警告
この作品は<R-18>です。
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15 帰還
医務室でヲトはレオの傷を見てやっていた。逃げる途中で衛兵達と戦った時の傷が、腕や胸に付いていた。
ヲトは始終無言で手当をした。頬の傷を見る時、ヲトはわざと乱暴にレオの顔を横に向かせた。
・・・怒っている。
レオはヲトの声を聞きたかった。
「・・・あの子達、酷い目に逢ってないかな?」
「・・・ヒムカ人は質実剛健だ。前に売られた子達も、実はあそこで一般人として暮らしているって聞いた。奴隷を売り買いするのはミマナ人だ」
「そう・・・それなら良いけど」
沈黙。
レオは沈黙に耐えきれず言った。
「・・・怒ってる?」
「・・・」
「もう嫌いだよね・・・」
「私を助けるためにしたんだろ?」
ヲトは拗ねたように口を尖らせてまた言った。
「私は・・・初めから足手まといだったんだ・・・レオを守るんだなんて、馬鹿だった・・・私が守られていたんだ」
レオがにっこりとして言った。
「でも来てくれて嬉しかったよ」
ヲトはそれを聞いて少し考えていたが、怪訝な顔をして、
「レオ・・・もう一度言って?」
「・・・嬉しかった・・・」
これはいつものアスラが使う社交辞令なのか?感情が無いと雖も、子供が意味が分からないままに覚えた言葉で会話をするように、レオもしゃべる。・・・だが、待てよ、笑った!
その表情はあまりにも自然だった。
ヲトはこれまで幾度も試して落胆した質問を、もう一度試すことにした。
「・・・『愛してる』って分かる?」
レオはきょとんとした。何かを考える様に口を少し開いてヲトを見る。こんなに可愛いレオを見るのは初めてだ・・・
「・・・分かるような気がする・・・」
ヲトは心が震えるのが分かった。
「私を愛してるのなら・・・キスして」
レオは目を瞑りながらヲトにキスをした。
「レオ・・・君はもうアスラじゃない・・・」
「僕の記録はこの任務が始まった時点で抹消されてる。でも一般民でもない。僕は奴隷さ・・・僕を買っておくれ、ご主人様」
「や、止めてくれ!」
「でも行くとこがない」
二人は見つめ合った。
「レオ・・・よくやったね。任務を立派に果たした」
レオははっとした。今まで一度も自分が為したことを誉められても、嬉しいとは思わなかった。上級将校から『誇りを持て』と日頃から言われた通り、誇りを持って生きていると思っていた・・・あの日、父に誉められた時も。誇らしく感じたが・・・作られた喜びではなかったか?
思い出した。ウェルキンゲトリクスを殺してただ一人逃げた時のあの侘びしさ、寂しさを。自分がしたことが正しいことだったのかも分からない。『組織』の一員としてだけ価値のある自分の命・・・この任務を言い渡された時、自分の組織の中での居場所も無くなった。そして周りが敵だらけとなった。もう駄目だと思い、孤独に苛まれて叫んだ・・・ヲトの名を。そしてヲトは自分がやったことを心から誉めてくれた。
レオの目から涙が出た!
ヲトはレオを引き寄せ優しく抱いた。
ああ、神様・・・レオは人間の心を取り戻しました!
ヲトがおずおずと言った。
「じゃ・・・一度だけ私の奴隷になってくれる?」
「一生でも良いよ」
「レオ・・・」
「27MHz・・・9ステップの疑似ノイズ信号だよ・・・」
司令長官室に将校が入ってきた。
「今、商船から報告がありました!レオ様は任務を果たし、無事帰還中であります!」
「ヒムカの状態は?」
「・・・指揮官を無くし混乱しているようです」
「・・・ヒムカのコマ以外の同盟都市に講和の打診を送れ。ミマナと講和すれば我々の庇護を受けられるとな」
「はっ」
「特別戦略局長を呼べ。・・・レオの処遇について頼みたいことがある」
「レオ様はミマナの英雄です!」
オシロ・ワケは微笑んだ。
将校が出て行くと後ろの壁全体に嵌められたガラス窓から夜の街を見渡した。どこまでも続く外灯と、空中を行き交う車の光りが、万華鏡の中の波の様に輝いていた。寂しそうに一人ごちた。
「・・・タケル。これで本当に終わった。タケル・ウェルキンゲトリクスよ」
街の灯を眺めるオシロに目は虚ろだった。
(お前の想い・・・私には受け入れられなかった。だからお前の妻を奪い憎まれようとした。だがお前は私ではなく彼女を殺してしまった・・・あのとき、お腹の中にいたお前の子と私の遺伝子を組み合わせて生まれたのがレオだ・・・それで終われば良かった・・・しかし両国の関係は悪くなった。王となったお前はそれに乗じてきっと自分の為にミマナを攻めて来ただろう?)
了
ここまで読んで頂き有り難う御座いました。遠い未来に繰り広げられるレオとヲトの伝説。続編にご期待下さい!
なお、登場人物や地名のモデルについて解説します。
「記紀」にあるヤマトタケルの命の物語はご存じと思います。
ヲグナ=ヤマトタケルの名前。ヤマト・ヲグナ。
ヲト=ヤマトタケルがクマソ征伐に行く時に美濃から「弟彦」という弓の名人が来たと「記紀」にあります。
オフタラシ・オシロ・ワケ=ヤマトタケルの父(景行天皇)は「おおたらしおしろわけの命」という諱です。
ホムジ・オフ=多の臣品治。天武天皇の壬申の乱の時に天武を支えた豪族。役行者の父と伝えられる。「多」は「おお」、「おふ」と読みます。
ウェルキンゲトリクス=シーザーの「ガリア戦記」に登場するブリテン島のケルト人の王。川上たけるに当てました。ケルト人は勇猛な反面、独立心が高く強い国家を作れませんでした。
ミマナ=任那。朝鮮半島のカヤに有ったという大和朝廷の古里。
ヒムカ=日向。クマソが居た九州の地。
コマ=朝鮮から渡ってきた狛族(コマ、クマ、メクと呼ばれた)。日本人の祖先の一つ。熊がトーテム。ちなみに同じブヨ族から別れたイエ族はコマより先に東北に朝鮮から移住したと言われる。虎がトーテム。日本には虎が居なかったのでその後の動向は謎となる。「夜」、「八」が付く神様はこのイエ族に関係がある可能性がある。
上の全ての記述は歴史の書物、あるいは仮説として出ております。
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