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  HAREM☆HOUSE 作者:品薄
☆156☆ 新居
 
 そして駁斗達3人は、あの田舎駅から出る、日に数本しかない寝台列車へと再び乗り込み、元のあの街へと戻って来ていた……。

 そしてその彼等が、寝台列車で凝り固まった身体を引きずり、懸命に辿り着いた場所は、あの綾禰家や天華の学校のある最寄りの駅から、綾禰家とは駅を挟んで反対側の海側にあたる、天華達の通う学校とその駅から、凡そ徒歩で5、6分と云う何とも利便な立地であった。
 そしてその展望は、唯でさえ駅から見て右側の場所にある高台に建っていると云う事もあり。その一階部分の場所からでも、特にマンションの裏にあたる海側は、とても眺めが良い最高な場所であった……。


「ふぅ……。此処か?」

 そして今、駁斗達の目の前には、ワインレッド調の色合いの外装をした。15階建ての綾禰所有の高層高級マンションがあり。
 彼等はそのまるで高級ホテルの様な様相のマンションの下へと、駅前で買った幾つかの買い物袋をその手に、何とも不似合いにも見える格好のままやって来ていた……。


 このマンションの構造は、一階あたり8部屋の構成で、その地下は全て広大な駐車場、駐輪場スペースとなっていた……。

 そしてその一階部分は住居スペースでは無く、当然の様に24時間誰かしらが常駐している立派でこれまた広大なロビーとフロントがあり。それに喫茶を兼ねた休憩スペース、決して広くは無いがちょっとしたフィットネスクラブクラスのトレーニングルームまでが完備され、そしてクリーニングの受託は勿論、入居者専用の保育所までついていると云う。彼には到底、明らかに無駄な程の豪華さであった……。


「はぁ……何かやっぱり、感覚おかしいよな……。金持ちって……」

 駁斗はその、無駄に豪華で無駄に便利過ぎる、明らかないわゆる高級マンションを眺め。そんな虚しい呟きを、どぅせ賛同の望めないその他2人は放置し、あくまで自分のみに向けてそぅ1人話していた……。


『ふふふっ……まぁね。でも、仮にもまだ綾禰の特尉である駁斗と、綾禰家の次女である天華が共に住む家よ……? 第一、何よりもセキュリティの事もある訳だし……。恐らくこれでも、麗羽様なりにかなり悩んで、遠慮して選んだ場所なんだと思うわ……』

 すると流那は、彼女もまた綾禰とは比べ物にはならないとは言え、綾禰に代々遣える柊家の人間としては意外にも、そんな駁斗の普通の感覚が少しは分かる様で、そぅ麗羽を庇いつつも同時に駁斗の心情を気遣い、声を掛けてきた……。


「はぁ……まぁな……。それにあの、前の綾禰家での俺の部屋に比べれば、まだ狭く慎ましやかなんだろうけどね……」

 駁斗自身、ここ半年間の綾禰での生活で、ホンの少しはそぅ言うギャップにも馴れてきてはいたものの、やはりこぅした無駄に広大で豪勢な場所は、彼の精には合わない様で、自分が天華と住むと描いていた、正に昭和丸出しの風呂無しボロアパートを思い描き、ヤレヤレと大きく溜め息を吐いていた……。


『へぇ〜〜……まぁまぁの所じゃない?』

 すると其処に、マンションの直ぐ隣にあったコンビニ《ファスティーマート》訳すと《カビ臭い市場》と云う何とも嫌な名前の店に、先程駅前で買い忘れた生活洋品を、1人買いに寄っていた天華が、彼等に駆け寄り合流し、そんなやはりな言葉を掛けてきた……。


「はぁ……。まぁまぁ……ねぇ……?」

『………………? な、何よ……?』

 すると天華は、そんな彼の自分に向けられたジト目に気付き、唇を尖らせ、正に絵に描いた様な、何処か間抜けな姿でスネて見せる……。


「いや……何も言うまい……。そぅ……全てはこの、格差社会がいけないのだ……うん……」

『はぁ? 何よそれ?』

 駁斗のそんな意味不明な嘆きは、彼女達にいとも簡単に流され。そして彼女達は彼をその場に残し、さっさとそのマンションのフロントのある広大なロビーへと入って行った……。


「……虚しいな……。あぁ、虚しいよ……」

 そして3人は、そのフロントへと僅かばかりの挨拶をして、その奥の2つあるエレベーターの1つに乗り込み。その当然と言わんばかりに最上階であった、彼等の新しい新居へと向かった。



 ………………



 ガチャ……


「へぁ〜〜っ……。これまた、中も凄い事……」

 そしてその、彼等の新居となる部屋の間取りは、正面から見て左側の角部屋で、その一番奥にあるL字型の壁面が全面ガラス張りにされた20畳程あるリビングダイニング、そして其処にあるカウンターの付いた広々としたシステムキッチン。
 そしてその他の部屋は、リビングから広いバルコニーへと続くL字型の窓とは逆の右横に、凡そ10畳程の広さの洋間が1つあり……。
 そして玄関からそのリビングまで延びる、幅の広い廊下の左右に、8畳程の洋間の部屋が2つと各々に当然の様についた、それだけで駁斗にとっては充分な広さのウォークインクローゼットがあった……。

 そして当然、これまた広く感じるトイレと脱衣所に加え、洗い場も浴槽もかなり広めに造られたテレビ付きのお風呂と云う、若い彼等2人だけで住むには正に充分……否、絶対に無駄に豪勢過ぎる部屋であった……。


『えっと……それで家具や電化製品の類は、大概の物は揃えて適当に配置してあるわ……。まぁ、他にも必要な物があったり余計で邪魔な物があったら、下のフロントに伝えてくれれば、常時用意、回収するわ……』

「あ、あぁ……。何か、もぅ……何から何までって感じだな……」

『そりゃあね……。綾禰のメイドに手抜かりなんてあってはならないからね……? まぁ、一部……例外のスカ女なんてのもいるけれど……』

「は……はは……。それ聞いたら、また未来泣くぞ……?」

 そして2人はリビングから続くバルコニーからの、何とも美麗な景色を眺め。1人部屋の探索に勤む天華を放置し、そんな何時もの馬鹿話に花を咲かせていた……。


 タタタタタッ……

『ねぇ、駁斗っ!? このリビングの隣の一番広い部屋の事なんだけど、もぅベッドも運んであるみたいだし、此処を寝室にして良い?』

「あぁ……。その手の配置や内装の事は、お前に全部任せるから……。お前の好きにしな……」

『うん♪ やったぁ♪』

 タタタタタッ……

 天華は一体何がそんなに楽しいのか、未だ足の筋肉痛も当然治っていないだろうに、パタパタと少し大きめなスリッパを駆け鳴らし、何とも世話しなく部屋中を走り回り。そして先程、駅前と怪しげな名前のコンビニで買って来た、細かな生活用品を配置し回っていた。


「はぁ……。ったく、相変わらず本当に落ち着きの無い奴だ……」

『ふふっ……。良いじゃない? きっと、ジッとして居られないくらいに嬉しいのよ……。だって此処は、彼方とこれから2人っきりで、共に一緒に暮らしていく場所なんだから……』

 すると流那はバルコニーに立つ彼の隣で、たった今彼女の走り去って行った、彼等の背後のリビングの方へと振り返り。
 そして少し強い、冬間近のヒンヤリとした風に、その髪を乱され。そしてそれを片方の手でゆったりとかき上げ、自分の綺麗なストレートの長い黒髪を整えながら、そんな何処か優しい眼差しで、その今は誰も居なくなったリビングを、見るとも無しに眺めていた……。


 ………………?

「……流那……?」

 そして駁斗はそんな彼女の姿を見て。何故か何かが欠落したかの様な、何処かおぼろ気な儚さを感じ……。
 そしてつい堪らず、そんな間抜けな呼び掛けで、其処に確かに居る筈の彼女の名前を、隣に居る彼女に呼び掛けるには、僅かに不自然にも思えるくらいの少しだけ大きな声で呼び掛けた……。


 
『…………? どぅしたの? 駁斗……?』

「えっ? ぁ……否……。何でも無い、別に何でも無いよ……流那……」

 ………………???

『……そぅ……』

 すると流那は、その固く閉じた心を僅かなりとも唯一開いてきたその彼でさえ、今まで見た事の無いくらいに満面の、何とも儚げで、何とも美しい微笑みを彼に向け。
 そしてゆったりと、その寒々としたバルコニーから再び暖かな部屋の中へと移り、1人静かに立ち去ろうとしていた。


『じゃあ、私はそろそろ綾禰に戻るわ……。後は2人仲良くね……?』

「お、おい!? 流那!?」

『……んっ……?』

「……お前……また会えるよな? また、此処に来るよな……?」

 駁斗は先程、自分でもぅ会わない方が、もぅ関わらない方が良いと言った事も忘れ。そぅ何処か不自然にも、だが何かが張り詰めるほど真剣に、彼女へとそんな愚かしげな問いを無意識の中、必死に問掛けていた……。


『ふふっ……変なの♪ 勿論よ……。仮にも私は、本来の当主である麗羽様から直々に、貴方達の世話や監視、監督を頼まれているんだから……。例え貴方達が私の事を邪魔者扱いにしたって、私は毎日来るわ……♪』

 すると流那は、最後にそぅまるで彼をあやすかの様に優しく答え。
 そして再びゆったりと彼に背を向け、何1つの音もたてず、その部屋を後にして行った……。


「……流那……」




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