警告
この作品は<R-18>です。
18歳未満の方は
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薬物汚染を食い止めることはできなかった。さらに汚染は拡大していた。
19 逮捕
ユミさんの引退カウントダウンイベントが残りわずかになり、店内は相変わらず混雑して
いた。売上もかなり高いラインで推移していた。
しかし昨日の女子寮であった件が頭を離れない。売人はあの男だけだろうか?
噂を嗅ぎ付け、他の人間も出入りしていないだろうかと心配しているところだった。
「支配人リストまで」
常連客のところで接客中だった。また何かあったのだろうか?
「鷹司支配人から電話です」
「お疲れ様です。携帯?店内がうるさくて気がつきませんでした」
鷹司支配人からの電話の内容は、例の3人は出勤していないとのことだった。苦渋の決断だが
店も辞めて寮から出て行ってもらう旨、通達したようだった。
致し方なかった。覚せい剤とはそんなものだ。この業界と覚せい剤が直結していると判断
されるのは、いささか悲し過ぎる。
水商売は立派な職業の一つなんだ、安心して働ける場所なんだと思いたい。
その日の営業終了後、緊急ミーティングの召集が社長からあった。全スタッフがエース店に
集合した。
「全スタッフに通達する。当たり前のことだが、再度徹底しておく。当グループは薬物の
使用を一切禁ずる。使用が認められた場合には即刻解雇とする。また全スタッフは女の子
へも徹底するように!以上」
社長はこの一言を言う為に、あえて全スタッフを集めた。みんなはこの意味を理解していた。
「支配人、飯でも行きますか?児玉は?」
「そだね。行こうか」
「ちょっと用を足してから行くよ」
「そうですか。じゃいつものとこで」
それぞれエースから出て退社していった。
「近藤!ちょっと来い」
「はい」
「話があるから、俺と肩を組んでそこ右に曲がれ」
スタッフはエースを出て左に駐車場がある為、ほとんどが左に曲がって行った。
「お前、俺に何か言うことないか?」
「え?今回の社長の話ですか?知りませんよー」
挙動不審だとすぐに分かった。社長の話を聞いてドキっとしたのか、一人だけ目を逸らした
ことに気がついた。腹に拳を一発お見舞いすると近藤は膝がガクッと折れ、ひざまずいた。
「まさかうちの店から出るとは思わなかったよ。お前、俺のこと舐めてんのか!」
両膝を突いている近藤に蹴りを入れた。
「辞めて下さいよ!何の証拠があるんですか!」
「証拠?俺は警察じゃないんだよ!ふざけやがってこの野郎!」
近くにまだ営業している店があった。その人間が通報したのかパトカーが飛んで来た。
「コラ!何してる!」
「近藤、残念だったな。警察が来ちゃったぞ?」
俺は警官の制止を聞かず、さらに蹴りを入れた。近藤がよろけて後方に倒れた。
「止めないか!逮捕するぞ!」
「お巡りさん。逮捕するのはこの人じゃなくてあいつだよ」
木村と児玉だった。
「支配人、様子見に来て良かったですよ」
「近藤!しばらく別荘でも行って来いや!」
児玉が事情を説明する。すぐさま任意で持ち物検査が始まる。もうここまできたら拒否しても
無駄だ。近藤の財布から小さなビニール袋が出てきた。パケだった。すぐさま検査キットで
調べると液体は青紫に変色した。
「4時55分。覚せい剤所持の現行犯で逮捕する!」
近藤が逮捕されるのを目の前で見て、気持ちが晴れることは無い。
すぐさま社長の携帯に連絡を入れ、事態の報告をした。
「社長…すいませんでした。まさか俺の配下から出るなんて。責任取ります」
「いや、よくやった。今回の処分は保留としておく。今後も注意してくれ」
俺は木村と児玉と肩を組んで一言だけ告げた。
「お前らだけはやってくれるなよ。なあ兄弟」
悔しかったのか悲しかったのよく分からない感情だった俺は、涙が出てきた。
その後、事情聴取として警察へ行って話をした。
俺としてはこの手で止めさせたかった。俺も経験者だ。おかしくなったことはないのが幸い
だが、過去に仲間が精神病院に入れられた奴もいたし、自殺した者もいた。
今でも注射器やネタそのものを見ると欲してしまうだろう。注射器の中に血が入る瞬間や
それを押し込むと喉の辺りがカーッとする感覚。全身の毛が逆立ち、鳥肌が立つ感覚は
今でも覚えている。
俺も過去に多いときは1週間に1回は体に入れていただろう。
確かに俺は学校の先生でもなければ警察でもない。他人に迷惑が掛からない程度の悪さは
構わないと思っているのは事実だ。仕事を辞めてうちのグループと関係ないところでやる分
には近藤を殴ることはなかった。
ここは俺の聖域なんだ。汚されては困る。
そしてスタッフや従業員をそれから守ってやるのが俺の仕事ではないかと感じていた。
店の上司として再度、警察から連絡を受けた。近藤は前科があり、以前にも覚せい剤所持、
使用で逮捕歴があった話を聞かされた。そしてあいつが執行猶予中だったという事も。
おそらく実刑は免れないだろう。
帰宅して玄関の鍵を開けるとユイが立っていた。
「みんなでご飯食べに行った帰りに見たよ。騒ぎの中心に居たの見えたよ。嘘付かれたのが
頭に来たんでしょ?」
ユイは小さな体で俺を抱いてきた。ユイの言うとおりかもしれない。俺は少し落ち着いた。
「ね?少し飲もうよ」
俺はユイに女子寮であった話、近藤の話をした。そして俺も過去にやっていたことも。
「過去は過去、私は愛するあなたを信じてる。だから心配はしないよ」
「ユイの店でこんな話ある?」
ユイはどこでもある話だと言った。店の女の子が売人から初めはタダでもらい、それから
転落していったと。気がついたときには薬代を稼ぐのにソープランドで身売りしていたとも
言っていた。しかしその稼ぎは女をハメた売人が取っていたとも言っていた。
俺とユイや児玉や木村、そして店の仲間達。最低限、こいつらだけはやって欲しくない。
しかし俺の想いとは裏腹に、この薬物汚染を諦めてはいけない人間である男が薬に手を
出してしまう事となる。
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