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第十四話「皇帝と悪魔」
 のんびりとした空気が流れる車内。
 これが普通なんだ。
「お茶はいかがですか?」
「貰うよ」
 メイドの仕事をし出したシェリルにお茶を貰いながら俺は馬車の旅を楽しんでいた。
「……くーー」
 アズリアと双子騎士は夢の中だ。
(こいつらは護衛する気あるのか?)
 とても頼りなく見えてしまう。
 とは言っても馬車には何人かの護衛がついているらしいし、ジェネシスの領土に入れば危険も無いらしい。
 なら安心だーー。
 ドン!
 馬車が揺れる。
 だよな。ゲームでもそんな簡単に上手くいかないもんな。
 じゃない。
「何だ!」
 飛び起きたアズリアが外にいる護衛に向かって叫ぶ。
「悪魔です!」
「チッーーもう少しでジェネシスに入るというのに……」
「狙われましたね」
 シェリルの言葉にアズリアは頷き、両拳を合わせる。
「上等だ……戦闘準備に取りかかれ!」
「「はっ」」
「カズキも来るか?」
 護衛対象を危険な場所に誘ってどうする。
「中の方が危険だったりするんだ。良いから来いって」
 アズリアは俺の手を引っ張り馬車の出口へと歩いて行く。
「あ、私も……」
 まるで買い物についていく乗りだな。
 あれこれしている内に馬車の外へ引きずり出された俺は先ず、辺りを確認した。
「救世主様。お下がりを!」
 剣や槍、弓などの武器を構えた騎士や兵士達。
 その先には……。
「あいつは……」
 コウモリのような翼を持つ大男。
 ……男?
 この世界に男は俺しか居なかったんじゃないのか?
「人間の男はご主人様だけです。彼らは悪魔ですから」
 俺の疑問を察したのかシェリルが先に答えてくれた。
 悪魔……この世界の人間と長い間争って来た存在。
 翼が生えている以外は人間と見た目は同じだ。
「おぅ……お前が救世主か」
 悪魔の大男が俺を見下ろしながらニヤリと笑う。
「黒炎の男爵……ベリアル」
 アズリアが何故か嬉しそうに相手の名を呼ぶ。
「オレを知ってんのか?」
「ああ。馬鹿で有名だからな……」
「そうか。有名か! ダッハハハハハ!」
 馬鹿はスルーしたらしい。
「わかってんなら……大人しくそいつを寄越しな」
「断る」
 アズリアの即答にベリアルは頭をかき。
「断れたらオレはどうすれば良いんだ?」
「帰れば良いんじゃないか?」
「そうか。それもそうだな……じゃあ。良い旅を!」
 俺が答えてやるとベリアルは翼を羽ばたかせ空にーー。
「って、それじゃ駄目だろ!」
 いかん。戻って来た。
「話は考えてみりゃあ……簡単だったな。力強くで行くぜ」
「一人できたのか?」
 アズリアの問いにベリアルはニヤリと笑い。
「いいや。何人かと一緒に来たぜ?」
 全員が辺りを警戒する。
 今までの会話は作戦だったのか?
 だとしたらこの男……馬鹿ではない。
「すまねえが……一緒に来たことは来たが。今は別行動だ」
「何故だ?」
「はぐれたんだよ!」
 やはり。馬鹿だった!
「救世主を連れ帰らねえとあの魔王に嫌味言われんだよ!」
「……カズキは下がってな」
 アズリアが前に出るーーその時だった。
「双方。武器を納めよ!」
 気高さに溢れた声がしたのは。
「私はジェネシス帝国第七皇帝ーーリリア・ジェネシス」
 俺と同じ年ぐらいの少女が威圧感のこもった目つきで見据えていた。
 その側には護衛らしき女騎士が控えている。
「残念だったな。まだお前等の領土に入ってねえんだよ!」
「うむ。私が立っている場所がギリギリジェネシスの領土だな」
「だからてめぇらが首を突っ込むことはできねえんだよ!」
 ベリアルはリリアと名乗った皇帝を睨み返す。
「うむーー実はそちら側が我々の領土なのだ」
「何だと!? って事は何か。てめぇ等がいる場所こそ領土外って事か」
「しまった……気づかれるのが早すぎる」
 棒読みだ。
 そんな明らかな嘘に引っ掛かる筈が……。
「へっ……そんな手に乗るかよ!」
 ほら……って!
 ベリアルは高く飛び上がると皇帝の遥か後ろに着地した。
「これで……」
「ようこそ。我が国ーージェネシスへ」
「あん?」
 ベリアルは何かを考え。
「……あ、あああああ!」
 怒りに震え始めた。
「騙しやがったな! 魔王の奴に嫌味言われんだろうが!」
「どんな風に?」
 笑いをこらえながら皇帝が問う。
 完全にからかっているな。
「ベリアルさんって頭も鍛えてるんですね。頭まで筋肉で出来ているという意味ですよ? あら。わかりました? 失礼。あなたじゃあ高貴な私の考えが理解できないとばかり……うわあああああ!」
 今まで一番長い文章だ。
 途中で怒りを思い出さなければ更に長くーーじゃない。
「オレの怒りに触れるたぁ……良い度胸してんじゃねぇか……ああ!?」
「水獄」
 突然聞こえたその声と共に大量の水がベリアルに降りかかる。
 バシャー!
 頭から大量の水を浴びたベリアルはプルプルと震え。
「何しやがる! マヤ……てめぇだろ!」
 眼鏡を掛けた少女が黒い翼を羽ばたかせながら空から現れた。
「ベリアルさん。何をやってるんですか?」
「だってよ……」
「言い訳は海にでも捨てやがって下さい」
「海にゴミを捨てたらいけないんだぞ!」
 そういう意味ではないが……こいつ悪魔にしてはまともな人物(?)かも知れない。
「遊ぶ前に玩具が壊れてたら白けるから戦闘は避けるよう……魔王陛下のお言葉を忘れました?」
 魔王……随分とアレな人物のようだ。
「チッ……帰れば良いんだろ」
「はい。良くできましたーーそんな怖い顔しなくても良いじゃないですか」
 眼鏡をかけた少女は一瞬だけ俺を見つめ微笑んだ。
「いずれ……会うことになりますから」
「覚えてやがれ!」
 雑魚キャラの捨て台詞だな。
「それ雑魚キャラの捨て台詞ですね」
「うっせぇ!」
 そんなやり取りをしながら飛び去っていく二人。
 それを見送ってから皇帝はやっと俺たちを見る。
「改めてようこそ。ジェネシス帝国へ……私。リリア・ジェネシスが歓迎する」
「皇帝陛下がわざわざどうも……んで今のは未然に防げ無かったのか?」
 アズリアの言葉に皇帝が鼻で笑う。
「こちらの力が及ばない場所だからな……」
 何だ。アズリアと皇帝の目から見えない筈の火花がぶつかり合っている。
 俺の目は変になったらしい。
「む……貴公が救世主殿か」
 皇帝は興味が失せたのかアズリアから視線を外し俺に歩み寄る。
 身構える双子騎士を俺は目で制止させる。
 見ると皇帝の護衛騎士も同様らしく構えを解いていた。
 じゃないと斬りかかる雰囲気だったからな。
「ふむ……威圧の無い目。貧弱な腕。全く鍛えていない体」
 仰るとおりです。
「おい」
 アズリアとシェリルの目つきが変わる。
 何でお前等が怒るんだ?
「恐れながら皇帝陛下。それでは救世主殿を批判しているようにしか思われないかと」
「む……悪気はなかった。許せ」
 皇帝は謝罪している態度とは思えない口調で言う。
「では……我が城にお出で頂こうか」
 皇帝は裏表を感じさせない笑みを浮かべると俺たちに背を向ける。
「互いに話すべき事は沢山あるだろうからな……」
 俺はこの時。彼女がとんでもない行動をとるなど考えてもいなかった。



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