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◆9話
 浅葱色の羽織を着た数人、この騒ぎの中に入って来た。
 それを信じられない気持ちで見つめてしまう。

 新選組ってあの新選組?

 私からしてみれば、新選組は何百年前の歴史上の人物だ。
 新選組がいるってことは私のいた世界より過去ってことになる。
 いったい何が起きているのだろうか?

 刀を構えていた男と私も後ろから押さえつけられる。

「おやめください! その者は私の家の者で、この騒ぎを止めていたのです!」

 呆然としてて捕まった私を見て、糠次郎さんが割り込んでくる。

「そなたの家の者?」
「はい。私は糠次郎と申します」

 槍を持った、体系のいい濃い顔した男性が糠次郎さんと話す。

「私は新選組、四番隊組長の松原忠司と申す。事情は屯所にて聞こう」

 そう言われ、糠次郎さんは困惑した表情で私を見る。

「あの……その方は、私を助けてくださったんどす……」

 横から切られた腕を押さえた娘さんが、糠次郎さんに助け舟を出す。
 その言葉に、松原と言う人が私を見た。

「そうか……」

 そこまで言ったとたん、男を捕まえていた隊士の1人が、声を上げた。

「そいつ、楠だ! 長州の間者だった楠 小十郎ですよ!」

 私に向かって言われた言葉。

 長州?
 間者?
 ……楠 小十郎

 意味の理解出来ないまま、私は次の瞬間、強く締め上げられた……。





 そうして連れてこられたのは、普通の屋敷。
 門の柱には太い文字で「新選組屯所」と書かれている。

 私は現状に対応出来ず、引っ張られるままこの屯所の中へと入った。

「副長を呼んで来い!」
「はっ!」

 松原さんの横にいた隊士が素早く屋敷に入っていく。
 呆然とした私の近くには、糠次郎さんはいない。

 もしかして見捨てられてしまったのだろうか?

 そう考えただけで、胸がキュっと音を立てて痛くなる。
 私が嘘をついていると思われたのかもしれない。

 皆とせっかく仲良くなれたのにな……。






「松原?」
「副長。ここです!」

 松原さんの返事に、入り口から男性が出て来た。

 新選組副長と言えば、新選組をあまり知らない私だって知っている。
 あの有名な人が立っていた。

 土方歳三。

 真ん中で分けた髪はサイドに垂れ下がっているものの、後ろは1つにまとめている。
 眼光は鋭く、口はへ文字のように曲がっているが、噂とおり役者ばりの美形だ。

 美形だからか、凄んだ顔をすると一見迫力がある感じだが、目力があると思っただけで鬼の副長と言う噂から想像していたより怖いとは思わなかった。

「楠……。やっぱり生きてやがったのか?」

 土方さんも私を見るなり、そう呟いた。

 強く睨まれ、返答に困ってしまう。
 もし楠さんだとしても、私にはこの体の持ち主の名前を確認のしようがない。

「松原、コイツはどこにいた?」
「4条の桝田屋のある通りです。娘が浪士に絡まれて切られた所に助けに入ったそうです」
「……」

 松原さんの報告を聞いた途端、土方さんの眉が寄せられる。

「てぇことは、ずっとそんな所で潜伏してたってことか? 仕損じたとは聞いていたが、助かるような浅い傷でもないと聞いていたんだがなぁ……。それなのにノコノコと出てきやがるなんて馬鹿なヤロウだ。土蔵にでも投げ込んでおけ」
「はい!」

 土方さんの言葉に、松原さんが返事をすると縄を無理に引っ張られた。
 そこで、やっと思考が巡りだす。

 確か、間者ってスパイって意味だったはず。
 私は楠なんかじゃない。
 このままじゃ殺されてしまう。

 もしくは知らないことを吐くまで拷問を受けることになるかもしれない。

「待って! 私、楠なんて名前じゃありません!」

 背中を向けていた土方さんが顔だけこちらに向ける。

「私の名前は、松坂 淡雪です」
「見苦しいぞ」

 怒った表情で土方さんが私を睨む。

 睨まれたって、本当のことだもん。
 事実は曲げられない。

「私は女の子です!」

 底冷えするような視線にも負けず、思いつくまま言葉をつづり、最後の一言で土方さんの瞳が大きく見開かれた。

「何抜かしていやがる。お前は男だろうが!」
「中身は違います」
「意味のわからねぇ事……」
「父は武蔵、母は美鈴って言います。淡雪って名前は私が生まれた時に淡雪が降っていたからと母がつけました。父は松坂道場を営んで、それにこの世界……私のいた世界じゃないもん!」

 そこまで一気に言ってしまった後、最後の言葉に胸が締め付けられ、涙が零れた。

 この世界は私の世界と違う。
 過去に飛ばされたのかと思っていたけど、たぶん違う。

 私は過去は過去でも、過去の平行世界に飛ばされたんだ……。