警告
この作品は<R-18>です。
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How-Low?
(最悪の、気分)
店の営業時間が終わった後。俺はコンビニを三軒ほどウロウロしてから、ようやと部屋へ帰った。
疲れていたが、すぐ帰りたく無かった。アキラと顔を合わせたく無かったからだ。
今夜は二人のキスを見せつけられたお陰で、あの後のプレイは最悪な出来だった。そして、その時以外ホールに入らなかったから、二人が何時帰ったかも知らない。
幼なじみで仲も良いが、二人の関係に恋愛感情は無いと思っていた。けれどあの時アキラはルカに、まるで恋人を愛しむようにキスした。そしてその後、俺に向けて挑発するみたいに、意地悪く笑ったんだ。
──マジに、ムカつく。
恋人でもない俺が、アキラを咎める立場じゃないのは判ってる。でも今アイツの顔をみたら、間違い無く喧嘩になるだろう。
覗いた腕時計の針は、もうすぐ午前四時を指そうとしている。俺は二人とも寝ている事を祈りつつ、玄関の鍵を開けた。
***
暗い玄関から、常夜灯だけが照らし出す居間へ向かう。誰かがシャワーを浴びているらしく、通り過ぎた風呂場から水音が洩れている。
そのまま居間へ行き、隣接する自室をそっと窺う。そこでルカは、ぐっすり眠っていた。
部屋の中は彼女が着けている甘い香水に混じり、酒の匂いがする。きっとかなり酔っ払ったのだろう。帰って来てそのまま、ベッドへダイブしたようだ。
と、言うことは。今シャワーを浴びているのは、アキラだ。
そう覚った途端に、また猛烈に腹が立った。やっぱり文句の一つも言ってやらなきゃ、とても気が収まらない。俺はソファへ上着を脱ぎ捨てると、我慢出来ずに風呂場へ向かった。
洗面所と脱衣スペースを兼ねた、ユーティリティへ踏み込む。そして曇りガラスの風呂場のドアを遠慮無く開けた。
中には、頭からシャワーを浴びるアキラの姿。その背で艶やかに微笑む天女が、余計に憎たらしく見えた。
「──アキラ」
名を呼んだ声が、自分でも判るくらいに怒っている。けれどそれに気付かないのか、アキラはいつもと同じ調子で、背を向けたまま答えた。
「ああ、帰ったのかよ。お疲れさん」
「ナンだよ、アレ」
「ん?」
「何で、キスしたんだよ?」
「ア? ああ、あれか」
「あれか、じゃねえよ。何であんなトコで、キスすんの見せ付けたんだよ!?」
「ッセエな。吠えんなよ、カオル。近所迷惑だろ」
そう気の抜けた声で答えると、アキラは髪を掻き上げ顔の水気を払い、ゆっくりと振り向いた。
──笑っている。
それを見た瞬間、俺は自分を抑えきれずに、アキラの頬を平手打ちした。
風呂場に響く派手な打撃音が、酷く耳に着いていつまでも残る。アキラはその中で頬を押さえながら、勢いに背けられた顔を俺に向けた。
「痛ってえなァ……」
そう呟いた眼が、また笑いに歪む。俺の反応を楽しんでいるんだと思うと、尚更腸が煮え繰り返った。
「俺に見せ付けて、楽しかったかよ? 全く、訳判んねえ。アンタ、一体何様のつもりだよ?」
「何様だと? そりゃあお前だろ」
「ハァ?」
「お前、この間ルカに悪戯したんだってな。あんなガキを何とかしようなんて、そんなに飢えてんのかよ?」
「んな訳無えよ、ほんのスキンシップだぜ? ルカだってそう思ってるさ」
「ふうん……そうか」
「!」
アキラがそう目を細めた瞬間、胸倉を掴まれて無理矢理風呂場へ引き摺りこまれた。そのまま出しっ放しの、シャワーの下に捕らわれる。
苦しい。服でギリギリ締め上げられ、更に浴びるシャワーで呼吸も儘ならない。腕を払おうと藻掻くと、両手を取られ頭上に抑え付けられた。
「本当、憎たらしい事してくれるな。お前って奴はよ」
「…離せ」
「つうか、何でお前が怒ってやがるんだ? 同じ事しただけじゃねえかよ」
「同じ事? 全然違うだろが。俺は、アンタみたいに、あからさまな嫌がらせしてねえし」
「ククク、嫌がらせ、か。なら聞くがな、カオル。お前こそ、俺の何なんだよ」
恋人じゃ無いだろうと、鋭い瞳が告げる。お互いの行為に、腹を立てるのはお角違いだと。
その冷たい輝きが堪らなくて、俺は眼に湯が染みるのも構わず睨み返した。
「別に。アンタは只の、家主だ」
「そうかよ。じゃあ、お前にガタガタ言われる筋合いは無えな。でもよカオル、ルカには手ェ出すな。幾らお前が節操無しだからって、勝手にお遊びの相手にされたら困んだよ」
アキラはそう唸ると、俺を押さえ付けたまま、シャツの裾から手を入れて来た。
「何すんだよ、止めろバカ、痛えっつの!」
乱暴に肌をまさぐられ、俺が抵抗するとうなじに噛み付いて来る。その痛みに呻いて顔を顰めると、アキラは愉しそうに低く笑った。
「今更拒むか? 好きだろ、乱暴にされんのがよ」
「誰が……俺を、そうしたんだよ?」
「さあな。素質があったんだろ、お前にな」
アキラはそう嘯いて、益々耳や肩や、挙げられた腕の内側に噛み付いて来る。そしてシャツを開けられ、血が滲むんじゃないかと思うくらい乳首に歯を立てられて、ソコが痛くて熱くて、また呻き声が出た。
ああ、疼く。
噛まれる痛みの合間に感じる、アキラの吐息や唇の這う感触が堪らない。
交互に繰り返されるそれが、俺の正気を呆気無く壊す。鎖骨の辺りを噛まれて思わず甘い声を上げると、アキラはニヤリと笑って、俺の顔を覗き込んだ。
「噛まれてキモチ良くなってんじゃねえよ。全く、すぐソノ気になりやがって」
「違う、気持ち良く、なんか…」
「じゃあ何だ? はっきり言って見ろよ」
腕を捕らえていたアキラの手が、ゆっくりと体を撫で下りて行く。
既にびしょ濡れになったジーンズの上から、半勃ちの股間を握られても。俺はもう反抗も、逃げる事すら出来なかった。
***
シャワーを止めても、まだ風呂場には湯気が濃く残っている。その中で、俺は上半身だけ脱がされて跪き、アキラの性器に舌を這わせていた。
体を支える為に床に付いた両手は、俺の脱いだシャツで緩く拘束されている。どうやら、口だけでヤれと言う事らしい。
勃ち上がった性器のくびれた辺りに吸い付き、赤黒く脈打つ筋目からゆっくり舌を這わす。吸い付き咥え込み何度も唇で扱くが、物足りなかったのだろうか、アキラは緩いため息を吐いた。
「もっと奥まで咥えろって、教えただろ? いい加減、ちょっとは上手くなれよ」
「う、ゲホッ!」
大きな手で髪を掴まれ、喉の奥まで勢い良く突き入れられる。呼吸を塞がれる苦しさと、喉奥を突かれる痛みと、こみ上げる吐き気に涙が出た。けれどそんな事はお構い無しに、アキラは何度も突っ込んで来る。
辛い、嫌だ、でも──
興奮、する。
涙を流して必死に堪える俺を見下ろしながら、アキラは更に手に力を込め揺さぶった。
そうして、やがて溢れた涎が喉まで伝う頃。やっと俺の口は解放され、俺は床に這い蹲って思いきり噎せた。
「グホッ、ガホげほッ、うう……」
「フン、だいぶイイ面になって来たじゃねえかよ、カオル」
「はあっ、はあっ、はあっ…ッ!」
「悪い事したら、痛い目に合うんだ。良く覚えとけよ」
髪を掴まれ立たされた俺の鼻先で、アキラはそう静かに呟いた。そして俺のジーンズを下着ごと脱がせると、すっかり勃ち上がった俺の性器を指で弾いた。
「んっ……」
「こんな事されて勃ててんのか。お前、本当に変態だろ」
「違……っ」
「違わねえよ、この淫乱が。でも──悪くねえ」
アキラはそこまで言うと、俺の顎を掴みキスしてきた。
今迄の苦しみが嘘みたいな、優しいキス。触れるか触れないかで擦られる唇は、熱くて柔らかかった。
両掌で頬を包まれて、時間を掛け丁寧に舌でなぞられて。まるで、大切なモノを扱うような唇での愛撫に、俺はいつも愛されてるような錯覚に陥る。
──そう、それまで全く男に興味の無かった俺がコイツに堕ちちまったのは、このキスのせいだ。
こんな風にされた事なんて無かった。
こんなにキスが幸せな行為だったなんて、知らなかったんだ。
***
立ったまま解され、後ろから貫かれたこの体は、もうアキラにすっかり支配されている。
感じる快感も、苦痛も、呼吸さえ、アキラの意のままにされて。俺は快楽の底へ突き落とされて、ただ許してくれと泣く一方で、もっと好きに弄んで欲しいと心底願った。
──俺は本当に、アキラが好きだ。
でもその想いに気付いた時には、こんな遊びじみたセックスを散々やらかした後で。快楽に夢中になった俺が時々吐く、好きとか愛してるという言葉は、既に意味を伴わない譫言でしか無くなっていた。
それに、アキラは束縛したり、されたりするのを嫌う。だから俺が誰と寝ようが、決して咎めたり束縛する事は無い。だがそれは逆に考えれば、俺はアキラにとって執着を呼び起こすような存在じゃないって事だ。それこそ手ごろなセフレってのが、一番端的だろう。
思えば、始まりからしてそうだった。たまたま俺が、コイツの手練に堕ちちまっただけ。お互い好きとか愛してるなんて感情が、あった訳じゃない。
それでもこうして苛まれれる度に、コイツが自分に執着してくれてる気がする。だから、錯覚だと判っていても、コイツから離れたくないんだ。
(それってまるで、物覚えの悪い犬だろ)
出口の無い迷路で何かを探して、ぐるぐる走り回る。コイツの心が何処に隠されてのかすら、見付けられない。
「いっ、あ!」
「痛えか?」
「つっ、ああっ……くうっ」
「なあカオル、お前が今どんな面して、どうやって俺にヤられてんのか、見てみろよ」
「……や、っ、うぐっ!」
アキラは背後から俺の髪を掴み、丁度腰の高さに据付けられた、浴用鏡に向かって屈ませた。
俺が顔を背けようとすれば、アキラの手は尚強く俺の髪を引く。痛みと羞恥に眼を瞑れば、開けろと言わんばかりに噛み付かれる。
そうして無理に見せられた、涙で歪む鏡に移るのは。律動に揺れて性器の先から涎を垂らす、自分の浅ましい姿。恥ずかしくて、情けなくて、でも凄く気持ち良くて。全てがぐちゃぐちゃに混ざり合って、嗚咽になり口から勝手に洩れ出る。
崩れそうな腰を掴まれ、無理矢理立たされて。アキラは愉しそうに俺を鏡越しに覗いて、低い声で囁いた。
「……カオル」
「っ、はう、あ…」
「イキたいか?」
「うっ、ウウっ」
「言えよ、素直に」
「イ、き……たいっ」
「そうか。ククク、イカせねえよ、まだ、な」
「ひ、っああ!」
何度も射精感に襲われ、その度に阻まれ、繰り返し限界まで責められる。それは初めてヤられた時から、アキラが俺の体に対して刷り込んだ、快楽の手段。
理性や感情全てが崩壊し、俺がいつもの様にイカせてくれと、泣いて必死に懇願する。それに満足したのか、アキラは低く含み笑うと、最後と言うように俺を追い上げた。
「ああっ、あっ、イ……!!」
「くっ…!」
じわり、と俺の奥深くで瀑ぜる感触に続き、痺れを伴い溜め込んだ熱が、迸る。
「あ……っ、はう……はっ、はっ」
目の前には鏡に飛び散り、ゆっくりと流れ落ちる俺の精液。その色と同じ白濁した頭の中には、体に刻みつけられた熱い快楽の名残だけが渦巻く。
密着していた体が離され、粘付く音を発ててアキラが抜けて行く。ふらふらとへたり込んだ俺が、離さないで、と唇だけで呟いたのは、きっと伝わらないだろう。
もう口を閉じる事すら出来ない孔から、たらりとアキラの残滓が落ちる。足に落ちるその熱さに震えて、初めて自分の体が冷えきって居るのだと感じた。
──寒い。
求めるように震える手を伸ばせば、アキラは少し気怠げに溜息を吐いて、それを取りしゃがみ込んだ。
「まだ足りねえのか?」
「……ない、で」
「アァ?」
「キスして、くれ……もう一度」
「お前……何て顔、してんだよ?」
自分がどんな顔してるのかは、良く判らない。まだ嗚咽の止まらない俺はきっと、ぐちゃぐちゃな顔をしているんだろう。
でもアキラは切なげに眉を寄せると、俺の顔に貼り付いた髪を両手で掻き上げ、頬を流れる涙を拭った。
「カオル、判ったな?もうルカに手ェだすな」
「……」
返事する気力もなく小さく頷いて、そのまま瞼を閉じる。すると唇に、そっとアキラのそれが触れた。
「もう、泣くなよ…ったく、お前って奴は」
良く判らねえと呟くアキラの唇はまだ熱を孕んでいて、俺を再び誘う。ああ、こうしてまた深みに嵌まるのだと、俺は胸の裡で自分を嘲笑った。
***
そのまま髪も乾かさずに眠ったのが、悪かったのだろう。翌日目覚めた時には、俺とアキラは酷い頭痛と悪寒で、起き上がれなかった。
当然だ。この晩秋の明け方、湯にも浸からず、ずぶ濡れでセックスすりゃあ体も冷えきる。
俺達は熱に顔を赤くしながら、二日酔いで頗る機嫌の悪いルカに、ベッドでしこたま怒られた。
「全く、アンタ達はナニ考えてんの? 風呂場は臭いしぐちゃぐちゃだし、しかもカオルの携帯と財布、ジーンズごと水没してるし!」
「げっ、ま、マジに?」
「マジ。つうか、何で脱いでから風呂入んないのよ? 信じらんないバカっ、もう風呂でセックス禁止!」
ルカはそう吐き捨てると、焦る俺に携帯と財布を放って来た。
財布を開けると中身は見事にべちゃ濡れで、無事なのは小銭とクレジットカードだけ。携帯に至っては、既に電源すら入らない。
「アキラ、テメエのせいだ! テメエが…痛っ、風呂場に無理矢理引っ張り込むから…アタタタ」
痛む頭に自分の怒声が響く。それにこめかみを抑えて堪えながら、隣のアキラを睨み付けた。するとアキラは枕に埋もれたまま、頭を抑え力無く叫んだ。
「アァ? そりゃお前が悪いんだよ! 帰ったらまず、ポケットから出すだろうが」
「出さねえ! つうかそれ、アンタの癖ってだけだろうが…クシュンっ!」
「煩い妖怪ハナタラシ、黙って寝てろエロ野郎共が」
「ヒイッ!」
酷い悪口と共に、ルカが俺達の額に解熱シートを張り付けた。そして並んだ頭の天辺をスポーツドリンクで軽く叩き、そのまま置いた。
「ほら、ちょんまげ。ハハハハ、ざまあ見ろ! 二人してアタシに悪さした罰だっ」
ルカはそうせせら笑うと、黙って仲良く寝てなさい、とウインクして出て行った。
「畜生……クシュン! あのガキ、遊びやがって」
俺がそう苦々しく呟くと、アキラは溜息を吐いて、クツクツと笑い出した。
「熱出ちまったら仕方無えな。大人しく寝てようぜ、カオル」
「ふん。納得…クシュン、行かねえ」
「怒んなよカオル。可愛過ぎるじゃ無えかよ」
そう呟いたアキラは、俺の方を向くと徐に腕枕してきた。
可愛い?
意外な言葉に驚き固まる俺を、長い腕が抱き寄せる。寒いから丁度良い熱さだと言ったアキラは、頬を熱に染め穏やかに笑っていた。
「……可愛い、なんて言うな」
思い切り眉をしかめて言ってみるが、全く威嚇の意味は無かったらしい。アキラは猫を愛でるように、俺のくしゃくしゃの髪を掻き回した。
眼を閉じれば、アキラの鼓動がすぐソコにある。何も無しに只こうしているのは初めてで、俺は心地好さに泣きそうになった。
こんな風に思うなんて、きっと熱のせいだ。
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