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店舗長になって裏の業務もこなさなくてはいけなくなってきた。
16 裏金
ユミさんが引退するまで1週間を切った。
出勤してくると次長から連絡があり、事務所に来て欲しいとの事だった。

「支配人、おはようございます。お久しぶりですね」
久しぶりも何も俺が佐藤に連れられて逢って以来、事務員とは逢っていなかった。
「次長が応接室でお待ちです」

「おはようございます」
「おはよう。説明するから座って」
次長からの話は、伝票や売上操作の事だった。

客が一人当たり7500円までは地方税が掛からないという。しかしキングは最低でも10000円。
これは課税となる。1時間、いわゆるセット料金でチェックした客の伝票を何枚か集め、30分
で帰ったことにして半額で対応したことにして欲しいとの事。
カード払いや領収書を持って帰ったものに関しては、全て申告する。金銭の出入りが明確
だからだ。

また女の子の出勤を日々1名から2名、架空で出勤させ日払いにて支給もさせろという。男子
スタッフではいかほどにもならない。例えば2人出勤させ、時給を3000円払ったとする。
2人が6時間働いて36000円、少なく見積もって20日これらをすることによって、72万もの裏金
を作ることとなる。年間にすれば相当な額だ。

簡単に言うと脱税の片棒を担げということだった。

会社指示のもと、何の疑念も無く、月末近くになると店長クラスの人間はこの業務に当たって
いるという。
架空出勤だけでも4店舗で月に300万近くの裏金を捻出していたことになる。

これらはどの会社も店も行っていることらしく、ずさんな管理をしている社長の店では、
店長がこれらを懐にしまい込んでいるという話も聞いたことがある。

多忙を極める営業中に、1組のサラリーマンらしき客が来店した。
「支配人、あれマークしといてな」
「次長、マークするとは?」
「マルサっぽいから。たぶん1セットで帰るよ。領収書もくれっていうはずだ」

リストのイシハラをサポートしながらフロアを見ていた。いつも通りの店内だが、次長の
言った2人がやけに場違いな感じの2人に見えた。
女の子と話してはいるが、こういうところ目当てに来ている訳ではなさそうだ。
システムが書かれたボードをずっと見ていたり、女の子の人数を確認しているような仕草で
店内を見渡している。
「すいません」
その2人組みの男の1人が手を上げた。
「いい、俺が対応する」
ボーイらを制して俺がそのテーブルへ向かった。
「この店は1時間居たらいくらになりますか?」
「お一人様1時間10000円となっておりまして、指名料金も含んでおります」
「2人で20000円ってことでいいですか?」
「はい。当店ではサービス、TAXも込みとなっております。またご来店後、30分以内であれば
 5000円とさせて頂いております。想像してた雰囲気と違ったり合わないと思われる方の為
 にそのようにさせて頂いております」
「今度、仕事関係で打ち上げに使いたいんだけど女の子は何人くらい居るの?」
「その日によって変わります。繁忙曜日に関しては多めに出勤させるようにしています」
「わかりました。ご丁寧にありがとう」

意味深な質問だと思った。誰にでも分かるように明朗会計にしてある。さらに店内掲示も
してあるのだ。次長の言うとおり、それ関連の人間だと思われる。
「イシハラ。あのテーブルはセットが帰るから領収書用意しといてくれ」
「はい。でも何で分かるんですか?」
「たぶんそうだろうと思ってな。宛名は上様か名前無しで依頼があると思うよ」
2人組みが入店してから約45分くらい経過した頃、チェックとなった。もちろん領収書を
頼んできた。

「ありがとうございました」
2人組みの男をドアまでエスコートし、ドアを開けた。
「また来ますね」
そう一言だけ言い、帰っていった。二度と来ないだろう。人を変えて定期的に来るはずだ。

「次長、的中ですよ」
「やっぱりそうか。雰囲気が違いすぎるよな。あれじゃすぐにバレる」
「ですね。料金システムはどうだとか女の子は常時どのくらいいるのかとか聞かれました」
「で何と?」
「やばいと思って俺が接したので全てに過少申告しておきました」
「さすが機転が利くね」
「ついでに営業で知っておかなきゃいけないことってありますか?法律的に要素で」

風営法というのは女の子が横に座って接客する場合、23時までとなっている。ジャックの
場合はカウンターなので「BAR」扱いになる。
キング、クィーン、エースは法令順守という観点からでは23時に営業終了していなくては
いけない。ジャック店は金、土曜は5時まで営業しているが、これは問題ないことになる。

警察の中にもリークする人間が居て、飲酒検問や駐禁取締情報を教えてくれる。レッカー屋
を経営している客からの情報ももらえる。それらの情報は2つの整合性を取って確認して
いる。
風営法の管轄は生活安全課だ。この課長がうちの常連であり、来る度にタダ飲みをする。
手入れの情報は必ず流してくれるので、無料奉仕は致し方ない。
この情報が来るときは看板の電気を消し、BGMを消す。女の子は私服に着替える。これは
店側が場所と飲食を提供しているだけで、接客をさせていないというカモフラージュだ。
この手法も課長に教わった。
また会社としては部長が担当していて、このような警察やレッカー屋に裏金を渡すように
している。
警察を敵に回してはいけないことを痛感する。

通常では店と警察、ここに暴力団が絡んでくる。いわゆるみかじめ料だ。
難癖つけて店に花や絵を置きに来る。これが相場で月額3〜5万。彼らからすれば30店舗も
回ればいいシノギになるはずだ。
うちは社長が毛嫌いしているから暴力団とは一切付き合っていない。他の店は裏金から
警察や暴力団に金を渡している。
だからこの辺りの暴力団に社長は嫌われている。社長本人もいつ狙われてもおかしくないと
言っていた。
社長の話だと付き合うのは簡単だが、勢力争いに巻き込まれるのが面倒だという。オーナー
会というものが存在し、周辺の経営者は高い確率でこの会に属している。ここに暴力団の
組長、総長、会長クラスが現れるのだという。ここでの付き合いはしている。
ただ末端の若い衆は社長と親分達がゴルフ仲間という事実を知らない。よって若い衆には
狙われてしまうと感じているようだ。

ここまで突っ走ってきた俺だが世の中の裏表、光と影…いろいろなことを知るようになった。





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