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第9話 性癖
おじゃん丸は、すでに真由子のヘアヌードまで見ているのに、意外なことにいわゆるパンチラ写真ばかりをリクエストして来た。
これは真由子にとっては、ラッキーなことだった。
全裸画像のあと、いきなりあそこの画像を要求されていたら、いくら淫乱妻のキャラを演じ切るつもりの真由子でも、おじゃん丸との関係を断つしかないと思っていた。
パンチラ写真で画像枚数を稼げるなら、それに越したことはない。
もしかしたら、パンチラ写真程度のレベルのうちに、株の負け分を取り戻せてしまうかも知れなかった。
真由子はいつまでもおじゃん丸が、パンチラ写真を要求して来ることを願いつつ、自分の恥かしいポーズをカメラにおさめた。
立ったままショーツが半分程度見えるところまで、スカートのすそを上げたポーズ。
後ろ向きでスカートをまくるポーズ。
4つんばいでスカートをまくったポーズ。
床に体育座りをして、ショーツが見えるようにちょっと脚を開いたポーズ。
さらには盗撮のように、「スカートの中を下から写して」というリクエストもあった。
ショーツの色や形にもこだわり、白やピンク系のごくオーソドックスなデザインのものを好んだ。
時にはパンストを穿かせ、OL風のタイトスカートを指定したりもした。
おじゃん丸は、チャットでは黒のTバックに興奮していたが、そのリクエストはまだ来ていない。
真由子はその下着を持っていなかったので、リクエストが来たら買いに行くしかないと思っていた。
もちろん、このような写真をひとり部屋で撮るのも、かなりの抵抗はある。
全裸写真は直立不動だったからまだよかったが、今度はポーズを取らなければならない。
まるでエロ本のグラビアモデルのように、男に媚びを売るポーズだ。
それにしても、自分で自分のスカートをめくり、下着を露わにするという行為は、まるで客を挑発する娼婦のようで、真由子の羞恥心を大きく揺さぶった。
着替えやトイレで毎日するスカートをまくる動作と、男に見せるために、写真におさめるためにするスカートをまくるという動作。
同じ動作が、目的が違うとこんなにも恥かしいものだということに真由子は戸惑った。
いつものように薄化粧を施した真由子の顔が赤く火照った。
恥かしさは、間違いなく興奮に繋がる。
顔が赤らみ、胸が高鳴り、血流が早くなるのは、興奮しているからだ。
おじゃん丸に見られる写真は顔が見えない。
しかし、いま自分には自分の顔が付いているのだった。
まごうことなき自分の顔と自分の体が、男を挑発する恥かしいポーズを取っているということに真由子は胸が高鳴り、体の芯が火照り、濡れた。
「もしかしたら、私にはこういう願望があったのかも……」
頭に浮かんだその考えを、真由子は即座に否定した。
私はお金のためにイヤイヤしているに過ぎない。
顔が分からないから。おじゃん丸とは会うこともないから。
私が忘れれば、それでなかったことになるから。
だから私でも、こんなことができるのだ。
私はこれでなにも傷つかない。
そう、なにも……。
「それにしても……」
興奮と不安をオナニーで鎮めた後、真由子はおじゃん丸のことを考えた。
これまで、男にどうやったら好かれるか、男をどうやったら挑発できるかなど考えたこともない自分が、初めて男の機嫌を取り、羞恥心を捨てて信じられないようなポーズを取っている。
人生で初めて、自分を自由に操り、辱めているおじゃん丸とは、一体どういう男なのだろうか、と。
間違いなくおじゃん丸は下着フェチだ。
それも派手なものや過激なものよりも、ごく日常的な普通のものを好む。
真由子はその方が断然、屈折していると感じた。
夫は真由子が普段、身に付ける下着にそれほど関心を示さない。
大体が下着の中にある体がすでに我が物なのに、下着にこだわる理由がない。
もちろん、真由子が穿いたことのない、黒や赤のスキャンティーのような過激な下着を身に付けたら、興奮しまくるような気はする。
それは人間が変化を好むからだ。
そこから考えると、普通の下着に興奮するおじゃん丸は、おそらく普通のものにも普段、接していないということになる。
それは女にまったく縁のない男ということか。
下着フェチの男が多いことは真由子も知っていた。
彼女のパンティーを10万で買うと言った男もかつていたし、実家に住んで居た頃は何度か、干してある下着を盗まれたこともある。
前者は酔った席での冗談だろうし、本人の前で言うだけ健康的だ。
しかし、後者は明らかな犯罪者で、陰湿でどこまでもキモイ。
そしておじゃん丸は後者のタイプとしか思えなかった。
デイトレで日中ずっとパソコンに張り付き、夜はチャットでオナニー。
その性癖は下着フェチ。
おじゃん丸の人物像は、どう考えてもキモイ、オタク系の男にしかたどり着けない。
そんな男に、自分はオナニーネタを提供している。
そう思うと鳥肌が立つほどおぞましかった。
一日も早く株の負け分を取り戻して、普通に戻りたい。
真由子は焦った。
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