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この作品は<R-18>です。
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第五話
夕方。居酒屋が開くのと同時に、酒を煽った。一人で手酌酒。いつもの楽しみも、今日は寂しく感じた。
(ああ、俺は重箱の隅をつつく小さい奴だよ!俺は経理の事しか知らねぇんだ)
悔しくて仕方がなくて、更に酒を煽った。
店を出るときには、足元もおぼつかないくらいに酔っていた。
酒を飲んでいるときにはどうも感じなかったが、外に出ると、寂しさが増した。すると、どこか見た事のある女性が目に入った。しかも、目が赤い。
「と、智美?」
「温一郎?どうしたの?そんなに酔っ払って!」智美は驚いたように言った。
「俺は、重箱の隅をつつくこしかできないんだよ…」
「どうしたの?ともかく、私のうちで休んで。そんなんじゃ帰れないよ」智美は温一郎の肩を支え、歩き出した。
しばらく歩くと、智美のマンションに着く頃には、少しだけ酔いが醒めていた。
ソファーに座った温一郎は、頭の上にクエスチョンマークを浮かべた。
「あれ?ここどこだ?何で智美がいるんだ?」
「私の家よ。酔っ払って歩いているところを見つけたのよ」アイスコーヒーを出しながら言う。
「そうか」
「どうしたの?普段はあまり愚痴を言わないのに、酔っ払って」
「実はな…」温一郎は昼間の出来事を話した。
しばらく話をしたあと、智美が口を開いた。
「わかるわ。その気持ち」
「本当に、わかるのか?」
「わかるわよ。貴方と私は主任よ?カラダの関係を持った同期じゃない。それにね、温一郎の仕事は素晴らしいわ。会社の財産を管理する陰の仕事よ。一円たりとも不正をしない、不正を見つける仕事って温一郎しかできないわ。野倉さんにはわかるわけがない。それにね、仕事に熱が入っている証拠。上役の人間を見ていても仕事に熱がはいってないのが見えてるの」
「智美…」
「じゃあ、私の話を聞いてくれる?」
「ああ。そうだな」温一郎が返事をすると、智美はそっと立ち上がり、冷蔵庫からワインを取り出した。ワイングラス二つを片手にソファーに戻る。静かにグラスを置き、ワインのコルクを抜く。グラスに赤色の液体を注ぎ、一気に飲み干す。そして、言った。
「ふられちゃった」
「ふられた?」
「うん。その帰りに温一郎に出会ったの。へべれけの」
「そうだったのか」
「言われたの。地味な女は嫌いだって。営業課のコンパに行ったんだけどね、私はパンツスーツが好きなの知ってるでしょ?それにね、おしゃれをすることが嫌いなの。そしたらね、営業課の人がさ『地味な女は女じゃない。おしゃれしない女は終わっている』って。言った人は私が前から気になっていた人なの。今日、終わったら告白しようとしたけど、やめた。それを私を見ながら言われたからね。そしたら、温一郎がいたの」
「俺は、智美は魅力のある女だと感じている。仕事はバリバリできるし、それに美人だ。ありのままの自分を出せる女性は俺は好きだぞ。そうじゃなきゃ、俺は智美を抱いたりもしないし、こうやって話を聞くこともない。俺は智美を魅力的に思っている」
「温一郎…」
「そ、それに…智美はパンツスーツが似合ってる。いい…カラダしてるし、スタイルいいし…」
「うまいお世辞ね」智美はワインをグラスに注ぎながら言う。温一郎はワインを一口飲んで恥ずかしそうに言う。
「お世辞なんかじゃないさ」
「ねぇ、私がどうしてパンツスーツを好んでるか知ってる?」
「いや…」
「それはね。肌を露出したくないの。どういうわけか、このカラダは温一郎だけのもののような気がするの。だから、このスタイルを維持してるの」
「…。」
「温一郎、地味な女は好き?」
「ああ。俺は地味な女が好きだ。それは智美なんだ」
「明日さ、温一郎の家に行っていい?スーツ姿で」
「来いよ。何するかわからないけど」
「いいわ。月曜日は温一郎の家から出勤するわ」
「お泊りしましたってか?」
「そうよ。明日が楽しみだわ。さてと、もう寝ましょ。明日は温一郎とデートして、お泊りして」
「だけど、何で今日じゃないのか?」
「お酒飲んだら…でしょ?」智美は悪戯っぽく笑った。
「そうだな」
「ベッドがひとつしかないから、看病という名目で添い寝するわ」
寝室に移動し、智美が服を脱ぎ、キャミソールとショーツだけになる。温一郎もシャツとトランクスだけになってベッドに潜る。
「電気消すね」そういい、スイッチを操作する。
真っ暗な室内。ベッドの中で、智美は温一郎に抱きつく。
「温かい?」
「うん。温かい」
「私も」そういうと、智美は温一郎の唇に触れた。生温かい、柔らかな感触。キスされたことに気づく。
「智美…」
名前を呟いたが、智美は温一郎を抱きしめたまま眠っていた。智美の体温が温一郎に伝わり、シャンプーの香りが温一郎を包む。温一郎も目を閉じると、そのまま眠ってしまった。
翌朝。目覚めたのは10時過ぎたくらいだ。一通り服を来て、リビングに向かう。キッチンには智美が立っていた。
「おはよ」後頭部をポリポリと掻きながら言う。
「おはよう。コーヒーとパンでよかったら食べてく?」
「ああ。そうするよ」
「先にシャワー浴びておいで。その間に作っておくわ」智美に促されて、シャワーを浴びる。熱い湯が発汗作用を促し、汗を流す。そして、残っていた気だるさと、悲しい気持ちもどことなく流れていってしまった。シャワールームを出て、体を拭いてバスルームを出る。リビングに戻ると、パンとコーヒーがテーブルの上に乗っていた。
「先に食べてて。私もシャワーを浴びてくるわ。悪いんだけど、15分経ったらエスプレッソを入れて欲しいの。豆は挽いてないのがあそこの上の棚にあるから」
「お安い御用で」温一郎はコーヒーを淹れることは得意なのだ。特にエスプレッソにはただならぬこだわりを持っていた。高校時代は喫茶店でバイトをしていたのだ。
パンを齧り、コーヒーを飲みながらふと思った。真美子への心の経費は戻ってこない。俺は智美からその分の経費をもらったのだろうか。いや、それ以上支払われるのか、支払うのか。そう考えていると、15分が経った。キッチンに向かい、お湯を沸かす。豆挽きに豆を入れてがりがりと挽く。豆を取り出し、移し変える。沸いたお湯を注ぎ淹れる。すると、智美が戻ってきた。もはや、パンツスーツとブラウスに着替えている。ぴったりとしたパンツスーツは、智美の体のラインを浮き立たせていた。淹れたてのコーヒーを無言で渡す。程々に乾かした髪からは、洗い立てのシャンプーの香りが鼻腔をくすぐる。
「うん。美味しいわ。温一郎ってコーヒー淹れるのは上手なのね。4年経った今でも変わってないのね」
「伊達に高校の3年間、コーヒーを淹れまくっただけあるよ。智美にコーヒー飲ませるの、4年ぶりか」煙草に火をつけながら言う。
「そうね。今日は楽しみだわ」智美は嬉しそうに言いながらコーヒーを口にした。
智美の部屋を出て、駅の方にに向かった。智美の家から駅までは歩いて15分。駅から更に10分歩くと温一郎の家がある。昨日は智美の家の近くの居酒屋で飲んでいたようだ。
駅の周りは何でもあり、デパート、銀行、スーパー…。生活に困ることはなく不便もない。せいぜい、家が駅から遠いというくらいだ。
「温一郎」智美はそっと温一郎の腕を組む。ふくよかに膨らんだ胸が腕に当たる。
「ああ。んで、どこに行こうか」
「そうね。先ずはスーパーで買い物ね。晩御飯作ってさ、レンタルビデオ屋に行ってDVD借りようよ。見たいのがあるの。たまには家で二人で見たいし」
「そうするか。その前にデパートに行こう」
「どうして?」
「ネクタイが欲しいんだ。一緒に選んでくれないか?」
「わかったわ」二人はデパートに向かった。
街中に入ると、日曜のせいか人で溢れていた。しかし、温一郎はある人物の姿を見つけてしまった。真美子と男だった。そして、正面からやってきた。それに智美が気付く。
「温一郎、堂々と歩こう」
「…ああ」温一郎はうなずいた。
段々と距離が縮まる。50m、40m、30m、20m、10m、9、8、7…。そして、すれ違った。
真美子は立ち止まり、温一郎は過ぎ去った。それは、心のすれ違いを表すかのようだった。
「どうしたんだ?」男が真美子に聞く。
「う、ううん。なんでもないの。主任らしい人を見つけたの」
「へぇ。一度顔を見てみたいなぁ。どこよ?」
「でも、違ったの。気のせい。行きましょ」
真美子はそう言い、歩き出した。
温一郎と智美は、デパートやスーパーで買い物を済ませ、温一郎の部屋に着いた。午後の昼下がり、ベッドに腰掛けてDVDを見る。すると、肩に頭を乗せる智美。濃厚なラブシーンにうっとりしているようだ。そっと手を繋ぐ。しかし、智美はどことなく眠そうな感じだった。
「眠いのか?」
「うん。昨日遅かったしね」
「昼寝しようか」
「する。温一郎も一緒に」
「ああ」横になり、毛布をかけてやる。その寝顔はまるで、少女のように思えた。
夕方目覚めた二人は、食事をして、二人きりの時間を過ごした。昨日まで空っぽだった心の経費は、領収書を切る事もなく戻ってきているようだった。夕暮れ時。ちょっと早い夕食を終えた二人は、静かな時間を過ごしていた。ベランダの窓からはオレンジ色の光が差し、ベッドの上に座る智美を照らしていた。
「ねぇ。もう一度聞いていい?」
「何だ?」煙草を吸っていた温一郎が聞いた。
「地味な女は嫌い?」
「…。俺は好きだ。智美の事もな」そっと抱き寄せる。
「温一郎…。そんな貴方の事、大好きよ」智美も温一郎のカラダに腕を回す。
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