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1の続きです。
しょーもないトラブルを起こしてしまった一行は、慌てて街を出発します。
地下都市 2
 何も殺すことはないだろうに。
 朝もやに包まれた林の小道を歩きながら、シーマスは溜め息をつきたい気分だった。
 晩春の朝はまだ少し冷える。踏みしめた足元の土や下草も、湿気を含んでしっとりと彼の靴を受け止めた。
 昨夜はギルドの酒場でジェフリーと長話をしながら飲んで、夜中前頃に宿に帰ったのだが、そこで仰天するような話をミクエルから聞かされた。
 エミリーが出先からの帰り道、連れとはぐれて酔っ払いに絡まれたらしい。
 そこまではよくある話だが、エミリーを探しに宿を出たプリシラが、彼女を見つけて助け出す際に、その酔っ払いを刺し殺してしまった。
 彼らの常宿のある辺りは、流れ者が多い地区で、治安も良くない。貴族や商人でもない、流れ者の酔っ払いが一人殺されたところで、衛兵が駆けつけて大問題になるようなことはあるまいが、その酔っ払いに仲間でもいたら面倒だ。仕返しに来るかもしれない。
 結局シーマスたちは大事を取って、予定を繰り上げて遺跡探索に出かけることにし、今朝早くに街を出た。
 しばらくのんびりと街に滞在するつもりだったシーマスにしてみれば、とんだとばっちりだ。
 酔っ払って女に絡んでいた男をいきなり殺すプリシラも、自分で何もできない癖に夜道をふらふらして、男に捕まったエミリーも恨めしい。
 彼らが住む、川の南の雑多な地区では、強盗や強姦は少なくない。殺人もまれにある。軍隊もそうしばしば警邏を行っているわけではないので、己の身を守るためには、相手を傷つけなくてはならないことも多いが、プリシラほどの腕があれば、酔っ払い一人、殺さずにおとなしくさせることはできただろうと思う。
 しかし、プリシラはやり過ぎなどとは毛頭思っていないらしい。
 話を聞いて、言外に非難をにじませたシーマスに、プリシラは形相を変えて言い募った。
「女を襲うような男を許しておける? 未遂なんて手加減の理由にはならないね。レイプされるのがどれだけ屈辱か、あんたのケツに物干し竿でも突っ込んで分からせてやろうか」
 彼女の言葉を聞いて、シーマスは戦慄した。慌てて謝り倒したのは、プリシラならやりかねないと思ったからだ。
「全くだ。エミリーみたいな小さな女の子をどうにかしようなんて、卑劣な。当然の報いだ」
 ルークも腹立たしげに、プリシラに同意した。早々に部屋に引っ込んでしまったエミリーを除いた、他の二人も特にプリシラたちに反対するようなことは言わなかった。
 もしもエミリーが自分に襲われたとプリシラたちに泣きついていれば、一体どんな目に合わされていたのか。そして今後もしもエミリーが彼らに喋ったら。その後に待ち受ける運命を思うと、本気で背筋がぞっとした。
 いつもなら迂闊なエミリーを叱りつけるところだが、さすがに彼女に説教できる立場ではなかった。これではエミリーに弱みを握られているも同然だ。

「ガレンはまだあまり調査されてないの」
 当のエミリーは、昨夜はかなりショックを受けたようで、すぐに寝込んでしまったが、シーマスのやや後ろを歩きながら、仲間たちに今向かっている遺跡の解説をしている。
 普段は無口なエミリーだが、遺跡や歴史のこととなると、目が輝きだして饒舌になる。よほど好きなのだろう。
 シーマスも盗賊仲間から多少は話を聞いていたが、遺跡については膨大な書物を抱える魔術師たちの情報にはかなわない。
 隊商の護衛や荷運びなどを主な仕事とする、駆け出しの冒険者パーティーには、魔術師はいないことが多い。彼らが冒険者に加わるのは、大抵遺跡の探索がきっかけだ。
 大学側が遺跡の調査の為に冒険者を雇い、お目付け役として魔術師をつける場合と、遺跡の探索をしたい冒険者側が、逆に大学側に掛け合って、魔術師を雇う場合がある。
 時代にもよるが、古代の遺跡には魔術の仕掛けがあることが多い。魔術師無しで乗り込んでいくのは無謀にすぎる。そもそも素人だけでは、古代語すら読めないし、遺跡そのものに関する情報は、大学が持つそれを上回るものはない。
 逆に大学側としては、貴重な遺跡に墓泥棒のごとく冒険者が入り込んで荒らしまわるのは望ましくない。冒険者たちに魔術師をつけることで、貴重な宝などはまず大学に持ち込ませて買い取るようにしている。
 そうして一度パーティーに加わった魔術師の内、そのまま冒険者になってしまう者も少なくはなかった。
 その貴重な魔術師を、シーマスのたちは二人抱えている。危険で報酬も安い護衛などより、一攫千金を狙って遺跡探索を行う方が、安全で効率がいいのは疑うべくもない。
    

 彼らが向かっているガレンとは、古代の地下都市だ。王都より一日ほど離れた林の中にある。
 この時代の古代人は、地上より地下に建物を掘り下げる方を好んだらしい。目立たない地下にあるおかげで無謀な冒険者や盗賊たちにも荒らされず、大学の調査員以外はほとんど中には入っていないという。かなり正確な文献や資料が残るのもその為だ。
 リーダーのルークが遺跡を探索することを決めた時、二人の魔術師は揃ってここを薦めた。資料によれば、危険な生き物などがいたという記述は無いということだった。
 いたという記述がないだけで、実際にいないとは限らないのが怖いところではあるが、そこまで慎重になっていたら何もできない。
 林を歩きながら耳にした、エミリーの薀蓄によれば、当時の都市としては中規模だが、裕福な領主と幾人かの貴族が町を治めていたらしい。
 古代人たちの生活は現在に比べて遥かに豊かだ。貴族の館ともなれば、宝飾品なども見つかる可能性が高い。うまくいけば、しばらくは財宝を売った金で、のんびり暮らせるかもしれない。



 丸一日歩いて、翌日の午前中に、エミリーたちは目的の遺跡の入り口を見つけた。林の一角に小高くなった丘のような部分があり、小さな洞穴が口を開けている。
 その中に小岩や木切れが積み重なった場所があった。それをどけると、地下の暗闇に続く古びた石造りの階段が現れた。資料の記述通りだ。
 明かりを手に、身軽なシーマスが先にたって階段を下りていく。順に他の仲間たちも続いた。
 階段は思ったより長かった。ガレンはかなり深くまで潜っている都市のようだ。
 長く続く石段を下るうち、エミリーは不意に段差につまづきそうになった。咄嗟に壁に手をついたが、爪先の指がねじれるような嫌な感触を覚えた。
「どうしたの?」
 背後を歩いているミクエルが声をかけてくれる。
「あ、平気。ちょっとつまづきそうになっただけ」
 エミリーは軽く振り返って微笑んだが、さらに階段を下ると、足首に小さな痛みが走った。軽く捻ったのだろうか。
 でもこんなところで騒いで、文字通り皆の足を引っ張るわけにはいかない。
(その内直りそうだし……)
 足首の痛みは実際大したことなかった。エミリーは平然を装って、階段を下り続けた。

 下まで下りると、巨大な扉があった。元々は魔法によって封じられていたが、かつての大学の調査員がそれを解呪することができていた。
 エミリーがその合言葉を古代の単語で呟く。燃える松明の音にすらかき消されそうなか細い声だったが、扉──いや、門は音を立てて自ら内側に開いた。
 用心しながらそこをくぐる。そこは炎の明かりも端まで届かない、広い部屋だった。天井も高いようだ。
 だが門の内側であるここは既にガレンの中だ。古代人たちは、暗闇に包まれて暮らしていたわけでも、煤が出る炎を明かりにしていたわけでもない。
 エミリーが資料にあった別の合言葉を呟くと、夕方のような柔らかい光が空間に満ち溢れた。天井、壁、床が全てうっすらと温かい光を放っている。古代人たちが施したガレンの魔法が、住人が滅びた今も生きていた。
「すっごい……本当に魔法都市なんだ」
 呟いたプリシラを始め、エミリーの叔父の手伝いで何度か遺跡に潜った魔術師のセルヴィスを除いては、全員古代の魔法遺跡に入るのは初めてだ。
 エミリーも何度となく話を聞き、本も読んだが、実際に自分の足で踏みしめると、深い余韻のような衝動がこみあげた。胸が詰まる。
 生きていく為には金が必要だから、宝に興味が無いでもないが、それよりやはり彼女をときめかせているのは、祖先たちが積み上げた歴史に対する、純然たる好奇心だった。
 淡い光を発している床や壁の不思議な石も、千年以上の歴史を刻んでいる。そこに自分が立っているというだけで、眩暈がするような感銘を覚え、エミリーは軽く目を閉じてそれに酔った。
「ここは入り口の広場ですね」
 持っていたランタンの火を吹き消しながら、セルヴィスが言った。
 半分古き森の民の血を引いた彼は、見た目は二十歳前後に見えるが、既に三十五歳になる。エミリーの叔父だけでなく、他の遺跡の調査隊にも何度か助手として参加しているらしいが、ガレンに入るのはやはり初めてだと言っていた。
「この明かりは少なくとも一日はついたままです。時間が経てば消えますが、また合言葉を唱えればつきますから」
 まだ松明を持ったままのシーマスに向かってセルヴィスが言うと、シーマスは軽く肩を竦めた。
「便利なもんだな。燃料もいらない。煤も出ないし、明かりを手に持つ必要もないわけだ」
「この時代の地下遺跡は大抵そうです」
 シーマスは松明を放り投げ、足で炎を踏み消した。
 いつまでも感慨に耽っていられない。エミリーは背中の小さな背嚢から資料を取り出した。ガレンについての記述だ。
 入り口広場からは大きな通廊が伸びている。さしずめ地上では大通りと言える。広場に面していくつか別の入り口が開いているが、それらは倉庫や警備隊の宿舎、貯水槽と水道管理人の宿舎、奴隷たちの居室など、およそ実務的な機能に必要な施設が集まっているようだ。
 目指す貴族や町の領主の館は遺跡の奥の方にある。
 エミリーたちは通廊を進んだ。 


 大通廊沿いに並んだ入り口は、ほとんどが商店のものらしかった。食堂や、肉やパンなどの食品を売っていた店跡がある。入り口の上には古代語で『命の水を楽しみましょう』『森の恵みのお求めはこちらで』など、回りくどい文字が刻んである。
「しかし、食べ物とかはどうやって調達していたんだろうな」
 物珍しそうに呟いたルークの声が、天井の高い空間に反響した。セルヴィスが口を開く様子が無いので、エミリーが答える。心持ち鼓動が早くなった。
「古代人たちは奴隷を使っていたから。食べ物や水は全て奴隷に世話させていたみたい。古代の市民一人あたりに、平均四人くらいの奴隷がついていたそうよ。貴族ともなると、何十人と持っていたんでしょうね」
「へえ。それで贅沢な暮らしができたわけだ」
 振り向いたルークと目が合い、エミリーは微笑み返すこともできずに、また視線をそらしてしまった。
 ルークがまた前を向いて歩き出すと、エミリーはやっと彼の後姿を見つめることができる。
 上背のある長身。癖のある黒い髪は、動く邪魔にならないように短く整えられている。騎士の家の生まれだという、ルークの髭の無い若々しい顔は、なるほどどこか品があった。 
 こうして見つめているだけでいい。それだけで十分幸せだ。胸の奥に小さな草花が芽吹いたような気持ちになった。

 仕立て屋や宝飾品屋を探して、通廊を歩いていたエミリーたちは、ひときわ大きな入り口を見つけた。入り口には刻み文字ではなく、金属細工の看板がかけられている。他よりも高級な店なのだろう。
「『忘れえぬ夢をあなたに』。……何の店でしょうね」
 セルヴィスが看板を読み上げて、首を傾げた。
「ったくさー、はっきりしないよね。服なら服、酒なら酒売ってるって書いときゃいいのに。何が命の水だか。しゃらくさいのよ」
 せっかちなプリシラが苛々と呟いた。
「昔の人は気が長くて頭が良かったんでしょうね」
「……何ソレ。あたしは気が短くて、アタマが悪いって言いたいの?」
「違いますよ! そういう意味じゃありません。比喩を楽しむ余裕と機転があったという意味で……」
 プリシラに詰め寄られてたじろぐセルヴィスを無視して、シーマスがさっさと中に入り込む。エミリーたちも順に続いた。
 中は石造りの長テーブルが並んだ、居酒屋風の造りだ。奥には地上に続く煙突を備えた厨房らしき施設もある。今まで見てきた他の居酒屋風の店と違うことは、店の奥に一段高くなった部分があったからだ。
「なんだここ。舞台か? 出し物でもやってたのかな」
 シーマスは興味深そうに床に屈み込むと、奥へと進んでいった。
 エミリーがぐるりと店内を見渡すと、壁の一部に絵が描いてある。色とりどりの衣装を纏った女が三人並んで舞を舞っているようだ。陽光も風雪も無い地下で、千年の時を経た壁画はまだ鮮やかな色彩を保っていた。
 この絵が店内の様子を描いたものだとすれば、シーマスの言う通り、あの高い部分は舞台で、ここはそれを見ながら飲食を楽しむ店だったのだろう。
「おーい、ちょっと」
 奥からシーマスの声が聞こえた。
 エミリーたちが舞台の奥に駆け寄ると、そこには彼女が壁画の中で見たような、色とりどりの布地が、石造りの棚に押し込められている。
 シーマスは棚の上にあった木の小箱を開けて、声をあげた。
「すげー、おい。見つけた~」
 彼が一行に見せた小箱の中には、エミリーの親指の爪ほどの大きさの宝石を装飾に使ったブローチがいくつか入っていた。
「これも絹だね」
 棚の衣装をつまみあげたミクエルが呟く。彼が広げた絹の衣装は、赤や橙色などに染めてあったが、透けるように薄く、肩や腰を結びあわせる紐があるだけだった。これを素肌の上に着たとしたら、腕や脚はほぼむき出しだ。
「なんかいかがわしい店だったんじゃないの?」
 心持ち顔を赤らめたミクエルを見下ろし、興味無さそうにプリシラが呟く。
「古代の人は今より奔放でしたからね。ガレンの領主がどういう治世をしていたかは分かりませんが、必ずしも違法な店とは限りませんけど」
「おい、セルヴィス」
 薀蓄を垂れていたセルヴィスを、床を探っていたシーマスが呼び止めた。彼が指差した石造りの床は、丁度人が立つ幅くらいに、正方形に切り込みが入っている。
「落とし戸みたいだけど、開かねえ」
 シーマスが一度その場から体をどけた。入れ替わりにセルヴィスが屈み込む。扉には魔術によって封印がされているようだった。セルヴィスは粉薬を取り出し、解呪を試みていた。それを見下ろしながら、エミリーは何となく入り口の看板の言葉を古代語で呟いた。
『忘れえぬ夢をあなたに』
 途端、音を立てて落とし戸が下に開いた。セルヴィスが小さな声をあげる。
「……よく合言葉が分かりましたね」
「たまたま思いついたの」
 はにかむエミリーの肩をプリシラが軽く叩いた。
 偶然とはいえ、こうして少しでも皆の役に立てたことがエミリーの小さな誇りだった。


 落とし戸からは細い階段が続いていた。
 そこにも魔法の明かりは灯っていたので、足元が危ないようなことは無かったが、少々段差がある。先ほど痛めた右の足首には少々きつかった。
 すぐに直ると思っていたが、今度の階段を底まで下りると、じんじんとする痛みが沸いてきた。
(ミクエルに湿布薬をもらおうかな)
 エミリーがそんなことを考える頃には、一行は広い空間のあちこちに散っていた。
 舞台から続く階段を下りた場所は、入り口広場の半分ほどの広い空間になっていた。
 魔法の明かりは階上のものより薄暗く感じる。壁にはいくつかの木造の扉があり、別の部屋に通じているようだった。
 空間の一角には、寝台ぐらいの大きさの木造の台がいくつか置かれ、柔らかそうな布がいくつも敷いてある。別の一角には、ルークの背よりも高い位置の壁に巨大な鉤が何本か設置されていた。その隣には、人間が入れるくらいの鳥篭のような鉄の檻が、天井からぶら下がっている。
 反対側には階上にあったような、長いカウンターと木造の椅子も数脚あった。
 階上の洗練された都市とは変わって、異様な風景だった。エミリーは拷問部屋のような印象を受けた。部屋やそれらの装置は汚れていなかったが、どこか人間に嫌悪感を催させるものがある。
「なんだ、この部屋」
 受ける印象は同じらしい。ルークもいささか顔を顰めながら、不気味な器具を見回している。
 エミリーはカウンターの裏側に回ってみた。
 小さな酒の樽がいくつか並んでいる。取り上げて振ってみたが、残念ながら中は空っぽのようだった。
 その下には鶏卵と同じような大きさの宝石細工があった。エミリーは宝石には詳しくないが、それはエメラルドでできているように見えた。手で取り上げると、その上の部分が開いた。ただの飾りではなく、小さな物入れになっているらしい。エミリーはそれを自分のリュックに放り込み、次の棚を探った。
 紐で綴じられた本が二冊出てきた。保存状態もよさそうなので、ぱらぱらとめくってみる。読み進む内、エミリーの顔は次第に赤らんだ。
 人物の名前と金額が連ねてある。一見すると売上げ台帳のようだが、品物として記載されているのは、『少年』『少女』という品名であった。
 もう一冊を取ってみる。そちらには挿絵があったが、ひと目見て、エミリーの顔がさらに熱くなるような絵であった。尻を向けた全裸の少年を、やはり全裸の男が何かで打ち据えている図である。ちらりと見えた他の頁には、全裸の女の絵があった。それ以上じっくり見るのが憚られる。
「何それ」
 いつの間にか仲間たちが集まってきている。プリシラの問いに、エミリーはしどろもどろになった。彼女の後ろから本を覗き込んだセルヴィスは、やや眉を寄せて古代の文字を読んでいるようだ。
「はあ……どうも、市民から金をもらって、奴隷の少年少女とここで遊ばせていたみたいですね」
 しばらくして、セルヴィスが彼女に代わって答えた。別の本にはもっと露骨なことも書いてあったが、エミリーは当然それを言い足さなかった。
 おそらく、階上の店では、見目麗しい奴隷たちを舞台で踊らせ、市民が気に入った奴隷がいれば、さらに金をもらって階下のこの部屋で遊ばせる。この店は実質は娼館のようなものだ。
 広間に並んだ怪しげな器具の側の壁には、壁の鉤から吊るされる全裸の少女や、やはり全裸のまま舞いを舞う幾人もの少年、少女の姿が描かれている。階上の壁画よりも遥かに淫靡だった。
「男も女も手当たり次第か。奔放だったんだねえ~」
 シーマスは首を振った。その声は呆れたようにも感心しているようにも聞こえる。そのまま彼は近くの壁にあった扉を無造作に開けた。
「あれ、これ奥に続いている」 
 いかがわしい広間の雰囲気に、少々うんざりしていた一行は、シーマスの方に歩み寄った。エミリーも貴重な資料となる本を二冊とも荷物に詰めて続いた。
 シーマスが開けた扉は、ごく細い通路で、奥へと続いた後、再び下り階段になっているようだった。
 また階段を下るのかと思ったエミリーは、仲間たちに続いて扉をくぐる直前に、右の足首の具合を見ようと屈んだ。
 瞬間、激痛が走った。 
「いっ……」
 思わず小さな声を漏らしたエミリーの後ろから、最後尾を守っていたルークが声をかけてくれる。
「どうした?」
「足が……」
 声も満足に出せないほどの痛みが右足全体を駆け巡っていた。思っていた以上に無理をしていたらしい。最初に痛めた時に、かなりひねっていたのかもしれない。
「捻挫したの?」
「分からない……」
 苦しげな声を出すエミリーを見て、ルークも屈んで彼女の足に触れた。足首から下は、痛み以外の感覚はもはや無く、ルークの手の感触も分からなかった。
「立てる?」
 ルークの問いにエミリーは首を振った。痛みがひどくて、無理をしても今はとても立ち上がれない。
「おい、ミクエル」
 ルークは立ち上がりながら仲間たちが既に入った通路に呼びかけた。開いたドアはばね仕掛けで自動的に閉まるようになっているらしい。エミリーが屈んでいる内に既に閉じてしまっていた。
 ルークは扉の取っ手に手をかけて引いた。だが、それはぴたりと閉じて動かなかった。

 

またハンパなとこで終わっちゃいました。
次回はもう少し活発に話が動く予定であります。


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作者ブログ『椰子の実ライブラリ』

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