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第29話 玩具
3回目の鈴木との密会を終えて、真由子はまた精神が不安定になっていた。
思えば、株をはじめてから株価に一喜一憂し、感情の振幅が激しくなった。
そこへ鈴木とのことで、さらに精神的に揺さぶられ、喜んだり、悲しんだり、興奮したり、怒ったり、感じたり……とにかく極端な精神状態ばかりが続いていた。
退屈な毎日から抜け出すためにはじめた株だが、あまりにもたくさんのことがあり過ぎた。
こうなると、失った平穏のありがたさが身に沁みる真由子だった。
こんなことなら、株なんかやらなければよかった。
鈴木になんか近づかないで、借金のことを夫にすべて打ち明ければよかった。
鈴木に会わなければよかった。
初めての日、緊張する鈴木に協力して、普通にセックスをすればよかった。
鈴木の変態的な要求に応じなければよかった。
数々の分水嶺で、自分が選択した道を後悔した。
証券口座のキャッシュは、順調に増えてはいたが、それと比例して精神的なダメージも、真由子をジワジワと苦しめていた。
「結局、自分は鈴木のおもちゃでしかない」
「500万円で買われたおもちゃ」
その言葉が、頭の中をグルグルと駆けめぐった。
鈴木がこれから、どんな屈辱的な要望を出しても、自分は受け入れるしかない。
どこまで堕ちれば、自分は救われるのだろうかと思うと、真由子の頬に涙がこぼれた。
真由子が想像する、これ以上の変態的な行為とは、緊縛、ロウソク責め、アナルセックス、浣腸……。
真由子の乏しいSMの知識でも、そのくらいのことは頭に浮かんだ。
アダルトグッズには興味があったし、ソフトな露出プレイも、また体験したいと思うほどの大きな興奮と快感があった。
しかし、本物の変態プレイなど、真由子は生まれてから一度として、興味を持ったことなどなかった。
もうここまでが限界。
そう思ったが、すでに真由子はここまで、何度もその限界を超えて来ている。
そして、真由子の限界は、真由子が決めることではなく、いまやすべては鈴木の意思が決定することだった。
真由子は、夫の前では明るく振舞った。
鈴木の影響が、家庭にまで及ぶのが癪に障るからだ。
あの男が自分に影響を与えられるのは、金曜の午後だけで十分。
それ以外は忘れてやる。
真由子はそう思った。
しかし、家でトイレに入るたびに、ビデオ撮影されたことを思い出す真由子だった。
夫との夜の営みでは、真由子は鈴木にしたことを、夫にもしてあげたいという気持ちがあった。
それが夫に対するせめてもの罪滅ぼしだった。
特にフェラチオは毎晩、してあげた。
夫はそのことを特別、喜んだが、真由子はどうしても鈴木のあの大きなモノと比べてしまい、夫の貧弱さばかりが刻み込まれていった。
口の中で、大きくなった時、そのキツさ、、暴れ方が鈴木のモノは凄まじかった。
比べると、夫のモノは、弱々しく、頼りなかった。
それでも夫のモノは、やはりいとおしく、真由子は、ついに口に発射することを許した。
すでに、鈴木の精液を口で受け止めた晩のことだった。
夫は初めての口内発射に、真由子を強く抱きしめ、涙を流さんばかりに喜んだ。
精液を口に含むということが、深い愛情がなければ決して出来ない行為だと夫は信じているようだった。
しかし、精液を口に含むことなど、愛情のバロメーターにはなり得ないと真由子は思っている。
例えば、セロリが嫌いな人は、セロリを口に入れたくない。それと同じで真由子は精液が嫌いなだけだ。だれの精液でも。喜んで精液を飲む女は、精液が好きなのだ。ただそれだけのこと。
それでも、感激した夫は、「明日、デパートに行って、洋服でも買おうよ」と、ご褒美まで約束してくれた。
男が求めることをして、褒美をもらう。
結婚も鈴木との愛人契約も、結局、同じだった。
「女って、やっぱりそういうものなんだ……」
人類で最古の職業は、売春だと、なにかで読んだことがあったが、なるほど女の一生は売春なんだなと、真由子は夫に向かって自嘲ぎみに微笑んだ。
売春相手が、夫ひとりだけなら貞淑な妻であり、外にもうひとりいると、淫乱妻となる。
自分がいましているのは、単にそういうことだと真由子は思った。
いつもの自己防衛本能による都合のいい言い訳だった。
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