警告
この作品は<R-18>です。
18歳未満の方は
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第4話:切ない初恋〜鳳 純
『……その後の首尾はどうなっておるかのぅ??』
「…はい。。順調でございます。。ただ、今しばらく時間が必要かと……」
月が隠れ、明かりのともされない、広い部屋に響きわたる二つの声…
『…うむ。。。まぁ、しかたなかろう。。あせらずにゆっくりやるのじゃ…決して気付かれるでないぞ。。』
一つは初老の男の声…どこかどす黒い気配を漂わせる。。
「…はい。。。」
雲がはれ、月の明かりが照らしだしたもう一人の声の主…それは、、、
「お館様の望みのままに……」
映し出されたのは…青い髪…白い服、、、表情を出さずにひざまずく雪の姿だった。。
『ふふふふ!!ふはははは!!!』
どす黒い気配が余計にます。。
そんな中、感情を表にだしてない雪の顔に、淋しそうな気配が漂ったのだが、それは誰にも知れる事無く、雲に隠れた月とともに闇の世界へと葬られていった。。
「…さて。。今日はここまでだな。。。」
「…わかりました。。全軍!!野営の準備をせよ!!本日はここで野宿とする!!」
ロイの隣を守護するようにぴったりと張りついている純が全体の指揮をとり、野営の準備をはじめた。。
サーガの国を出てから丸2日。。前日は運良く村に差し当たり、一晩の宿を頂戴したため、野宿はこれが初めてとなる。。
「…あれ??今日はここでお泊りでしゅか??」
馬車から降りたセリカとマリア、その後ろにフィルが隠れながら近づいてきた。
「…あぁ。。こうも暗くちゃ、全隊の指揮はとりにくいからね。。…って、あれ??3人だけかい??」
マリアの馬車にのっていたのはセリカ、フィルともう一人…
「…あぁ、お市しゃんなら、ご飯をとってくるっていってましたよ。。携帯食じゃ、もたないらしいでしゅ。。」
…ということは…その辺の動物でも狩ってくるのかな??
女郎蜘蛛のお市にとって、獲物を狩るなどたやすいことだろう。。
ただ、動物か虫か。。それだけが心配なロイだった。。
「…あはは。。。あっ、そうだ。。すみませんでしたマリアさん。。言葉が通じないのに彼女等を乗せてもらったりして。。。」
セリカやフィルの後ろでにこにこほほ笑みながら見つめるマリア。。
ロイは彼女の馬車に乗せてもらうように頼んだのだが、あとになって言葉が通じないことを思い出したが、言う機会がなく、今日にいたってしまったのだ。。
「…いいえ〜〜…彼女達の表情をみてるとなんとなく話の内容がわかりましたから。。。気にしないでくださいませ。。それに、少し教えていただいたんですよ。。だから、ちょっとした会話ならできますわ。。」
「!!そうですか。。」
習ったところですぐさま使える物ではない。。
ロイは改めてマリアを見た。。
マリアはおっとりとした女性で、にっこり微笑んだ顔は聖母マリアと同じ神々しさを醸し出している。。
「失礼!!野営の準備が整いました。。いかがいたしましょう!!」
ロイの背後からあらわれたのは、第3隊隊長の純だった。
辺りを見回すと、すでにテントが設営され、各自自分のテントの前で待機している。
「…では、食事にしましょうか。。各班は、携帯食より日の持ちにくいものから食べるようにお願いしますね。。」
「はっ!!では、炊事に入る。。第3隊、並びに第4隊は、各班作業を開始せよ!!」
『『はっ!!』』
小気味よい返事とともに、各班ごとにわかれ炊事を開始した。。
「…じゃあ〜、、私たちもご飯作りましょうか…」
各隊隊長とモンスターの3人、それにロイを含めた6人が班となっている。。
「では、それがしは薪を積み、火を焚こう。。幸いこの辺りは材木には困らないようだし。。」
「…それじゃあ〜、、私は材料の調理をやりますね〜。。」
「あっ!!それなら私も手伝いましゅ!!水ならいくらでも出せましゅから」
「じゃ、僕は……」
「司令官殿は、テントに入り、しばし休息をとられるとよい。。雑用はそれがし達が引き受けますゆえ。。」
「…えっ!?でも…」
みんなが働いてるのに休むわけにいかない。そう言おうとするが、純の睨みに敢えなく撃沈。。
「…あっ、あの!じゃあ、見張りをしてます。。万が一何かが来たときに対処できるように…」
「…しかし!?」
「大丈夫ですよ。それほど疲れてませんから。。心配してくださってありがとうございます。。」
ぺこりと頭を下げるロイにそれ以上言えなくなった純は薪を集めに森の中へと消えていった。。
「それじゃあ〜、私たちも始めましょうか。。。でも、3人は多すぎるわね。。」
そりゃ、6人分しか作らないのに、マリア、セリカ、フィルの3人が調理では、逆に邪魔くさい。。
「……そうだわ。。フィルさん、ロイさんと一緒に見張りをお願いできないかしら。。さすがにロイさん一人じゃ心配ですし。。」
「……!?………えっ……でも……」
「マリアしゃん!?それは無理でしゅよ。。フィルは私以外の人とふたりっきりだなんて。。」
「…でも、ずっとこのままってわけにはいきませんからね。。。少しでも他の方と話せるようにしていただかないと。。。いいですね…フィルさん」
「…………はぃ………」
俯きながらゆっくりとセリカの後ろから出てくるフィル。。
緊張のためか、ゆらゆらしたからだが余計に波打つ。。
「では、よろしくお願いしますね〜。。それでは、セリカさん。材料頂きにまいりましょうか。。」
「あっ…はいでしゅ…」
フィルを心配そうに横目でみながらマリアの後をついていくセリカ…
「…それじゃあ、いこうか。。」
「…………」
歩きだすロイの後ろを無言のまま距離をとってあるきだすフィル。。
「…ふぅ。。」
ロイのもらした小さなため息は、野営の喧騒にかき消されていった。。
野営から少し離れた場所で、木にもたれかかり辺りを見回すロイ。。
その横にはフィルがちょこんと座っている。
「…ねえ。。フィルちゃん。。」
「!!?」
びくっと身体を震わせ、ゆっくりと下を向くフィル。ロイにも緊張が伝わってきた。。
「…ふふ。。これからいうのは独り言だから、聞いてくれてればいいから。。」
「………」
「…似てるんだ。。昔の僕と。。。」
「……??」
ロイは星空を眺めながらゆっくりと語りだす。。
「…僕も昔、他人と話すことができなかった。。うぅん。。人と接するのが恐かったんだと思う。。僕のことを毛嫌いするやつや、あいつは別格だって敬遠していく友達。。嘘をついて、なんとか近づこうとする人…そうやって、まわりからどんどん友達と呼べる人は消えていたんだ。。『孤独』……つらかったなぁ。。」
「………………」
「……でもね…そんなとき、たった一人だけ、本音でぶつかってくる奴がいたんだ。。マークっていうんだけどね…土足で人の心のなかに上がり込んで、ずかずかとその辺にある暗い気持ちを放り出してすっきりさせちゃうんだ。。どんなに拒否してもね。。」
「………………」
「でも、、、嬉しかったんだ。。家柄で見るわけじゃない。。僕自身を見つめてくれたのは、彼が初めてだったから。。」
「…………うらやましい…な。。。」
「えっ??」
それまで静かに聞いていたフィルがいきなりしゃべりだした。。
「……私は……ずっとひとりだったから…………」
「……」
「……親に捨てられて…………友達に見離されて……自分を恨んで…………」
「……そっか。。。たぶん、僕には想像もつかないくらい、辛かったんだろうな。。」
「……………」
「…がんばったね。。」
ぱしゃという音を立てて、ロイがフィルの頭をなでた。。不思議な感触だったが、ちゃんと頭としての反発はあり、普通に撫でることはできた。。
「……うっ……ふひっ……ひっく……」
フィルの瞳から、大粒の涙がこぼれ落ち、声を押し殺して泣く彼女の横に座ると、ゆっくりと肩に手を回し、やさしく抱き締めるロイ。。 辛かったのだろう。。自分が他の仲間達と違う姿で生まれたことが。
悲しかっただろう。。理解してもらうはずの親にすら見捨てられたことが。
ここにきても、自分の殻に閉じこもったのは、たぶん恐かったんだろう。
『また自分を否定されるんじゃないか。。』
『傷つくのはいやだ。。』
そんな思いが頭をめぐり、唯一の友達であるセリカにすらうまく接することもできずに。。
「…………ひっく……ふひぃ……」
「…もう大丈夫かな??」
しばらくすると、野営のほうから、食事の合図が聞こえてきた。。たぶん、ロイ達の班も準備はおわったのだろう。。
「………はい…………ごめんなさい…………」
相変わらず、うつむいてるフィル。
二人は立ち上がると、みんなのもとへ歩き始めた。。
「…ねぇ、フィル。。これは、独り言の続きだけど…」
「…………はい…??」
「…もうフィルは一人じゃないよ。。僕も、セリカも、カーナも、リリーも雪さんや他のみんなも、誰もフィルのこと傷つけない。。約束するよ。。」
「…………」
返事はくれないフィル。。
…だめかぁ。。。
そう思ったロイの腕にほんの少し抵抗が生まれた。。
服の肘の部分をちょこんとつまむフィル。
それは、彼女にできる精一杯の返答だったのかもしれない。。
「いっただっきまーしゅ」
セリカの大声とともに、食事が始まった。。
メニューは、、野菜のスープに干し肉とキャベツの炒め物、そして……
「しっかし、よくとれましたね。。こんな大物見たことありましぇん。。。お市しゃん凄いでしゅ!!」
中央に置かれたのは、お市が狩ってきた獲物。。
「…しっかし、よくとれたねこんな大きなイノシシ。。」
そう、お市がとってきたのは大人一人分はあるかという大イノシシだった。しかも、ご丁寧に全班に一頭ずつ。。
「…あら。。簡単なことですわよ。。イノシシは突進するだけしか能がありませんもの。。わらわの糸を目の前に仕掛ければすぐに捕まります。。」
なるほど。。ロイの関心をよそに、丸焼きにされたイノシシにかぶりつくセリカ。。
「…ん??」
そんな中、マリアだけが肉に手を付けず、にこにこしながら野菜だけを食べていた。。
「…マリア、きみはもしかして菜食主義者??」
「…あっ、はい。。」
肉を一切口にせず、野菜と空気中に分散する魔力を吸収することにより、栄養の摂取と体調の維持を行なう菜食主義は、北の大国である、ガージスの国ではポピュラーであるが、他の国にはそれほど見られない。。
「…じゃあ、マリアはガージスの……」
「…えぇ…」
「ごめん。。余計なこと聞いて。。」
ガージスは、3年前に始まったモンスターと人間の戦いで真っ先に標的となり、滅んだ国である。。
女王は死に、民はバラバラになり、王とその一人娘は行方不明になっているらしい。。
「…いいぇ。気にしないでください。。もう昔のことですから。。」
…昔と呼ぶにはまだ新しすぎる記憶。。
彼女もまた辛い過去を乗り越えた一人なのだ。。
「………………」
クイックイッと誰かが服の端をひっぱる振り向くと、そこにはフィルがロイの背中に隠れるように座っていた。。
「…どうしたの??」
「………っ!!………あの………これ。。」
差し出されたのは、皿に乗せた切り取ったイノシシの肉だった。。
「………………セリカちゃんと………お市さんに………食べられちゃう………」
「…そっか。。とってくれたんだ。。ありがと」
ロイには彼女の心遣いが嬉しかった。 「………んっ………」
ふるふると首を振りながら自分の席に戻るフィル。。
バクバクと口いっぱいに頬張るセリカ、まわりを警戒しながらぼそぼそと食べているお市。。ゆっくりと静かに食べるフィル。それを見て微笑みながら野菜を食べるマリア…そしてあと一人……
「……あの…純さんは食べないんですか??」
食事が始まってから何も手を付けず、じっと瞳を閉じている純。。
「…いぇ。それがしは、司令官殿の後にいただきます。。主君と共になど、仕える者として出来ませぬゆえ。。」
「そんなこと言わずに、、みんな一緒のほうが美味しい…」
「……失礼させていただきます!!」
そういうと、席をたち、森の中へとむかう純…
「……僕、嫌われてるんですかね??」
「ふふふ…そんなんじゃありませんよ。。あの子は、素直じゃありませんから…」
ロイは、ぼそっと呟くように言った言葉を聞き取ることが出来なかった。。
「えっ!?なんですか??マリアさん。。」
「いいぇ。。なんでもありませんよ。。気にしないでください。。」
「??」
訳のわからないロイをしりめに、バクバクとイノシシにかぶりついてたセリカが気が付いた。。
「それより、純しゃんは一人で大丈夫なんでしゅか??」
確かに、いくら第3隊長とはいえ、森のなかである。。モンスターに出くわさないとも限らない。。
「…そっ、それじゃあ、僕ちょっと様子を見てくるよ。。」
そう言って立ち上がり、純の消えた方向へと走りだすロイ…
「ふふふ…がんばってね…純。。」
マリアの優しげな微笑みと、複雑な表情でみおくるフィル、すました顔で食事をすませるお市に、今だに食べ続けるセリカを残して。。。
「……ふぅー。。」
みんなと別れ、森の奥へと歩きだした純が辿り着いたのは、周りを木で囲まれ、中央には一本の巨木がたたずんでいる草原だった。。
空を見上げると、まるく切り取られた星空が何とも幻想的であり、まるでこの世界には自分一人しかいないのではないかという思いさえ湧いてくる。。
純は、中央の木によしかかり、座り込んでいた。。
「…はぁ。。ダメだな。。私。。」
いつものキリッとした表情ではなく、まったく覇気のないどんよりとした雰囲気を醸し出していた。。
「……もう9年かぁ。。」
純は、ゆっくりと空を見上げながら、一生忘れることは出来ないであろう記憶を、呼び起こしていった。。
9年前、純がサーガの国に流れ着いてから、3年目の春。
同時期に拾われた子供や先輩のなかでも群を抜いて戦闘能力に長けていた彼女は、簡単な任務に参加しては、他の大人達も舌を巻くほどの活躍で、功績をあげていた。。
ただし、まだ10歳にも満たない少女には、戦争により、相手を傷つける事は、精神的にとてもきつく、任務を重ねるごとに自分の殻に閉じこもり、感情を表にださない冷酷な機械へと変わっていった。。
「…で?次の任務はなんだ??」
部隊長であり、仮の親元であるマーズにすら、心を開くことはなく、会話といえば次の任務についてばかりだった。。
そんなふうな彼女に育ててしまった罪悪感から、マーズは女王に相談し、純をある異国の地の家庭へ送り、そこで戦闘とは無縁の静養を行なうよう決定し、純をある老夫婦の家へと預けたのである。。
「……よろしく」
そっけない態度で挨拶をすませる純とは対照的に、純を可愛がり、本当の孫のように接する老夫婦だが、純の心の扉は重く、なかなか開こうとはしなかった。。それでも、少しづつ少しづつ笑顔を見せるようになってきた純をみるのが、老夫婦の一番の楽しみとなり、純もようやく街に出て、外とのふれあいをもつようになっていった。。
しかし、友達どころか、人との付き合いを拒んできた純に友達が出来るはずもなく、一人で遊ぶ事の多い純を気遣って、老夫婦は街の協会へと赴き、神父に相談してみた。。
「…そうですか。。。わかりました。。明日の昼、その子を連れていらしてください。。私の友人が子供を連れて来ているので、その子を紹介しましょう。。」
「あっ、ありがとうございます。。よろしくお願いしますじゃ。。」
翌日、老夫婦に連れられて協会にきた純。。乗り気ではない彼女は、少し不貞腐れていて、嫌々引っ張られてきたという感じだ。。
「こんにちわ!!」
神父の傍に立っていた少年は、純を見つけると走りよってきてにこやかに挨拶した。。
その微笑みは、まるで地上に下りてきた天使そのものだった。。
「……あぁ。。。」
人間やモンスターの真っ黒な部分ばかりみてきた彼女にとって少年は初めて見た真っ白な人間であり、彼女にはまぶしかった。。
「…ねぇ、お外行こ。一人でつまんなかったんだぁ」
少年はそういうと、純の腕をつかみ、外へと飛び出していった。。にこにこと嬉しそうに微笑む老夫婦を残して…
少年が向かったのは、教会の傍にある小さな小川だった。。
「…すごいでしょ!!昨日お父さんと散歩して見つけたんだぁ!!」
「……」
半ば強制的に連れてこられた純だが、澄んだ小川と、青々と茂った草、そして、白い雲と青い空はそんなことは簡単に吹き飛ばしてしまうくらい綺麗だった。。
「ねぇ君、友達いないんだって??」
「…あぁ。。」
「なんで??みんなのほうが楽しいよ」
「…よくわからないから。。」
「ふーん。。」
「友達…作ったことないし。。」
「えぇ〜!!うっそだぁ!!」
「…本当に…」
「もう僕は、友達だよ!!」
「!?」
「僕達は、友達。ほら、嘘でしょ?」
少年はにこっと微笑むと、すっと手を差し出した。
「…ほら、握手。」
「…えっ!?あっ、はい…」
ぶんぶんと振り回すような握手を終えると、近くに腰を下ろしておしゃべりを始めた。
少年は学校のことや友達のこと、好きな食べ物や、嫌いな勉強のことなど純が知らなかった世界を教えてくれた。。
「ねぇ、君は??」
話の所々で順に問い掛ける少年だったが、生きてきた環境が違う純には答えることが出来ず、黙って頷くだけだった。。
そんなこんなで、ゆっくりと日没が近付き、また明日会う約束をして、二人は別れた。。
その日の夜、純の家では少年のことを嬉しそうに話す純を見て、これ以上ない程の笑みで聞いている老夫婦。
純が来てから今日までこんなに嬉しそうな顔を見るのは初めてだった。。
次の日も、また次の日も二人は小川で待ち合わせをし、色々なことをして遊んだ。
座っておしゃべりをしたり、虫を捕まえに行ったり。。
純は少年と会うこの時間だけが最高に幸せだった。。
まるで、少年が真っ黒な自分を洗い流してくれる。そんな感じにさえ思えていた。。
そんなある日…
いつものように、小川で待ち合わせをした二人は、少し離れた森のなかへ探険に行くことになった。。
もちろん、街の傍の森だからといって安全なわけではない。しかもこの森は最近、達の悪い人間達が住み着いたことから、街の人間は近づかないことにしていた。。しかし、まだここにきたばかりの少年や最近外に出始めた少女にはそんなことが解るはずもなく、二人は手をつないで森へと向かって走っていった。。…森の中は薄暗く、少年や、純の身長を隠すぐらいの植物に、木に巻き付いた蛇のようなツルなど、今までにみたことの無い植物は、好奇心の強い少年にとっても多少の恐怖を与えたが、普段から、森の中でも任務を行なう純にとってはあまり、気にするようなものでもなかった。。
「ねぇ…恐くないの??」
少年は瞳を潤ませて、今にも泣きそうな表情で訴えるが、純は軽く頷くと、ゆっくりと少年の手を握った。。
「恐いなら、帰ろうか??」
純は別にどちらでもよかった。
森に興味があったわけではない。ただ、少年と一緒にいたかっただけなのだから、いつもの川辺で話すのでもかまわない。。
「ん。。やっぱり、かえろ。。」
そう言って振り返った少年の前に大きな壁が立ちふさがった。。
「おい、ガキ!!こんなとこでなにやってやがんだよ!!」
ロイの前に立ちふさがったのは、180はある巨体の男だった。。
「…あっ」
男は、少年をにらみつけ、後ろにいる純を見つけると、にんまりと口の端をあげ、奇妙な笑みを洩らした。。
「うぉーい!!サンダ、ガンジ!!ちょっとこいや!!」
男は後ろを振り返ると、まるで大砲のようなおおごえで仲間を呼び付けた。。
「なんだよあにきぃ。。」
すぐに現われた二人は、少年と純を見つけると、やはり同じように笑みをこぼした。。
「サンダ、こいつらを連れていけ。ガンジは、先に帰って準備しとけよ。」
「へい!!」
サンダと呼ばれた細身の男は、少年と純の腕を縛り上げると、担ぎあげるようにもちあげた。。
少年は、あばれたが、子供の力で勝てるわけもない。
純ならば、このぐらいのやつらと戦うのは簡単なことなのだが、一度戦いが始まれば、相手が死ぬまで戦うように教育を受けている純にとって、少年の前で戦ってしまえば、嫌われてしまうかもしれない。。嫌われたくない。。という考えが浮かび、おとなしくしているしかなかった。。
二人が連れてこられたのは、小さな小屋だった。
その辺の木を切りだして作ったのであろう、それほどきれいな感じはしないが、結構広い家だった。
「…おら!!はいれや!」
サンダは、少年と純を、ドンッと部屋の中へと押し入れると、ドアの鍵をしめ、他の奴のところへとむかっていった。。
薄暗い部屋のなかには、ソファーとテーブルのみが置かれている殺風景な部屋だった。。
「うっ…ふひっ…ひっくひっく」
堪え切れず涙を流しはじめた少年、それとは対照的に、冷静な目で部屋を見渡す純。。
「…武器になりそうなものはないな。。しかたない。。いざとなったら…」
「ひっく??純…ちゃん??」
鋭い目つきて部屋を物色する純。歳相応の女の子とは思えない顔つきに、不安を覚えた少年は、涙を流しながらも純の顔を見つめていた。。
「あっ…ごっ、ごめん。。大丈夫だよ。。私がなんとかするから。。」
扉を見つめ、決意の表情を表す純に、少年の涙は止まり、泣いているだけの自分に腹が立った。。
「…僕が…まもる。。純ちゃんだけは…」
少年が小さな決意を固めたとき、部屋の扉がドガッっとあき、三人の男が入ってきた。。
「…ぐっへへ。。さて、お穣ちゃん準備が終わったよ。ぐふふふ」
たぶんガンジと呼ばれた人物である、小太りで小さな男が気持ち悪い声で言った。。
「さぁ。。やるか。。」
アニキが、純の腕をつかむと、力任せに服を引き契った。。
「きっ!!きゃぁぁぁ!?」
まだ膨らんでも無い胸や、産毛も生えていない土手を露にし、そのまま持ち上げられる純。。
「ぐっふふ。。じゃあ、あっしは後ろをいただこうかね。。」
ガンジはそういうと、持ち上げられ、抱き抱えられた純の後ろに回りこんだ。。
「ちっ。。んじ俺は口かよ。。しゃあねぇ。。」
サンダは、テーブルのうえにあがると、ちょうど純の顔に股間が合うように調節すると、三人とも下半身を露にし、ゆっくりと純をおろしていった。。
「ふひ!?ひぎゃぁぁぁ!!」
ちょうどまんこと菊門に入るように調節されたチンポがぐっさりと差し込まれ、初めての経験、それも二輪刺しにさすがの純も絶叫をあげた。。
「おら!!こっちもだよ!!しゃぶれや」
サンダが顔を持ち上げ、口に突っ込むと、そのまま腰を動かし、自分勝手にフェラチオをはじめた。。
「ふぐぅー!?んぐっ!!ぶがふが!!」
じゅぷじゅぷと音を立てしゃぶらされる純だが、まんこと菊門の痛みで、それどころではない。。
「じゅっ!!純ちゃん!?」
…じゅぷじゅぷ。。ぐちゅ
卑猥な音が部屋中に響き渡り、純の股間からは、破弧の血が流れ落ち、小さな穴達はがっぱり広がって二人のものを銜え込んでいた。。
「んぐふっ!?ぶはぁ!!いだい!?いだいよぉ!!やめで!もうやめでぇ〜!!??」
「んぐっ。。せめえ。。締まりが良すぎるぜ。。久しぶりだから、たっぷりだしてやるからな。。」
「!!やっ!やめ…」
「あっ!!あにきぃ!!ぐふっ。。俺ももうもたねぇ。」
後ろのガンジがスピードを速めると、あにきもまた一緒にスピードをあげた。。
「うっおっ!?だすぞ!!」
「…ぐふふ、、俺もだすぜ。。こぼすなよ。。けつの穴閉めとけ!!」
「ひぎゃ!!やめてぇぇぇ!?」
…どぷっ!!ドプドプ。。
「うぉぉ。。いい締まりだぜ。。」
…どがっ!!
ヒクヒクと虚ろな目でもたれかかる純を床に捨て、踏み付けた。。
「ひぐっ!!」
痛みで強制的に意識を取り戻させられ、大の字で寝たまま痛みに耐える純。。
「くっくっく。。おめえは今から、俺たちの精処理玩具だ。。逆らったら、あっちの小僧を殺すからな。。」
「……」
「なんだその目は…」
にらみつけた純の目が気に食わなかったのだろう。。足を振り上げ、踏み付けようとした。。
「やめろぉ!!」
どがっ!!
少年の全身を乗せた体当たりがアニキに直撃し、振り上げていた足は、バランスをとるため、後ろ側へとおちた。。
「…っ!!なっ、なにしやがるんだ!!ごらぁ!!」
「…あっ。。」
意識がはっきりとした純は、自分が優しく抱き抱えられていることがわかった。。今まで味わったことのない、『護られる』という喜び。。
「もう…これ以上…」
泣きながら訴える少年は、はかなくも健気であり、他人のためになける。。純の胸がきゅんと高鳴った。。
しかし、容赦のないこぶしが少年の横顔にあたり、ゴガッ!!っと言う音とともに、宙を舞った。。
「ぐぎゃぁぁ!!」
こぶしを放ったのはあにきであり、その目は狂気に満ちていた。。
「うぜえガキだぜ。。もう殺るか。。」
少年は床に伏せたまま動かない。。たぶん、気を失ったのだろう。。
あにきは、ナイフを取り出すと、ゆっくりと少年に向かって歩きだした。。
「…死ねやぁ!!」
振り上げられたナイフは確実に少年の心臓に向かっていった。。
「…やめろ」
突如背後から聞こえたどす黒い声に、後ろを振り向くと、そこには全裸のまま立ち上がった純のすがたがあった。。その後ろには、他の二人がにやにやしながら立っている。。
「…なんだてめぇ。。その殺気は。。」
「??」
他の二人にはわからないようだが、何度も死と隣り合わせの生活をしてきたアニキは、純から発せられる尋常ではない殺気は、アニキの体を硬直させる。。
「おまえらはやってはいけないことをやった。。…初めての友達に手をあげるとは。。覚悟はいいな。。」
たかだか10歳程度の少女が。先程までとはまったく違う目付きで睨まれ、あとずさるアニキ。。後ろでみている二人は、何が起こったのかわからないようで、不振な目で見つめている。。
「…っ!?くそっ。。丸腰で何ができるってんだよ!!」
アニキはサバイバルナイフ、後ろの二人も短刀を所持しているようだ。多少危険を感じたのか、鞘からは抜いている。。
「くっくっく。。丸腰か。。」
丸腰どころか、布切れ一枚身に纏っていない純が明らかに不利なのは火を見るよりあきらかだった。。だが…
『唯一無二たる武の神よ。我、契約のもと力を欲する!!我を護る鉄壁なる鎧、いかなるものも突き通したる刀を与えよ!武具天象!!』
純のまわりを黒い霧が舞い上がり、純の姿を隠した。。
「うおっ!!なんだこりゃ!?」
何もないとこから表れた黒い霧に驚きつつも、異様な雰囲気を感じた三人は、先手必勝のごとく霧のなかの純へと斬り掛かった。。
ガギィィン!!
三人の手に伝わったのは、いつも感じるやわらかな感触ではなく、まるで堅い岩に斬り掛かったかのような感触だった。。
「ぐぁっ!!」
あまりの反動に、手にもっていたナイフをおとす。
「…さよなら。。」
三人がきいた最後の言葉だった。
次の瞬間には真っ二つになり、床に崩れ落ちる三人と、霧の中にたたずむ、黒い鎧に身を包み、血のしたたる黒刀を握り締めた純がいるだけだった。。
少年を背負い、森の中を歩く純。。
小屋を出たあと、火を点けたため、しばらくすれば人が集まるだろう。。
二階には少女の服があった。たぶん、拉致されて殺された少女の服をとっておいたのだろう。。
「…純ちゃん。。もう大丈夫だよ。。」
「!!…起きてたんだ。。」
「うん。。殴られたあと声はだせなかったけど、意識はあったんだ。。」
「そっか…ごめんね。。」
「?何で謝るの?」
「…だって…」
「…純ちゃんは僕を助けてくれたんだよ。。でも、僕は純ちゃんを助けれなかった。。謝るのは僕だよ…」
「……私は、人殺しだよ。。あいつらと変わらないんだ。。だから…」
「そんなことない!!」
「!?」
「純ちゃんはあいつらとはちがう!!純ちゃんは僕を護ってくれたんだ。。だから…だから。。」
「…ありがと。。」
「……うん。。」
二人は、黙ったまま家路に着いた。。
静養はもうすぐ終わる。。
もうすぐ…
それから数日はあっというまだった。。
あの日のことは純の考えで二人だけの秘密ということにしが、二人で遊ぶことはなく、とうとう純が帰る日を迎えてしまった…
「…元気でな。。いつでも戻ってくるんじゃよ。。」
涙を流しながら、別れの挨拶をする老夫婦。。彼らにとって純はもう本当の孫だった。。
「うん。。ありがと。。じゃあいくね。。」
老婆に抱き締められ、別れの包容をすますと、馬車に乗り込み、下をむいていた。。
あれいらい会っていない少年。。純の心残りはそれだけだった。。
ゆっくりと動きだす馬車。。
その時、聞き慣れた、そして、一番ききたかった声が純の耳に入ってきた。。
「とっ!!とめて!!」
馬車を停め、窓から身を乗り出す純。。
「あぁ。。。」
喜びで溢れてくる涙を止めることはできなかった。。
「はぁはぁ。。よかった。。まにあった。。」
「…きて…くれたんだ。。」
「…ん。。久しぶり。。だね。。」
だいぶ急いできたのだろう。。少年の肩は弾み、額からは汗がにじみ出ていた。
「……」
「純ちゃん…ごめんね。。」
「えっ!?」
「…僕が…僕が強かったら…純ちゃんを護れたのに。。。」
俯き、呟くように話す少年。。
「……そんなことないよ。。助けてくれた…」
「…えっ!?」
「…ありがと」
…ちゅっ
窓から身を乗り出した純のくちびるが少年の頬に触れた。。
「あっ!!」
くちびるが離れ、純が中に戻ると、馬車はゆっくりと走りだした。。
「…ありがと〜。。純ちゃん。。」
「名前…貴方の名前は。。」
今まで聴きそびれてしまった少年の名。。今聞かなければ永遠の別れになるような気がした。。
「ロイだよ!!忘れないでね。。いつか…いつかまた会おうね〜!!」
小さくなるロイの姿をいつまでも見つめていた少女は呟いた。。
「…ロイくん。。忘れないよ。。大好きな人。。」
それは、少女が初めて感じた悲しい別れだった。。
だが、つらいわけではない。。
『また会える。』そう信じていたから。。「…ふぅ。。」
純は空を見つめたまま、大きなため息をはいた。。
あれから9年間。。
次に老夫婦の家に行ったときには、ロイはもう実家へと帰っていて、それ以来会うことはなかった。。
…忘れたわけではない。。いや、むしろロイに会うためだけに辛い修業に耐え、過酷な任務をこなしてきた。。
『強くなればいつか会える…』
『えらくなって、いつか探しに行く。。』
純の頭のなかは、ロイへの思いでいっぱいだった。。
だから、自分がロイの師団の部隊長に任命された時は、胸が高鳴り、ロイとの久しぶりの対面にドキドキしていた。。
顔合わせの時、みんなの前に表れたロイは、あの時の少年のような顔立ち、天使のような髪に、あの頃にはなかったほっそりとしてるが男らしい身体。。
『…ロイ。。』
純の脳裏には、あの時の記憶がしっかりと蘇ってきた。。
もちろん、忌まわしい記憶も…
…憶えていてくれてるだろうか。。いや、もし憶えているなら、あの時のことだって。。
やっと会えた。。その喜びと共に、大きな不安が純を包む。。
あの時は、わからなかったであろう、犯されると言う事実や、武具召喚魔法を使い、人を殺した事実は、歳を重ねるごとにその意味を知り、私に嫌悪感を抱いているかもしれない。。
もちろん、それであってもロイを好きなことに変わりはないし、今まで支えとなってくれた事を忘れる気はない。。
もし、そうなったのなら、陰からロイに尽くそうと決めていた。。命が尽きようとも…
しかし、ロイには純を憶えていた様子はない。。半分の落胆と、もう半分の安堵を胸に、任務に就いた純だったが、憶えていなかったと言う怒りと、好きで仕方ない気持ちがぶつかり合い、ロイに対して素直になるどころか、素っ気ない態度が出てしまう自分が腹立たしかった。。
「…はぁ。。こうしててもしかたない。。戻るか。。」
昔のことを思い出し、少し落ち着いた純は野営に戻ろうと、木から身を放し、ゆっくりと歩きだした。。
…ガサガサ
「……誰だ!!」
それは小さな音だった。。風が葉を揺らす音とは違う。。
人為的な音。。
熟練を積んだ剣士だけが習得できる技能を、純はもう完全に使いこなしているのだ。。
「…えっと、、すいません。。」
剣に手を掛け、居合いの体勢をとっていた純の前に表れたのは、髪に木の葉をぶら下げたロイだった。。
「…なにやってるんですか。。」
呆れ顔で剣から手を放す純。。
ロイは、とりあえず純の前まで歩いてきた。。
「えっと、、一人じゃ心配だから。。」
「……ご心配、ありがとうこざいます。。ですが、私のかなわない相手なら、司令官殿がいてもいなくても同じことです!!余計な心配はやめていただきたい!!」
…本当はうれしいはずなのに。。口から出るのは嫌な言葉ばかり。。純の心に刺が刺さる。。
「…すいません。。。」
怒って罵詈雑言で返してくれたらまだよかった。。謝るロイを見て、余計に自分に腹が立つ。。
「だいたい!!部隊はどうしたんですか!?私より、他の者達の事も考えて…っつ!?なんだ!?」
混乱した頭と、やりきれない気持ちが純の判断力を落としたのだろう。。
彼女の首筋に一本の細い針が刺さっていた。。
「っち!?なんだこれは…」
刺さっていたのは蜂の針のような本当に小さい針だった。。
「モンスターか!?くそっ!!」
あわてて針を抜こうとする純だが、その動きがぴたりととまる。。
「純さん??」
純の様子は明らかにおかしかった。。まるで糸の切れた操り人形の様にぶらんと垂れ下がった両手。。
「大丈夫で…」
ヒュッ!!
肩に触れようとしたロイの手をめがけて、純の刀が空をきる。。
「うわっ!?」
とっさに避けたロイだが、腕の皮1枚切られてしまい、袖からは血が滲みだしてきた。。
「じゅっ!?純さん!?」
「…っくっくっく。。」
不気味な含み笑いをする純の顔が、だんだんと変化していった。。
眼のしたに黒く大きなクマが出来、唇からは赤い模様が炎のように広がっていた。。
「なっ!?」
「…おい、そこのお前。。腕ならしだ。。ちょっと…死ねやぁ!!」
ぎょろっとしためでロイを見つけたあと、純は急に襲い掛かってきた!!
「なっ!?なにっ!!」
…ガギィン!!
力任せに振り下ろされた純の刀を、ロイは自分の長刀で受けとめる。。
「…っけっけっけ!!そうこなくっちゃな。。」
「おっ、お前はなにものだ!?」
ヒュン!!
純は後ろに飛びのき、ロイとの間合いを離した。。
「…おれかぁ〜〜??俺は、シャドウビー。。簡単にいや、蜂を媒体として産まれるモンスターだよ…あらよっと!!」
純は、身を屈めると、空高くへと浮かび上がった。。
ドゴォォ!!
そのまま勢いにのって打ち出された剣撃を防いだロイ。。
その足元は重圧にたえきれず、地面にめりこんでいた。。
「ひゅぅ。。やるねぇ。。じゃあ、もう少し教えてやるよ。。俺たちは、言わば寄生体ってやつだ。。針を差し込んだ相手に入り込み、意識や身体を自由に操ることができる。。」
「じゃっ!!じゃあ、純さんは!?」
「ん〜〜??そいつはこれを受けて生き残れたら教えてやるよ。。」
そういうと、純は、地面すれすれまで身体を屈めて、剣を後ろの方で地面と垂直にたたせると言う異質な構えをとった。。
それはまるで、獲物を刈る獅子に似ていた。。
「…こいつは、この女の技だ。。親切だろ?女の技で死ねるんだからな。。」
「なっ!?」
「いくぜぇ!!!!『獅子豪砲弾』!!!!」
後ろ手にもっていた剣を、まるで滝を切り裂くかのように振り上げる純。。
その衝撃は、まるで空間を打ち出した玉のごとき、丸く揺らぎながらロイに迫ってきた!!!
「!!くっ!?」
あわてて防御の構えをとるロイだが、それが意味の無いことを直観的に理解していた。。
「うっ!?うわぁぁぁ!!??」
その衝撃弾をまともに受けたロイは、後ろの大木へと身体を打ち付けられ、大きく仰け反った。。
「あぐぅ!!??」
ゆっくりと地面にずり下がるロイ。。
「ふひゃひゃひゃ。。良い身体だなぁ。。これなら、どんな奴にも負ける気がしねぇ!!」
「…く…そぉ…」
「おっ!!まだ生きてやがるのか。。しゃあねぇな。。約束どおり教えてやるよ。。今は、俺のなかで眠った状態だが、あと数分もすれば、こいつの意識そのものが消え失せ、跡形もなく、消滅するだろうよ。。まぁ、その後は俺がこいつのふりをして、一人ずつゆっくりとお前の仲間達をやってやっから、楽しみに地獄で待ってな。。」
ひゅん!!
純から振り下ろされた一撃は確実にロイの頭をとらえている。しかも、さっきの衝撃で身動きのできないロイには、逃れるすべはない。。
『くそぉ!!やられる。。』
とっさに眼をつぶるロイだが、いつまでたっても剣がロイに届くことは無かった。。
「??」
おそるおそる眼を開けるロイ。。そこには、紙一重で止められた剣と、その態勢のまま震える純の姿だった。。
「しっ、司令官殿。。ご無事…でありますか。。」
「じゅっ!?純さん??」
「…はい。。申し訳…ございません。。私が…未熟なばかりに。。」
なんとか意識を取り戻した純だが、身体の自由はまだ戻らないようで、ロイの頭の上で剣を震わせたままゆっくりとしゃべっている。。
「…司令官殿。。今のうちに、私ごと斬ってください。。そうすれば、寄生体であるこいつは宿場を失い、長くは生きられません。。」
「しっ!しかし!!」
確かに、そうすればシャドウビーは倒せる。。しかし、純は…
「うぐっ!?いいから…はやく…はぐっ!!もう、、、押さえきれ…ない。。」
純の言葉の終わりと同時に勢いを取り戻す剣。。
なんとか、寸前でかわしたロイだが、純はそのまま追撃の一撃を放ってくる。。
「ひゃひゃひゃ!!残念だったなぁ!!せっかくのチャンスだったのによぉ。。」
『くそぉ!!司令官殿ぉ!!はやく、早く私ごと斬ってください!!でないと、あなたが。。』
耳から入るのではない、直接脳に響くのは紛れもない純の声だった。。
身体を奪われている純にできる精一杯の反撃なのだろう。。
「…まったく、うるせぇ女だな。。そうだ。。良いこと思いついたぜ。。」
『??』
「…俺の中には、てめえの技とともに、記憶もある。。これがどういうことだかわかるか??」
『!?やっ、やめろ!!!』
知られたくない秘密。。特に、ロイにだけは。。
「おい!!そこの兄ちゃん。。9年前のこと覚えてるかっ!?」
「……」
『やめろぉ!?やめてくれぇ!!た…頼むから。。やめてよぉ。。』
死ぬなら、せめて、ロイが思い出さないまま彼の手で第3隊隊長として死にたかった。。忌まわしい記憶など、忘れたままに。。
「9年前、森の中で野盗に襲われただろ??その時、あいつらに挿入れられてよがりくるってたのがこの女だぜ。。あれ以来、男の男根が忘れられなくて、夜な夜ないろんな男を連れ込んでは、激しい夜を体験してるんだとよ!!」
『ちっ!!ちがう!!そんなこと!!そんなことしてない!!うそだぁ!!』
確かに、純はあれ以来精行為に興味はあっても誰かと寝たことはない。。それは、一途に思い続けたロイのため。。次にあったとき。ロイに全てを。。そう考えていた純は、名前の通り、純粋な少女であったのだろう。。
「…だまれ。。ゲス野郎。。」
「!!」
高笑いをするシャドウビーの耳に飛び込んできたのは、さっきまでとはまったく別人のようなロイの声だった。。
「…んなことは、、、んなこと、当の昔に気付いてるんだよ!!」
『!?』
「…あの時のことは、忘れればいい。。また新しく、二人で仲良くなれれば、それでいい。。だから、だから。。」
『ロイ。。くん。。』
「けっ!?どうせ死ぬんだから、関係ねぇだろうが!?どうする??俺ごとこいつを切り裂くか??いいぜ。できるならやってみろや。。」
確かに、純の身体を切り裂けば純も命を落としてしまう。。
「…今は、使っていいときですよね。。雪さん。。」
ざしゅっ…
剣を地面につき立てたロイは、指で印を結ぶと同時に呪文を唱えはじめた。。「…全てを包み込む、慈母の神たる聖母マリアよ…我が願いに答え、我が力を糧とし、かの者より闇の力を滅したまえ…」
呪文を唱えはじめたロイの身体から、溢れんばかりの光が周囲、そして純の身体をつつみこんでいく。。
「うぉ!!?」
予期せぬ反撃に驚くシャドウビー。。
だが、ロイの反撃がこれで終わるはずはなかった。。
「…さぁ。。純ちゃん。。今度は…今度は僕が助けるから。。。」
『……うん』
純の瞳からは涙が流れていた。。身体は操られて、指一本すら動かせないはずなのに。。
「いくぞ!!『聖天万象』!!彼女を助けろぉーーー!!!」
ロイが呪文を唱え終わった瞬間、より一層強い光が純の身体を包み込む。。その光に押し出されるかのように、純の身体から黒い影が外へと飛び出した。。
「ひぎゃぁぁ!?」
そのまま光の中へと消えていく影、辺りは光の収縮と共にゆっくりと静寂を取り戻し、もとの静かな夜へと戻った。。
純の首筋に刺さっていた針はぽろりと抜け落ち、顔のクマや模様は消えていった。。
「じゅ!!純ちゃん!?」
ドサッと言う音とともに床に倒れこんだ純。。
ロイは即座に駆け寄り、息のあることを確認すると、安堵のため息を盛らした。。どうやら、身体の疲労から、気を失ったようだ。。
「……よかった。。純さん。。」
少年の時にかわした約束。。
やっと果たせた約束。。
ロイは忘れたわけではなかった。。純と同じ。。もし純が自分のことを忘れてるなら、純を影から守ろう。。
あの時、純に助けられた、自分のように、今度は僕が…
「……ありがと。。」
「えっ!!」
純の顔は、少女の頃のままに、本当に純粋な笑顔だった。。その笑顔のまま発せられたありがとうという言葉。。意識が戻ってるわけではない。。ただの寝言なのだろう。。でも、ロイはそれで満足だった。。
「…こちらこそ。。ありがとう。純…さん。。」
虫の歌が響き渡り、月の光で踊る木の葉達の下で、ロイはくちびるを重ねた。。
それは、まるで子供のような軽いキス。。だが、純は満足そうな寝顔のまま微笑んでいた。。
純の思いは九年の月日を越え成就したのだ。。
…小羊の役職であるロイを愛するのは並大抵のことではない。。
何人もの女の子から、ロイは好意を寄せられるだろう。。モンスターも人間も。。
…もし、ロイが自分を選んでくれないなら、それでもいい。。それでも、私はロイに尽くしていこう。。命はてるまで。。
愛しています。。心から。。
意識がうっすらと戻った純は、ロイに対する素直な気持ちを、心のなかでつぶやき、今度こそ本当に、意識を落としていった。。
暖かいぬくもりを、身体いっぱいに感じながら・・・
…目が覚めたのは次の日の朝だった。。
横にはロイを挟むように寝ているフィルとセリカ。どうやら、テントのなからしい。。
「…そうか。。昨日。。」
たぶん、ロイが抱えて運んできたのだろう。。所々に絆創膏が貼られや包帯がまかれているが、命に別状はないようだ。。
「…よかった。。」
純は、自分の身体にも包帯がまかれているのだが、それよりもロイのことが気になったらしい。。
ロイの安全を確認すると、起こさないようにそっと外に出た。。
「…あら。。起きられましたか??」
「…あぁ。。マリア。。すまない。迷惑をかけたみたいだな。。」
外には火の番をしているマリアの姿があった。
昨夜、ロイが戻ってきたあと、自分がやるといって聞かないロイを、一喝して寝床へと押し込んだのは、言うまでもない。。
「…いぃえ。。それより、いかがでしたか??」
「……あぁ。。少しは素直になれた…かな。。」
…マリアは肉体的な医療のほかにも、精神的、心理的なカウンセリングも行なっていた。。
どんな秘密でも、どんなに後ろめたいことでもマリアに話すと、まるで嘘のようにすっきりしてしまう。。
純もその一人で、少女時代に会った少年のことや、それが自分達の師団長であるロイであることを打ち明けていたため、マリアには全てを隠す必要はなかった。。
「…そうですか〜。。でも、いいんですか??仮にも小羊に就いたロイさんには色々な女性が彼と一夜をともにしますよ。。それに、もう私たちとは違う…」
「…それ以上言ったら、いくらマリアでも斬るぞ。。」
押し殺しような声。。そんなことは、純が一番理解している。
「……」
「…すまない。。だが、ロイの事をそういうふうには言わないでくれないか。。彼は彼だ。。人間であろうとなかろうと、その事実に代わりはない。。私は、彼だから愛したのだ。。彼だから、護ると決めたのだ。。」
純の瞳から大粒の涙が一粒地面に落ち、消えていった。。
「…すいません。。純の気持ちを試すような真似をして。。あなたの気持ちはよくわかったわ。。純がそう決めたなら、私もロイさんを信じましょう。。私の信じるあなたが信じているのだから。。願わくば、慈母のご加護を」
「…マリア。。」
やはり、彼女は聖母マリアなのだろう。。全てを包み込み、相手を安堵へと導く。。他の人間には真似のできないことだ。。
「ありがとう。。」
純からこぼれたのは涙だけではない。。小さな、そして、とても思いのつまった、言葉。。この言葉は、たぶん今まで生きてきた中で最高に気持ちのつまった言葉なのかもしれない。。
…朝食を食べた一行は、スイレンヘ向けての進軍を開始した。。
馬車の中には、休養のためと押し込まれたロイ、純。馬に乗りたいと喚いたセリカと、指揮のため外に出ているマリアを抜いたフィル、お市の四人だった。。
「…えっと、、もう少しゆったり座らない??」
ロイが音を上げるのも無理はない。。確かに三対三で向かい合わせに座れる馬車ではあるが、四人しかいないのに席順が、右にフィル。左に純。むかい側にはお市と完全に囲まれているのだから。。
「………ぷるぷるぷる……フィルの隣……いや??」
悲しそうな上目遣いで見上げるフィルに嫌といえるはずがない。。
かといって、純は外を見ながらぼんやりとしてるし。。
「まぁ、よいであろう。。両手に花ともいうじゃろ??なんなら、わらわもそちらにいこうかの。。」
「いっ!?さすがにそれは…」
「ほっほっほ。。冗談じゃよ。。。」
お市さんの冗談はたまに冗談じゃなくなるから恐い。。
「…時に。。そなた。。先日『禁呪』を使いおったな。。」
「えっ!?ちょっ、それは…」
禁呪…本来ならば絶対にやってはいけない呪法。。もしやれば、それ相応の代価を支払うことになる。。
「別に隠すことはない。。わらわの話が、そちらの者に聞こえることはないのであろう??あの光は、『聖天万象の法』じゃな。。取りついた魔の者を強制的に追い出し、消滅させる呪法。。じゃが、わかっておるのか!?」
「……」
黙って外をみていた純の耳がぴくりと動いた。。
「禁呪を使えば、せっかくそなたが得た能力を一つずつ失うのじゃぞ?」
「!!なっ!なに!!それは本当なのか!?ロイ!!」
周囲は、思ってもみないとこからの発言に驚いて顔を上げた。。
「えっと!!あれ??純さん、言葉は…」
人間とモンスターの言葉はまるで違う。なかには、ロイや雪のように例外もいるが、大抵はモンスターが人間の言葉を理解するだけの一方通行であり、意思の疎通はままならないはずである。。
「…たぶん、取りついたモンスターの能力が残ったんだろ。。やつは、人間、モンスターも両方の言葉をしゃべれるようだったし。。って、そんなことより、私のために、大事な能力を失ったってほんとうなのか!?」
「…えぇ。。無くなったのは、カーナの力みたいですね。。いくら手を力をこめても能力が発動しません。。帰ったら、カーナに怒られそうだな。。あはは…」
…怒られるだけならいいが、機嫌を損ねて嫌われるのは。。。
そんなことを考えていたロイだが、純は怒りの剣幕でロイのむなぐらを掴み無理矢理立ち上がらせる。。
「なぜだ!!能力はあなたにとっても、国にとっても最も必要な物だ!!私だってそれを承知していた。。私と能力など、比べものにもならぬだろう!!」
物凄い剣幕でまくしたてる純。。彼女にとって、自分の命にかえても護らなければいけないもの。それはロイ自身と彼の能力なのだ。。能力を一つでも失えば、いざというときの切り札がなくなり、それだけロイの危険が増す。。それならば、自分を犠牲にしてでもロイの能力を残した方がいい。。これが純の考えだった。。
「…そうです。。比べものになりませんね。。」
「だったら!!」
「…比べられるはずがないじゃないですか。。あなた達を護れない能力なら、僕はいりません…」
ロイの瞳からは一粒の雫が頬を伝っておちてきた。。
「あっ!!!」
「純さんだけでない。。フィルも、セリカも、マリアさんも、お市さんだって。。僕はみんなを護るためなら、いくらだって使います。。だって……悲しすぎるじゃないですか。。自分のために。。仲間を見殺しにするなんて。。。」
ゆっくりと手を離し、ロイから眼を背ける純。。
純だって、ロイが死にそうなときには、無我夢中で彼を助けた。。そう、あの小屋で。。
別に、損得勘定でやったわけではない。。別に見殺しにして自分一人で逃げたほうが楽だっただろう。。だが純は、あえて難しいほうの道を選んだのだ。。
それはなぜか…少年が好きだから。。護りたいと思ったから。。初めて愛しいと思ったからだ。。
忘れていた。。ロイは、自分より、相手のことを考える優しい人だということを。。
「………すまない。。ロイ。。」
「…ん。。僕もごめん。。心配してくれてありがとね。。純ちゃん。。」
思わずでたのだろう。。昔の呼び名。。
「!!うん。。…ロイ…くん。。」
頬を真っ赤に染める二人だが、異様な視線に気が付く。。
「あっ・・・」
「………ふるふる………ひぃく……」
ロイの横で、まるで恋人を取られたかのようにウルウルと涙を流すフィル。。
お市にいたっては…
「そなたも見かけによらず…浮気性じゃのう。。わらわ達だけでは満足できぬのかな」
あからさまに不機嫌。。
「あははは。。。」
小羊って大変かもと改めて実感したロイだった。。
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