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第二十話「湯煙」
「……つまらない」
 魔王和美は不機嫌さを隠そうともせず呟く。
「何故……人間は攻めて来ないのです?」
「攻める側には不利な土地ですからーー準備をしているのでしょう」
 和美が座る玉座の隣りに控えた少年ーーマルコシアスが返答をする。
「その準備とやらにかかる時間は?」
「少なくとも半年はかかるでしょうーーその間。我々も守備を固められるというものです」
「……」
 和美はマルコシアスの説明を途中から聞くのを止めていた。
 早い話。和美は退屈しているのだ。
 魔王としての権力を振りかざし、部下達を虐める事も楽しいが終わると虚しくなる。
 これは弱いものいじめをしたいじめっ子の心境を想像して欲しい。
「退屈凌ぎに何かありませんか?」
「退屈凌ぎ、ですかーーあ。そうだ」
 マルコシアスはしばらく考え込むとにこやかに何処からかボードゲームのような物を取り出した。
「これなんてどうですか?」
 和美は溜め息をついた。
 場面が変わりジェネシス帝国の宮殿にある浴場施設。
 平和だね。
 魔王って奴はやる気があるのかというぐらいに平和だ。
 いや。平和に越した事はないーー嵐の前の静けさじゃなければ良いんだが。
「……ふぅ」
 なんてなーーかく言う俺は湯船につかりながらその平和とやらを満喫していたりする。
 一人では広すぎる浴場(わざわざ俺のために用意して貰った)だがやはり落ち着く。
「ご主人様。お背中流しましょうか?」
「いや。良いーーって、何で当然の如く居るんだ?」
「それはご主人様に仕える為ですが?」
 バスタオル一枚巻いただけの美少女と混浴。
 何か普通に受け止めている俺が怖い。
「……?」
 見るとシェリルが珍しく真剣な顔をしていた。
「カズキ様は何時までもカズキ様でいらして下さいね」
「……は?」
「何でもありません」
 シェリルは真剣だった顔を微笑に変え立ち上がる。
「お着替えを用意しますね」
「ああ。ありがとう」
「ごゆっくり……」
 お辞儀をして浴場を出て行くシェリルを見送り俺は湯で顔を洗う。
 やはり風呂は人類最高の文化だ。
「ふぅ……ん?」
 入り口に立つ人影。
 湯煙でよく見えない。
 シェリルにしては早すぎる。
「おっ……居た。居た」
「……アズリア!?」
 そこには全裸姿のアズリア(場所を考えれば当然か)がバスタオルを巻かずにズカズカと入って来る。
 双子騎士がオマケですと言わんばかりにアズリアの後へ続く。
「な……何か用か……!?」
「裸のつき合いだが?」
 きょとんとするアズリア。
「ならバスタオルぐらい巻け」
 大きく膨らんだ胸を隠そうともせず(一応下半身はタオルで隠しているが)怪訝な顔をするアズリア。
 そのまま湯船に入り、俺の真っ正面に座る。
「失礼……」
「……します」
 双子騎士は隠してくれているが何故か俺の左右に座る。
(逃げ出してぇ……)
 美女+美少女との混浴。
 喜ぶべきなのか?
 喜べない俺は普通では無いのか?
 否ーーいきなりこの展開だと誰もが戸惑う筈だ。
「何だ? その悩ましそうな顔は」
 察してくれ。
「まあ、いいや」
 ーーおい。
「魔王討伐連合もだんだんと形になって来たな」
 とりあえず真面目な話をしてみる。
「強国ジェネシスが参加するんだからな……それもあるんだろ」
 お湯を手で飛ばしながらアズリアも話に乗って来る。
「膠着状態が続き連合内にいらん緊張感が漂ってるだろ? それが堅苦しくて仕方ないんだよなぁ」
 アズリアの言うとおり。
 今は戦争前で、連合が出来たばかり。
 連合内だけではなく世界中がピリピリしている状態だ。
「確かに今のままでは不味いな」
 俺で無ければアズリアーーましてや双子騎士でもない。
 俺専用である筈の浴場に新たな乱入者。
 何だ。
 俺には特別なスキルでもあるのか?
 しかも寄りによってーーこいつか。
「お。皇帝じゃん」
 まるで仲の良い友人に手を振るかのようだ。
 誰に対しても同じ態度に接するのは凄い事かも知れないがーーこれは何か違う気がする。
「ああ。皇帝だ」
 バスタオルを巻いただけのリリアが優雅に微笑む。
「カズキ。行くなら私も誘えと言っているだろう」
「誘うか! コンビニとは訳が違うぞ!」
 というかここは俺専用じゃなかったか?
「こんびに……? それは何の組織だ」
「……いや。何でもない」
「?」
 何だか馬鹿馬鹿しくなって来た俺は湯を被る。
 悩んでいても状況は変わったりしないからな。
「カズキは良くやっているよ」
 突然、リリアが独り言のように言い出す。
「何だ。急に」
「ただの独り言だ」
 俺は何も出来ないと思っていたがそうだと嬉しいーー言葉には出せんが。
「ご主人様。お着替えをお持ちしました」
「ああ。そろそろ上がるよ」
 脱衣場から聞こえるシェリルの声に答え俺は湯船から上がる。
「話聞いてくれてありがとうな」
「アタシはただカズキと話したかっただけだ」
「私もただ風呂に入りたかっただけさ」
「……」
「……」
 アズリアとリリアの返事はあるが双子騎士からは無い。
 何時も以上にボーっとしており顔が赤い。
「……逆上せてないか?」
「おっ! リーゼ、ローゼ!? お前等は長湯が駄目だから百数えたら出るように言ったろ!」
 ぐったりとした二人の部下を抱き起こし揺らしながらアズリアは叫ぶ。
「風呂湯で死亡など情けないを通り越して面白い死に方するな!」
 心配しているのかないのかよくわからんな。
「それより早く冷やさないと……シェリル」
「はい。冷たいものをお持ちしますね」
 聞いていたのかシェリルは既に動いていた。
「カズキ。悪いがリーゼを頼む」
 そう言うが早いかローゼを抱えて湯船から上がり浴場を後にするアズリア。
「ああ……って、俺?」
「皇である私に力を使わせる気か? 何をしても構わないなら引き受けるがーー」
「よし。俺がやろう」
「つまらん」
(何がだ?)
 つまらなさそうにしているリリアをスルーし、俺は俗に言うお姫様抱っことやらでリーゼを抱える。
「……」
 熱のせいか妙に色ぽっく見えるーーそれにバスタオルを巻いてるとは言え、殆ど裸と変わらない。
 そんな状態で体を密着させれば流石の俺でも緊張ぐらいはする。
(いかん……理性を保て)
 俺は首を振る事で理性を保たせ浴場を後にするのだった。
 あれから二人を医者に見せたが大事には至らないと言う事だ。
 何故、そうなるまで風呂に浸かってたのかは不明だ。
「ご主人様ってば罪なお方ですね」
 シェリルにそう言われたが……まさかな。
 そして日が流れーーってこんなんばかりだな。
 一日一日を話にするほど出来事は無いという事だ。
 話が逸れたが今日は連合に参加する国々の代表が集う日。
 毎晩寝ずに考えた文章を唱える日だ。
「では、最初にーー魔王討伐連合総帥カズキ殿」
 そして今は代表者同士の挨拶と紹介という場面。
 何で俺が最初なんだ?
「魔王討伐連合総帥佐久間一輝だ」
 堅苦しい事は苦手なんだがこういうのは組織に必要(勿論、過ぎない程度に)な物だ。
「先ずはこの場に集まってくれた事に感謝する」
 さて、たまには良い所を見せてやるか。



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