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番外編「騎士と皇女」
 こんな事をしている場合じゃないーー筈なんだよなぁ。
 和美とフレイ、そして俺がやって来たのはジェネシス城にある今は殆ど使われていない大監獄。
 話によると首なしの騎士が現れるのはここらしい。
「不気味ですね……兄さんは後ろに」
「大丈夫だろ、フレイが気を付けてくれている」
 それに妹の後ろに隠れるなんて情けない真似は出来ないからな。
「カズキとカズミはボクが守るよ」
 炎のように赤い髪を揺らしながらフレイは先を歩いていく。
「だが……首なしの騎士なんて本当に居るのか?」
「わからないから確かめに来てるんじゃないか……ん、二人とも」
 フレイが立ち止まり両腰の斧を手に握り、前を見据える。
「どうかしたか?」
「何か聞こえない?」
「そう言われると……なにかーーこれは……」
 暗闇の向こうから聞こえたのは、鉄がこすらせながら歩く音ーーそう。鎧で歩くような音だ。
 だが、人が着て歩いているにしては軽すぎる。
「……来た」
 暗闇から現れたのは、やはり騎士が着るような白銀の鎧を身につけた何か。
 だが、頭の部分だけなくーーそしてその鎧を身につけている者の顔もない。
 本当に出るとは……出て来るのが早くないだろうか。
 何て言うか……。
「……デュラハンだな」
「デュラハン……ですね」
 最深部に出て来るものとばかり思っていたが……現実はこんなもんだ。
「ユーミル王国。六護騎士が一人にして、炎の騎士団団長フレイ!」
「……」
 首の無い騎士ーー命名デュラハンは答えず(答えられず?)長剣を両手に握り、一礼するような仕草をする。
 確か、この世界の騎士が決闘をする際にする挨拶みたいなものだ。
「へぇ、いきなり襲い掛かってくるものだと思ってたけど……」
 フレイは感心したように笑い、腰の斧を抜き、同じように一礼する。
 ーーそして。
 何が合図になったのかーー次の瞬間には、決闘は始まっていた。
 デュラハンが先攻し、フレイに向かって跳ぶと長剣を降り下ろした。
「速いね!」
 フレイは横に避けるーーが。
 デュラハンは瞬間に剣を水平に持ちかえ、横に凪ぎ払ったのだ。
「なっ……!?」
 フレイは身を低くすることで避けるが、そこにデュラハンの蹴りが打ち込まれる。
「ぐっ……!?」
 中身がないとは思えない衝撃。
 フレイは蹴り飛ばされるも、空中で体制を建て直し、着地すると不適に笑う。
「……行くよ」
 フレイの体から煙が立ち上がり始める。
 別に隊長クラスが本気で相手を倒す決意をした時に出す煙ではない。
 フレイは石の床を蹴り、デュラハンに向かって駆ける。
「熱ッ……」
 離れた場所に居てもその熱気は感じることが出来た。
「燃え上がれ、ボクの炎!」
 フレイは宙に飛びながら二つの斧を燃え上がらせ、十字を描くように振るう。
 デュラハンは後退しながらそれを受け流しーーフレイは不適に笑う。
「炎獄ッ!」
 突如現れた紅蓮の火柱がデュラハンを真下から襲いかかった。
 それはとてつもない熱量だということが見ていてもわかる。
 現に周りの床や天井、壁などを溶かしているのだ。
「これを受けて立ってられるのは五人だけだと思ってた、んだけどね」
 火柱の中か転がり出て来たデュラハンにフレイは構えを解かずに言う。
 デュラハンは鎧のあらゆる場所を焦がしてはいるが、まだ健在。
「その鎧は魔法的な力を防ぐ作りみたいだねーーでも、ボクの炎獄はまだこんなもんじゃない」
 デュラハンはなにも言わず、まだまとわりついている炎を振り払いーー剣を鞘に納めた。
 デュラハンからは敵意が消えていた。
「そう、もう良いんだね?」
「……」
 デュラハンは頷いたーーかどうかはわからないが、ふっと煙のように、初めからいなかったかのように消えてしまった。
「……何だったんですか?」
 今まで静かに見守っていた和美が辺りを警戒しながら首をかしげる。
「さあ? ボクにはわからないよーーでも」
 フレイは満面な笑みを浮かべ。
「お互いに、楽しめたんじゃないかな?」
「そうだ……な……?」
 頭に何かの映像が流れ込んで来た。
 不快な感じはしないーーむしろ幸せで、だが何処か悲しい気持ちになる。
 ーー昔、一人の騎士が居た。
 その騎士は強く、気高くーーそして美しかった。
 騎士はある日、国の皇女と恋に落ちる。
 だがそれは身分違いの恋。
 周囲は当然の如くに反対したが騎士と皇女は諦めず、周りを説得し続けた。
 そこで当日の皇帝はある条件を提案した。
 当時は、戦乱の中にあってかその条件もそれに相応しいものだった。
 ーー次の戦で、周りが納得するぐらいの功績を上げよ。
 皇女は騎士に危険な目に会っては欲しくなかったが、騎士にとっては願ってもいないこと。
 騎士を説得出来ないまま、戦の日が。
 騎士は微笑み、皇女に勝利と自分の帰還を誓い、戦へと出掛けて行った。
 結果から言えば国は勝利し、騎士は過去に類を見ない功績を上げた。
 ーーが皇女の元に戻って来たのは、騎士が着ていた鎧だけだった。
 違う、生身はちゃんと鎧の中にあったーー騎士の首がなかったのだ。
 皇女はひどく悲しんだ。
 騎士が優しく微笑んでくれることはもうないのだ。
 悲しみに耐えられなくなった皇女は騎士の鎧を身につけると剣で自分の首を跳ね、自害したという。
「……」
 気付くと俺は泣いていた。
「兄さん?」
 情けなく、涙も堪えきれないぐらいにーー声が出なかったのは自分で自分を誉めたいぐらいだ。
「どうしたんですか! 兄さん!?」
「カズキ、カズキ!」
 神様よ。
 居ても居なくても良い。
 どうして二人に幸せな結末を用意してやらなかった?
 功績を上げて皇女の元に戻り、二人は結ばれてハッピーエンドーーこれで良いじゃないか。
 それともアンタはそんなハッピーエンドが嫌いなのか? だとしたら、俺もアンタが嫌いだ。
 八つ当たりだとわかりながらも思わずにはいられなかった。
 ホリィ辺りに言えば叱られるだろうが、思わずにはいられなかった。
 涙で滲む景色の中、デュラハンが立っていた場所に二つの人影が立っていた気がした。
 ーー我々の為に悲しみ、怒って下さり、ありがとうございます。
 ーーあなたのその優しさがあれば、この悲劇は繰り返されないでしょう。
 ーー私達が愛した……これからも愛し続けるこの国をお願いします。
 二人は微笑み、光になりながら消えていった。
 フレイや和美には見えなかったらしいが、あれは幻だったのか。
 どうもわからないがーーこの国には昔から、どんな犯罪者にも首を切り落とすという類の裁きが下されることはないそうだ。
お久しぶりです。
久しぶり過ぎて色々と掴めないのでとりあえず、番外編を上げてみました。
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