警告
この作品は<R-18>です。
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10・楔(くさび)
はつは足を止めて、真理谷をきっと睨み返した。
「そうやって自分を責めて悲劇のヒロインにでもなったつもり? お姉ちゃんのことはマリアのせいじゃない!」
でも、自分を責めずにいられないのだ。
ほのかを追い詰めてしまったことは事実だから。
「結婚が決まっていたほのかの前にしゃしゃり出て、ほのかの心を乱してしまった。私と会わなければほのかは悩まなかった」
「会ってしまったもの、どうしようもないじゃない。後悔してどうするの?」
十一歳年下のはつの方が年上に思えるほど、真理谷を冷静に諭していた。
「中途半端に声をかけて、途中で怖気づいた。婚約者と結婚したほうがほのかは幸せになるんじゃないかって。ほのかの総てを背負い込む自信がなかった」
好きという気持ちだけで近づいて、ほのかの結婚を台無しにするとわかったとき、真理谷は怖くなったのだ。
あのとき結婚していた方がよかったと、ほのかはいつか後悔するのではないか。
「自惚れないで」
はつが真理谷と向き合ってぴしゃりと言った。真理谷を睨んだ目は充血していた。
「おねえちゃんは馬鹿じゃない。自分のことくらい自分で決められる!」
そうだ。夏川ほのかはいつも冷静だった。一時の感情に押し流されてしまうタイプではなかった。
そんなほのかを追い詰めてしまった。
「だから、なおさら自分が許せない。あのほのかを自殺にまで……」
自殺という言葉が重くのしかかり、途中で言葉が詰まった。
夏川ほのかが亡くなったときでさえ涙はなかったのに、いまさら、なぜ涙がこみ上げてきたのだろう。
真理谷は自分の感情に戸惑っていた。
朝だというのに相変わらずはっきりしない灰色の空を見上げて、真理谷は涙を堪えた。
「自殺?」
はつが眉を寄せて鸚鵡返しに言った。
「自殺にまで追い詰めてしまったのは私だから……」
真理谷は重いその言葉を辛うじて空に向かって声に出した。
「待って、自殺って」
その言葉を聞くたびに、それは真理谷の胸に冷たい杭となってずしんと打ちこまれていく。
「もう、やめようこんな話」
真理谷は、はつを避けて大股で歩き出した。
「だけど、自殺――」
「うるさい!」
真理谷は、はつのほうを振り向きもせずに怒鳴った。
逃げたい。自分から切り出した話だったが、真理谷は耐えられなくなってしまったのだ。
殺してしまった。追い詰めてしまった。自殺――。
発した言葉が真理谷を攻めて押しつぶし、真理谷をどんどん息苦しくさせた。夏川ほのかは未だに過去の人になっていないのだ。
声に出して語ったことで、真理谷はそのことを再確認してしまった。動悸がする。以前よりも酷く感情が揺れる。
夏川ほのかの妹、はつは、家族以上にとても大切な存在なんだと言いたかっただけなのに。
真理谷は苛々した口調で話を切ってしまった自分が嫌になった。
「だめだ、ごめん。うまく話せない」
辛うじてそう謝った真理谷は、はつをおいて走り出した。
ただ逃げたかった。
「マリア……」
はつの心配そうなか細い声が、真理谷の耳に残った。