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プーケットでの慰安旅行の最後の夜を迎えた。懇親的に俺の世話していたプーの家族を呼んで晩餐をするようにした。
119 プーヤ
プーケットでの初日の夜、添乗員プーがセッティングしたパーティ会場に来ていた。

会場はトーチ以外の灯かりがなく、タイの音楽が流れ、リゾート地の雰囲気が充満していた。
「ボス、タベモノヲトッテキマス。オコノミハ?」
「辛過ぎるのは苦手だからさ、辛くないタイ料理見繕ってよ」
「ミセスモソレデヨロシイデスカ?」
「私は辛いのがいいな」
「イエッサー」
ステージでは、マジックショーが行われていたが、誰も5分として見ていなかった。

「プー、空いてる席に座って、飲み食いしろよ?」
プーは俺とユイの後ろに立ってタバコの火をつけたり、飲み物や食べ物を運んでいるだけ
だった。ユイがトイレに行くとドアの前で見張りをしていたり、エビ料理を食べた後、手が
汚れるとおしぼりを持ってきたりと、忙しかった。
「ワタシハシゴトデスノデ」

1時間もするとみんなのテンションが、かなり高くなっていたが、その夜は何事もなくホテル
へと戻り、点呼も終了した。
「ボス、明日のスケジュールですが、19時まで自由行動でよろしいですか?」
「ああ。それでいいよ」
「分かりました」
初日のスケジュールが全て終わり、プーを部屋の中へ呼んだ。
「遅くまでお疲れさん。どうやって帰るんだ?」
「アルキデカエリマス」
「タクシー代よこすから、タクシーで帰れば?」
「トンデモナイ!」
「取っとけよ。こんな遅くまで付き合せちゃったんだ。早く帰って子供に土産渡してやれよ」
「ウウ…ボス、カンシャシマス」
プーは涙ぐみながら、俺から1000バーツを受け取った。

プーは翌日も懇切丁寧に俺とユイの身の回りの世話をした。荷物は絶対に持たせず、ドアも
開けることはなかった。タバコの火も必ずプーがつけ、携帯用灰皿も持ち合わせていた。
街を歩くときは、3歩ほど俺とユイの前を歩き、さながらボディーガードのようだった。

「プー、今日の夜、家族は用事あるか?」
「ナイトオモイマスガ?」
「ショー見に行った後、最後の夜だ。一緒に食事でもしようぜ」
「ヨロシイノデスカ?」
「家族みんな連れて来いよ。どこか良い店あったら、そこ予約しといてくれ」
「イエッサー!」

パトンビーチではかなり有名な『オカマショー』をみんなで見に行った。100名を収容出来る
会場もほぼ俺達でいっぱいだった。
VIP席が70席も取れなかった。40席VIPで1階、2階にある通常の席を30席確保した。ステージ
では、出演者のコスチュームもかなり豪華だった。質の高いショーは、宝塚のような美しい
ステージだった。これがニューハーフやオカマだというから驚きだ。もちろんヒゲ面のオカマ
によるステージもあり、イシハラと大橋がステージに上げられ、笑いを誘った。
笑いの部分は、あの蘭三郎と類似していたが、美人なニューハーフは本当に妖艶だった。

ステージが終わった後は、各自自由に食事をして、部屋に戻ることにし、現地で解散した。
「ボス!」
会場の外で待っていたプーが俺の姿を見つけると、駆け寄ってきた。
「コノサキニユウメイナミセガアリマス」
「予約してある?」
「ハイ。ゴアンナイシマス」
プーは『BOSS』と書かれたタイ料理屋に俺達を案内した。そこは広い個室だった。
「ボスニオニアイノミセノナマエデス」
「あはは。本当だな」
プーは、ドアを開けると俺達を店に入れた。
「家族は?」
「イレテモイイデスカ?」
「いいよ」
プーは、家族を呼び入れた。7人居るという子供が一礼、挨拶をして入室してきた。
「触っていいか?」
「サワディーカーデス。タイデコンニチハトイイマス」
「あはは。日本語の『触っていいか』に近いな」
そしてプーの妻を紹介された。続いてプーの両親、プーの兄弟達、姉や妹達。来るわ来るわで
総勢20名も入ってきた。
「おいおい!ずいぶん居るな」
「プーちゃん、全員で住んでるの?」
「ソウデス」
聞けば、20人もの家族が1軒の12畳ほどの1つの部屋に住んでいるという。トイレは川に垂れ
流し、風呂など1ヶ月に1回しか入らないという。これが貧困層の実態らしい。
「ミンナボスニオレイヲイッテ」
子供達が一列に並んで、俺に何かを言っていた。おもちゃをありがとう、あなたに逢えて
幸せですと言っていたらしい。

プーの両親が俺に話し掛けてきた。それをプーが通訳する。
「ボス、ドウシテカゾクマデヨンデクレタノカ?トキイテイマス」
「プーは俺達にすごく丁寧な対応をしていたからだよ。俺は一生懸命さを感じたし、良い
 思いもした。確かに俺は日本人で、お前はタイ人で俺がボスでプーは雇われかもしれん。
 でもお前を家族のように思っている。家族が家族を呼んで、食事するのは当たり前だろう」
俺の言葉に涙を堪えながら、両親に通訳した。すると両親は椅子から、フロアの上に座って
俺に頭を下げた。日本の土下座に似ていたが、大きな感謝をされているのは分かった。

「プーちゃん。お父さんとお母さんに座ってもらって。ボスは誰にでもこういうことをする
 人なのよ。感謝には感謝で返す人なの」
「たった2日間しか一緒に入れなかったが、お前は俺の傍から離れず、よくやってくれたよ。
 感謝するのはこっちの方かもしれない」
「オオ…ボス、アリガトウゴザイマス」
子供達もプーを見ていたが、プーは人目をはばからずに堪えていた涙を流した。
「ワタシモココマデイッショウケンメイ、ガイドシタノ、ハハジメテデス」
「どうして?」
ガイドのプーに対して、自分の分まで飲み食いをさせたり、同じ席で食事をしろという俺の
言葉を聞いた事がなかったという。ましてや、自分の子供のおもちゃまで買ってくれた客は
皆無だった。
「セメテ、タイニイルアイダハイイキブンデイテホシカッタ」
「俺はガイドを付けて旅行をしたのは初めてだ。これから、もしガイドを付けることがあった
 としてもプーほどのガイドに逢えるかは分からん。ただ、最後の夜はプーとお前の家族で
 こうして過ごそうと思っていた。プーを始め、家族に喜んでもらって何よりだよ」
「ボス、ホントウニアリガトウ!」
「プー、いやウォン。俺達は離れていても家族だ。日本に来ることがあったら連絡してくる
 といい。そのときは俺がガイドしてやるよ」
「ボス、ボスノコトハ、イッショウワスレナイ」
「俺達もだ」
「ボスノコトヲコドモにイッテキカセル。ボスノヨウニナレト」

日本から遠く離れた地で、生まれた場所も環境も、言語や肌の色も違う人間でも、男同士とは
腹を割って話せば、このように分かり合える。これがプーケットでの最後の夜だった。



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