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第十五話「決闘」
ジェネシス帝国宮殿へと招かれた俺たちはやはり無駄に広く華やかな飾り付けがされた会議室に居た。
「魔王軍と戦争する為に我々の助力が欲しいか……」
皇帝が愉快そうな顔と声で頷く。
因みに説明を求められたのでちゃんと説明はした。
先に話が通っている筈なのだが……どういう事だ。
「……」
皇帝はしばらく俺を見つめ、口を再び開く。
「断る」
一同が唖然とする。
「何故!?」
叫んだのはシェリル。
「自分より弱い者に従う通りは我々に無い……メイドは引っ込んでいろ」
「ご主ーーカズキ様は危険にさらされてまで貴女にご助力を求めたというのに……!」
「救世主殿がご自分で考え動いた結果だ……フッ。愚かだな」
「……!」
何時もと違うシェリルの様子に俺はついて行けない。
「ご主人様……」
とりあえず手を掴み落ち着かせる。
「甘い男だ」
「……!」
シェリルがギリと歯を鳴らす。
「それ以上……この人を侮辱するなら、皇帝と言えど……!」
シェリルから放たれる殺気に皇帝から挑発の色が消える。
俺もこんなシェリルを見たのは初めてだ。
「おい。リーゼ、ローゼ……そいつを見張っとけ」
「良い判断だ」
アズリアは溜め息をつき皇帝を軽く睨む。
「自分より頭に来てる奴が居たら逆に落ち着く事てあるんだな」
何なんだ……この今すぐにでも戦争しますよって感じの空気は。
「面白いな……私として是非力を貸してやりたくなったが、戦争へ参加するにはそれなりの理由がいる」
「魔王軍の驚異を排除……っで通らないのか?」
「通らない事もないが、私の国は力こそ全てだ」
「そのジェネシスが格下であるユミールに協力する訳はいかないか?」
「流石は救世主殿というべきかーーその通りだ」
「何も従えと言っている訳じゃない」
「此方から協力を持ち掛ける分には何の問題も無いがーーややこしくてな」
皇帝は参ったという風に肩を竦める。
「手っ取り早い方法が無いことも無いがーー」
皇帝の目が怪しく光り口元が歪む。
「そちらの代表ーーつまり救世主殿が皇帝である私より優れている事を証明すれば良い」
「……」
嫌な流れだ。
「つまりは私と決闘をするという話だ」
無理だ。
そう言えればどんなに楽か。
だが俺はもうここに来てしまった。
引き返せないーーいや。引き返したくない。
何だろうなーー負けず嫌いというか諦めが悪くなったみたいだ。
「わかった。ルールは?」
アズリアが驚いている。
すまんな。
「ジェネシス帝国では互いに好きな武器を用いそれで戦う。どちらかが降伏するか、戦闘不能になるまで続ける」
降伏すれば命だけは助かるか。
「わかった」
「カズキ。本気か?」
「ああ」
「リリアって言えばーー確か」
「言うな」
アズリアの口を塞ぎつつ俺は考えていた。
武器はどうする?
相手が女と言え、恐らく戦闘のプロだ。
小さい頃に祖父の道場へ通ってた程度の俺では相手にもならない。
元からまともにぶつかり合う気は無いがーー小細工が通用する相手か?
「ご主人様。これを」
「何だ?」
姿が見えないと思えばシェリルは手に何かを持って現れた。
鞘に収められた剣ーー映画に出てきそうだ。
「シェリル……そいつは……!」
アズリアが信じられない物を見たかのような顔で剣を指差す。
「はい。国宝剣ユミールです」
「!」
今度は皇帝が驚いていた。
「国宝剣まで持ち出すとは……本気か」
「ご主人様なら鞘から解き放つ事が可能でしょう」
「それも封印される程の代物か……面白い」
いや。何かね……完全に置いてけぼりですよ。
「抜けないのか?」
「抜かれたという記録はありませんが、よっぽどな力が封印されているそうです」
未確認情報かーー無いよりはマシだが。
「ていうか、アタシは実物を見るのも初めてなんだが」
何処まで王道に突き進む気だ。
まあ、岩に刺さった剣を抜けば王と言われるよりはマシだが。
「それどうしたんだ?」
「出発前に女王様から預かりました」
って事は何か。あの女王は予想でもしていたのか?
「三日待つ。私も手が抜けなくなりそうだーーせいぜい策を……」
そんな事を言われてもな。
小細工が通用する相手には見えないがまともにやっても勝ち目は無さそうだ。
だからーー時間なんて必要ない。
「いや。待つ必要は無い」
「なーー」
シェリル以外全員が驚いた。
皇帝も唖然としているーー勝った気になるのは何故だろう。
「いくら何でも無茶じゃないか?」
「三日あっても無茶だろ?」
アズリアの言葉に俺はそう返す。
三日の間。訓練をしたとしても変わりはしないだろう。
向こうも手を抜く気は無さそうだし、何らかの訓練をするだろう。
それだと差が開くだけで何の意味も無い。
俺が少しでも勝利の可能性があるとしたら、向こうも知らないこの剣しか無い。
俺が勝てるかどうかはこの剣にかかっているという事だ。
三日もかけてたら対策を打たれないとも限らない。
そうなれば勝ち目なんてなくなる。
なら少しでも高い方に賭けようという浅はかな考えだ。
「面白いーー良いだろう」
皇帝は顔色を変えずに不適な笑みだけを浮かべ会議室から出て行く。
「シェリルは何も言わないのか?」
「ご主人様を信じてますから」
「ここまで来たらアタシも信じるさ」
信じられ過ぎても困るが。
やってみるさ。
そうして俺は案内された決闘場に立っている。
決闘する事になるなんて考えてなかったからな。
「覚悟は良いか?」
相変わらず愉快そうな笑みを浮かべた皇帝が問う。
「……いつでも」
やる気だけでも見せないとな。
「そう言えばちゃんと鞘から抜けたのか?」
ーーあ。
まだ試してないや。
「行くぞ」
皇帝が鞘から剣を引き抜き距離を縮めて来る。
俺も皇帝に習って鞘から剣を引き抜ーーけない。
ていうか重い。
なんでこんな事に今更気づくんだ?
「……死んだな」
遠くでアズリアの声がーーって、死ねるか!
こうなったらこのまま戦ってやる。
凡人の意地を見せてーー
シュッ!
ガキン!
適当に振るうと皇帝の剣に当たったらしい。
いや。弾かれたのだ。
「つまらんーーこの程度か」
「……え?」
俺の手からユミールは離れようとしていて……皇帝の剣が迫っていた。
待てよ。
これで協力が得られなかったらどうなる?
。
「ーーない」
「……」
「冗談じゃーーない!」
宝剣なら力を貸しやがれ!
「……!」
皇帝が後ろに跳ぶ。
「シェリル。アズリアーーわかったよ」
「?」
「抜けないんじゃないーー抜かなくて良いんだ」
これは鞘のまま戦う剣なんだーー多分。
鞘の中には凄い力が封印されているのは本当かも知れない。
それを封印している鞘は剣以上の力を持っているのが道理。
少なくとも壊れたりはしないのだ。
「!」
力任せに振り下ろす。
ドン!
決闘場の床が抉れたーーって、凄すぎるだろ!
「何だーーこの力は!」
皇帝の顔から余裕が消え動揺が現れている。
だが、剣術は向こうが上。
ならばーーこれしかない。
「次は当てる」
なるべく迫力が増すように言うーーこれしかないんだよ。
「わざと外したというのか……!」
「気づかないのか? 当たれば死ぬという事を」
「くっ……!」
「かすりでもしたら大怪我だ。そんなリスクをおかす必要があるのか?」
「何……!」
皇帝が睨んでくるーーもう少しか?
「役に立たないプライドなど捨てて降参しろ」
「面白い事をいう……ならば、試してみるが良い」
皇帝が剣を上段に構え走って来る。
よし、予想通りだ。
(当たらないように……と)
俺はユミールを振り上げ先ほどのように振り下ろした。
「!」
ズドン!
地面が砕け抉れる。
俺の一撃は皇帝にギリギリ当たらなかった。
いや。当たらないようにした。
「わざと外したなーー何のつもりだ?」
「この決闘に意味はない」
「……」
「この際。貴女の勝ちでも構わない」
「それだと我が国は連合に加わる事が出来ないが?」
「じゃあ。こうすれば良いーージェネシス帝国は俺に協力すれば良いんだ」
そのばに居る全員が同じ顔をした事だろう。
言ってる事が無茶苦茶だもんな。
「ユミールにではなく救世主である俺に、だ」
「あ……」
救世主という存在は全ての人間に重要なものらしい。
それを利用させて貰う。
これを断るという
「魔王を討伐する力を貸してくれ」
「ぷっ……あっははははは!」
皇帝が笑い始めた。
何か長い間耐えていたのが爆発したかのようだ。
「それなら初めから決闘などしなかったら良いだろう」
それは確かにーー思いついたのがそれより後なんだから仕方ない。
「貴方は面白い。だがな……一度抜いた剣を勝敗が付かずに収められると思うか?」
皇帝が駆ける。
「そりゃあ……そうだ!」
初めから上手く行くとは思っていなかったしなーー俺はユミールを振り下ろす。
ガキン!
「くっ……!」
ユミールの一撃を皇帝は剣で受け止めていた。
地面を砕く力をいとも簡単にーーだ。
この世界では有り得なくはないのだが。
足を地面にめり込ませながら皇帝はニヤリと笑う。
「良い一撃だ……!」
皇帝はユミールを押し退けると膝をつく。
「は……?」
「我が国はユミールではなく……救世主である貴方に従います」
「謀ったな?」
「何の事やら」
要するにこの皇帝は口実が欲しかったのだ。
格下であるユミールの誘いに乗る事は出来ない。
だからといって、救世主の言葉だけで参加するのは皇帝的につまらなかったからだろう。
「どちらにしろーー決闘も貴方の勝ちだからな」
「え?」
見ると皇帝の剣はひび割れており、確かに決闘が続けられる状態ではなかった。
「リリア・ジェネシスはこれより貴方の剣となります。指示を」
皇帝は膝をつきニヤリとした笑顔を俺に向けるのだった。
もうどうにでもなってくれ。
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