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20 白鷹(レオニダスの最後の戦い)
 シユウが告げた通り、ギリシャ軍の後方に敵の軍勢が迫っていた。

 一人のギリシャ人の裏切り者が、山の裏を通り彼らの後方に続く羊路を、ペルシャ軍に知らせたのだ。だが、いつかはそうなるとレオニダスは思っていた。敵も考える動物だからだ。迂回路を必死に探すはずだ。
 だから連合軍の都市国家の一つ、フォキスの兵をその路の途中に置いた。

 だが物見はペルシャ軍が何の抵抗にも逢わず、テルモピレーのギリシャ軍の後方に近づいていることを告げた!フォキスはテルモピレーの近隣の都市だ。フォキスの兵はペルシャ軍の到来を見て、自分の国を守るために撤退してしまったのだ。

 レオニダスは怒りを露わにした!軍人であるスパルタ人に取っては、理由が何であろうと戦線放棄は許せないことだった!
「フォキスの腰抜けどもめ!持ち場を離れるとは!」

 そして急遽、連合国家軍の将軍を招いて撤退を告げた。
 レオニダスは宣言した。
「我等、スパルタ人三百名が殿しんがりとして残る!」
 将軍達は驚いた。だが、誰も止めようとはしない。

 ギリシャ全部隊が撤退すれば、街道を自由に通ってペルシャの全軍が追撃して来る。だが、誰かが残ってペルシャの本隊を食い止めていれば、後方に廻った部隊もまずは、彼らを攻めるだろう。本隊の『歯止め』を滅ぼさねば、後ろに廻った意味は無い。
 だが、残る事は全員死ぬ事なのだ。

 テスピアイから来た将軍が口を開いた。
「私と私の配下、七百も共に残る。我等の都市はここから目と鼻の先だ。またフォキスの王は私の義兄だ。彼らの戦線放棄の償いをしたい」
 テバイの将軍も言った。
「我等、四百も残ろう。我等の故国もテスピアイのすぐ西だ。スパルタに借りは作りたくない」
 残念ながら、語り継がれるべきだった彼らの名を、現在知ることは出来ない。


 午後、ペルシャ軍と両側を挟まれたスパルタとテスピアイ、テバイ兵は激突した。
 火ぶたが切られる寸前、ペルシャ軍本体と睨み合った最前線のスパルタ人が故国の歌を歌い出した!

 『父よ、貴方はかつて若く、その勇猛さは音に聞こえた』
 『息子はそれを受け継ぎ、今まさに試練を受ける時だ』
 この戦場にはそぐわない、ひときわ高い少年の声が響き渡った!
 『ここに我等、強者つわものとして果てん』

 ギリシャ人の向こう側に味方が見えることはペルシャ軍の士気を否応なく高めた。
 そして両側のペルシャ軍が同時に攻め始める合図の銅鑼の音が、テルモピレーの断崖に轟いた。

 数時間の戦闘で、ギリシャ軍は全員、勇猛に戦い死んでいった。

 矢に倒れたレオニダスの身体を、両軍の兵は取り合った。立ちはだかった血まみれのディオニケスの雄叫びに、ペルシャの兵は怖じ気づき、弓兵を呼んだ。何十もの矢がディオニケスの青銅の鎧を貫き胸に刺さった。右腕にも刺さり、剣を落とした。

「どうした!貴様等!儂にはまだ歯があるぞ!俺の臭い口で貴様等の喉笛喰い千切ってくれよう!」

 凄まじい形相で口を開き、王の遺体を守るようにディオニケスは立ったまま息絶えた。南中した太陽がディオニケスの被った兜の中に日を差した。その見開いた目がペルシャ軍を睨んでいた。戦場はしんと静まりかえった。ギリシャの兵は誰も生きていない筈なのに、ペルシャ兵達はディオニケスを怖れ、暫く様子を伺っていた。

 骸の中にはウンニョ達の姿は無かった。
 レオニダス王の肉体は切り刻まれ、ペルシャ王の前に送られた。

 各部隊が円となって駐留する、広大な陣の中央の煌びやかなテントからペルシャの大王、クセルクセスが、その鍛え抜かれた肉体に豪奢な王冠と宝玉を纏い出てきた。
 かつては戦士として育てられ、ライオンと槍で戦ったこともある男だった。しかし今は、権力とアテネへの復讐という呪いに取り憑かれた男だった。

 クセルクセスが血まみれのレオニダスの首を見てほくそ笑む。だが、レオニダスもクセルクセスをきっと睨み、髭の下で嗤っているようだった。

 アテネに攻め込む作戦を散々に遅らせた憎き奴!だが彼はレオニダス達、千百名の死が、後でどんな効果を生み出すかを予測出来なかった。
 ペルシャ帝国の衰退という恐るべき運命が待っているなど・・・

 その時、大王の頬を突如何かが斬り込んだ!矢か!?
 その片耳の黄金のピアスを千切り取った!
「ぐわっ!だ・・・誰じゃ!と・・・捕らえよ!」
 側近達は何が起こったか分からず、王の逆鱗に触れまいと身を避ける!

 王と彼等が目で追った先に見たものは、真っ直ぐに太陽に向かって舞い上がる一羽の白鷹だった。

 そして東に方向を変えて飛んでいった。





 最後まで読んで頂き有り難う御座いました。BL小説とは思えない(自分でも)戦記ものになりました。

 この小説の各所には記録された歴史、神話などがちりばめてあります。ですから歴史背景は、登場人物のエピソードは別として、おおむね正しいのではないかと思っています。

 テルモピレーのスパルタの戦いはヘロドトスの著作に刻まれております。また少年愛の風俗も記録されています。
 この時代の東洋では、中国の「春秋時代」であり、今の北京を首都を持つ「燕」が存在していました。「燕の長城」の建設の事実を見ますと、北方民族の侵入と駆逐に注力していたと思われます。燕の東の一帯の遼東半島の上に「古朝鮮族」が分布していたと思われます。

 古朝鮮族は「ワイバク」と言われ、ワイ族・コマ(狛をバクと読んだ)族などの部族があったようです。朝鮮民族は祖先神トーテムを持っていて、小説中にあるようにコマ族は「熊」、ワイ族は「虎」が祖先神でした。

 朝鮮の建国神話に「檀君神話だんくんしんわ」というものがあります。
 天帝の子が、人間になりたいと願う熊と虎に試練を与えます。熊は試練に耐え、『女』となり天帝の子と結婚し『檀君』を生みます。この檀君が治めたのが、今の北朝鮮の平壌に都を置いた「朝鮮王国」であるという伝説です。
 この熊から人間になった女性の名を『熊女うんにょ』と言います。

 試練に耐えられなくなった虎は逃げだし、東に行ったといわれます。
 これがワイ族で、海を渡って日本の出雲から東北に移り住んだのではないか、と考えられています。神話の中で、ワイが天帝の子と共存出来なかったという歴史を示唆しているとすると、やはりコマ族は他民族に融和されたのかも知れません。
 残念ながら、ワイのトーテムの「虎」は日本に居ませんので、この民族の日本での足跡はよく分からないのですが、近年になって「八」がつく古来の事物は、ワイに関係があるのではないかという推測がなされています。ワイに中国から与えられた漢字は「エ」とも読む事が出来、それが「ヤ」に転化したのではという訳です。八坂神社、八咫やたの烏などがその可能性をもつ名です。古事記にある須佐王の尊の歌「八雲立つ」は、ワイ(八)とコマ(雲)の両方の意味が封じられているのではないかと考えると面白いですね。

 コマ族の日本での徴は、もう分かりますね。「熊本」「クマソ」などがそうであると思われます。

 また騎馬民族は末子相続の伝統を持っているといわれます。その証拠に朝鮮族は『高句麗』を建てた後、王子の兄たちが国を出て、『百済』を建てます。ですからシユウは末子で、ゆくゆくは王になるという設定です。

 シユウ(蚩尤)とは、韓国のサッカーチームのシンボルとなった「レッド・デビル」のモデルです。
 その昔、中国の黄帝の時代(国の名前は無かった)、その国に攻め入って黄帝を悩ませた者の名を蚩尤といいます。漢字は中国の習いで異民族には侮蔑的な漢字を当てますが、読みが古朝鮮語がもとになっているとすると、「シ」という語が入っているので、『鉄』の生産者という意味があるのではという推測があります。
 古代は鉄が権力の全てでした。その製法は門外不出であったでしょう。現在の日本に残っている多くの『神社』はその昔、各氏族が鉄を祭った名残ではないかと私は思っています。鉄を作り祭る者が神であり、支配者であったからです。神社に祭られている祭神が当初の支配者であったことでしょう。

 鉄の秘法を守りながら東に移動する古朝鮮族。そして朝鮮半島に南下した部族よりも前に、日本という島に渡り、原住民を支配あるいは同化して我等の祖先の一つとなります。

 壮大で雄大な民族の歴史。時間の狭間に現れる二つの恋する魂。それをトーマスは描いていきたいです。BL風味で(汗
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