警告
この作品は<R-18>です。
18歳未満の方は
移動してください。
#4
#4
目を覚ますと、響はベッドに寝かされていた。
見覚えのないベージュの天井が目の前に広がっている。
体を起こそうとしたが、起き上がれない。
首だけひねって見てみると、両手がベッドの足に縛り付けられていた。
ムリヤリ首を起こして足元を見てみれば、やはり同様に拘束されている。
完全に自由を奪われていた。
先ほどスタンガンで襲ってきた奴の仕業なのは間違いない。
だが、
―― 一体だれがこんなマネを?
響は記憶を辿り、心当たりを探した。
「くたばりやがれ!」
「覚えてろ!」
そんな捨て台詞を浴びせられた回数は、数知れず。
心当たりなどありすぎて、どれのことやら見当もつかない。
響はあっさり考えるのを止めた。
代わりに、首だけ動かして、室内を見回した。
ベッド脇のサイドテーブルに、メモパッドが置かれている。
駅前にある、ビジネスホテルのロゴが入っていた。
ここは、ホテルの一室か。
腕に力を入れて動かそうとしてみたが、手首に幾重にも巻かれた縄がゆるむ気配はない。
しっかりと結びつけられている。
無駄に暴れても、いたずらに体力を消耗するだけだ。
響は、ベッドの上に大の字にくくりつけられたまま、おとなしく目を閉じた。
「・・・こんな状況でよく落ち着いていられますね」
頭の方から、若い男の声が降って来た。
「さすが響さん、いい度胸だ」
ひょい、と響の目の前に若い男の顔が現れた。
銀のメタリックフレームの奥からこちらを見つめる、酷薄な瞳。
その顔には見覚えがあった。
しかし、こんな仕打ちを受ける覚えはなかった。
「・・・何のマネだ?」
響は低い声ですごんだ。
先ほどは、響に一瞥されただけで顔色を変えていたのに、響を拘束しているこの状態では、余裕の笑みを浮かべている。
「怒った顔も綺麗ですね。
刑事なんか辞めて、ホストクラブにでも勤めたらどうです?
響さんなら、今の十倍は稼げますよ。
お店、紹介しましょうか」
「何のマネかと聞いている」
ガキのたわごとなどきれいに無視して、響は繰り返した。
広域指定暴力団 赤月組の組長の一人息子、亮はにっこり笑った。
「響さんとゆっくり話がしたくて」
「警察官にこんなマネをして、ただで済むと思っているのか?
親父の差し金じゃあるまい。奴はそれほど愚かな男じゃない。
親父に内緒でやっているのなら、今すぐやめることだ。
バレたら、いくら組長の息子でも、小指つめるだけじゃ済まんぞ」
「僕のことより、自分のことを心配したら?」
亮は、ベッドの端に腰を下ろした。
「この状況で、僕にそんな口をきいていいのかな?
自分じゃ鼻の頭だって掻けやしないのに」
言いながら、響の鼻をつまんだ。
響が顔をそむけると、けらけらと子供のように無邪気に笑い声を上げる。
確か、来年には大学を卒業して、親父の仕事を手伝うことになっているはずだ。
見た目は確かに一人前の大人だが、中身の方は成長が止まってしまっているらしい。
「今のあなたは無力なんだよ、響さん。
口のきき方には気をつけた方がいい」
すっかり有頂天になっている。
頭の足りないガキなど相手にするのも馬鹿らしい。
響は冷ややかな目を向けただけだった。
すると、亮の顔から笑みが消えた。
「ねえ、響さん。
さっきのあれはどういうこと?
偉そうに説教なんかしちゃって。
それも、あいつらの前で。
とんだ恥をかかされちゃったよ」
口ぶりは穏やかだが、その目は怒りに満ちている。
「・・・お前、さっきのことを根に持って、それでこんなマネをしたのか?
呆れて物も言えんな」
響はため息をついた。
「ヤクザが刑事の恨みをかって生きていけると思うのか?
お前の親父もろくでもない息子を持ったものだ。気の毒にな」
「黙れ」
亮の手には、バタフライナイフが握られていた。
冷たい光彩を放つ刃が、響の喉元に突き立てられる。
「その目。
人を見下した目で見やがって・・・
あんたの運命は、僕が握っているんだよ?」
「おれを殺すとでも?」
「そうだ」
「あははは・・・」
ホテルの部屋の中に、乾いた笑い声がひびいた。
亮は目の色を変えて、喉に突きつけたナイフに力を込める。
「脅しじゃないぞ」
「やれば」
響は冷ややかに若者を見据えた。
「おれをやれば、お前は警察官殺しだ。
親父から勘当されるのは確実だな。
今までちやほやしてくれた連中もみな、お前から離れていく。
警察官は仲間殺しを決して許さない。どこに隠れようと、必ず見つけ出す。
お前の人生はおしまいだ。
それでもよければ、やるがいい。
つまらないプライドのために、人生 棒に振る覚悟があるのなら。
おれはかまわんぞ。
死にたくないと思えるような、まっとうな人生は送ってないしな・・・」
響の表情は穏やかだった。
虚勢ではないことは、亮にも分かる。
この若い刑事は、本当に自分の命などどうでもいいと思っているらしかった。
予想外の反応に、亮は動揺した。
ちょっと脅してやれば、必死になって命乞いしてくると思っていた。
死ぬほど脅して、屈辱を味あわせてやれれば、それでよかったのに。
それなのに、この刑事ときたら、ビビリもしない。
命乞いどころか、平然と「殺せば」と言ってくる。
―― 一体どうしたら、この刑事に死より忌まわしい屈辱を味あわせてやることができる?
「・・・僕の仲間におもしろいことを言う奴がいてね」
若者の口調が変わったことに気付いて、響は怪訝そうに眉をひそめた。
亮は、饒舌に語り始める。
この刑事に泣いて許しを乞わせる名案を思いついたのだ。
「そいつが言うには、遊びなれてガバガバになった女のアソコより、引き締まった男の尻の方がずっと気持ちいいんだってさ。
ね、響さん、それって本当だと思う?」
その言葉に、年上の刑事の端正な顔がみるみる青ざめていくのが分かる。
亮は嬉しさのあまり、ゾクゾクしてきた。
こんなに興奮したのは、初めてのセックス以来だ。
「僕、そっちのシュミはないけど、でも、響さんが相手なら勃つかもね」
亮は、響のベルトに手をかけた。
「やめろッ」
とたんに、若い刑事は猛然と暴れだした。
今までの冷静さが嘘のようだ。
でも、それも当然。
だって、男に犯されるなんて、殺されるよりも恐ろしいことじゃないか。
自分が男でなくなるんだ。
女にさせられてしまうんだから。
それは、同性として彼にもよく分かる。
だから、亮は暴れる響の上に馬乗りになると、下着ごと、ズボンを力まかせに引きずり下ろした。
(#5へつづく)