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息抜きに他店に飲みに行った俺はキッカケを掴む事に
12 他店
いよいよエースがオープンし、キングも新システムになって1週間が経過した。

エースは日々3店舗の過去最高の売上を更新していく予想以上のスタートだった。
しかしキングは売上は落ちていないものの、入店数と延長数は逆に落ち込む結果となった。
理由は簡単だった。常連客は安くなったと感じるものの、いわゆる一見客が高いと判断
するようになったからだ。

そして店内に問題も勃発する。
1番恐れていた女の子の派閥が形成されてしまったのだ。無理もないあっという間に女の子の
在籍数が1.5倍近くに膨れ上がったからだ。
ユミさんユカさんを長とする一派が最大派閥で今まで居た女の子達、カズミやマナミ、アキコ
もこの中に居る。
もう一派がそれらを「良し」と思わない新人達だ。自由を好むこの一派は仕事は出来るように
なったものの個性が強過ぎて統制が執りにくい。ボーイクラスだとシフトを決めるのにも
舐められてしまう始末だ。

営業中、待機の時間も二手に分かれてしまっているような状態だった。
「ユミさんとユカさんどう思う?」
「今までこういう感じにならなかったのは所帯が小さかったからよ」
「気にする必要なんてないわよ」
2人は何も動じていないようだ。言うとおり、しばらく静観してみることにした。

俺達は久しぶりにいつものショットバーで集まっていた。
「鷹司さんのところすげえな、大入りだけで基本給越えちゃうらしいぜ」
「俺らも売上上げないとな。聞いてんのか?」
「ああ。キングはヤバイな」
多々ある問題を木村と児玉に話した。
「改革は痛みを伴うんだってば」
「浸透するまでに時間掛かるのはしょうがないだろ?」
「そうなんだけど女の子のギャラが上っちゃって入金が減ってるのが気になるよ」
「そう焦るなって」
木村と児玉が口を揃えて言った。
「お前ら浮いた話し聞かないけど息抜きしてっか?」
児玉はあの一件からアサミとまだ続いているらしい。
「んー俺はちょっと根詰めてたかもしんねえな。木村は?」
「ごめ!言ってなかったな、ジャックの子と付き合ってるんだ。ちゃんと店長に話したよ」
「何だかなーお前らは!」
本当に息抜きはしていなかった。カズミやマナミ、アキコにも営業中は笑顔じゃなくなった
と最近言われたばかりだった。
「溜まってんだろう?そんなしかめっ面ばかりしてよ」
「たまにはどっかの店でも行ってみるか?明日休みじゃねえかよ」
こいつ等の軽いタッチの応対が妙にムカついた。が、気晴らしに出掛ける事にした。

俺達は21時に駅に集合し、我々のグループの店が無い、駅の反対側へ向かってみた。こちら
側も数多くの店舗が存在する。
通りは決して長くないが入り口から出口まで歩くと30〜40枚のキャバクラのビラが集まる。
「あ!どうもおはようございます」
俺達の顔も意外と知られている。この辺りで最大グループの若手のホープだからだ。

俺達はビラの内容が1番派手な店をチョイスして入ってみることにした。
「おはようございます。今日はお揃いで。マイカワ支配人、指名はございますか?」
「人気どころ3人指名付けといてよ」
「かしこまり!スカウトだけは勘弁してくださいね」
この業界では引抜きはご法度なのだ。
「遊びにきただけですよ」

同業者としてはどうしても目線が男子スタッフやシステム、他のテーブルの女の子の接客に
目が行ってしまう。店内の内装や照明の光度やBGMのジャンルと音量等々。

「え?3人揃って遊びに行く事があるんですね?いらっしゃいませ」
この子達は俺達の事を知っているようだ。握手をしてから隣に座る。これは定番だ。
「システムの説明はした方がいいですか?」
「聞きたいね」
この店も時間制で6000円/1時間で指名料金は2000円。やはりキングは2割以上高い。女の子の
飲むドリンクは一律1000円。フードオーダーは1000円〜5000円。これらは平均的な値段だと
思われる。
「支配人、仕事目線で聞いてません?」
「そうだね。息抜きしに来たんだから仕事は忘れよう」

確かに楽しい。こうして3人で遊ぶのははじめてかもしれない。
木村は相変わらず酔っ払い状態、児玉は女の子を口説いている。

これが飲みに来る人が求めるところなんだろうなと感じた。

酒が好きな人はいい女を肴にして飲む。狙った女目当てに通って来る。これが正常な営業
なんだろう。何か特別な事をしようと思っていた俺の目論見を修正する必要があるかも
しれないと考えさせられるような光景だった。

「支配人、当店ナンバーワンのユイさんです」
名前と噂は聞いていた。駅の向こう側ではダントツで人気があるらしい。どんな天狗になって
いる女の子かと常々想像していたもんだった。
「はじめましてユイで…す」
正直、一目見てドキドキした。ユイも俺の噂は聞いていたらしく、名前だけは知っていた。
なぜだか分からないが、俺はユイと10分ほど何も話せないでいた。
「ユイちゃんていくつ…」
「支配人、時間ですが延長されますか?」
話し掛けようとした時、ボーイに遮られた感じだ。
「マナブ!次行こうぜ」
「でもってここは上司だから支配人のおごり〜」
児玉はしっかりポケットベルの番号を交換しており、木村はこの店の系列店の場所を聞いて
調べているところだった。
「だってさ。チェックしてくれる?」
ボーイにそう告げ、勘定をした。
「何も話せなくてごめんなさい。呼ばれちゃったから行きますね」
ユイが名刺の裏にポケベルの番号と自宅の番号を書いて渡してきた。
「マナブくんの番号は教えたくなったらそこに連絡してきてね」
「分かったよ」

この後、俺達は何軒かハシゴした。息抜きにもなったし、視界も広がった気がした。

帰り道、3人は肩を組んで歩いていた。
「舗装工事注意だってよ」
真ん中に居た児玉が段差に足を取られた。
「おい!危ないってば」
俺は左手、木村は右手を付いて倒れこんだ。

児玉が顔面から流血していた。

「俺両手肩組んでんだからちゃんと受身取ってくれよ〜」
結構血だらけで俺と木村は大笑いした。

しかしここから俺とキングの奇跡の反攻が始まるとは俺自身も予測できなかった。



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