ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
警告   この作品は<R-18>です。 18歳未満の方は移動してください。
◆11話
「まず、君の名前を聞かせてもらえるかな?」

 お茶の湯のみが前に置かれ、目の前に座っていた近藤さんが口を開いた。

「松坂 淡雪です」
「松坂君は、女の子なんだね?」
「はい」

 近藤さんは肝が据わっているのか、私の言葉にすら反応を見せない。
 横に座っている土方さんは、冷たい眼差しで私を見てる。

「年は17歳。楠君と同じ年齢か……。君は楠君と知人ってことはないかな?」
「……知人って言うか、この体の人が楠さんとしたら、話したことはないけど顔は知ってました。私、年に1度、同じ内容の夢を見るんです。その夢にこの体の人が出てきました」
「夢?」
「はい」

 そう言うと、近藤さんは土方さんと顔を合わせた。

「朱雀千本通りにある老延医師に淡雪を見せたところ、『解離性同一性障害』ないかって言われはりました」
「解離性同一性障害? それはどのような病なんでしょうか?」

 近藤さんの質問に、ちよさんが申し訳わけなさそうにちらりと私を見る。

「何かがきっかけで、別の人格が生まれるそうや。つまり、1人の人間の中に2つの人格が共存するってことらしいで」
「……2つの人格。それは1つが楠君。もう1つが松坂君ってことになるんですかね?」
「それはわからん。うちは淡雪と出会ってから、淡雪としか会ったことないさかい」
「解離性同一性障害か……」
「詳しい事は老延医師に聞いてくんなまし、うちは宿屋の女将で医者と違います」

 背を伸ばし、ちよさんは真っ直ぐに近藤さんを見つめていた。

「とにかく、淡雪は間者と違います。返してほしいんや」
「お気持ちはわかりますが、もし、体が楠君のものだとすれば、こちらとしても預かった身としてそちらに帰すのは困ります」
「……ほな、どうすればええと言いますんや?」

 不安に感じつつも、近藤さんとちよさんのやりとりを見ているしか出来ない。







 困惑する私に近藤さんが視線を投げてきた。

「松坂君はやはり、富沢さんの所に戻りたいかい?」
「あ……、はい」
「そうか、困った。トシ、何か妙案はないか?」

 困った表情を浮かべる近藤さんは、隣の土方さんに視線を向けた。

「……とりあえず、楠の身はうちで預かってんだ。そちらに帰すことはできねぇ」
「そうだな。じゃあ、こうしませんか? 松坂君の身柄はこちらで預からせてください。その代わり、私の客人として扱わせていただきます」
「近藤さん!」

 近藤さんの言葉を土方さんが咎めるものの、それを軽く手を上げて止め、そのまま言葉を続ける。

「とにかく、解離性同一性障害だとしても、楠君の意思があるのか確認しなければなりません。我々には親元から楠君を預かった責任があります。その辺りを配慮してもらえませんかね?」
「いくら客人扱いでも、ここに拘束されているんでは同じことや。最低でも週1回は、顔見せに来させていただけます?」
「わかりました」

 勝手に了承してしまう近藤さんに、土方さんがため息をつく。

「ほんならうちも引き下がりますわ。けど、淡雪は女子なのに、ここは女人禁制やろ? そのところどないするんや?」
「個室が開いていますし、こちらが責任を持ってお世話させていただきますよ」
「……淡雪、こちらさんにも事情があるらしい」
「かまいません。それで収まるなら、こちらにお世話にならせていただきたいと思います」

 首を振って答える。

 何となく、事情は私にだってわかる。
 この体の持ち主が新選組の隊士で、しかも間者だったとなれば、今まで通りにちよさんの所にはいられないだろう。

 近藤さんも譲歩してくれていることを考えればわがままなんていえない。

「それで本当にええんか?」
「はい。大丈夫です。今まで良くしてくださってありがとうございます」

 精一杯感謝の気持ちを込めて、ちよさんに向かって頭を下げた。

「何かあったらいつでも戻ってきたらええ。淡雪はうちの子や。……近藤さん、うちの淡雪をたのんます」
「かしこまりました」

 そう言って近藤さんが頭を下げたので、私も慌てて近藤さんに頭を下げた。

「よろしくお願いいたします」

 こうして私は新選組で生活することになった……。