警告
この作品は<R-18>です。
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子供
「しかしもう有月が死んでから二十年もたつんだねぇ。」
「そうですね。伝七さんには本当にお世話になって・・・。」
「かーっ息子にあんたの爪の垢せんじてのませてぇよ。あんたみたいにしっかりしてりゃすぐにでも店ぇ任せられるっつうのに」
「そんなこたぁねーですよ。全然しっかりしてませんで。」
「お、そのびんだらいまだ使ってんだねぇ。」
びんだらいとは髪結いが外回りの時に道具を入れて持ち運ぶ入れ物の事である。
このびんだらいにはちょっとした訳があった。
無月の母は無月と命を引き換えにした。
有月は生まれたばかりの無月を一才まで育てた。
別れはいつも突然やってくるものだ。
有月は外回りに行った先で火事に巻き込まれ死んだのだ。
その日は風の強い日だった。
月に一度目黒にある寺まで泊りで髪をあたりに有月は行っていた。無月は有月の師匠である雅に預けていた。
寺では貧しいものや床屋に行けない近所の年寄りを呼んで金は寺もちで髪を整えてやっていた。
その夜目黒の空は急に夜明けを迎えたようだった。
窃盗目的の放火。風の強かったその日火はあっという間に広がりあたりを飲み込んだ。
火事があったと聞いた雅は無月を背負い寺まで行った。
ひどい火事とは聞いていたがその有様はすさまじく、何もないほどにすっかり燃えつきていた。あるのは瓦礫と死体の山。
役人が片付けをしている。すると遠くの瓦礫をいじっていた役人が大声を出した。
「おいっ誰かいるぞっ」
雅は慌ててそこへ駆け寄った。
瓦礫のしたからまるで燃えていない布団が出てきたのだ。
人が中にいるように膨らんでいる。
役人が意を決したように布団をめくるとその下に燃えてもない、中身のきちんと入ったびんだらいが。
「ああっ・・・これは・・・有月のびんだらい。」
と声を上げ泣き崩れた。
それからずっと無月はこのびんだらいを使っている。見守られている気が無月はしていた。
「父の形見ですから。あ、所で息子さんのお友達が行方知れずなんてことはないですか?」
「ええっなんで知ってるね。」
「ははは。」
探す手間が省けたなと無月は思った。
「実は・・・藤田さんから人探しを頼まれまして。」
「!藤田さんからっ?で、やつは元気だったかね?」
「・・・はい。ま、一応。元気でしたけど・・・」
「いつ会ったんだい。」
「昨日ですよ。」
「元気だったんだな。・・・よかった。」
「何があったんですか?」
「ま、こんなとこでなんだから家に来ないか?」
「はい。では」
伝七の家に行きながら
「うちの馬鹿息子が昔世話になったとかで藤田さんと子供を連れてきたんだ。ま、私だって長い間いろんな人を見て生きてきた。藤田さんは堅気じゃないのがすぐ分かった。高価な生地の着物。着こなし方。荒れてない手、傷のない足。そのくせ品がよくない。・・・その上連れていた子供は飛び切り美しい。こりゃ女衒だとすぐ分かった。ったく、うちの馬鹿は何の世話になったんだかと思っていた。」
藤田って男は随分変わったんだなと無月は思った。確かに圭介はすぐ堅気じゃないと見抜いたけど、普通に見ていたら貧しい生き様の男に見えた。
「だけどねぇ。ま、一応住み込っつうことで店の手伝いを二人にさせてうちの空いてる長屋に置いてやっていたんだが良く働くんだよねぇ。」
店について一度話を切る。
「お帰りなさいませ旦那様。」
「うん。さ、上がんなさい。」
米屋の裏手の伝七の家に上がりこむ。
「まぁ、私だって非道ではないよ。仕事がそれなりに出来るならそれなりの待遇をしてやってた。だが、しばらくすると子供がひどい病にかかってね。聞けばそれは初めてではなく以前にもなってそのときは運よく直ったらしいが・・・今回は・・・。藤田さんは寝る間を惜しんで働いて高い薬や滋養のある食べ物を子供に与えてたっけね。」
ちょうど丁稚が茶を持ってきた。置いていなくなるまで話は止まった。
「藤田さんは子供をどうして芳町に連れて行かなかったんですかね。」
「・・・子供は女の子だったよ。」
「えっ?藤田さんが探してるのは男の子ですよ。」
「・・・そんな・・・実は見ちまったんですよ。二人が口付けしてるのを」
「・・・そのこは吉原ではなくて芳町(男版吉原のある所の名)に連れて行くつもりだったんじゃないんですか?」
「!」
「で、その子供は?」
「・・・結局病気はよくならなかったよ。」
「じゃぁ病気で亡くなったんですか?」
「いや。先日の長雨で増水した川に・・・。」
「事故?」
「はじめはそうだと思った。役人が川をさらったりしたけど結局わからなかったら、しばらくしてこじきが現れて・・・川の岸にあったといって、子供のぞうりを・・・。子供のぞうりの鼻緒は藤田さんの手ぬぐいで鼻緒がしてあって・・・その状況から自害したと分かったんだ。」
「藤田さんはその事を・・・」
「知らせてないんだよ。まぁ遺体も見つかってないし万が一ってこともあるんでがっかりするような事は・・・。」
「なるほどね。」
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