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川村郁子に対する強姦殺人事件の新証言。その一方で少年の鑑定は最終局面に……
第38話 去勢された少年
「へえー、丸地くんかせそんなこと言ってたんですか。僕には文学的素養がないって―――」
面接室に少年の間延びした声が響く。
「ま、そうまでは言ってないが、勝ち誇ったようにノヴァーリスを語っていたね」
向坂は答えた。
「はっ、笑わせますよ」
少年は薄く冷笑を浮かべた。
「話の字面だけを追ってるような衒学者の分際で」
「そうかね?」
向坂は微笑み返した。
「彼と君はよく似ているように思えるが」
「あの人にはノヴァーリスもイェイツもわかりませんよ。その本当の意味は……ね」
少年は挑発的な目を向けて言った。
「なるほど、君は『体験』したからわかるというわけだ。イェイツとモード・ゴン、ノヴァーリスとゾフィ・フォン・キューンのような霊的結合を」
向坂は少年の顔を見つめ返して目で笑いかけた。
少年は意表を衝かれて黙り込んだ。
「だが、それはしょせんファンタジーだ。夢は夢、現実と何らかのつながりがあったとしても、あくまでも主観的なものにすぎない」
言い終えて、向坂はしばし間を置いた。
先に沈黙を破ったのは少年のほうだった。
先生も丸地くんと同じなんですね―――少年はポツリと言った。
「……なに?」
向坂はおどけたように首をすくめてみせた。
「ヘルメス学の格言に『ある場所にいると想像すれば、実際にそこにいる』という言葉があります」
少年は向坂の顔を見据えて言った。
「想像の世界は物質界を覆っている隠れた上位世界なんです。カバラの言葉を借りて言えば、形成界―――物質的諸力の背後にある精神的な力の領域―――」
「ヘルメス哲学にカバラ……か」
向坂は立ち上がって少年を見おろした。
「君はすぐ難解なオカルトの世界に逃げ込もうとする。悪いクセだ」
少年の顔から笑みが消えた。
「君はそうやって逃げてきたんだよ。それが性的倒錯を惹き起こしたんだ」
向坂は口元に歪んだ笑みを浮かべながら言った。
「君は去勢された男なんだ。君は同じ男性として父親と競い、乗り越えてゆこうとする男性的な主張を放棄し、対立を避けてきた。自身の男性性に自信がないからこそ、あえて男らしさを放棄してきたんだ」
穢れない純白の性器を切り落とされ、股間を鮮血に染める少年のヴィジョン―――
向坂は続けた。
「君のその心理の背後には、父を憎み、母を愛そうとする幼児性欲の抑圧がある。母親に対する性愛と、父親に対する敵意を解消するために、君は女性的性格を発達させ、父親との競争を放棄した」
「去勢不安によるエディプス・コンプレックスの抑圧ですか」
少年の表情にかすかな笑みが戻った。
「向坂先生もずいぶんと古典的な説明をされるんですね」
「君はそうやって感情や欲動を知的な理論にすりかえる。逃げているんだよ、現実から」
喪われた性器から血を流し、全裸のまま向坂の前に華奢な体躯をさらす少年の幻影、去勢された男としての「女」……
その血染めの股間の凄絶な美しさ―――
第38話 終
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魅惑のペニス、そしてそれを喪った少年の傷跡の美しさ―――中性の官能。
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クリヤマアイコさんある意味、一部JCの間で囁かれた都市伝説です……