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9 蚩尤(しゆう)
「む!」
 シユウ(蚩尤)は汗だくとなって目を醒ました。

 彼はギリシャのアルテミシオン海峡に向かうペルシャの軍船上にいる。嵐の多い八月のエーゲ海の夜は蒸し暑い。

「夢か・・・?」
 夢の中にいつぞや戦いの中に見た敵、コマ族の王子の姿を見た。
 勇壮に馬を駆り、馬上から弓を引き、敵の漢族の軍勢を翻弄したあの少年を。
 そして・・・美しいと思った。
 女の様に側に置き、その髪を撫でて見たかった・・・そして次の瞬間、その王子がなんとも淫靡な姿で、限りない陵辱を受けている姿が!

 敵将に捕らえられ、その穢わらしい体液を幾度となく浴び、注がれるその姿を!
 シユウは思い出した。
(俺は・・・あの戦いの後、あいつを追ってここまで来た)

 あの戦いとは・・・西に接する大国、『燕』が遼東半島北部に住む朝鮮族を追い出そうと攻撃してきた時、袂を分かっていたコマとワイはこの時は団結し、共にこの漢族の国と戦った。
 善戦したが結局は遼東半島の東に移住を強いられた。

 コマとワイの支配層は騎馬民族である。
 だから移住はそれほど苦ではないが、麻や米や麦を作る農民を残していくのでその数と力は半減する。新しい土地で原住民を従えながら、一から始めなければならない。新しい技術である鉄作りの秘法を守りながら移動するのだ。

 戦火が収まった後、あのコマの王子は、西方へ旅だった。西に碧眼の民が作る強国があるという。それを見に行ったという。
 そしてその後を追うようにシユウも旅に出た。シユウの一行は、海民の船を乗り継ぎ、海路でインドに着き、そこでペルシャ大王の命令でギリシャという国を攻めに行くインドの軍船に便乗した。王子がやはりペルシャの遠征軍に加わったと聞いたからだ。

 武人の彼らはその剣の腕を見せると歓迎され、ペルシャ軍に迎え入れられたのだ。言葉がうまく通じなかったせいもあるが、ペルシャに味方するつもりは無かったが。

 彼は翌日、連絡船に乗って船団の司令船に行った。まだ不慣れなペルシャ語を操って、士官達から情報を聞き出す。遠い東の国から来た美しい勇者の話を。

 軍事情報に詳しい伝令官が言った。
「・・・あのコマとか言う東の国から来た『アスラ』か?」
「アスラ?」
「インドの兵達がつけたあだ名だ。何でも太陽と月を支配し、この世の善悪を決定するインドの荒神の名だそうだ。
 あの少年は敵を無慈悲に討ち滅ぼし、だが、降伏する者には神と崇められたそうじゃ。・・・無慈悲と慈悲を持つ者。それでアスラと呼ばれたと聞く」
「それで・・・今どこへ?」
「一ヶ月前にレオニダス王に捕らえられた。物見の勢に加わったのじゃ。奴に憧れていた者どもは止めたのじゃがな・・・美しいの子じゃった。儂もあのような小姓が欲しかったのう。しかし火の玉のような性格ですぐ喉元を掻っ切られそうじゃった」

「レオニダス・・・とは、今我々が戦おうとしているギリシャの大王ですか?」
「ギリシャには大王はいない。ギリシャは都市国家の集まりじゃ。今は共同戦線を張っておる。その指導者がスパルタ王のレオニダスじゃ。奴らは小王制のもと、身分に関わりなく政治に参加させて、議会というものを持っておる。烏合の衆じゃ!」


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