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客と部長に切れてしまうがそこに社長が居た
5 社長
木村と児玉「アツい男」鷹司主任と話し、今後の目標を持てる様になった。
そんな俺に1つのトラブルが起こった。

入店してから3日目。出勤してからの業務に関して、ほとんど自分で出来るように
なっていた。
女の子のコールナンバーと名前も一致するようになり、店長や鷹司主任からも
信頼感が生まれつつあった。
初日こそ大きな声で言えなかった「いらっしゃいませ」や「ありがとうございます」
といった言葉も今では誰よりも大きな声で発せられるようになっていた。

しかしここは女の子を目当てに高いお金を払ってくる場所だ。
俺達が意図しない客もくるのは当然の話だ。
こういうお店での入店を断るタイプは二通り。まず同業者。女の子の引抜があるかも
しれない、また情報収集されてしまうこともあるからだ。
あとは暴力団、ヤクザだ。大人しく飲んでいる分には一向に構わないが、他の客に迷惑を
掛けることもしばしば。目立ちたがり屋で変なプライドが高い。
うまく言って入店させない方がいい。
通常はフロントに店長が居て、これら類の人間や明らかに泥酔状態の人間を入店させない
ようにしている。

ただ今回は常連という事もあり泥酔状態の客が入店した。

「あれは酔ってるとタチ悪いから俺が行って来るよ」
木村がそう言い、接客へ向かった。難なく木村は戻ってきた。
「相当酔っ払ってるから気をつけた方がいいな」
女の子をエスコートした時には泥酔した客は寝に入ってしまっていた。接客する女の子も
困惑顔だ。
「店長どうします?」
「1セットまでは寝かせててもいいよ」
うちの店は時間制。最初の1時間で延長の可否を確認する形になる。俺は店長の指示通り
セットが終了するまで放置することを女の子に告げた。

そして時間の経過を女の子に教えると肩を揺すって起こそうとした。
「何だ!てめえ」
「そろそろお時間となります。いかがなさいますか?」
「あ?まだ来たばっかりだろうが!」
確かに店に来てから意識があったのは少しだ。記憶では数分くらいしか居ない感覚だろう。
「20時半にご来店されて、ただいま21時半です」
「寝てるの知ってたら起こせよ!」
理不尽にも程がある。酒を扱っている店ではこのような事があるのは致し方ない。
「じゃチェックしろ!もうこんな店来ねえからよ!」
そう言うと1万円札を俺の顔に投げつけた。さすがにカチンとなってしまう。ただこれも
仕事と割り切ってお釣りを持って行き、頭を下げた。
「何だこいつ、プライドは無いのか」
その捨て台詞に対して、顔に出てしまったようだ。
「はいはい!お客様帰りまーす」
接客していた女の子が助けてくれた形で事態が収拾した。

「ごめ!俺顔に出ちゃってたでしょ?」
「ちょっとね。でもよく我慢したじゃない」
「ありがと。助かったよ」
「いいのいいの。これから私も変な客が居たら助けてもらうからさ」
しかしその後、イライラが溜まったまま仕事にあたっていたのは自分でも分かる。

この日の営業成績は良かったもののストレスは隠し切れない状態になっていた。
「ほら!もう機嫌直しなよ」
「頑張ってんだから大丈夫だよ」
「ご飯でもおごってあげようか」
意外と女の子達は見ていたようで何人かが声を掛けてきてくれた。掃除機を掛けながら
作り笑顔でお疲れ様と言うのが精一杯だった。

「おい!お前ちょっと来い!」
部長が俺を見て怒鳴った。
「お前ばっかりが疲れてんじゃないんだ。辞めるんなら店長に言っとけ」
振り返ると部長の姿はなかった。しばらく下を向いて考えていた。

次の瞬間、俺は店を飛び出した。階段を駆け下りて部長の姿を探す。すでに送りに出て
しまっていた。俺は怒りを抑えられずにいた。目の前にあったゴミ箱を思いっ切り
蹴飛ばした。ゴミが散乱し、辺りに散らかった。
「コラ!ゴミがこっちに飛んできただろうが!」
俺は無視するようにその男の脇を歩いた。その時、右の頬に衝撃が走った。
「舐めんじゃねえぞ!」
その男はいきなり殴りかかってきた。俺の中で何かが弾けたような気がした。
1発2発3発と俺はその男の顔を殴った。倒れたところに蹴りを何発か入れた。
男は立ち上がると走って逃げていった。

「何だこの虚しい気分は…」
ケンカってスカッとするもんだと思っていた。頭にきた、ムカついた野郎をぶっ飛ばす、
簡単な事だったのに今日はすっきりしない。

握った拳から血が滴っていた。
「マナブ!」
振り返ると児玉と木村が駆け寄ってきた。
「木村から聞いたよ。部長に頭来て店飛び出して行ったって」
「お前、手どうした?部長殴っちゃったのか?」
2人が矢継ぎ早に質問した。が、何も応えられずにいた。

「店に帰ろうぜ」
3人でタバコを吸いながら歩き出した。
「部長は殴ってない…でもその場に居たらきっと殴ってた」
児玉が肩を組んできた。
「あいつは俺らと波長が合わないんだよ」
木村も肩を組んできた。
「こんなところで止まってもしょうがないだろ?前に進もうぜ」
鷹司主任が道の先に立っていた。

「お前ら3人はこれから伸びて輝こうとしてる。それは誰にも止める事は出来ない。
 その無限の可能性を邪魔するような奴が居たら俺が守ってやるからやりたい様にやれ」
俺は木村と児玉の俺を探してくれた行動、鷹司主任の言葉に胸のモヤモヤが晴れた気がした。

店に戻ると何と社長が居た。
「一杯やりに行くか?鷹司も行くだろ?」
5人は社長の行きつけの寿司屋へ行った。そこではただ飲んで食べてただけだ。社長は
仕事の事、俺の右手のケガの事、何も話しはしなかったし、聞きもしなかった。
「食ったか?じゃ帰るぞ」
時間にして1時間くらいだろうか。こんな時に社長が来てくれて飯を食いに連れて行って
くれた。またこの件については社長は一切触れなかったことがすごい嬉しかった。

店を出ると社長が俺達に話し掛けてきた。
「お前達は俺の後継者なんだからな。頑張れよ」
「お疲れ様でした!」
すごい想いのこもった言葉だったが、受け止められるよう頑張ろうと思った。


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