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同性愛・SMチックな描写がありますので注意下さい。
二 主君殺し
 元信と瀬名姫の婚儀の日が近づいてきた。
 夏も終わりに近づき、秋風も感じられる。婚儀が後、一週間という時、半三は元信に富士の麓にあるみそぎ場で婚前の禊ぎをしたらどうか、と提言した。そこは温泉が禊ぎ場の隣にあり、そこで心身を清めたらどうかと。建前は、妻を娶る覚悟と今川家の家臣として、かつ一城の主としての覚悟を神前に誓うためとのことだ。
 半三には何か考えがあるのかも知れないが、元信もしばし一人になって考えたかった。覚悟を新たにしたいということは本音でもある。また、婚儀が決まっている上では、元信は逃げも隠れも出来ない。この頃になると義元の警戒心も薄れてきた。
 元信が義元にそのことを上申すると、直ぐ許された。禊ぎ場は岩山にあるので、その数里手前の関まで義元の家来が付いてきたが、禊ぎ場に元信と半三が登って行くと帰っていった。
(禊ぎも良いが、あの稚児と毎夜出来るのは婚儀までじゃ。まあ、子種を全部、あの者に注ぎ込まねば良いが・・・)
 などとその侍は羨ましがりながら馬に揺られた。

 禊ぎ場に落ち着いて、元信は神前で座禅を組んで瞑想をはじめた。
(ついに・・・儂も今川に臣従することになる。三河は織田への前線じゃ・・・義元公の上洛には我が家臣が駆り出される・・・)
「御屋形様。その時は大人しく先鋒をなされますか?」
 半三がいつの間にか横に居た。
(こやつ・・・儂の心が読めるのか?)
 半三はふふと笑った。
「織田信長公とは、兄弟と思うておられると聞きますが」

 元信は今川の人質になる前に二年、織田家の人質であった。
 今川と織田の間に挟まれた弱小な三河の豪族、松平家はその子を生き延びるために使った。これは権力闘争には当然のことではあったが、元信の人格は無いも同然であった。だが、その頃、うつけ者として傍若無人な振る舞いをしていた信長は、哀れな竹千代(元信)に優しかった。
 戯れに一緒に入った風呂で包茎を剥かれ、その痛みに思わず射精してしまい大笑いされた。信長は生まれて初めて人に謝った。
「済まぬ、済まぬ。竹千代。お主があまりしけた面をしているからからかったのじゃ。人質は辛いであろう。だが、その辛さが後で武器になる。よいか、儂と強い国を作ろうではないか」
 信長はその後、にやと笑って、
「お主の精通を助けたのじゃから、儂はこれでお前の兄じゃ!」
 だが、その後、織田方の人質交換で今川に下った。別れの時の信長の目は儂を弟として見ていた。だが、今川家は日本最強となった。いつかは織田も降伏か、滅ぼされるだろう。

「半三・・・信長殿は確かに友とも兄とも思うておる。しかし、儂は今川の家臣となる。いづれ戦うことになろう」
「我が三河の者どもを今川のために死なせるのですか!」
 元信は半三の鋭い目にぎょっとなった。この者は何を言いたい。
「不甲斐ない・・・この状況に従うだけのみとは!何故、信長公と通じようとしないのですか!」
「お前は・・・」
「今、御屋形様の家臣はどのような辛い日々を送っているかお分かりか!今川から送られた城代に使われ、土を耕し、武士とは言えぬ!そして自分の主がどんな方か、とんと分からぬ!私はそれを確かめに来たのです!」
 半三はぷいと立って外に出た。

 元信は岩風呂に身を沈めていた。火傷するほど熱い湯が岩場から引いてあり、ちろちろと大きな湯船に小さな滝のように流れ入る。反対側の穴からは小川の水が引かれ、湯と混ざり丁度良い温度になっていた。
 元信は先ほど半三が言ったことを考えていた。確かに儂は流れに身を任しているだけじゃ・・・三河の家臣は数えるほどしか顔を知らぬ・・・どうすれば良いのか?
 ふと見ると半三が素裸で着替え小屋から出てきた。おなごではない、しかしごつごつした男の身体でもない、柔らかな輪郭、白い肌。鍛え抜かれているはずだが、その筋肉は薄い脂肪で覆われているのか、胸が未熟なおなごの乳房の様に見える。
 腰が大きく、その歩く姿は優雅だ。
 半三が湯船の中で座っている元信の前で立ち止まった。左手を何故か後ろに隠している。元信は、その片足に重心を移し、腰を少し捻って立つ半三の姿に見入った。
 可愛いふぐりと陰茎が垂れる。ここで抱き合おうというのか?禊ぎ場で?
 半三の左手に持っているものが現れた。元信はびっくりした。抜き身の鍔無しの小刀だった。
「な・・・何じゃ?どうした、半三」
「お前は我等の主君にはなれぬ!お前のような優柔不断の主なれば、最初に滅ぶのは我等、家臣じゃ!ここで死ね!」
「なんと!正気か!」
 半三の目は、初めて抱いた時の愛おしい目ではなかった。寺で涙を流した目でもなかった。その見開かれた目は自分を何の感情もなく見ていた。奥底には身の毛もよだつような殺意があった。
 半三は左手を胸まで上げ小刀の先をこちらに向けた。もう、逃げられない!元信は天才的と思われる半三の武芸に敵わないのは明白だ。絶体絶命か!
 半三が憎らしげに微笑んで言った。その怒りに満ちた眉はあくまでも美しかった。
「元信!お前は兵法も心も未熟じゃ!ここで俺の手に掛かるのが幸せじゃ!」
 半三の片足が湯船に入った。元信は湯船に沈んだまま、湯が落ちている方に後ずさりした。湯が途端に熱くなる。だがそれを顔には出さない。半三がじりじりと歩み寄る。元信はそれをわざと恐ろしげに見る。
 恐怖に竦んだかと半三の目に軽蔑が宿る。
「覚悟!」
 半三が片膝を突いて身体を沈ませ、後ろに手を突いて滝を背にしている元信の胸元に近づいた!左手の小刀が元信の心臓を正確に狙い、突こうとした!
「!」
 元信は横に動くと滝の湯を手の平に受け、半三の目に向けて飛ばした!手の平が火傷を負ったようだが、それどころではない。
「あっ!」
 半三はまともにその目に湯を被った!あまりの熱さと硫黄の激痛に右手で目を覆う。
 元信の手が半三の左手を取り、元信は半三に体当たりした。
「ぎゃん!」
 元信は小太りであったが、この時ばかりは信じられないくらい俊敏に動いた。一回り小さな半三は、岩風呂の底の苔に足を滑らせ押し倒された。
 元信は夢中で半三の長い髪を掴み絡めて彼を湯に沈めた。必至に半三はあがいたが体重の勝る元信に跨がれ、怪力の右手で小刀を制されては半三も為す術がない!元信は滅多に人に見せないが、小太りの脂肪の下の筋肉は硬く、握力は強かった。
 水の中で暴れる半三の力が弱まってきた。右手に渾身の力を入れて捻ると、ついに半三は小刀を落とす。髪を引き上げて湯から半三を持ち上げた。激しく咽せる半三の顔を力任せに殴った。鼻から口から血が迸る。
 元信は悲しかった。愛しいと思い、共に戦場に行ってくれると考えていた者から、殺されようとした。無能呼ばわりされた自分が情けなかった。
 激しい怒りが元信の股間の一物を隆々と威狂わしていた。家臣との決別じゃ!もう三河には帰らぬ!主を疑う家臣などもう要らぬ!家臣の子を獣のように犯し儂は独りで生きる!
 元信は湯船の縁に半三を俯せに押さえつけ、背後からその蕾に容赦なくその肉棒を埋め込んだ!
「あうっ!殺せ!」
 あの夜は油を塗り、この大切な者を傷つけぬように細心の注意を以て行った。だが、この怒りで儂は獣になる!
 半三の蕾からは血がぬらぬらと垂れ、湯に落ちた。

 激しく腰を打ちつけ射精を終えると、元信は半三を着替え小屋に投げ込んだ。板の壁に打ち突かれ、昏倒した半三の手を後ろ手高手に寝間着の帯で縛り上げた。何着もの浴衣を床に広げ、その上に半三を転がす。膝の下で両足をそれぞれ折り曲げるように縛った。うつぶせると、半三はもう立つことも敵わず、血の滴る蕾を元信に向けて蹲り、息を突く。
 さむらいの子が辱めに耐えているのか、目を瞑って何も言わない。
 元信の狂った怒りは続いていた。今まで遠慮して味わえなかった半三の肉体の隅々を舐め回した。
 仰向けにして股を開かせてのしかかり、その乳首を長い間吸い続けた。口の中で半三の乳首は膨れ、口を離すと唾液に濡れそぼって真っ赤に腫れていた。瀬名姫の乳首を吸う自分が頭によぎる。半三は歯を食いしばって横を向いている。その長い髪が乱れ、頬と首に張り付いていた。
 蕾に指を入れると血糊と自分の精のためにぬると入る。そこから最初のまぐあいの時に教わった男の子の秘部を嬲り続けた。
「あう!・・・くふ・・・」
 半三はその心と裏腹に快楽を覚え、身を捩りのたうつ。

 最後に、元信は女とするように相対して半三に入った。
 縛られた足を、おしめを替えられる赤子のように大きく広げさせた。股の陰部から太股に付いた筋が極限まで伸びる。何と柔らかい肉体よ。他の者だったら股関節が外れていよう。
 晒け出された会陰の下の菊門はすでに何回もの陵辱にぽっかりと開き、血と精の筋を垂らしている。一物を差し込む。必至に半三はその門を閉じようとするが、粘液で滑りの良くなった扉にずるずると元信の陰茎が入って行く。力んで反り上がった胸の乳首を囓るとびくと身を震わし、蕾が開く。根本まで差し入れた!
 相対あいたいとは本来は愛し合った者達が行う形。身体が密着し相手の鼓動が聞こえる。
 だが、主の器量無しと蔑んだ者にこのようなまぐあいを強いられるのは、半三にとって死よりも辛いことであろう!
 ・・・儂はこのような『形』で半三と生きたかった!だが、もう戻れぬ!儂は最も大事にすべき者を犯しているのだ!

 半三のふぐりと陰茎がお互いの腹に挟まれ、元信の律動に刺激されて半三は声を上げた。元信は身体を密着させ、半三の乳首を吸い、首を吸う。
 半三の目がとろんとしてきた。腹に挟まれた陰茎が勃起して、半三も腰を動かし出す。半三の腸の蠕動が、元信の陰茎を包み熱い粘液が絡み出す。二人は夫婦のように肉体を合わせていた。半三の腿が元信の腰を強く挟みだした。
 二人の息が激しく短くなってゆく。二人の頭には肉欲の頂点を目指す行為の遂行しか無かった。この瞬間だけは・・・憎しみはよそにお互いの肉体が求め合っているのだ!背徳の至福!愛しい者との一体感!
 二人は同時に絶頂に達した。元信の動きが止まり、中の陰茎がぶるぶると震えた。そして滾るような熱い射精が。
 半三が叫んだ!
「・・・!んーっ!ああーっ」
 元信は半三の口を吸い、舌を貪った。半三にはもう抗う力は無かった。


 禊ぎ場の着替え小屋に朝日が射した。元信ははっと目を醒ました。昨夜のことは夢だったか!
 だが、元信の横には半三が、腕を戒められたまま向こうを向いて寝ていた。その身体は血だらけだった。蕾からは血と元信の子種の跡が何条にも付いている。
 元信は半三の戒めを解いた。半三はびくっとして身を起こそうとしたが、力尽きてまた伏した。
「・・・半三。再び儂の前に現れるな。儂は儂の宿命に従って生きる。・・・儂は凡庸な主かも知れぬ。そのような主に付いてくる必要はない。お前はお前の考えで生きよ」
 半三は向こうを向いて聞いている。
 元信は馬に跨り、一人、駿府の今川屋敷に帰っていった。



 翌日は婚儀である。半三を伴って帰らなかったことを問われたが、病を得て近くの農家に預けたと答えた。
 そうでなくとも今川家の婚儀であるから、よそ者には任せられない。今川の者どもが忙しく用意をしている。岡崎から顔も知らぬ家臣団が来ているようだ。挨拶は婚儀の後に行われる。今川は、今川の女を既に娶った元信と家臣を会わせて、その立場を理解させるという考えだろう。
 騒々しさが終わり、夜が更けた。明日の衣装などが下がった部屋で鈴虫の音を元信は聞いていた。
 寂しかった。
 寝ようと立ち上がろうとした時、
「御屋形様・・・」
 庭を見ると人影があった。
「誰じゃ」
「服部浄閑で御座います」
 良く見ると、庭の白砂の上に名乗った者と、片膝を突いているもう一人の影があった。隠密裏に危険を冒して家臣の者が会いに来た!元信は慌てて後ろの燭台を持ってきて濡れ縁に置いた。
 そこには黒い装束を着た剃髪し矍鑠かくしゃくたる老人と・・・跪いているのは・・・戒められた半三だった!半三は着替え小屋で元信がしたと同じように胸に縄を渡され、後ろ手を高手に縛られていた。いかな忍びでも関節を決められたこの縄法から抜けるのは難しい。半三は神妙に頭を垂れていた。
「半三・・・どうした?そのような・・・」
 浄閑が嗄れた声で言った。
「この者は御屋形様の心根を疑い、しかもそのお命を奪おうとした不届き者!その償いをさせます。そしてこのような愚息を育てた親の私にもご成敗を」
「浄閑!儂はその者を許した・・・儂もその者に言い難いことを致した」
「この者の身体などに何を御屋形様がされようと良いのです。しかれども、こやつの心は穢れている!お恥ずかしい限りです」
「もう、良い!放してやれ!儂は・・・三河のために儂なりに精一杯やる」
「なりませぬ!このままうち捨てておいては、今度は御屋形様の御心に疑いが生まれます!我等の赤心の証!この者、討ち果たした後、私も切腹仕る!」
 浄閑は大脇差しをぎらと抜いて振りかざした。半三は観念したように大人しく首を伸ばした。横から同じ黒ずくめの男が音もなく出てきて半三の腕を取り、身体を前にのめらせた。そして髪を肩に流し、その妖艶なうなじを晒した。
「い、いかん!」
 元信は庭に飛び降りた。そして半三に駆け寄り、男の手を払い除けてがばと抱いた。
「半三を斬るなら儂も斬れ!」
 元信の態度に威厳も統領らしさも無かった。愛しい子猫を守る子供のようであった。
「御屋形様・・・しかし!」
「儂は半三のお陰で目が開いた。儂は恐ろしいものに目を閉ざしていた。主と言いながら三河に帰るのが恐かった。だが、今は違う!半三とお前達の心、よっく分かった!儂は儂の家臣のために何でもする!どんなに辛くても生き抜き、最後に三河に帰るのじゃ!」
 半三が元信の胸の中で泣いて叫んだ。
「御屋形様!お許し下さい!」

 浄閑は呆れたように二人を見ていたが、ふらと後退あとずさりをすると、脇差しを納めた。
「半三!御屋形様の命、しかと守りお助けせよ!今からお前は服部家の統領じゃ!これから半蔵保長と名乗れ」
 元信がはっと気づくと周りの木陰にたくさんの人影がいた!十数名はいるだろうか!
 皆、蹲っている。泣き声が漏れ聞こえた。

 皆が去った部屋で元信と半蔵は口づけを続けていた。半蔵は元信の胸の中に懐かれて、澄んだ目で元信を見つめる。
「半蔵・・・謀ったな」
「え・・・」
「お前が儂などを仕損じることは無い。浄閑もそれが分かっていたはずじゃ」
「では狂言と思いますか・・・」
「ああ、狂言は狂言じゃが・・・浄閑は皆をまとめるために、本当にお前を斬ろうとしていた。お前も死ぬ気じゃったろう。空恐ろしい狂言じゃ。これが忍びの術か・・・いや人の心を掴む術か」
 半蔵は微笑んだ。この方はやはり暗愚ではない。その美しい唇が動いた。
「明日は初夜・・・お覚悟は大丈夫ですか」
「良いのか。他の『子』を抱いて」
「私はいつでも待っております」
「儂と共に戦場に行って戦ってくれるか?」
「御意・・・」


 服部半蔵はこの後、一心に元信に仕え、織田信長の桶狭間の戦い際、信長の密書を伝え、松平が今川と共に滅びることを食い止めた。元信はこの後、義元が与えた名を捨て、徳川家康と名を変えた。
 家康は瀬名姫を愛したが、今川の血を嫌う信長の命でその息子と共に殺した。悲しい戦国の宿命だった。だが息女の亀姫は奥平家に嫁ぎ、その生を全うした。
 半蔵は武将として槍を良くし、出自の伊賀の豪族をまとめ、伊賀同心の頭領として幕藩体制を築くために活躍することになる。半蔵が江戸城の門の警護を命じられたところから、その門は半蔵門と呼ばれた。

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