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第2話 刺激
真由子が株トレードをはじめたのは、ニュースでデイトレーダーの特集を見たからだった。
そこには、100万円を1年で1億円以上にした学生や、ヘソクリで毎日着実に1万円前後を稼いでいる主婦などが紹介されていた。
「デイトレーダーか。1日中、家にいる私には最適かも……」
結婚して4年。真由子は変化のない繰り返しの毎日に退屈していた。
本心を言えば、外に働きに出たい。しかし、何事にもやさしい夫も、それだけは首を縦に振ってくれなかった。
その理由は、真由子が美しすぎるからだ。
実際、真由子は小学校の低学年の頃から美人と言われ続け、そのことに関して本人も否定はしない。
謙遜して「そんなことないですよ、私なんか〜」などと言おうものなら、間違いなく同性の反感を買ってしまうからだ。
真由子はイヤというほど、そんな経験をして来ていた。
夫は、もしこの美貌の妻が外に働きに出たら、すぐさま周囲の男たち全員にチヤホヤされ、少なくない数の男たちから口説かれることを心配しているのだ。
かつて自分が真由子に対してそうだったように。
真由子は夫に信用して欲しかった。夫にもっと自信を持ってもらいたかった。
なにより、そんじょそこいらの男たちは、一見して高嶺の花と分かる真由子クラスの女には、気後れしてチョッカイなど出して来ないものだ。
そのことは真由子が一番よく知っている。
真由子を口説こうとする、自信のある男など滅多にいないことを。
夫がその滅多にいない自信のある男のひとりだったのだが、結婚した途端に守りに入り、嫉妬深くなってしまったようだった。
夫は真由子より2つ年上の大手都市銀のエリート社員。
収入に不満があるわけではなかった。
真由子も人並み以上の贅沢を望んでいるわけではない。
ただただ、マンションでひとりで過ごす毎日が孤独で、つまらなかった。
なにかをはじめたい。強くそう思っていた。
そんな時に見たデイトレーダーのニュースに、真由子の心は動かされた。
早速、初心者用の株の本を数冊買い求め、ネット証券に口座を作り、デイトレというものをはじめてみた。
銀行マンの夫には内緒だった。金融のプロの夫が賛成してくれるとは到底思えなかったからだ。
資金はOL時代の蓄えの200万円をあてた。
デイトレで億万長者になった人の本も読んでいたので、その通りに目標は毎日1%の儲けとした。
「毎日2万円も儲かるのかあ。え〜と、ひと月では40万くらい? キャ、すっご〜い」
本当に毎日1%勝てるのならば、資金の200万は162日後には5倍の1000万円を超え、394日後には億万長者になってしまう。
そんなに簡単に儲かったらだれも苦労はしないが、無責任なマスコミがひと握りの成功者のサクセスストーリーで煽り、ここ数年、ネット証券で株トレードをはじめる人は急増していた。
ドキドキしながら株を買い、ちょっと騰がればすかさずマウスを操作して売り注文を入れ、利益を確定する。
夫に内緒で毎日200万円のお金を動かすスリルは、真由子を夢中にさせた。
「こんな興奮はじめて。まだ胸がドキドキしている……」
初めて異性に手を握られた時、初めてのキス、初体験……とうに忘れた体が震えるほどの緊張と興奮がそこにあった。つまりは刺激だ。
真由子はお昼の休憩時間を除く朝9時から午後3時まで、ノートパソコンで株価とにらめっこする毎日に没頭した。
そして、勝ったり、負けたりしながらも、なにもなかったこれまでのつまらない毎日では得られない刺激に満足していった。
精神的な刺激は、肉体的な刺激も呼び起こすようで、高鳴る胸をなだめるように、オナニーの回数も増え、夫との夜の営みも頻繁になった。
夫は結婚以来、どんなに疲れて帰って来ようが、毎晩でも真由子の体を求めた。
が、夫とのセックスに満足していない真由子は、生理期間を長く偽ったり、「眠いの」、「疲れているから」などと夫をやんわり拒絶し、意図的に週1回のペースまで下げていた。
夫が真由子に不満があるとすれば、この一点だけだろう。
真由子も夫が嫌いなわけではない。
ただ夫とのセックスでは、イクことができないのだった。
挿入はおろか、愛撫でも夫は真由子をイカせてはくれなかった。
夫だけが真由子の均整のとれた瑞々しい肉体にひとり溺れ、撃沈する。
そんな一方通行のセックスに、彼女は積極的にはなれなかった。
それでも、株トレードで刺激を受け高揚している真由子の肉体は、夫に抱かれることを望むようになった。
ジワジワと損失を膨らます株トレードだが、そこだけは2人の夫婦生活にプラスに作用した。
夫は明るくなり、新婚当初のようなやさしさを見せてくれるようになった。
真由子にしてみれば、例え自分のお金にしろ、夫に内緒で株に手を出しているという罪悪感も大きい。
そんな気持ちが夫へのサービスとなり、夫が最も興奮する恥じらいながらも耐え切れずに喘ぐ女を過剰に演じて、夫を喜ばせた。
嫌いなフェラチオも、求められれば応じてあげた。
それだけで機嫌よく毎日を過ごす夫を見て、男なんか単純だなと思う真由子だった。
でも、その単純さは好ましかった。
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