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行き詰った俺に一筋の光が見えた。その後待っていたのはショックな出来事だった
13 退店
店舗長になったプレッシャーと改革を実行して結果を焦った事が返ってマイナス要素に
繋がっていたことに気が付く事が出来た。
店内で派閥が出来てしまった事は男子スタッフ、強いて言えば俺のコミュニケーション
不足から人と人のパイプ役が出来ていなかった証拠だろうと思う。

「イシハラ、今日からリストに入れ。サポートは俺がする」
「分かりました」
イシハラは俺の二つ上で児玉と同い歳。しかし俺を兄貴分と慕い、俺も可愛がっていた。
「リストは営業を回す上で最重要ポストだからな。最初は俺が指示するから、アナウンスだけ
 お前がすればいいよ。そうすれば慣れるの早いだろ?」

フロントに次長、ホールに近藤ボーイ長、ボーイのヨシタカ、リストにイシハラボーイ長、ホールとリストを兼任で俺という布陣にするようにした。

この店内の人員配置はすぐに効果が出ることになる。俺は待機している女の子の中に積極的に
コミュニケーションを取るようにした。接客のことやプライベートなこと、冗談なども話して
いる内に新人派閥が馴染んできた。
スカウトで入店している子がほとんどなので、容姿は悪くない。また、ユミさんやユカさんに
教育してもらってるから、接客マナーも良い。
またホールに俺が立って、客と話しているだけでも女の子達は安心できるという。女の子達は
積極的に「支配人」と役職名で呼び、客と仲良くさせ俺の顔を売った。

結果はすぐに表れる。たまに見えないようにボディタッチをしてくる客も居たが、それが激減
した。また店の支配人と仲が良いと思う客は来店しやすい。特に名前で俺が呼ぶと特別扱いを
してもらっているような意識が生まれるからだ。

不調だった二週間を補うには十分の売上が残りの半月で出た。そして月間の売上が過去最高を
記録する事となった。

月末の終礼の時に1つ確認したい事があった。
「本日もラストまでお疲れ様でした」
イシハラが大きな声で挨拶し、着席を促す。業務連絡と送りの必要の有無等を確認する。
「それでは支配人お願いします」
「お疲れ様でした。皆さんのおかげで今月クラブキングで過去最高の売上を記録しました」
スタッフはもちろん、女の子達もこの意味を十分理解していた。
「今月の下期で給料増えた人、手上げて?」
1人を除く全員が手を上げた。この1人は週に1回しか出勤しない子だった。
「じゃ指名の本数が増えた人?」
これは見事に全員だった。指名されると単純に嬉しいし、ギャラにも反映される。

今思えばこの改革は二週間で結果を出す事となった。

月が替わり、月例ミーティングを終えた店休日にユミさんから連絡があった。
「今日暇?時間とって欲しいんだけど、出て来れる?」
「うん、夕方くらいからなら大丈夫だよ」

待ち合わせの場所に行くと社長の車が停まっていた。
「ごめんね、呼び出しちゃって」
手を振るユミさんの横に社長が居た。何事だろうか?
「おはようございます。どうしたんですか社長まで?」
社長を制するようにユミさんが話し出した。
「早速なんだけど私店辞める事にしたの」
「ええ?いきなりどしたの?」
「私、社長と別れる事にしたから、もう店辞めるのよ」
「お前まで迷惑掛けるな。こいつが言い出した事だから何も言えないんだよ」
自嘲気味に社長が話した。

実は社長とユミさんは付き合っていたらしい。そしてしばらく前からユミさんが別れると
いう話をしていた。しかし俺がスランプになった為、壁を乗り越えられるまで待っていて
くれたと言う。
「もうアンタは私が居なくても大丈夫だよ。いい男になった…」
言葉を詰まらせたユミさんは、ポロポロと涙を流し始めた。
「まだ若いのに1年足らずで店を仕切るようになって…入ってきた頃は高校生みたいに初心
 で可愛くてね。いつキレちゃうんじゃないかって心配したもんだよ」
「いや、今でもこれからも頼りにしてるよ。すごく可愛がってもらってたのは感じてたしね」
「湿っぽくなっちゃったね。まだユカが居るから。マナブが独立して店持つのはもう何年も
 掛からないと思う。その時はまた応援するからさ」
「マイカワ…済まないな」
社長が頭を下げた。

ショックだった。俺達3人の姉貴であり、尊敬もしていたユミさんが辞めてしまう。キングに
とっても何より俺達にとっても精神的支柱が抜けてしまうのだ。
しかしユミさんは明確に俺のビジョンを打ち出してくれた。独立して店のオーナーになる事。
そしてその場に社長へユミさんを呼んであげられる日が来るまで足踏みもしてはいけない。

次の営業日。終礼でユミさんが今月末で退店することをみんなの前で話した。ユミさんは
キングオープンは元よりクィーン立ち上げ、ジャック立ち上げ時から中心メンバーとして、
みんなを支えてきた。全店舗の女の子達がユミさんを尊敬していた。
もちろんエースの立ち上げも社長から頼まれたが、俺が心配だった事、一人前になるまでは
キングに残ると話していたそうだ。

今月末までの残りの日をユミさん引退記念イベントを打ち出すことにした。もちろんユミ
さんは嫌がったが、グループ最大の功労者であり、俺の恩師へのせめてもの気持ちとして
最後には折れてもらった。

店内には掲示物を張り出し、連日ユミさんの指名客が押し寄せた。居なくなる事によって
試練となるが、ユミさんはしっかりと足跡を残していってくれた。

そのユミさんの足跡は残された俺達、女の子達がしっかりと受け継いでいった。




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