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十六 庄左右衛門と静音参上!
「前野様!」
 修理は叫んだ。

 庄左右衛門はたすき、馬乗りばかまに槍を携え、騎馬のまま修理の横にやって来た。さすがに年のせいでふうふう言っている。

「旧武田家臣、前野庄左右衛門時惟ときただ!我が養子の修理に助太刀致す!」
「前野様!・・・養子?!」
「そうじゃ、昨日の親子の杯、何だと思っていたのじゃ!修理」
 捨吉は小躍りして喜んだ。
「旦那様!昔の通りじゃ!年寄りの冷や水がもう一人いた!」
「うるさい!」

 修理は目の前が真っ暗になった!
 確かに助太刀は嬉しい。しかし老人が二人!彼らを庇って戦う余裕はない!

 そしてざわざわと野次馬がさざめいた。
 庄左右衛門の反対側の自分の左に、ついと前に出た人影が横目に入った。驚いて見た。
「!」

 誰もが不破万作がそこに現れたと思った!
 艶やかな前髪に紫の髻から流れる後ろ髪。薄紫が腹部で深紅となる小袖に緇の短袴!
 歳は十六、瓜実の女顔に怒りを孕んだ一筋の眉。萌え出た芽が匂う様な小姓姿!
 修理は呆れて言った。
「・・・静音!お前もか!」

 山門を埋め尽くす野次馬から歓声が上がるが、その後はどういう地獄が待っているのか!
 静音は怒った顔で佐久間達を見るだけで、修理を見ようとはしない。
 五部浄は静音をじろじろ見て、
「ほう・・・これは。散らせるには惜しい華じゃな。修理殿!もう不破万作の代わりを見つけたのか?万作との契りも奴が死ねば終わりか?」
 五人の刺客達の野卑な笑いが起こる。
 静音の眉間に筋が一本入った!

 ばきっと音がした。
 怒りの余りに、勢いよく下げ緒を張ったので、栗形(刀の鞘で下げ緒を掛ける穴の開いた突起)が取れてしまったのだ。
「おやおや・・・恐れで壊したぞ・・・お前は後でゆっくりと可愛がってやろう。ふははは!」
 怖れるどころではない静音だった。万作の名をここでまで聞こうとは!腹がぐらぐらと煮えくりかえった!

 突如、静音は下げ緒を投げ捨てると、腰の備前長船祐定の鯉口を切って、前に踏み出た!

 果たし合いの幕が斬って落とされた!



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