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2 トリート(蜜)
 僕は僕の親父の酒を居間のテーブルに並べた。
 後で怒られるかも知れないけど、今はそんな事どうでも良い。
 僕の恋が掛かってるんだ。

 まずスコッチのモルトからだ。新しい瓶の封を開けて肉厚のグラスに注ぐ。
 細い首からこの時だけしか出ないトクトクという心地よい音。あいつも心よげに聞いている様だ。
 一オンスほど注いであいつに差し出す。
「良いのか・・・親父さん」
 僕は自分のグラスを差し出す。すると、あいつもそうしてかちんと触れ合わす。僕の心の音。
「ハロウインに乾杯」
「かんぺー!」

 あいつはぐいと飲み干し、そして激しく咽せた。僕は大笑いし、あいつの背中を撫でてやった。

 十一月になろうとしているのに部屋は暖かかった。僕の家はマンションで完全断熱だ。実は、帰るまでエアコンを暖房にして二十五度にして置いたんだ。僕のマンションは携帯で、外出先からエアコンや電気をコントロール出来る。あいつは咽せたことで汗をかいたはずだ。

「暑いね。学ラン脱げよ。ジャージ貸してやるよ」
 僕はあいつを居間に残して自分の部屋に行った。

 部屋であいつ用のジャージのトレパンを出した。自分は、首が大きく開いたTシャツを素肌の上に着て、下は膝上までのスパッツをはいた。
 今流行のお腹とお尻を引き締めるやつで、僕は好んで下着として使っている。

 僕は部活でフェンシングをやっている。だからいつも背筋をぴんと張っていなければ却って苦しくなる。
 スタイルには自信があった。

 大鏡の前で、Tシャツを胸までたくってお尻を突き出してポーズを取った。
 肩を少し持ち上げて悩ましい目をした。
 僕はもともと体毛が薄い。臑毛も見えないぐらいしか生えていないけど、朝シャワーを浴びた時に念入りに剃っていた。

 鏡の中の女の子の様な自分。
「うん・・・いける」

 そしてこの日のために肩まで伸ばした髪にリンスを霧散させ、念入りに梳いた。ラベンダーの香り。前髪を眉と目、頬に掛かる様にして、後ろ髪を少しカールさせて首に垂れさせる。睫毛をチェック・・・良し、十分長い。
 唇にリップスティックを塗ろうと思ったけど、わざとらしいのでやめた。その代わりたっぷり舌で舐めて湿らせる。

 居間に出てきてトレパンをあいつに投げた。
「ほら、これにはき変えろよ。上もシャツになれば」

 あいつは僕の前で服を脱ぐのを躊躇った。脱ぎやすい様に用を思いついた。
「男同士で恥ずかしくないだろ!あ!お刺身あったな!良い肴になるよ」

 僕がチーズや刺身を持って戻ると、もうあいつは着替え終わってた。
 僕は隅にあるステレオを顎で示して、
「何か音楽付けてよ」

 あいつが立ってステレオの前のCDを選んでいる時、僕はあいつの脱ぎ捨てた学ラン、シャツとズボンを畳み始めた。
 埃と汗の匂い。あいつの『男』の匂いだ。

 あいつはそれを見て何か言おうとしたが、何も言えないでCDを持ったまま僕を眺めて居る様だ。
 僕は膝をきちんと揃えて突いて、あいつの衣類を知らんぷりして畳む。甲斐甲斐しくね。

 畳み終わって隅に片づけて向き直って目を上げるとばっちり合った。あいつは、
「ありがと・・・」
 と言って、CD選びを再開した。明らかにそれまでCD選びは忘れていた様だ。
 エリック・クラプトンの『アンプラグド』が鳴り出した。良い趣味。

 あいつは僕が作った刺身に舌鼓を打ち、親父の酒を色々一緒に試した。

 スコッチの次はバーボン、ワイルド・ターキー。親父が出張に行っては買い込んでくる、高級酒のミニチュアボトル。帰ったら悲しむか殴られるか・・・

 その次は何故か台所にあった『レッド』。僕らは一口飲んで吹きだした。
「うわ!何じゃ、これ!飲めねえ!」
「労働者階級の酒じゃ!」
 無一文の学生が笑いながら生意気を言い合う。

 僕は胡座を止めて、膝を揃えて横に崩した。
 所謂、女座り。
 ちょっと酔った。
 あいつより先に酔いつぶれない様に気を付けなきゃ。いや、酔いつぶれた振りをした方が良いかな・・・?

 片腕を床に突いて、ちょっと下を向いて溜め息を突いた。
 あいつが心配そうに聞いた。
「おい・・・大丈夫か?苦しい?」
 僕は苦しそうな振りをして、口を少し開け、舌を見せながら、甘える様な声で言った。
「うん・・・大丈夫」

 少し深く息をして目を上げると、あいつは僕の股間を見ている。
 太股を揃えているために 僕の陰部はスパッツを押し上げ、ペニスの形が分かる様に盛り上がっていた。
 半分勃起して皮を被った亀頭の形。
 あいつの目には僕は男の子の姿をした異性に映っているだろうか?

「・・・」
 僕は苦しそうに息をしながら、Tシャツの裾を持って陰部の上に掛けた。
 そして恥ずかしそうに、おずおずと上目であいつを見る。

 『レイラ』が始まった。発表当時の曲想から、がらっと変わった生ギターのウエットな演奏。

 レイラ、君の前に僕は跪く
 レイラ、どうか僕の心を癒してくれ・・・

 僕らは細かに息を突きながら、上気した顔で見つめ合った。

 あいつが躙り寄ってきた
 僕の髪を撫で頬を優しく撫でた

 レイラ、僕のものになってくれ

 さあ、そういって僕の愛を乞うんだ!
 僕らは唇を触れ合った

 トリック・『アンド』・トリート。罠と蜜。
 もう君は僕から逃れられない。



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