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十三 別れの酒
 静音は修理に背を向け、はあはあと息を突きながら膝を崩して伏し、身体を両手で支えていた。

 修理はその後ろで静音の反応を待つ。左手の手の平にはまだ暖かい静音の精が残る。
「・・・お前なんか本当に嫌いじゃ!」
 涙声だった。
「では帰るか?」

 返事次第ではもっと責めて、帰ると言うまで続けようと思っていた。だが・・・儂の我慢もいつまで続くか・・・股間の一物はどうしようもなく怒張していた。

「見てやる!」
「何!」
「・・・お前がその沙悟浄さごじょうだかという奴になますにされるのを見てから帰る!」
 きっと修理に向いた。
「お前のためではない!新右衛門おじ様の為じゃ!・・・お前が果てたことをせめて墓前に報告せねばならぬ!そいでお前の菩提を共に弔ってやる!」
 修理は思った。それでよい・・・

 次の日、修理は自分の剣の手入れをしていた。修理の刀は数打ち物(大量生産されたあまり質の良くない刀)であり、どこまで戦いに耐えるか分からなかった。
 この前に預かった太刀は庄左右衛門に返し、研ぎに出されていた。付いた血糊の油を落とさないと、そこから黴が生え錆びることとなる。

 庄左右衛門が白鞘の太刀を持ってやって来た。
「修理殿。急がせた甲斐あって、刀が帰ってきた」
「しかし・・・その太刀は・・・」
「刃欠けは無かったそうじゃ。油がこんなに付いているのに何を斬ったのかと研ぎ師が頭を捻っておった。これはお主にやろう」
「鎌倉時代からの家宝を・・・良いのですか」
「これと生死を共にした修理殿が、既にこの太刀の主人じゃよ。それに業物わざものということが判明した。さあ・・・一杯やるか」

 庄左右衛門は、捨吉に持ってこさせた四方を間にした。さかずきが一つ乗っている。
「別に別れの酒ではない。修理殿に会えて良かったと思っておる。当代随一の剣豪にな」
「お恥ずかしい・・・」
 まず庄左右衛門が呑んでその杯を修理に与えた。そして修理も捨吉に注がれた酒をぐいと飲んだ。
 国では困窮の家の中で、杯などどこかに行ってしまった。正月の祝賀で貰った酒を一つの茶碗で父上と呑んだ。今もまるで父上と呑んでいるようじゃ・・・

 修理は庄左右衛門との一期一会のこの酒を深く味わっていた。



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