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当時を知る図書館顧問・高野禎文。その異様な姿に向坂は……
第20話 壁
「……図書館改築時の図面―――ですか」
 高野(たかの)禎文(さだふみ)は籐のアームチェアから身を起こし、向坂の差し出した『ゾフィー30号』を手にとった。
 天井にまで届く書架、うず高く積まれた古い書籍の山―――高野禎文の書斎。
「ええ」と向坂は頷いた。
「そのことについていささかお聞きしたいことが」
「確かにこれは昭和53年までの図書館の図面です。当時、図書館と保健室はつながっていた―――この図面はその頃のものにまちがいありません」
「保健室……ですか」
 向坂は訊いた。
「それはどこに?」
「壁一つへだてた西隣りですよ」
 高野禎文は枯れ枝のような右手を伸ばし、人差し指で図面を指した。
「印刷が不鮮明で判読しがたいが、この箇所が旧保健室―――今はふさがれて使われていないはずですが」
 高野禎文はいくぶんやつれた目を向けて言った。
 落ち窪んだ眼窩、こけた頬―――奇妙に憔悴したその顔は、覚醒剤常用者のそれを思わせた。
 当時の写真とは似ても似つかぬその風貌の変化―――それが気になった。
「当時、私は図書館顧問として、司書とともにと図書館の管理に当たっていました」
 高野は言った。
「司書は図書館に常駐していましたから、となりの保健室のスペアキーも司書室に保管されていました。だから、保健係の生徒も司書室にはよく出入りしていました」
「鍵が―――鍵が司書室にあったのですか」
 少年の言葉が耳朶によみがえる。

 今は使われていない小さな部屋なんです。
 鍵は司書室に保管されてありました……

「では、どこかに保健室に通じる扉があるということですか。その鍵で施錠されている―――」
「壁になりましたよ」
 高野は言った。
「ドアや窓は全部……ね」
 壁……
 保健室は壁になった―――
 高野の言葉に、向坂は何か言い知れない心のざらつきを覚えた。
 確かに現在の図書館に、それに隣接する保健室は存在しない。それは事実……
 だが、この心のざらつきは何なのか……?
 
 この記憶にかかった(もや)がいったい何を意味するのか、その時の向坂にはわからなかった。

                                     第20話 終
壁に閉ざされた保健室。今は出入りできないはずの空間、それは確かな事実……
次回、アルバムに眠る一枚の写真。そして高野の不気味な予言……

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