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入店から1ヶ月が経過した。恒例の月例ミーティングが始まった。
7 辞令
売上や俺個人の成績も順調に伸ばし、入店からちょうど1ヶ月が経過した。
あの部長の一件依頼、周囲の協力もあって部長とはなるべく避けてトラブルが
起こらないようにしていたが、今日は月例ミーティングで相対する事は必至だった。

おそらく部長のアイディアだろう。壁には棒線グラフがいくつも張り出されている。
各店の売上はもちろん、スローガンまで張り出されていた。ますます営業軍団の様相が
強まってきた感がある。
軍隊のような縦社会。上司が絶対なのだ。上司は部下に対して何をしても構わない位か。

そんな中、月例ミーティングが始まった。
このミーティングの司会は3店舗で売上がナンバーワンの店長がする事になっている。
先月は児玉の店の店長だったが、今月はうちの店長が司会をする。

例によって軍隊式の大声を出して挨拶をする。続いて売上の発表だが、今月も各店が
ノルマを達成していた。各店店長が賞金を受け取る。
「トップスカウト賞 キング店マイカワ前へ!」
フロア中がどよめく。社長から祝儀袋を手渡され握手をした時、小さくガッツポーズ
が出てしまった。
「非常に素晴らしい!これにはみんな拍手だ!」
天敵の部長が立ち上がり、全員に拍手を促した。これには素直に嬉しかった。

ここで恒例の部長お小言タイムが始まった。標的になったのはスカウトの結果が出な
かった者。俺を入店まで導いてくれたジャック店の佐藤ボーイ長だ。
「入店1ヶ月のマイカワがトップを取ってお前が0か?」
お手製の棒で佐藤の頭を一喝する。相当痛いはずだ。部長の罵倒はネチネチ続く。
「お前何ヶ月ボーイ長やってんだ?出世したくないならもう辞めるか?」
口の悪さや挑発させれば天下一品だ。しかしスタッフ全員の前でやられると効く。
時間にして10分くらいだろうか。佐藤にとっては延々と長い時間に感じられただろう。

「今回は辞令が出てるから呼ばれた者は前へ出てきて下さい」
次長がフロア中央で辞令内容を発表する。
「キング店木村。辞令、ジャック店売上の底上げをする為、ジャック店の移動とボーイ
 長昇格を命ずる」
何と木村がボーイ長に昇格した。しかし移動になった為、店舗が変わってしまった。
しかし昇格という点ではライバルであろうと素直に喜ばしかった。
「クィーン店児玉。辞令、クィーン店ボーイ長昇格を命ずる」
児玉も続いた。これは嬉しい限りだ。
「以降の辞令は社長自ら発令するので呼ばれた者は前へ」
社長自ら発令するのは異例中の異例らしい。再びフロアがどよめいた。
「キング店マイカワ!」
さらにフロアがどよめいた。入店1ヶ月の新人が辞令を受ける。しかも社長から直接の
辞令である。周囲も内容に聞き入った。
「辞令、キング店主任昇格を命ずる」
異例の辞令内容は二段階昇格だった。過去に二段階昇格した人間は我らが鷹司主任だけ
とのことだった。

「俺の意向でこの辞令を発令するんだぞ。期待を裏切らないように頑張れよ」
俺の耳元でこそっと社長が呟いた。握手しながら俺を見る笑顔が優しかった。社長の顔を
見た俺は堪えきれず涙がこぼれた。たかがこの1ヶ月が報われたなんて思っていない。
この見ていないようで見ていてくれている社長の期待が嬉しかった。3人揃っての昇格。
しかも俺は二段階昇格。これ以上嬉しい事はない。しかしこれだけでは終わらなかった。

「キング店鷹司!前へ」
俺達の兄貴分である鷹司主任にも辞令があった。
「辞令、キング店支配人昇格を命ずる」
こんな事になるとは。鷹司支配人の誕生だった。鷹司支配人は社長とガッチリと握手をした。

「キング店は3店舗で過去最高の売上をマークした結果の昇格だ。もちろん売上が下がれば
 降格する事もある。うちは年齢、学歴、経験も関係ない。誰でもチャンスはあるからな」
社長がスタッフ全員を鼓舞した。最後に新人スタッフの辞令が発表された。キングにも近藤
というスタッフが入店した。
異例尽くめの月例ミーティングが終了した。そしてスタッフがそれぞれの店舗に戻った。

店内に変化があった。木村が居ない。出逢ってから1ヶ月。寝食や仕事を共にし、四六時中
一緒に居た木村が居ない。もちろん寂しさはある。
ただ俺は木村から卒業しなきゃいけない。あいつや児玉も俺に追いつけ追い越せで上って
くるはずだ。3人で別々の店舗で頑張るしかない。

しかし良い事ばかりが続く訳がなかった。

この時の俺に会って俺を叱ってやりたい気分だ。





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