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第十八話「闇。訪れる」
「本日は大変お日柄も良く。絶好の……違うな」
 俺は紙屑を放り投げると次の紙に手を伸ばす。
 数時間前。
「気の利いた内容を頼む」
 とリリアに言われ俺は演説(?)の内容を考えていた。
 俺に息子でも居てその息子が戦死でもしてくれたら楽なんだがーーすまん。忘れてくれ。
「……」
「ご主人様。お一息つかれたらどうですか?」
「ああ……」
 なるようにしかならないか。
 最近こればかりだよなーー少し憂鬱だ。
「そう言えば六護騎士の方々が此方に来られるようです」
「……え?」
 おい。国を守る為に余り六護騎士は使えないんじゃなかったか?
「全員という訳ではないですけど……ホリィ様とアヤメ様が」
 全然聞いていなかったが……まあ、あの二人なら問題も無いか。
「それで何時だ?」
「確か今日だったかと」
「……」
 最早。何も言うまい。
「さっさと考えないとな」
「アヤメ様ならアドバイスを頂けると思いますが」
「初めから頼るのも変だろ?」
 そうですねと笑いながらシェリルはお茶を煎れてくれた。
「ご主人様はどうして私たちの為にここまでして下さるんですか?」
「何だ急に」
「いえ……ご主人様は異世界の方ですし」
「自分の世界に戻る事を優先するーーか?」
「はい」
 シェリルは正直者だな。
「ぶっちゃけた話。元の世界に戻れる保証なんて無いわけだ……だったら、せめて自分の居場所を確保しておきたい。それだけだ」
「そう言う事にしておきます」
 納得されるとは思っていなかったが……何かムカつく反応だな。
「いえいえ。ご主人様はお優しいお方です……そう。すぎるぐらいに」
「……勝手に言ってろ」
 俺は茶を飲み干すとペンを再び手に取った。
 こんなものはそれらしい事を並べていれば良いんだ(多分)
 俺に任せた時点でこうなる事は必然だった。
 ……自分で言っていて情けない。
「見事に適当な文章だ……ま、いいか」
 本当は良くないが、読むときに考えれば良い。
 ……情けない。
「あ、終わりましたか?」
「ああ」
「では遊びましょう」
「嫌だ。寝る」
「では添い寝を……」
「頼むから普通に休ませてくれ……」
「冗談ですよ」
 嘘つけ。
 何だかんだ言いながらベッドを寝れるよう準備してくれるシェリル。
 流石はメイドだ。
「おやすみなさいませ」
「ああ……おやすみ」
「お歌を歌って差し上げますね」
「……」
「遥か闇の彼方へ……」
 上手いが、嫌な歌だな。
 怪しくも心地良い歌声に俺の意識が眠りへと落ちるのにそう時間はかからなかった。
 夢を見ているようだ。
「良いかい。一輝」
 親父?
「この世には自分ではどうにもならない事が確かにある」
 親父が優しい笑みを浮かべながら俺を見下ろしている。
「だが、どうにもならないからと言ってそれに従ってやる道理はない……」
 ……は?
「ん? すまない。一輝には早かったか……私自身も意味分からんしな」
 駄目だろ。
「あっはははは。つまりは、どうにもならない事でも足掻いてやれ! という事さ……多分」
 多分かよっ!
「……どうにもならない事でもそのままだったら気分悪いだろ? だからさ。気に入らない事には逆らってやれば良い」
 おいおい。
「お前の事だ。大抵の事は我慢する。お前が我慢出来ないなら、他が悪いに決まっているんだ」
 滅茶苦茶だな。
「だからさ……頑張れよ」
 それが夢で親父が放った最後の言葉だった。
 夢の中ぐらい気の利いた事言えよ。
 でも……ありがとうな。
「……あら?」
 目を開けるとそこには久しく見ぬ顔が。
 車椅子に座り瞳を閉じた少女ーーアヤメだ。
「……アヤメ?」
「はい」
「何故ここに……あ、そうか」
 そういえば来るとか言ってたな。
 寝ている間に来るとは思っていなかったが。
「何か用事でもあったのか?」
「はい。半分終わってしまいましたけど」
「何だったんだ?」
「六護騎士の代表としてのご挨拶やこれからのお話です」
 忘れていたが、ホリィとアヤメが六護騎士のトップだったな。
 ……駄目だ。どう想像しても二人がそれぽく見えてこない。
「来たのは二人だけか?」
「ミレイユさんとユリアさんにも同行して頂きました」
 黒騎士と黒メイドか。
「ホリィは?」
「あら? 先ほどまでいらっしゃりましたのに……」
「何か言ってたか?」
「え、ええ」
 歯切れ悪く何故か頬を赤らめるアヤメ。
「優しくして貰うように……と」
 おい。あいつはいたいけな少女に何を……。
 俺はアヤメに手を出すほど捨てちゃいない。
「……」
 何故か黙り込む二人。
「アヤメ様。これは自らをアピールするチャンスかと」
「ほぅわっ!」
 いきなり聞こえた声。
 するとアヤメの背後には黒メイドことユリア。
 妙な叫び声を上げてしまっただろ。
「驚かせてしまいましたか?」
「……すごくな」
「そうですか。申し訳ありません」
 ぺこりと礼儀正しく頭を下げるユリア。
 何処かのメイドにも見習って欲しいぜ。
 心臓に悪いので登場の仕方は見習って欲しく無いがな。
「私の調査によるとカズキ様と体を合わせた人物はルカ様、シェリル、フレイ様、フィーネ様です」
 どうやって調べたんだこの黒メイド!
「メイドにはメイドの情報網があります」
 意味分からん。
「あの……!」
「な、何だ?」
「私とは駄目ですか……?」
「は、はい?」
 言っている意味はわかる。
 だがいきなり積極的になったのは何故だ?
「やっぱり……私じゃ……駄目ですよね……」
「う……!」
 悲しそうな顔をされても……俺はノーマルなんだ。
「……」
 そこの黒メイド。冷たい視線を向けるな。
「アヤメ様のお気持ちを無視なされるおつもりですか?」
「お前の一言がスイッチにならなかったか?」
「……アヤメ様の何処が不満と言うのです?」
 話をすり替えやがったな。
「不満とかそういう問題じゃない……俺はこの線を越えたくないだけだ!」
 越えたら駄目になりそうだ。
「良いんです……ユリアさん」
「アヤメ様」
「私がこんな体だから……いけないんです」
 思いがけない方向にダメージが!
 何でだ。何でだよ……俺は越えてはいけない線を死守してるだけだ
 どうする? 否。これしかない。
「え……あ」
 俺はアヤメの頭を撫でる。
 人の頭を撫でるなど滅多にしないからわかないが、これで良いだろうーー多分。
「……」
 悲しげだったアヤメの顔が心地よそうなものへと変わっていく。
 よし。流せた。
「カズキ様。アヤメ様の身体を捧げたいというお気持ちがその程度で抑えられるとでも?」
「……」
 いや。普通に抑えられているが。
「アヤメ様」
「はい?」
 飼い主に頭を撫でられた手乗りペットのように心地良さそうな顔をしているアヤメが首を傾げる。
「アヤメ様にそのつもりが無いのなら私は構いませんーーですが」
「私も救世主様と……なりたいです……でも救世主様がそれを望んでいません」
 本編始まって以来のまともな思考だ。
「……合意など後で取れば良いのでは?」
「!」
 アヤメさん?
 そこは衝撃を受けるところではない。
「嫌も好きのうちーーカズキ様とて心の底からアヤメ様を拒絶している訳ではありません」
 雲行きが今までにないぐらい怪しくなる。
「むしろアヤメ様を求めていると言えるでしょうーーアヤメ様はそんなカズキ様に手を差し伸べるべきです」
「わ、私はとんだ思い違いを……」
 今がまさにとんだ思い違いです。
 ていうかこの黒メイド……。
「私はアヤメ様に仕えておりますので」
 涼しい顔してやることがえげつない。
 ここまで来て拒絶すればアヤメを必要以上に傷つけてしまう。
 そりゃあ、少しは傷つけてでも避けるつもりだったが……限度という物がある。
 だからといって簡単に抱くのは嫌だ。
 どうする?
 どうこう考えている内に事態は進んで行く。
「救世主様……私の事がお嫌いですか?」
 不安に見上げてくるアヤメ。
「……!」
 その顔と台詞は反則ではないだろうか。
 ……俺はロリコンじゃないよな。
 だんだんと不安になって来た。
「……後悔しないか?」
「わかりません……でも、救世主様に拒絶されるよりはマシです」
「……救世主はやめてくれ」
 俺がそう言うとアヤメは恥ずかしそうに頬を赤くし。
「わ、わかりました……か、カズキさん……?」
 やはり恥ずかしそうに俺の名を呼んだ。
「ああ」
 俺が頷くとアヤメは恥ずかしさを誤魔化すかのように笑む。
 可愛いーーいや。別に俺が異常なんかじゃない。
 俺はそんな言い訳をしながらアヤメの小さな体を抱き寄せた。
 簡単に折れてしまいそうなか弱い体。
 だが温もりは暖かく優しい。
 気づくと俺とアヤメはどちらからともなく唇を合わせていた。