愛いよ、可愛いよ」
 シーマスの汗ばんだ、薄い胸が自分の体とぴったりと重なる。シーマスの動きに合わせて震えていた乳房がその重みでつぶれた。
 体温が中と外で混ざり合う。抱き締められるのはこんなにも幸福だったのか。たとえ高尚な愛など無くても。
「シーマス。シーマス。シーマス……」
 エミリーは熱に浮かされたように何度も彼の名を呼んだ。
「エミリー……」名を呼ばれた男は、愛しそうに自分を見る。「ごめん、ごめんね。痛くない?」
 今さら……あんな大きくて固そうなものをねじ込んでおきながら、今さら。
 だが思いとは裏腹にエミリーは首を振った。
「大丈夫。大丈夫だから、止めないで」
 考えるより早く言葉がこぼれる。
「止めないよ。エミリーの中に出すよ」
 その意味が分からないはずはなかったが、エミリーは何度もうなずいた。恐怖も痛みも何も勝てない。今自身を支配している激情の名を彼女は知らなかった。
 体の芯を貫く苦痛は痺れのように甘みを帯びて広がる。苦痛も快楽も根本は同じなのだ。
「あっ……ああ……シーマス……」
 熱い、汗にまみれた背中に強くしがみつく。体をうねり走り抜ける圧倒的な感覚を伝えたい。だが、二人の肌は重なるばかりで溶け合うことはない。それがもどかしくて、さらに強く強くしがみつく。
「エミリー、気持ちいいよ。気持ちいい。最高だよ」
「私も……私も。シーマス、シーマス」
 好き。
 喉の奥からこぼれかけたその最後の一言を、ほんの僅かに残った理性で飲み込んだ。
 それは言ってはいけない。どんなに理性を失っても。そんな気がした。
 男がひときわ荒い息を放った。
「エミリー……出すよ」
「シーマス。お願い、出して。私の中に出して」
 信じられないほど淫らな言葉が滑り出た。先ほど飲み込んだ言葉が持つ禁忌の重さに比べれば、鳥の羽のようなものだった。
「ああっ……あ」
シーマスが動きを止めて呻いた。
「ああ……!」
 エミリーも一緒に呻く。それは性の絶頂ではなかったが、脳裏の奥で飛び回る火花を捕まえたような、ひとつの到達点だった。
 シーマスの日焼けした体から急に力が抜ける。
 彼はしばらくエミリーの体に体重を預けていた。互いの荒い息が空間を満たす。
 やがてシーマスは手をついて身を起こし、彼女の中から自分のものをそっと引き抜いた。
 こっそり目をやると、先ほどまで固く猛り、彼女を蹂躙していたそれは、力を失って垂れ下がり始めていた。
 シーマスはそれを無造作にズボンの下にしまいこみ、紐を結んでベルトを締めた。脱ぎ捨ててあった上着を乱暴につかみ、エミリーの方を振り返りもせずに立ち上がる。
 エミリーの方はと言えば、睦みあいの余韻で、まだ頭に霞がかかっていて、動く気力もなかった。
 シーマスはカーテンをめくり、ベッドの外に出て行った。
 別人のような男の背中を見失い、自分だけ夢の世界に置き去りにされたように、エミリーは途方にくれた。ようやく上半身を起こし、自分の体を見下ろす。
 胸元の肌は赤く染まり、鎖骨にはシーマスの唇の痕がある。大きくめくられたローブから覗く股間はまだ粘液に濡れ、膣からはそれとともに彼が彼女の体内で吐き出した精液が僅かに漏れ出していた。よく言われているような破瓜の血は見当たらなかった。
 すぐに力を失って我に返った彼の性器と、性の余韻から自然には元に戻れない自分の性器はなんて違うんだろう。
 エミリーは惨めにそう思った。
 だしぬけに再びカーテンが持ち上がり、シーマスが顔を出した。上着を着込み、先ほどの劣情などは微塵も残っていない、いつもの乾いた表情だ。
 彼は無造作に手ぬぐいをエミリーの目の前に突き出した。
「使えば? そのまま捨てちゃっていいよ」
 彼女は呆然としたまま、それを受け取る。自分の体を見、手ぬぐいをどう使うのか、思い当たった。さらに小さな袋に入った粉薬を差し出される。
 何だろう。
 今度は不審に思い、彼女が受け取らずにいると、シーマスは苦笑しながら言った。
「避妊薬。すぐに飲んどけ」
 エミリーがやっと合点がいき、それを掌に受け取ると、彼は微笑んだ。
「内緒ね」
 言うが早いか、シーマスの姿は消え、今度こそドアを開けて部屋を出て行ったようだった。
 手ぬぐいで体を拭くことも忘れ、彼女は再び呆然と粉薬を見つめた。
 貴族の間に出回っている避妊薬は、血の流れを荒らして、確実ではないものの、妊娠を防ぐ効果がある。魔術師の知識として知っていた。数多く作られているとはいえ、庶民にとっては決して安くはない。
 ご丁寧にありがとうといえばいいのだろうか。
 エミリーは自分の中の奇妙な感情に戸惑った。
 「内緒」とは、何のことだろう。今のほんの一時にも満たない、二人で共有した乱れた時間のことだろうか。
 何も。今は何も考えられない。
 肌を重ねたからと言って、彼に貞操を捧げたとは思っていないし、愛するようになったわけでもない。けれど全く想像もしなかったシーマスの姿を五感すべてで感じて、彼に対して得体の知れない気持ちが沸き起こってくる。嫌悪なのか、興味なのか、親近感なのか。言葉には表せない。かたちもはっきりとしなかった。
 エミリーは混乱しながらも、避妊薬を一気に飲み干した。


 内緒ね、などとかっこつけて部屋を出たはいいが……。
 シーマスは頭を抱えたかった。
(あ~~~、オレはバカか。なんでやっちゃったんだろう)
 ほんの少し、いたずら心が湧いただけなのだが、とんでもないことになった。
 内緒と言ったところで、エミリーがプリシラに泣きつけば、鉄拳制裁が待っている。歯という歯を折られるかもしれない。
 暴力の果ての陵辱ではない、とは断言できる。エミリーもすさまじいほどの抵抗をしたわけではないし、経過はどうあれ感じて、悦んでいたのは間違いはない。
 が、我に返った彼女がそう思うかどうかは、全く定かではない。
 ムードにつけこまれて抱かれた、とエミリーが言えば、やはりプリシラに殴られるだろう。雰囲気に酔った方も悪いと思うが、プリシラやエミリーは酔わせた方が悪いと考えるのはまず間違いない。
(それにしても可愛かったな……エロくて)
 思い出すと、つい口元が緩んだ。
 しかし、あの処女とも思えないような乱れようは、なかなか無い。
 もしかしてルークではなく、自分に気があったんではないだろうか。
 あるいは、今日のことをきっかけに、あんなに悦ばせた自分に惚れるかもしれないではないか。
 そうすれば、抱かれたからといって、プリシラに告げ口することもないかもしれない。
(でも、それはそれで面倒だな……)
 抱いている時はともかく、素に戻るとやはりエミリーは苦手なタイプだった。本気で惚れられたらしつこそうだ。
 万一、彼女が避妊薬を飲まず、あるいは飲んだとしても薬が効かず、子供でもできたら……。
 考えたくない。
 どう考えても良い方向にいかなそうだ。とりあえず、今日は夜まで雲隠れしていよう。
 食堂に通じる階段を避け、考え事をしながら、裏口に通じている細い階段を降りていたシーマスは、途中で階段を踏み外し、一気に下まで転げ落ちた。


おわり。
読みたい!と思っても、女性向け・ファンタジー系男女のH話は数が少ないので、自分で書いてみました。
(他にも知ってる、自分も書いているという方、ぜひメッセージでお知らせください! 男性向けのハードなのは結構です……)

RPG的世界のソフトエロ小説のネタはなんぼかあるので、また書いていきたいと思います。
小心者なので、柔らかめに感想などくださると嬉しいです。


**続編連載始めました**
↓のリンクから、よろしければドウゾ〜
web拍手
↑よろしければ、拍手とコメントをお願いします。ありがとうございました。

★続編『王都の冒険者たち』はコチラ

作者ブログ『椰子の実ライブラリ』
評価
ポイントを選んで「評価する」ボタンを押してください。

▼この作品の書き方はどうでしたか?(文法・文章評価)
1pt 2pt 3pt 4pt 5pt
▼物語(ストーリー)はどうでしたか?満足しましたか?(ストーリー評価)
1pt 2pt 3pt 4pt 5pt
  ※評価するにはログインしてください。
ついったーで読了宣言!
ついったー
― 感想を書く ―
⇒感想一覧を見る
名前:
▼良い点
▼悪い点
▼一言

1項目の入力から送信できます。
感想を書く場合の注意事項を必ずお読みください。
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。