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二十二話「裏切りと再会と」
マルコシアスが両翼の空を羽ばたかせ夜空を飛んでいた。
その顔には何時ものユルイ笑みは無く彼を知るものならば本当に彼か疑うぐらいの必死な表情。
「魔王陛下……しばしのご辛抱を……!」
その腕にはぐったりとした和美。
「マルコシアス様! 止まって……止まって下さい!」
彼を阻むのはかつての部下であり同朋達。
数は十を越えている。
「そこをーー」
マルコシアスはそんな彼らの言葉に従うどころか剣を抜き放つ。
「退け!」
まさに一瞬。
マルコシアスの高速なる斬激に為す術もなく、彼らは地面に墜ちていく。
「何故……クーデターなど……!」
マルコシアスは剣についた血を払いながら呟く。
遡ること数時間前。
何時ものように会議が行われ終わる筈だった。
……だが。
「これは……どういうこと?」
玉座に座る和美が何時も以上に不機嫌さを醸し出し、目の前に居る幹部達を睨んだ。
「このアモンーー魔王様がこの国を収める事に疑問を感じましてな」
紳士の姿をした青年ーー無の男爵アモンが肩を竦めながら笑う。
「つまりはクーデターって事だ。理解したか?」
サングラスをかけチンピラ風の男ーー絶対零度の男爵サブナック。
「……」
何やら不満そうな大男ーー灼熱の男爵ベリアル。
「クーデター……だと?」
幹部の中でただ一人和美の側に立っているマルコシアスが三人を睨みつける。
「まあ、殺しやしない……魔王様は性奴隷として飼ってやるからよ。理解したか?」
サブナックが口元を下品に歪めながら歩を進める。
マルコシアスは焦っていた。
(不味い……この三人が動いたとするとーーもう。部下達も)
そうなるといくらマルコシアスでも魔王を守りきる事は出来ない。
「……下らない」
だがこの状況を和美は一言で吐き捨てた。
「私は貴方達の奴隷に堕ちるつもりは無いし、魔王をやめるつもりもないーー」
「まだこの状況を理解してないとは……」
サブナックは呆れながら和美に歩み寄ろうとしーーまるでピンポン球のように吹き飛ぶ。
「ガッ……!?」
壁にぶつかり床へと叩きつけられるサブナックを見送りながらアモンは溜め息をついた。
「大人しく投降して下さる訳にはーーいきませぬか」
「諄い」
玉座から立ち上がる和美。
彼女から放たれるプレッシャーと魔力は魔王の名に相応しい。
「マルコシアス」
和美ーー否。魔王はたった一人手元に残った部下の名を呼ぶ。
命令を聞く必要もない。
マルコシアスは剣を抜き放ち魔王より前にでる形で身構える。
「はいはい。ご苦労様です」
魔王の間に響く手を叩いた音。
「魔王陛下。あなたの役目は終わったんですよ」
手を叩きながらベリアルの後ろから現れたのは眼鏡をかけた魔族の少女マヤ。
幼さを残した表情に邪悪な笑みを浮かべる。
「マヤ……貴女まで」
「あなたを魔王にした私があなたを倒す。なんかステキじゃありません?」
「そうね……貴女には借りが沢山ある」
魔王のプレッシャーを前にしてマヤは冷や汗を流しながらも笑みを消さない。
「魔王陛下ーーいいえ。カズミちゃん? この私が何の準備もせずにあなたを魔王へ仕立て上げた、とでもお思いですか?」
「……?」
マヤが取り出したのはリモコンに似た物体。
カチッという乾いた音と共にスイッチが押される。
その瞬間。
「あ……」
力無く膝を床に落とす魔王。
「魔王陛下?」
「ち……力が……入らな……」
「くすくす……馬鹿ですねぇ。大人しくしてたなら幽閉で済ませようと思ってましたのにーー」
マヤはだけどと残酷な笑みを浮かべる。
「こんな元気な姿を見てたら気が変わりました。あなたには慰み者として本当の地獄を味わって頂きまーー」
「させるものか!」
マルコシアスが剣を振るう。
マヤが後ろに転け他の反逆者達も僅かな隙を見せる。
だが光速の男爵という二つ名をマルコシアスには僅かで十分。
魔王ーー和美を腕に抱え窓から飛び出したのだ。
そして今に至る。
「何処に……逃げると言うのだ……!」
何の考えもせずに飛び出した自分が情けなくて腹立たしい。
だが今は翼を止める時間すら惜しいのだ。
暫くしてまた前方に配置された元同胞達を見つける。
躊躇いはない。
道を阻むなら斬り捨てるまで。
「神速の男爵マルコシアス……」
彼は誓った。
腕の中に居る少女を守り抜くと。
忠義を尽くすと。
「ウオオオオオ!」
マルコシアスは叫んだ。
今まで生きて来た中で一番大きな声だったのかも知れない。
通り過ぎる瞬間に元同胞達を斬り捨てて行く。
マルコシアスも無傷では済まないが翼は止めない。
ただひたすらと飛び続ける。
(何か……何か無いのか……)
そんな時。救世主という言葉が頭に浮かんだ。
(なにを……バカな……)
その救世主は魔王討伐連合の総帥ーー普通は和美を助けてくれるは思わない。
だが不思議とマルコシアスはその救世主ならーーと考えていた。
「……戻れないなら進むーーですよね。魔王陛下」
マルコシアスは腕の中に眠るマルコシアスに微笑みかけジェネシス帝国へと向かうのだった。
場面は変わりジェネシス帝国。
俺こと佐久間一輝は静かな夜を楽しんでいた。
メイドの姿は無し、炎と水のコンビは前に相手したから大人しくしていてくれている。
そして皇帝陛下も多忙との事だ。
なら俺の平穏を脅かす存在は無いも同然。
「……平和は良いなぁ」
今夜こそゆっくり眠れるという物だ。
「……ん?」
何やら悪寒を感じ俺は窓の外を見た。
「……んん?」
空から何かが近づいて来ている。
最初は小さな点だった。
速い。どんどん大きくなっている。
鳥だ、飛行機だ、いや。
「魔族だぁ!」
言うが早いか俺は窓から非難する。
その瞬間。
まるで巨大な岩でも放り込まれたかのような音が響く。
「な……な……!」
侵入(?)して来たそれは部屋の壁に激突し、やっと止まった。
ーーそして。
「ご無礼を承知でお願いします……我々を……保護して頂きたい」
そこに居たのはまるで絵に書いたかのような美少年とーー。
「和美……?」
彼に抱きかかえられた俺の妹ーー佐久間和美。
何故……和美が?
「兄さ……ん……?」
気がついたのか和美の眼が開き俺を捉える。
「いけません陛下。まだ動いては……って、兄さん?」
「陛下?」
思わず俺と美少年は顔を見合わせる。
「兄さん……!」
「へい……かぁ……!」
美少年を突き飛ばし抱きついてくる和美。
美少年が壁へ見事なぐらいにめり込んだ。
「兄さん! 兄さん……兄さん……!」
俺の胸に顔を埋め泣きじゃくる和美。
何だか良くわからんがーーとりあえず和美の頭を撫でる事にする。
「大丈夫……俺はここに居る」
「うん……兄さん……」
ドアが開く音。
誰だと思いながら首だけ振り返るとそこにはアズリア。
アズリアは壁にめり込んだ美少年と俺に抱きついている和美を見渡し頭をかきながら。
「侵入者と聞き飛んで来たんだか……どんな状況だ?」
知るか。
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