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十 決闘状
「それは四条大橋に掲げられた高札を、捨吉が写して来たものじゃ」

 捨吉が頭を掻きながら弁明する。
「へへ・・・丁度良い紙が無かったもんやさかい、儂の持ってた悪戯書きの裏に・・・」

「佐久間一雲とは?」
 修理が言った。
「関白様の御前で討ち果たした者だ」
「不破万作様のお頼みで、修理様はたったお一人で・・・」
 捨吉が得意そうに口を挟んだが、皆に睨まれ首を竦ませて下を向いた。

 不破万作の願いで!
 静音ははらわたが煮えくりかえる思いがした。当てつけて言う。
「俺の時とは違って、万作様との約定はちゃんと果たした分けじゃな」
 修理もやれやれと情けなそうに頭を掻く。だが静音は嫉妬しているのだ。自分では気が付いていない様だが。

 静音が庄左右衛門に聞いた。
「断れないのですか?」
 修理が答えた。
「奴らは、儂が前野様の家に居ることを知っている。そうでなくてはこんな高札は上げぬ」
「どうして分かったのじゃ?」
 庄左右衛門は捨吉を睨む。
 捨吉はますます小さくなった。

 修理は続けた。
「儂が断るか行かなければ、前野様にその矛先は向けられるじゃろう。こ奴らは太閤様の息が掛かった連中じゃ!何をしでかすか分からぬ」
「いや・・・修理殿。儂のことは心配なさるな。今は信清公から捨て扶持を貰って隠居しておるが、昔は武田信玄公のもとでいくさ場を駆け巡ったものよ!」
 信玄の子、武田信清は武田家が滅びた後、上杉家に身を寄せていた。信玄の家臣であった庄左右衛門を家中に呼んだのだ。

「なりませぬ!私は単なる居候。私がどうなろうと捨て置き下さい!」
 庄左右衛門は修理にきっぱりと言われて、不服そうに口を曲げて髭を掻いた。
「そうそう・・・旦那様、年寄りの冷や水というもんや」
 捨吉は飛んでくる脇息を避けて厨房に退散した。


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