警告
この作品は<R-18>です。
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27・過ぎていく日々
はつがいなくなってぽっかりと隙間の空いてしまった真理谷の心に、優花はすかさず入りこんだ。
強引なアプローチをしてくる優花に、当初は真理谷も適当にあしらっていたのだが、あれよあれよという間に、優花は合鍵まで手に入れてすっかり部屋に入り浸るようになってしまった。
そして今朝も、新妻よろしくひらひらした白いエプロン姿の優花が、合鍵で上がり込み、朝食の支度を終えてから、まだベッドと仲良くしている真理谷を起こしたのだった。
「真理谷さんっ! 起きる時間!」
「……もうちょっと……」
「何がもうちょっとなの! 料理が冷める!」
優花は布団ごと真理谷をゆさゆさと揺すった。
真理谷に睨まれたあの日から、優花は『マリア』と呼ばなくなった。『ときこ』と呼ぶのも真理谷に嫌がられてしまい、呼び捨てだったはずが何故か『真理谷さん』に落ち着いたのだった。
「遅くに帰ったんだから、気遣ってよ……」
「そんなのいつものことでしょう!」
はつが姿を消してから一週間ばかり、真理谷は取りつかれたように夏川ほのかの足取りを追い、山間の温泉に入り浸って聞き込みをしたのだった。
ほのかと一緒にいた人物。多分それは立花数馬だろう。名前が上がらなくても、男の影が浮かび上がるだろうと真理谷は予測していたのだが、あては外れてしまった。
ホテルをしらみつぶしに訪ね、店という店、通りすがりの者にまで写真を見せて歩いても男の影どころか、夏川ほのかが訪ねたことすら記憶に残っている人物が皆無だったのだ。
さほど大きな温泉街ではない。温泉宿は二件の大型ホテルの他に部屋数二十室程度の温泉旅館が三件。土産店やスナックはほんの数件しかないのだ。真理谷は容易く手がかりにたどり着くだろうと思っていた。
確かにほのかはこの温泉街の何処かに宿をとり、訪れたはずだった。真理谷の脳裏に焼き付いているほのかは、今や誰の記憶にもなく忘れ去られた存在となっているのか。
五年という月日は夏川ほのかを風化させていた。ほのかが生きていた証は、こうして消えていくのだ。こうして人は土に還っていくのだろうか。
真理谷は寂しさを感じずにはいられなかった。
だが今は感傷に浸っているどころではないのだ。はつが行方不明なのだから。はつは未だどこに行ったのかわからない。はつが残したメッセージ通り、今はただ夏川ほのかの事故を洗い直すしかはつを取り戻す手がかりはないのだ。そう言い聞かせた真理谷は、立花数馬に会う決心をし、会うことができたのだった。だが――。
優花に無理矢理起こされた真理谷は、ソファにたどり着くと新聞を広げながら無意識にため息をついていた。
「そんなに気落ちしないで。仕方がないわよ。立花にとって真理谷さんは恋敵だったのだから」
真理谷は無言で新聞を見つめ続けた。
「私の前で取り繕わなくてもいいわよ」
新聞のどこを見るでもなく視線の先が定まらない真理谷に、優花は苦笑いしながらココアがたっぷりと注がれたマグカップを真理谷の鼻先に突き出した。
知ったようにそう諭した優花の顔を真理谷はカップを受け取ってから真顔で見上げた。
斎藤優花は立花数馬の息のかかった刺客だった。本人がはっきりと肯定したわけではないが否定もしていない。
立花とすっかり縁を切ったようなことを匂わせてはいたが、果たして本当なのか。
「私はまだ、信用されてない、わよね」
真理谷の内心を読み取ったように、優花は肩をすくめた。
「無理もないか。でも、前に言ったとおり、私、真理谷さんが好きになっちゃったの。だから、損得なしで真理谷さんの味方よ。だから協力は惜しまないわ。ただし――」
優花は言葉を区切って真理谷の顔を覗き込むように顔を近づけた。
「夏川はつの存在は邪魔だけれど」
優花の瞳は挑戦的な光を湛えて真理谷を見つめた。
素直な気持ちを隠さずぶつけてくる意志の強い瞳に、真理谷は囚われた。
「真理谷さんがはつを捜したいって言うから手伝っているけれど、本当は帰ってきてほしくない」
優花は真理谷の唇に顔を寄せてきた。
「ココアがこぼれる」
そう言い訳をしながら、真理谷は優花から体を引いた。
「意地悪」
優花は口を尖らせて拗ねたような顔をした。
真理谷は聞こえないふりをしてココアをすすった。
来るものは拒まずの真理谷だが、本気は怖かった。真面目に言い寄られると逃げてしまうのだ。
「まあ、いいわ。はつが見つかるまで、まだ時間はありそうだから」
そう言って優花は微笑んだ。
優花が言うように、この状態がいつまで続くのかわからなかった。もしかしたら、はつは戻ってこないのかもしれない。真理谷はそんな気さえするのだった。
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