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◆44話
 約束の日。
 昨日のうちに待ち合わせの場所に来て、島田さんが隠れ易い場所を検討ておいた。
 
 私は先に富沢屋に行っていたので、別行動で待ち合わせの場所に行く。
 もちろん、どこで待ち伏せを受けるか判らないので、出来るだけ用心して道を選んだ。

 私が待ち合わせの場所に行くと、すでに相手の方が先に着いていた。

「来たか」
「遅くなって済まない。で、桂先生は何と?」
「ああ、先生だが、このことは話していない」
「!」

 その言葉を聞いて、すぐにばれたと思った。
 しかし、相手からは殺気がしない。

「先生は、今、京を離れている。お戻りは来週だ。それで1つ聞きたい。……お前は間者としてこのまま新選組にいるつもりか?」
「……ああ」
「神楽地はお前が記憶を失って、新選組の隊士になったのではないかと言っている」
「記憶がなくても、兄がいるなら会いたい」

 子供の私には駆引きなんて出来るはずはない。
 それでも、今はやらなければならなかった。

「……」

 相手の男が真っ直ぐに私を見ている。

「では、これからも我らに情報を流すと言うのだな?」
「ああ」

 ただの時間稼ぎだったけど、土方さんに言えば流していい情報ぐらい教えてくれるだろう。

「では、これから情報はどう受け取ればよい?」
「この先に宿屋の富沢屋がある。そこの番頭に糠次郎と言う者がいる。その者に情報を渡す」
「……判った」

 男が頷いたのを見て、表情に出さないように注意しながら、胸を撫で下ろす。
 何とか私のことを信じたようだった。

 とりあえず、目的は桂さんを捕まえることだ。
 何とか誘きよせなければ……。

「で、来週には桂先生と話せるのか?」
「ああ、お帰りになったら伺ってみる」
「……わかった」
「では、情報を待っている」

 男が背中を向けて歩き出す。
 刀が届かないほど離れたことを確認してから私も背中を向け、島田さんが隠れているところへ向かおうと、歩き出した時だった。

 後ろで男の悲鳴が聞こえた。

 すぐに振り向いて見れば、男は袈裟がけに斬られて倒れていく。
 男の側には浅葱色の羽織を着た男がいた。

 その背中には見覚えがある。

「さ、斎藤さん?」

 名前を呼んだ瞬間、斎藤さんが振り向いて、私の方へ走って来る。

 長い前髪で見えるはずないのに、斎藤さんが鬼の形相をしているように見えた。
 
 キン!

 金属のぶつかる音と、火花が目の前で散る。

 私はとっさに、腰の刀を引き抜いて、斎藤さんの刀を受け止めたていた。

 もう、奇跡だとしか言えない状況だ。
 訳もわからず、無意識に刀を抜いて助かった。

 抜いてなければ、私も殺されただろう。

 最も、斎藤さんの特技の「左片手一本突き」だったら受け止めるのも無理だったかもしれない。

 いったい何が起きているの?
 斎藤さんが私を殺そうとするなんて思わなかった。

「てめぇ……、ヤロウ!」

 私が斎藤さんの刀を受け止めて、目の前にいる斎藤さんの顔を見た時、野太い怒鳴り声が聞こえ、何処からか男がわらわらと数人出て来た。

 いきなり現れた男のうち、2人ほどが倒れた男の元に駆け寄っている。

 つまり、現れた男達は長州の者だろう。
 私はやっぱり疑われていたのだ。

「楠! 大丈夫か?」

 そう男達に言われたけど、私は男達の仲間じゃない。
 仲間と言うなら、今、刀を受け止めた目の前にいる斎藤さんと隠れている島田さんなはずだ。

「大丈夫か、松坂さん!」

 この状態に、島田さんが隠れた場所から現れ出る。

「あ、島田さん!」

 突然私の背後から現れた島田さんに、斎藤さんの表情が怪訝そうに眉が上がる。

「斎藤さんのバカ! せっかく上手くいってたのに。今、ここにいる長州の人は1人も逃がしちゃだめですよ!」

 私のセリフに斎藤さんは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに私から刀を引いて男達に振り返った。

「すまん」

 私にだけ聞こえる声が聞こえ、泣きたくなる。
 一歩間違っていたら、私は斎藤さんに斬られていたのだ。

 斎藤さんはすぐに男達の真ん中に突っ込んで行く。

 無駄のない動きで次々と斬っていくが、男達は十人ぐらいはいる。
 それに対し、斎藤さんは1人で戦っていた。

 私のすぐ横には島田さんが立っている。

「島田さん、何してるんですか? 私のことは構わず、斎藤さんの方を!」
「ですが……」
「逃がしちゃったら、私のことがバレちゃうんですよ!」

 私の叱咤に島田さんも慌てて戦いに参戦してくれた。

 しかし、その甲斐はなく取り逃がしてしまった……。